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勇者を探せ

本日二度目の更新です。

 結局、ハルのおやつ的な意味で干し肉(すでに一枚咀嚼中)とMPが切れたときなどのための緊急用のポーションなどを買っただけで、買い物も終わり、キャロとの待ち合わせ場所である冒険者ギルドに向かった。

 そろそろお腹が空いてきた時間だが、料理の注文はキャロが揃ってからすることにして、俺達は飲み物だけ注文して待っていた。


 飲み物のメニューの中にレモネードがあったので注文した。


「ハルはどうする?」

「私も同じ物でお願いします」

「マリナはどうする? 酒も飲んでいいぞ」

「……私はお酒はあまり……同じ物でお願いします……それより、仮面を……仮面を」


 マリナは仮面に依存しすぎだ。

 ただ、人見知りと上がり症はあるけれど、こっちのほうが常識人だからな。

 話を聞くとき以外はこっちのままでいて欲しいので、仮面は返さない。


「てか、マリナって目が綺麗なんだから、仮面で隠したら勿体ないだろ」

「……仮面」


 全然人の話を聞いていねぇな。

 暫くして、飲み物が届く前にキャロが入ってきた。


「お待たせしました、ご主人様」

「お帰り。どうだった?」


 キャロの顔色が少し優れない。悪い情報でもあったのだろうか?


「良い情報が一つ、悪い情報が一つ、それと町の噂になっている情報が一つですね」


 この短期間で情報三つか。


「……じゃあ、嫌なことから。悪い情報ってなんだ?」

「南の国境町付近の谷の街道で土砂崩れが起こっていて、撤去に時間がかかるそうです。ポートコベを目指すなら一度アイランブルグに戻り、コラットに戻ったほうが早いと思います」


 アイランブルグに戻るか。

 マリナの顔を見ると、涙目になって無言で首をぶんぶん振っていた。

 ここでこいつを放り出すわけにもいかないしなぁ。


「香辛料や鉄を売らないといけないし、一度フェルイトを目指したほうがいいだろ」

「良い情報ですが、香辛料、鉄、両方とも買い取り価格が上がっているようで、この町で売っても十分に儲けが出ます」


 あえてフェルイトを目指す必要はないってことか。

 もう一度マリナを見る。


 もう泣いていた。首を振るたびに彼女の涙が雫になって飛び散る。


「あぁ……なんかマリナをいじめたくなる俺でも、流石に可哀そうだ。フェルイトを目指してやろうか。往復4日くらいだろ? 別に急ぐ旅でもないしな」

「うぅ……あ、ありがとう……ございます」


 ちょうど席に持ってきてもらったレモネードを感謝して泣きながら飲むマリナ。


「それで、噂になってる情報は?」

「どうも、勇者とその一行がこの町にいるというものです」

「………………!?」


 キャロの発言に、ハルの尻尾がピンっとなった。

 勇者か。


 ハルにとって勇者は魔王を倒した敵でもあり、そしてその後、奴隷落ちするも勇者の配慮により比較的待遇の良い場所の奴隷になったと聞く。

 だが、勇者が来なければ、魔王が討伐されることもなかっただろうし、彼女の父が死罪になることもなかった。

 複雑だろうな。


「ハル、どうする? 勇者に会っていくか?」


 ハルが嫌だというのなら、今日はもう早く寝て、明日の朝一にこの町を出よう。

 そう思った。


「……会おうと思います」


 決心するようにハルが言った。


「そうか。キャロ、勇者はどこにいるんだ?」

「すみません、そこまではまだ。ただ、勇者も何かの情報を集めているそうですので、人が多い場所に行けばいいかと」

「人が多い場所ねぇ」


 地道に足で探すかな。この町の宿は全部で三ヶ所あるそうなので、そこで張り込みをする手段もあるが、宿に泊まっておらずに知り合いの家に泊まっている、みたいなレアなケースもあるかもしれない。


「あの、イチノさん。そろそろ仮面を……」


 マリナは仮面のことをまだ言っている。

 本当にこいつはマイペース……ん?


