エピローグ
今回はエピローグなので、後書きも別に必要のため、閑話が本文中にあります。
ご了承ください。
宿で二人部屋を二つ押さえ、そのうちの一つの部屋に俺とマリナはいた。
そこで、俺はマリナから手紙を読ませてもらった。
【親愛なるダメっ子マリナへ】
親愛しているのにいきなりディスってきた切り口に、俺は苦笑した。
【この手紙を読んでいる時には、私はもうこの世にいないでしょう】
まるで遺言書のような切り口に、俺は目を滑らせる。
もちろんそれは嘘だった。
【といえば驚くよね? 驚いた? 本当は悠々自適な一人旅を満喫していると思うの。つまり、私はもうアランデルに入国しているわ。ちょっとめんどくさい仕事が舞い込んできてね、目立つといけない仕事だから、マリナがいても困るのよ。暫くの間そこの男の人に預かってもらうことにしたの。大丈夫、連れている二人の女の子の顔を見たら、きっと待遇のいい職場だと思うから安心して。もちろん、それが嫌なら国境町の首長の息子のところに行けばいいわ。きっとあなたをいろんな意味でもてなしてくれるから】
勝手に俺が預かることに決めるなよ。
嫌なら首長の息子のところに行けって完全に脅しじゃないか。
【追伸.あなたとの旅は私にとって一生の思い出よ。ありがとう】
恐らく、この追伸が全てなんだろうなと思い、俺は手紙を折りたたんでマリナに返した。
「マリナ、どうする? カノンはこう言ってるが、別に俺についてこなくても、マリーナとしてならこの国で大道芸人として生きていけるだろうし、なんならここで奴隷から解放しようか? とりあえず同郷のよしみで、一ヶ月分の宿泊費はやるからよ」
泣き続けて目を真っ赤にしたマリナは首を横に振り、
「……仮面ちょうだい」
と仮面を要求。
俺はマリナに仮面を渡した。
マリナが仮面を装着すると、彼女はすっと立ち上がり、俺の座っていた隣に腰掛けた。
「イチノよ。一つだけ言っておく。我は――マリーナはマリナによって生み出された幻影に過ぎん。多重人格というやつだ」
「微妙に違う気もするがな」
「そこは気にするな。記憶は共有しているが、我はマリナを母のように慕い、子のように守ろうとしている。我の真の願いは、我が必要なくなり我が消滅することだ」
マリーナは自嘲するように言った。
自殺願望……とは違うか。
消滅願望。
マリナが成長し、自分の必要性がなくなり、消滅することを願っているのか。
それは、まるで子の巣立ちを祈る母親のように。
「イチノ。だから、我は主とあまり仲良くなるつもりはない。別れが辛くなるからな。実は我はカノンとも一線を引いていた。だから、彼女からの手紙にはマリナの名はあっても我への伝言はなかったであろう?」
「そう言われたらそうだな」
「だから、我はデレない。攻略不可能ヒロインだ」
「お前をヒロインだって思ったことは一度もないよ」
「我のような年上美女なのに?」
「お前を年上だと思ったこともないなぁ」
「美女だと思っているのならそれで十分だ」
「しまった、誘導尋問か」
俺はそう呟き、そしてベッドに横になって笑った。
ハルもキャロもいい奴だし、命より大事な存在だ。
でも、こんなバカな話をできるのはマリーナだけだな。
「イチノ、一つ頼みがある」
ベッドで横になっている俺を見下ろしてマリーナが言った。
「なんだ」
「これからもよろしく頼む」
「……あぁ、よろしくな」
俺はそう言ってベッドで横になったまま、腕を前に出した。
その手を、マリーナが強く握った。
ハルとキャロに改めてマリーナとともに冒険を続けていくことを告げ、四人で夕食を楽しんだ。
魔剣の包丁で調理された料理はとても美味しく、昨日の野宿の疲れもふっとぶ味だった。
こうして、ダキャットの夜は更けていった。
※※※
~閑話 ダキャット滅亡への序曲~
「スラッシュ! グランドクロス! 獅子咆哮剣!」
鈴木の技が魔物の群れに直撃する。
だが、魔物の数は減る気配を見せない。
「このままだとジリ貧だよ、スラッシュ……ちっ、MPが……そろそろやばい。マイル、頼む」
キャンシーがスラッシュを放つと、彼女は急に目眩がした。MPが無くなりかけている。
マイルにMPのチャージを要求した。
「マナチャージ!」
マイルが自らのMPを倍化してキャンシーに渡した。
迷宮踏破ボーナスで授かった彼女にとっての切り札の一つのスキルだ。
だが、マイルも見習い法術師ではあるが、MPは決して多くはないし、マナポーションも三本しかない。
ジリ貧という彼女の発言は的を射ている。
「……呪縛の茨」
シュレイルの声に、迷宮の入口の足元に棘のついた茨が出現した。
茨が魔物の足に絡みつき、迷宮から魔物が出るのを防ごうとした。
だが、魔物の群れは足を絡まれて動けなくなった魔物のさらにその上を進み、洞窟から抜け出してくる。
明らかに南東を――フェルイトを目指そうとしている。
「キャンシー、お前はポチに乗って町に行って危険を知らせるんだ」
「でも――」
「頼む! 俺達もギリギリまでここで食い止めたら逃げるから」
「……わかったよ」
シュレイルの呪縛の茨は魔物の足止めには多少は有効だし、彼女のMPを補充するためにマイルの存在は必要。
ここで一番不必要なのは自分だとキャンシーは理解していた。
それはとても悔しいが、それでも誰かが町に行かないといけないことは理解している。
彼女は後方に待機させていたワイバーンのポチにまたがると、夜の大空へと舞った。
章題のマリーナのまさかの攻略不可能ヒロイン宣言。そして閑話では三章はなんかヤバイ展開で終わりました。
それでも主人公はほのぼのと行かせようと思います。
ちょっと登場人物が増えてきたため、すみませんが、本日は後で登場人物紹介とステータスを載せて、明日から四章に突入します。




