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キャロの肩車

 森に辿りついた俺達は、獲物を探していた。

 あまり強い魔物はいないそうなので、今日は普段使っていない職業を鍛えようと、


【無職Lv79・見習い槍士Lv1・魔記者Lv1・魔法剣士Lv1・芸術家Lv1】


 という組み合わせだ。おかげでだいぶステータスは低くなっている。

 それでも、魔法剣士に限っていえば、見習い剣士Lv10並みの物理攻撃力、物理防御力、そして見習い魔術師Lv10並みの魔法攻撃力、魔法防御力を誇るかなりの上位職っぷりだ。


 これならば大概の相手に後れをとることはないだろう。


「それにしても思ったより魔物がいないんだな。マリーナ、あそこだ」


 俺が指さす方向にいるワシくらいの大きさの鳥――その鳥をマリーナが照準を合わせて風の矢で打ちぬいた。

 見事に羽だけを。


 そして、落ちてきた鳥を、


「ウィンド!」


 俺は風の魔法で攻撃した。

 鳥の首が千切れ落ちた。


【イチノジョウのレベルが上がった】

【見習い槍士スキル:槍装備を取得した】

【魔記者スキル:札作成を取得した】

【魔法剣士スキル:付与魔法を取得した】

【芸術家スキル:筆装備を取得した】

【レシピを取得した】


 なんか、いろいろと取得できたな。

 すぐに役に立つスキルは少ないが。


 レシピは、魔記者のレシピだ。

 魔記者は薬師が作った専用のインクを使って札を作ることができる。

 今作ることができるのは着火札。一定時間後に燃える札だ。

 時限爆弾とか作るのに便利そうだなぁと考えた。


「三人とも、職業変更するときは言ってくれよ。でも、このペースで魔物狩りをしたら、目標量の肉は集まらないかもな」


 目標は肉200キロにしている。

 だが、鳥は一羽1キロにも満たない。


 首のない、これだと血抜きの必要もない鳥の遺体をアイテムバッグに入れた。


 このままでいけば、目標の半分集まればよしといったところか。


「あの、イチノ様、二組に別れませんか?」

「二組に?」

「はい。幸い、イチノ様とマリーナさん、二人とも遠距離攻撃を得意としますし、イチノ様とハルさんの二人はどちらも魔物を探す力を持っています。ですから、ハルさんとマリーナさん、イチノ様と私の二組に別れましょう。私はあまり役に立ちませんが、採取人として、果実や食べられる草などを採取しようと思います」


 確かに、ここだとあまりレベルアップは期待できそうにないし、そうするか。


「それはいいな。そうだ、どうせなら勝負形式にしないか? 俺とキャロのチーム、ハルとマリーナのチーム、二つに別れて狩り勝負。そうだな、勝った方には何でも言うこと聞いてやるよ」


 といっても、ハルもキャロもそう言うのにはあまり興味ないかな。

 欲深くないし。

 一番頑張るのはマリーナかな?


 そう思ったら、キャロの目が見開き、ハルの尻尾がピンっとなった。


「何でもですか……そうですか、何でも」

「イチノ様が何でも……イチノ様! ついてきてください! この森の情報によると、この先に穴場があるそうなんです」

「マリーナさん、私に掴まってください! 木の上を移動します」

「え? ハル? ちょっと――やめろ! 我は高いところが――キャァァァァァっ!」


 ハルに拉致され、マリーナは可愛い悲鳴とともに風と消えた。

 ……あれ、思ったよりやる気出てる?


 俺、何命令されるの?


「イチノ様、こちらです! 早く!」


 ……やる気を出しているキャロを見て、どっちが勝っても不安でしかない状況に陥ってしまったような気がした。

 十秒前の自分をぶん殴ってやりたい。


  ※※※


「イチノ様、早くしてください! ハルさんに先を越されます」

「そんなに頑張りすぎるなよ。あくまでも遊びだし、何でも言うことを聞くとは言ってるが、キャロもしてほしいことがあれば普段から言ってくれよ。俺って自分で言うのもなんだけど、かなり鈍いところがあるからよ」

「イチノ様が鈍いのは知っていますが……その、こういう機会でもないと言えないことですし」

「何を言うつもりなんだよ……お、ほら、キャロ! あそこの果物が実ってるぞ。あれは食べられるんじゃないか?」


 梨のような色形の果実を見つけ、俺はキャロに訊ねた。


「あ、はい。あの実はパウパワの実ですね。甘くておいしい果実だそうです」


 植物鑑定スキルのおかげか、それとも元々の知識か、キャロが説明してくれた。 


「あぁ、でもギリギリ届かないな……肩車でもするか」

「肩車ですか?」

「うん。それなら届くし、そもそもキャロが採取しないと経験値にならないだろ?」

「…………わかりました」


 キャロが何故か不機嫌そうに頷いた。

 俺が座ると、キャロが俺の首の後ろに座り、足を前にまわした。


「じゃあ、立つぞ」


 キャロの足を持ち、わきの下に挟み込み、立ち上がる。

 バランスが取れないのか、キャロが俺の頭を強く握った。


「キャロ! 髪を引っ張らないでくれ! あ、耳もやめてくれ」

「す、すみません」


 なんとかバランスを取ることに成功し、キャロは手を伸ばしてパウパワの実をもいでは落としていき、俺がそれを受け取ってはアイテムバッグに入れていった。なかなかのコンビネーションだ。


 とその時、油断したのかバランスが崩れて倒れそうになる。

 俺は彼女を背中にスライドさせた。

 結果、彼女は俺の背中に抱き着く形になった。

 彼女の僅かにふくらみのある胸が俺の背中に押し付けられる。


「キャロ、大丈夫か?」

「……あの……イチノ様、もう少しこうしていていいですか?」

「あぁ、それはいいけど。やっぱり怖かったか? 悪い、無茶させて」

「……イチノ様、何度もいいますけど、キャロは17歳なんです」

「え? 前は16歳って」

「三日前が誕生日でした」

「悪い、誕生日を祝ってやれなかった」

「……そうじゃありません。私を大人として扱ってほしいんです」


 ……そう言って、キャロは俺の身体を強く抱きしめる。


「もしかして、最近、自分のことを“キャロ”と言わずに“私”と言ってるのもそれでか?」

「気付いてたんですか?」

「ずっと一緒にいるんだ。気付かないわけないだろ。でも、俺は前の方がよかったけどな」

「……え?」

「んー、ほら、やっぱりキャロはキャロらしくしていてほしいからな。でも、子ども扱いしたのは悪かったと思ってるよ。そうだな、今度美味しいジュースでも買ってやるから」

「それが子ども扱いだって言うんですよ」


 そうは言われても、どうしてもキャロを見るとミリのことを思い出してしまうからなぁ。


「イチノ様、欲しいものがあったら言うようにいいましたよね。私はイチノ様の愛が欲しいです」

「俺はハルのこともキャロのことも、あと一応マリーナのことも今は自分のことよりも大事に――」

「キャロと……私とキスをしてください!」

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