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マリーナの第二職業

 俺達はフェルイトを目指して国境町を出た。

 一人の時間がないのと、昨日は多少の誤解や行き違いはあったもののハルとはいい関係を築けたので、(同人誌)の出番はなかった。

 ついでに、遊び人のレベルも一気に3も上がり、レベル16に。

 遊び人レベル15になったときに、音楽家・歌手・ダンサー・芸術家の四種類の職業が解放された。

 うち三つはマリーナも持っている職業だ。

 ステータス画面を見るたびに、職業が多すぎるなぁ、と思っていたら、職業マニアの称号と、職業整理のスキルも入手。

 これを使って整理できそうだ。


 ちなみに、今日も御者はハルが担当している。


「マリーナ、一ついいか?」

「どうした?」

「マリーナって、なんで大道芸人を続けてるんだ? 大魔術師になりたいのなら、転職するっていう手段もあっただろ?」

「大魔術師になりたいもなにも、我は大魔術師だ。それと、転職したくても不可能だ。大道芸人は特殊な職業らしく、並みの神官では手も足もでぬわ」


 なんで偉そうなんだよ。まぁ、そこは誘惑士や猫使いと一緒で、特別な神官じゃないと転職できないのか。

 しかもこれは女神が設定した職業だ、下手したら誰も職業を変更できないかもしれない。


「もしも転職できるって言ったらどうする?」

「どうもせぬな。今のまま続ける」


「どうしてですか?」

「我はこの道の可能性を最後まで見つけておらぬ。最初は嫌だったが、我の超魔術を目の当たりにする多くの者の笑みが我の魔力の糧となる。それは素晴らしいことだ」

「可能性……ですか」


 キャロは少し押し黙った口調で言った。


「そっか。じゃあさ、仮に二つ目の職業を選べるとしたらどうする?」

「もう一つ職を持つということだな。それなら、平民のレベルを上げ、狩人になり弓装備を得なければな」

「狩人? てっきり見習い魔術師だと思ってたが」

「まずは、と言っただろ。我の超魔術によって弓矢の性能はほぼ100%。だが、弓装備がないせいでその攻撃力は皆無といっていい。無力な蛙を後から直接突き刺すのが精いっぱいだ」


 後から? あの時の大道芸、実は矢で蛙を撃ちぬいたんじゃなくて、後から突き刺してあたかも狙って撃った――みたいなことをしていたのか。

 ペテンの技術も大道芸人なんだな。


「これから盟友カノンと共に旅をする以上、我も戦いの技術は必要になるだろうからな。だが、何故そのようなことを聞くのだ?」

「あ……んー」


 第二職業設定のことは――無職スキルのことは信用できる相手にしか話したらいけないと言われている。

 マリーナは中二病っぽいが悪いやつではないと思う。だが、カノンはどうだ?

 あいつのことはよく知らない。少なくとも、詐欺まがいの手段で武器を売ろうとしている奴だ。

 いつかマリーナがカノンの奴隷に戻ることを考えると、マリーナが知ったことがカノンに伝わる可能性は否めない。


 ならば、今度こそ適当なウソをつくか。

 頭の中で、矛盾のない設定をこねくり回す。


「マリーナ、一応、俺は仮とはいえ、お前の主人なわけだから命令には服従しなければいけないんだよな」

「いかにも。もっとも、我に不埒な行いをしようものなら、主が我の主でなくなったその時が主の命日だということを忘れるでないぞ」

「しねぇよっ! とりあえず、命令だ。俺のステータスは絶対に見るな」

「なるほど。ろくな仕事をしていないのを見られたくないということか」

「違うよ。俺の天恵はちょっと特殊でな、複数の能力があって、あまりみられたくないんだよ」


 そう言いながら、俺はキャロに目配せを行う。察しの良い彼女はそれだけで理解しているだろう。


「俺はパーティーメンバーの職業を二個設定できる。とりあえず、マリーナの第二職業を平民にしてみたから、ステータスを確認してみてくれ」


 俺も確認してみたが、第二職業がきっちり設定できているかどうかは俺には見ることができない。

 ただ、ステータスが増えているので、確実になんらかの職業がついているのは確かだ。


「おぉ、我の隠された力が今目覚めたということか」

「俺の力だ」

「細かいことを言うな、禿るぞ。てっぺんから」

「どこが始点かまで指定するな! 禿ねぇよっ! というわけで、とりあえずフェルイトとそこの国境町とを往復する間に、できる限りマリーナが弓装備と、簡単な魔法くらい覚えられるようになろうぜ。芸の幅が広がるぞ」

「我の超魔術を芸と言うな。呪うぞ」

「それは魔術じゃなくて呪術だろうが」


 お約束のツッコミは入れておく。

 魔術と呪術の違いなんて俺に聞くなよ?

