フェルイトの町に到着
一夜明け、俺達は馬車でフェルイトを目指していた。
キャロは何か考え事をしていたのか、ずっと眠れずにいたらしく、今眠っている。
また、マリーナも風の弓の練習をしていたので同じく今は眠っている。
俺もあまり眠っていないが、平成生まれの俺にとって、夜中まで起きるのは別に苦行でもないので、今日はハルと二人で話していた。
相変わらず、地下から魔物の気配がする。
イトミミズではなく、昨日の蟻の気配じゃないか? と訊いたところ、アーミーアントの蟻の巣はかならず蟻塚を起点として巣を作成するそうなので、やはりイトミミズだろうとのこと。
あんなでかい蟻の蟻塚か。どれほど巨大なのだろうか?
「もしかして、昨日穴の中にファイヤーボールをぶち込んだときの穴が実は蟻の巣だったとか? あの丘が蟻塚だったとか」
「それは流石にないかと思います。あの丘は蟻塚というには大きすぎますし」
「だよなぁ」
あれが蟻塚で一つの蟻のコロニーだとするのなら、この国は丘だらけになるよな。
「あの魔物の巣の中に独特な匂いがありましたから、それを発する魔物がいたら教えますね」
「そうだな。ありがとう。でも、ちょっと気に留める程度にしておいてくれ」
ハルの心遣いに感謝して南へと進む。
ちょうど昼くらいに、フユンを少し休憩させ、そして三時間さらに南下。
空に赤みが差し、白い雲に黒い絵の具が混じったように黒くなっていったとき、俺達はようやくフェルイトの町にたどり着いた。
町に入る前にキャロの職業を行商人に戻しておく。
大草原の中心にある町。
高い石壁に囲まれていて、中央に立派な城のような建物がある。
「首都って聞いたけど、ベラスラと同じくらいか……にしては壁が高いな」
「コラットに攻められた時に対する備えの意味が強いそうですよ。コラットとの小競り合いはもう数百年続いていますから。見てください、イチノ様。壁の色が何層にもなっていますよね。あれは継ぎ足し継ぎ足し壁を増築していった名残なんです」
昼過ぎに目を覚ましていたキャロが説明してくれた。
確かに、壁がまるで地層のようになっている。
最初の観光名所を見たような気分だ。
入町税を支払い、町の中に。
平民レベルは残念ながら上がらなかった。
町の中は煉瓦造りの建物が多いな。逆に木造の家はほとんどない。
露店で肉を焼いている店が目立つ。
他にもチーズとかが売っているのは嬉しい。
逆に、野菜はかなり高かった。
フロアランスの倍近い値段だ。
魚はほとんど売っていない。
「イチノ様、まずは交易所に行き、その後に厩に行きましょう」
「そうだな。それが終わったら、冒険者ギルドで蟻の素材を売って、最後に宿屋に包丁を届けて休む……でいいな」
俺が言うと、マリナが恨めし気にこちらを睨み付けていた。
寝ている間に仮面を取って反応を見てみたんだが、何故か前みたいに怒らずにじっとこちらを睨むだけだ。
まぁ、商談の時に変なことを言ってキャロの邪魔をしたらいけないので、このままにしておくことにした。
静かなのはいいことだ。
俺はアイテムバッグからとりあえず香辛料と鉄を取り出して乗せる。
一気に馬車の中が狭くなったので、俺達は馬車から外に出た。
「今回の取引は全部キャロに一任していいかな?」
「よろしいのですか?」
俺は頷き、一枚の紫色のスカーフを取り出した。
「国境町で買っておいたんだ。隷属の首輪を隠すにはちょうどいいだろ?」
ハルに赤いスカーフをつけたように、キャロに紫色のスカーフをつけた。
「ハル、悪いが護衛代わりについていってくれ。俺は、荷物を店内に運んだ後は外で待ってるから」
「イチノ様、ありがとうございます。イチノ様のご期待に添えるように頑張ります」
俺は笑顔でキャロの頭を撫で、そして一緒に荷物を運んだ。
そんな俺達をマリナはじっと見ていた。