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キャロの願い

 頬をリンゴのように赤く染め、俺を見上げてくるキャロの瞳には、笑顔のまま固まっている俺が映し出されていた。

 森の中を風が吹き抜け、木々とともに彼女の紫色の髪を優しく撫で、彼女の双眸の中の俺が髪で見え隠れしたことで、俺は金縛りから解放され、そして脳が今までの静止を反省するかのようにフル回転を始めた。


 キス?

 キスってあれか?

 スズキ目スズキ亜目キス科の魚か?

 DT勇者(鈴木)の出番か?


 じゃねぇ! この反応はまるでこっちがDTみたいじゃないか。

 俺はDTを卒業してるからな、うん。

 だから、俺は大人の対応で――


 目をそっと閉じて唇を僅かに突き出すキャロを見て、俺は己の頭を木に叩きつけた。


「イチノ様っ!?」


 キャロが驚きの声を上げた。

 ははは、視界が赤くなった。血が目に染みるぜ。

 でも、おかげで頭もすっきりした。


「ヒール」


 自分の頭に回復魔法をかけて傷を塞ぐ。

 うん、こうして冷静になって考えると――普通にキャロって可愛いんだよな。


 でも、考えてもみろ。

 俺にはハルがいる。

 ハルとはいくところまでいっているし、相思相愛と言ってもいい。

 ここでキャロに手を出すのは、所謂浮気という奴だろう。


「イチノ様……やっぱりダメでしょうか?」


 キャロが涙目になり言った。

 罪悪感がこみ上げてくる。


「ハルさんにはもう言ってあるんですが」

「え? ハルが許可出したの?」

「はい。白狼族は強い男性の一夫多妻が基本ですから。ある種、夫の女性の数もステータスになります」

「でも、ハルって結構嫉妬しそうな面とかあるような気がしたが」


 マリナを苛めていたとき、自分よりマリナのほうが俺を喜ばしていると思って変なスイッチが入ったことがあった。


「白狼族の女性は順位付けをします。私はハルさんの下にいる宣言をしているので私に嫉妬することはもうないと思います。あまり出しゃばり過ぎたら嫉妬されますが」


 何それ……文化の違いか。


「ハルさんから、イチノ様でしたら絶対に優しくしてもらえるからと。私はハルさんの下で構いません。どうか――」

「はぁ……ハルに悪いな」

「だから、ハルさんは――」


 俺は指でキャロの口を塞ぐ。


「俺がハル以外の人とキスをするのが悪いと思っていたのは、男の責任が一割、ハルのことが本当に大事だからが九割だ」 

「はい、イチノ様がハルさんを大事に想ってるのは――」

「あぁ、ハルのことは世界一大事に想っている。俺の命よりも大事だ。それに比べて、キャロは――」


 俺は少し屈み、


「キャロのことも世界一大事に想ってる。俺の命よりも大事な程にな。自意識過剰かもしれないが、キャロやハルが俺の事を想ってくれているのと同じくらいに大切に想ってる。ハルが順位付けを大事にするとなると、悪いなって思ってな」


 俺はそう言うと、キャロを見つめ、その唇に己の唇を重ねた。

 キャロは驚くも、俺に身を委ねた。

 柔らかく甘い感触の一時を楽しんだ。


 それから――いや、まぁそれだけなんだけどね。

 続きはキャロが一八歳になってからということで。



   ※※※



 そして、すっかり忘れていたことが一つ。


「勝負は私達の勝ちでよろしいでしょうか?」

「あぁ、惨敗だな」


 途中で思い出したときにはすでに遅し、俺達が10羽の鳥を捕まえている間に、ハル達は二人で120羽ほどの鳥を仕留めていた。

 マリーナの顏が、仮面の上からでもわかるほど真っ青になっているのは、つまりはそういうことだろう。


「参ったな、ここまで差を付けられるとは」


 ちなみに、狩りをしている間のレベルアップは以下の通り。

【イチノジョウのレベルが上がった】  

【見習い槍士スキル:二段突きを取得した】

【魔法剣士スキル:付与魔法が付与魔法Ⅱにスキルアップした】

【芸術家スキル:似顔絵描きを取得した】

【芸術家スキル:木彫り技術を取得した】

【レシピを取得した】


 似顔絵描きは似顔絵が上手くなるスキル。

 木彫り技術は、木彫りでいろいろなものを作ることができるスキルらしい。

 なんとも妙なスキルが手に入る。


 キャロも採取人としてレベルが上がったと言っていたな。


 二人へのご褒美は町に帰ってからということで、とりあえず120羽の鳥は全てアイテムバッグの中に入れた。

 俺とキャロが少しサボったせいで、目標の200キロには届かないものの、それでもなかなかの量だ。


 あと、果物も十分に採ったしな。

 森を抜けると、太陽は西に大きく傾いていた。

 もう少ししたら、夜になるだろう。


 できるだけ早く町に帰ろう。

 そう思った時、


「ん? 魔物の気配が――」


 空を見上げると、鳥が二羽飛んでいる。

 そこそこ大きな鳥なので、最後にあれが撃ち落せたらラッキーだな。


「プチストーン!」


 石を投げた。

 石は上方を飛んでいる鳥に当たり、下を飛んでいる鳥を巻き込んで落ちた。


 これぞまさしく一石二鳥。

 ……偶然だけどね。


「イチノ様、流石です」

「いや、鳥も見えてなかったみたいだしな」


 鳥は地面に落ちて絶命したようで、


【イチノジョウのレベルが上がった】

【無職スキル:引きこもりを取得した】


 ……俺は無職レベル80になって覚えたそのスキルの名前を見て、


「は?」


 思わずそう声を上げた。

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