 俺みたいな見習い魔術師や魔術師の職を持つものが覚えるのが魔術で、シュレイルのような呪術師が使えるのが呪術なんだと思うが。


「ハル、そういうわけで、今朝話した通り、魔物の匂いがしたら積極的に狩っていく方向で」

「はい。といっても、魔物はあまりいませんが」

「ん? 結構魔物はいると思うが?」


 気配探知Ⅱのスキルのおかげで敵の気配はあるんだが?

 どういうことだ?


 と思って荷台から外の様子を見てみた。

 ……本当に魔物の気配はあるのに、姿はまるで見当たらない。

 草が生えているが、それほど高い草というわけでもなく、隠れることはできないはずなのに。


「イトミミズではないでしょうか?」

「糸ミミズ?」


 キャロの問いかけに、俺は気配探知をもう少し詳しく自分なりに解析してみた。

 なるほど、確かに気配は地面の下から感じられる。


「なら、いっそのこと掘り返してみるか」

「あまりいい方法とは言えませんね」

「イトミミズを捕まえて釣りをして魚型の魔物を倒すという手段も残されているんじゃないか? 俺の気配探知があればソナーも必要ないし……」

「イトミミズで釣りですか……?」


 キャロがかなり嫌そうな顔をした。

 ミミズが苦手なのだろうか。

 まぁ、釣り具もないし、そういう遊びは釣り師になってからでいいか。


「ご主人様、あちらの穴から魔物の匂いがします。魔法を打ち込んでみてはいかがでしょうか?」

「魔法!? 魔術なら我の出番――」

「お前の大道芸じゃ魔物は倒せないだろう」


 マリーナの頭にデコピンをした。

 涙目でおでこをおさえ、俺を睨み付けてきた。


 馬車を止め、ハルが言う穴と言うものを見つけた。少し丘になっているところから斜めに掘られている穴だ。

 自然にできた穴というよりかは、本当に動物が掘った穴という感じだ。


 気配はいくつかある。


「よし、やってみるか!」


 俺はアスクレピオスの杖を取り出し、職業を魔術師系職業と、見習い鍛冶師に変更。

 そして、杖を穴に向け――


「ファイヤー!」


 そう唱えた。直後、杖の先端から火の玉が現れ、穴の周囲に焦げ跡を残して中に入って行き、そして、穴の底に着弾したんだろう。轟音を起こして、煙と土埃をまき散らして、次の瞬間には穴は崩れ去った。