「――これだっ!」


 俺はそう叫んで立ち上がった。


   ※※※ 


「見ろ、我の超魔術を! そして歓喜しろ! 無限に流れる悠久の時の中でこの一時、大に広がる地のこの一点に汝らがいたことを」


 仮面を装着しているマリーナがそう言って取り出したのは、弓と七つの的になる板、そして七本の矢だった。


「我の超魔術により、七本の矢を風の魔術により見事に全ての的に命中させてみせよう」

「は? それって魔術じゃなくてただの弓術だろうが!」


 観客の一人が罵声を浴びせた。


「ふっ、ただの弓術だと思うなら見てみるがよい」


 そう言って、彼女が弓を構えた。

 その方向は太陽の方角。そして、的がある方向とは正反対だった。


 彼女が矢を放った。

 あらぬ方向に飛んでいく矢。


 だが、急に軌道を変え、六本の矢が彼女の背後、六つの的に刺さった。


 観客から感動の拍手が沸き上がる。

 後ろ向きで、七本の矢のうち六本の矢が的に命中したのだ。

 一本外したとはいえ、その技術は確かに超がつくほどすごい。


 これで弓装備のスキルを持っていないんだよな。

 この超魔術――もとい大道芸のトリックはとても単純でいて、だからこそ難しい。


 やり方は仮面をつけていないマリナに聞いた。


 矢尻には見えにくい糸がついている。引っ張ればとれる程度で。

 彼女はそれを引っ張ることで、矢の軌道を変えたのだ。

 理屈では可能だが、それを的に当てるとなれば超を越える技術が必要となる。


「しまったな、一本外してしまったか」


 後ろを向き、その成果にマリーナが落胆の表情を浮かべた。


「一本外してもすげぇぞ! 本当に超魔術だ!」

「カッコいいぞ、姉ちゃん!」

「素敵よっ!」


 マリーナは歓声を全て無視し、外れた矢のところに歩いていく。


「我としたことが、魔性の主がいたことでついそちらに矢を撃ちこんでしまった」


 彼女が矢を持ち上げると、そこには矢が刺さって絶命しているカエルがいた。

 それを見た観客から溢れんばかりの大歓声が沸いた。


 彼女が取り出したシルクハットの帽子の中に、大量のおひねりが入って行く。


「それでは、次の超魔術をお見せしよう」


 彼女は黒いスカーフを取った。隷属の首輪が露わになるが、それを指摘する客は誰もいない。

 そして、彼女のスカーフがシルクハットを覆い、ぱっと取り除いた。


 次の瞬間、シルクハットの中のおひねりが影も形も残さずに消え失せた。

 彼女の大道芸は始まったばかりだ。



   ※※※



「大成功だな、イチノよ」


 冒険者ギルドのテーブルでおひねりを数えながら、マリーナは満足そうに言った。

 銅貨がほとんどだが、中には銀貨も混ざっている。


「レベルが30に上がり、新たな魔術を覚えたぞ」


 大道芸人の経験値取得方法は、戦闘の他に、おひねりを貰う事でレベルが上がるらしい。

 ちなみに、一人の客につき上限は銀貨1枚らしい。

 客のフリをして金貨を投げ込み、回収して――を繰り返しての経験値取得はできないわけだ。

 サクラを雇って銀貨を投げ込んでもらう方法はありそうだが、普通にパーティー状態で魔物を倒してレベルを上げたほうが効率的だ。


「今日は祝宴をあげよう。そこの給仕よ、血のように赤く染まる葡萄ジュースを頼む」


 どうやらマリーナも酒は飲めないのか。

 それより、本題だ。


「ハル、勇者はいたのか?」

「いえ、それらしい人はどこにも……匂いも感じませんでした」

「そうか……うまくいくと思ったんだが」


 やっぱり地道に探すしかないか。

 そう思った時だ。


「失礼――少々よろしいでしょうか?」


 横から男の声がかけられた。

 マリーナに追っかけでもできたのだろうか?

 そう思って横を見て、ため息をつく。


 イケメンがそこにいた。

 黒い短髪、銀色の鎧、腰に剣を帯刀している男だ。

 横には美人の奴隷が三人いた。


「僕は鈴木浩太と申します。この世界で勇者をしています」

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