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マリナの言葉と彼女への手紙

 荷物を運び終えた俺達は、マリナと二人きりになった。

 じっとマリナが俺を見ている。


 ……気まずい。


 頭をポリポリとかきながら、どうしたものかと考える。


「なぁ、マリナ、言いたいことがあったら言ってくれ」


 俺がそう言うと、マリナはびくっとなる。

 やりにくい。

 両極端すぎるんだよな。


「仮面を返してほしいのか?」

「あ……」


 マリナは仮面という言葉に反応したが、首を横に振り、


「あり……」

「アリ?」

「ありが十匹」


 何を言ってるんだ?

 マリナは顔を真っ赤にして、俯きながら言った。

 昨日、蟻に襲われたトラウマでも残ってるのか?


「ありが十匹で……その、ありがとう」

「…………え?」

「ありが十匹で……えっと、ありがとう」

「いや、聞こえなかったんじゃなくて、どうしてそんな昭和のギャグをここでかましたんだ?」


 そこまで言って、俺は一つの考えに至った。


「もしかして、今更になって、昨日蟻から助けたことに対するお礼を言っているのか?」


 そう訊ねたら、マリナは首を二回縦に振った。

 当たっていたらしい。


「もしかして、今日ずっと俺を睨み付けていたのは、今のセリフを言うタイミングを見計らっていたとか?」


 再度マリナは首を二回縦に振る。

 ……なんて……なんてこいつは……バカなんだ。


「てか、礼なら昨日、マリーナが言ったじゃないか。感謝するって」

「……マリーナの……仮面の力を借りずに、私の口で言いたかった」

「で、ありが十匹で……みたいなギャグを入れた理由は?」

「……学生時代、私がお礼を言ったら、いつも場が凍っていたから……ユーモアを交えてみた」


 あぁ、突然脈絡もなく、古いことへのお礼を遅れて言って場をしらけさせていたわけか。

 そのクラスメイトの気持ちはわかる。

 俺もさっき味わったばかりだ。


「マリナ、仲間は助け合うのが当然だ。でも、その礼はありがたく受け取っておくよ。どういたしまして」

「……私は……桜真梨菜。真実の“真”、果物の“梨”、菜の花の“菜”で真梨菜」


 え、自己紹介をいまさら!? 苗字は確かに知らなかったけど。

 まぁ、自己紹介はマリーナでは無理か。あいつにとっての自分の名はマリナではなくマリーナなのだから。


「じゃあ、俺は楠一之丞だ……ってマリナ?」


 顔を真っ赤にしたままマリナが固まっていた。

 どうもオーバーヒートしているようだ。

 頭から煙が出ている。もちろん嘘だが、そんな錯覚を見てしまう。


 こいつなりに無理をしたんだろうな。


「お前、異世界に来て運が良かったんじゃないか? そんなんじゃ日本だとやっていけないぞ」


 異世界でやっていけるかどうかと訊かれたら、それも答えは「NO」だけどさ。

 でも、マリーナとしてなら、世界一の大道芸人として生きていけるだろうな。


 暫くして、キャロとハルが帰ってきた。


「イチノ様、戻りました」


 キャロが笑顔で戻ってきた。

 あの顔を見ると、結構いい値段で売れたようだ。


 キャロは胡椒を25800センス鉄鉱石を24200センスで買った。

 それがいくらになったのか。


「胡椒は35000センス、鉄は85000センスで売れました。イチノ様の錬金術の腕が評価された当然の結果です。行商人のレベルが1つ上がりました。あと、800センスで買った貝のブローチは、店の情報込みで1500センスになりました」


 すご、元値5万センスが12万センスになったのか。

 倍の値段を余裕で超えてきた。

 でも、貝のブローチの値段も倍近いのは流石だな。店の商品を買い占めただけはあるな。


「交易商の方は執拗に鉄の入手ルートを知りたがっていましたからね。もしもご主人様が作ったと知られれば、この国の錬金術ギルドは放っておかないでしょう」

「高く売れたのはキャロの腕のおかげだよ。それで、今度は何を仕入れたんだ?」

「バンブモーズという牛の魔物の角を仕入れることにしました。民芸品の材料として使われるだけでなく、角そのものでも交易品として高値で取引されます。安定した交易をするならこれが一番です。馬追祭の後でしたら、塩漬け肉を仕入れたのですが」


 キャロが塩漬け肉と言った時、ハルが生唾を飲み込む音を俺は聞き逃さなかった。


「なぁ、キャロ、ハル。冒険者ギルドに行くのは今度にして、今日は宿に行って飯にしないか?」

「そうですね。ハルさんも疲れているでしょうし異存ありません」

「私は平気ですよ」

「悪い、俺が腹減ったんだ」


 俺は笑いながら自分の腹をさすった。

 一番何もしていないんだけどな。


「キャロ、宿の場所はわかるか?」

「すみません、覚えていなくて……厩の場所なら覚えていますからそこで聞くことにしましょう」


 厩に着いた時には、マリナはオーバーヒートから回復していた。

 そこでフユンと馬車を預け、包丁の届け先である宿の名前を伝えてその場所を聞いてそこに向かった。


 歩いて五分ほどの場所だったので、すぐに見つかった。

 四階建ての石造りの宿だ。


 店の中に入ると、一階は酒場になっていて、宿屋のフロントは二階だと言われた。

 一度店の外に出て、屋外の階段を上がっていく。


「いらっしゃい。泊まりかい?」


 恰幅のいいおばちゃんが笑顔で俺に訊ねた。


「はい。それと、カノンさんからお届け物です」


 俺はそう言って、包丁の入った包みを渡した。

 おばちゃんは包みから包丁を取り出した。


「流石はカノンさんだね。いい仕事をしているよ」

「カノンさんって包丁職人として有名なんですか?」

「知らないのかい? あの子は魔剣職人さ。鍛冶師と錬金術を極めたプロなんだよ?」


 ……嘘だろ?

 カノンの職業を見損ねていたが、あの人、そんなに凄い人だったのか。

 というより、そんな凄い人なのにあんなせこい商売をしていたのか。


「その包丁も何か特別な包丁なんですか?」


 ハルが興味深げに訊ねた。

 包丁とはいえハルの使う剣よりは少し短い程度で、彼女なら武器としても使えるのだろう。


「あぁ、そうだよ。この包丁は果物や野菜といった植物を切ったとき、鮮度を保つことができる魔法が込められているのさ。これでリンゴを切れば一日置いても変色しないんだよ」

「それは……凄いですね」


 凄いけどしょぼいな。


「おや、この手紙、マリナって子宛てだよ?」


 おばちゃんは包丁と一緒に同封されていた手紙をマリナに渡した。

 マリナは一瞬戸惑ったものの、恥ずかしさよりも、カノンからの手紙の方が気になったようで、頭を下げて手紙を受け取った。

 どうやらマリナはスキルに頼らずにこの世界の言葉を学んだらしく、手紙を読んでいく。

 そして、読み終えた後涙を流した。


「どうしたんだ?」

「……捨てられた」


 え?


「カノンに捨てられたぁぁぁぁ!」


 マリナが泣きながら叫んだ。

 大声出せたのか。

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