【イチノジョウのレベルが上がった】

【見習い鍛冶師スキル:鍛冶を取得した】

【レシピを取得した】


 一体、何を倒したのかわからないまま戦闘は終わった。

 鍛冶師関係もレシピを覚えるようだ。

 今まで育てよう育てようと思って錬金術を育てることをメインにしてしまったせいで遅くなった。

 今のレシピでは石、青銅と鉄を使った武器防具を作ることができるようだ。


「よほど経験値の高い魔物だったようだな。我の平民レベルが7に上がった」


 レベル7か。狩人や農家などに転職できるな。

 ただ、レベルが上がったのは経験値が高いからではなく、ただ俺の経験値20倍が効いているだけなんだが。


「教会に行けば……む、イチノよ。通常の転職ならともかく、第二職業とやらの変更はどうすればいいのだ?」

「あぁ、俺がやってやるよ。第二職業の変更くらいはできるから」


 マリーナの第二職業を狩人に変更するように念じた。


「おぉ、我の幸運値が50に……ん? イチノよ、賭場でスロットで稼いだこと、鈴木にジャンケンに勝ったこと、もしやこの天恵を使い幸運値を大きく上げたのか」

「御明察だな。たまに鋭いんだな、お前は」

「たまには余計だ」

「よし、もっと魔物を倒して我に弓装備スキルを与えたまえ」

「尊敬語を使いながら偉そうに言うなよ……てか無理だろ。敵がいないんだから」


 俺は再度草原を見渡した。

 魔物の子一匹見当たらない。


 その日――結局他の魔物を見つけることがないまま、俺達は夜の野宿の時間を迎えることにした。

 冒険者ギルドの店で注文していた料理を別の容器に移してアイテムバッグに入れていたのを食べていた時だ。


「あの……イチノ様。レベル上げをしたいのですよね?」


 キャロは何かを懇願するような瞳で俺を見てきた。

 彼女がこういう表情をするのは珍しい。


「ん? そうだな。迷宮でも探すか。キャロも育てたい職業があるのか?」

「育てたい職業があるかと聞かれたら、その通りなのですが……」


 俯いたキャロは言い澱んだが、決意したように俺の目を見て言った。


「キャロは誘惑士を育ててみようと思うのです!」

  ~閑話 五人と一頭旅~


 時は一之丞達がまだ国境を繋ぐ橋の上で大道芸を眺めていた頃。

 ジョフレとエリーズとケンタウロス、そしてフリオ、スッチーノ、ミルキーの5人と1頭は北西の方角にある迷宮を目指していた。

 前を歩くのはジョフレとフリオだ。


「え、ジョフレさん達、ナルベ叔父さんの部下だったんっすか?」


 フリオがジョフレとエリーズに対して自己紹介を行った時、自分の叔父が、ジョフレの元ボスだと知って興奮して叫んでいた。


「そうなんだ。いやぁ、偶然だな、まさかフリオがボスの甥だったなんて」


 ジョフレがナルベの部下だったというのは本当のことだが、ジョフレがナルベに最初に会ったのは、一之丞がナルベを倒した後であり、あっさりと手の平を返しているのだが。


「憧れるっす! ジョフレさん! まじパネぇっす!」


 秘密結社のリーダーだったフリオ。

 だが、尊敬する叔父の部下であり、かつ自分を劇的な形で救い出してくれたジョフレに対し、本来の彼――つまりは下っ端気質が表に出て、口調まで変わってしまっている。


 そんな二人をスッチーノが一歩下がった位置で見ていた。

 どこか焦りのようなものが感じられる。


 そして、その三人を眺めるミルキーとエリーズ。

 レディーファーストということで、二人はケンタウロスに乗って移動している。


「ふふふふふふふふふふふ」

「楽しそうだね、ミルキー」

「ええ、エリーズさん。見てください、あの三人。ジョフレさんに憧れを抱くフリオ。フリオを取られるんじゃないかというスッチーノ。あぁ、なんて素敵な三角関係」


 恍惚とした表情で鼻血を垂れ流すミルキー。

 ケンタウロスは自分の背中に鼻血を流されても何も感じていない。


 本来ならこんな場所で鼻血を流したら、血の匂いにつられて魔物が来るものなんだが、そんなことも起こらず、平和そのものだ。


 ちなみに、スッチーノが焦っているのは、このままジョフレとエリーズが一緒に来られたら、取り分がどうなるのか? というものだ。

 さっき死にそうな目にあったスッチーノとすれば、明らかに自分達より強い二人が一緒についてきてくれることは心強いが、分け前が半分になるというのは困る――と思っている。


 そんな俗に塗れたスッチーノの表情も、ミルキーの乙女フィルターを通して見たら鼻血絵になる。

 彼女の――ピンキーパンツの次回作は三人の男が登場することだろう。


「あそこっす。初心者向けの迷宮ですが――ここからだと見つかるとやばいんで、慎重に――あれ?」


 迷宮がある建物の前で、フリオは首を傾げた。

 いつもはこの時間なら見張りの兵が、交代の時間まで巡回しているのだが、その兵の姿が見当たらない。

 ここで凄腕の冒険者なら、嫌な予感がする、などと思うのだが、


「運がいいっす、今なら簡単に迷宮に忍び込めそうっすね」


 そんな楽天的な考え。

 だが、五人もいたら誰かが止めるべきだと言うだろう。


「早く行って帰ろうぜ。それで俺達は大金持ちだ」

「運がいいんだな、エリーズ」

「私は運がいいのはジョフレと出会えたことよ」

「新作はジョフ×フリ×スチ……ううん、スチ×フリ×ジョフ……あぁ、でも嫉妬で襲うスチ×ジョフというのも」


 金の亡者とバカップルと変態。ついでにロバ。

 フリオのことを止める人間などいるわけもなく、五人と一頭は何も考えずに迷宮の中へと入って行った。

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