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イトミミズ一本釣り

 町の外に出る手続きはすんなり終わった。

 冒険者ギルドに一度寄り、食糧補給のために森に狩りに行くことを伝えたら、町を出る手続きを優遇された。ちなみに、この手法もキャロの情報によるものだ。

 普通に町を出ようと思えば7時間待ちだそうだ。

 町の外に出ると、北東を目指す馬車の列が連なっていた。

 北西から魔物の群れが来ているのと、南の谷の道が塞がっているからだろう。

 馬車だけではなく、馬に乗る人等も多い。


 俺達はとりあえず南東にあるという森を目指すことにした。

 ダキャットにある数少ない森であり、多くの鳥系の魔物が生息しているという。


 つまりは、マリーナの風の弓の練習がしやすい。

 森までは歩いて一時間半程度ということで、フユンは預けたまま歩いて移動することにした。

 途中で、空を飛ぶ鳥を見つけて、マリーナに撃てるかと訊いてみたら、


「容易いものだ」


 と言って弓を構えた。

 そして、彼女は弦を引き、風の矢を撃ち、さらに一秒遅れてもう一度矢を撃つ。

 風の矢は真っ直ぐ鳥目掛けて飛んでいき、鳥に命中するかと思われたが、鳥が急旋回してそれを躱した。

 だが――後から撃った一本が先に撃っていた矢と衝突し、先に撃っていた矢の軌道がそれ、逃げ出した鳥に命中した。


「……は?」


 俺は驚き声を上げる。

 鳥はきりもみしながら落下して来て、地面に激突した。


 既に絶命している。

 俺もハルもキャロも驚いて声が出ない。

 彼女が見せたどの大道芸よりも凄い。


「……マリーナ、狙ってやったのか?」

「もちろんだ。この程度、大魔術を極めた我にとっては容易いこと」


 …………バカな。

 先に撃った矢に後から撃った矢を当てることすら難しいのに、その干渉で先に撃った矢を逃げ出した鳥に当てることなんて、本当に可能なのか?

 鳥の逃走方向すら読むなんて、もはや弓術の域を越えてるだろ。

 しかも、マリーナが風の弓を使ったのは、一昨日の夜に空に向かって一度撃ったのみだ。

 実践は今回が初めてのはずだ。


 これが、神に与えられた大道芸の力なのか。


「それにしても、やはりレベルは上がらぬか。イチノよ。今度からは翼だけを狙って落とすから、落ちてくる途中の鳥を主が魔法で打ち抜いてくれないか?」

「そんなこともできるのか?」

「うむ、やってやれないことはないだろう」


 いや、普通は無理だよ。

 俺もたいていはなんでもできるつもりになっていたし、これからできるようになると思っていた。

 だが、今の芸当はできる気がしない。


「イチノ様といい、マリーナさんといい、迷い人が特殊な能力を持っておられることは承知しておりましたが、私の中の常識から離れている気がします」


 キャロが少し疲れた口調で言う。

 俺もキャロの目にはマリーナのような万国吃驚人間みたいな感じに映っているようだ。

 その時――ハルの尻尾がぴんっとなった。


「ご主人様、大地が動く匂いがします……恐らく、イトミミズが上がってきます。一度避難しましょう」

「え? イトミミズが来る?」


 なんで逃げる必要があるんだ?

 確かに、今、気配探知にひっかかった。

 気配はどうやら、まっすぐ落ちた鳥の方に向かっているようだ。

 ここからは少し離れている。

 よし、出てきたら魔法を撃ち込んでやろう。


 そう思っていた。


「ご主人様! ご主人様の力は理解していますが、ここは一度避難を!」


 だが、ハルのただならぬ声に俺は遠ざかることに。

 そして――僅か数秒後――そいつは現れた。


「まるで大蛇だ」


 マリーナがそんなことを呟いた。

 俺もそう思う。ミミズなんて言ったら怒られるような気がする。

 顔の大きさだけで高さ5メートルはある。全長となるとその長さは図り切れない。

 ただ、俺の気配探知によると、中心は恐らく地中にあるらしい。

 気配探知で魔物の大きさがわからないのがネックだった。


 色はピンク色ではなく灰色のミミズだ。


「なんであれがイトミミズなんだよ」

「この一帯はフェルイト草原と呼ばれていまして、昔はフェルイトミミズと呼ばれていたそうですが、縮まってイトミミズとなったそうです」


 うわ、言葉のマジックがここできた。


「……イトミミズは目が見えません。体温の低下を感知して死にゆく獲物を見つけて食べる魔物です」


 下がっていく体温を感じ取り、死んだ魔物や人のみを食べるのか。


「魔法職に変えて魔法を打ち込んだら倒せないかな」

「イトミミズは元気な生物は食べませんし、土を豊かにさせる魔物ですから、このままにしておいた方がいいと思います」

「そうか、なるほどな」


 益虫ならぬ益魔物か。

 ハルの言う通り、イトミミズは10分後、穴の中で向きを変えて、地面の中に戻っていた。巨大な穴だけが残るかと思いきや、穴が別の土で塞がっていた。


「穴を掘るのはわかるが、穴はどうやって塞いだんだ?」

「糞ですね」


 ハルが一言で言い切った。鼻をつまんでいる。

 糞なのか……ふーん。

 確かにハルほど匂いに敏感じゃなくても、少し臭うな。

 普通、ミミズの糞って無臭のはずなのに。


「退散! 森に行くぞ!」


 俺の意見に全員が賛同した。

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