マリーナのステータス
仮とはいえ、マリナのパーティー申請を終え、俺達は宿屋に向かおうとしたのだが、宿屋の場所を聞くと、冒険者ギルドの二階と三階が宿屋ということで、その場で宿の部屋をツインで二部屋確保した。
そのうちの一室に集まり、ようやくマリナの話を聞くことにした。
仮面を渡すか渡さないか、本当に悩むところだが、今のマリナとはまともな会話もできそうにないので、仮面を返すことに。
マリナは仮面を着け、
「全く、我の生命とも言える仮面をぞんざいに扱いおって」
目元を隠したことで、強気になったマリナ。いや、マリーナ。
「話を聞かせてもらいたいんだが、マリーナはいつこの世界に来たんだ?」
「我がこの地に舞い降りた時は、四の季節が巡る前のことであった」
「一年前でいいのか?」
「その通りだ」
満足気にマリーナが頷く。
こんな喋り方をしているせいで、話を理解してもらえないことが多いから嬉しいんだろうな。
この世界に来てから、マリナは大道芸人として生きていくことになったそうだが、恥ずかしがり屋、上がり症の性格のせいで上手くいかず、お金が無くなり行き倒れていたところを奴隷商人に拾われ、カノンに買われたと。
「魔物と戦ったことは?」
「我の力をもってすれば魔物など戦うまでもない」
「ま、大道芸人は戦闘向きじゃないからな」
「我は大魔術師だと言っているだろ。嘘だと思うならもう一度我の超魔術を見てみるか?」
「……いや、その舞台はまた今度用意してやるよ。とりあえず、仮にも一緒のパーティーを組むわけだし、マリーナのステータスを見せてもらってもいいか?」
「……断る」
「ステータスオープン、マリーナ」
「断ると言っているだろうが。それに、そのようなことを言っても我のステータスは確認できまい」
あれ? 本当にマリーナのステータスが見えない。
あぁ、そうだったそうだった。
この姿の時はマリーナと呼ばれていても、本名はマリナだからな。
「ステータスオープン、マリナ」
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名前:マリナ
種族:ヒューム
職業:大道芸人Lv29
HP:79/79
MP:32/32
物攻:41
物防:39
魔攻:54
魔防:49
速度:80
幸運:10【+20】
装備:魔女コスセット 普通の黒仮面
スキル:【大道芸Ⅺ】【器用さUP(大)】【縄抜け】
取得済み称号:【迷宮踏破者Ⅴ】【タワシに愛されし者】
転職可能職業:平民Lv1 遊び人Lv1 音楽家Lv1 ギャンブラーLv1 ダンサーLv1 歌手Lv1
天恵:職業【大道芸人】解放
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いろいろとちょっと待て。
ステータスはもういい。低レベルのハルよりもはるかにステータスが低いとかは、職業上仕方ないだろう。
問題は装備だ。
なんだよ、魔女コスセットって。ただのコスプレかよ。コスプレって概念がこの世界にあるのにも驚きだ。
しかも、仮面、やっぱり魔道具でもなんでもない普通の仮面じゃないか。思い込みで上がり症が治ったとか思っているせいで、無理矢理自分を抑え込んだ結果、なんちゃって中二病キャラになったんだろう。
職業がやたらと多いのは、大道芸人解放の恩恵だろうが、本当に役に立つのが少ない。
スキルで器用さUP(大)を持っているのに、本当に不器用な生き方をしているな。
スキルといえば、大道芸?って、何種類大道芸が使えるのか。まともなスキルが器用さUPの他は縄抜けしかないって憐れすぎだろ。
杖を持っているのに、杖装備のスキルがないせいで、装備一覧に表示すらされていない。
でも、一番気になったのは、
「称号、タワシに愛されし者ってなんだよ?」
「うむ。迷宮で女神に最も愛される者にのみ与えられる称号だ」
女神に最もぞんざいに扱われたから今の状態に陥っていることをこいつは忘れているのだろうか?
「だから、何なんだ?」
「5連続でタワシを手に入れると、次回以降迷宮ボーナスからタワシが消えるというだけでなく、幸運値が20も上がるという魅惑の称号だ」
「お前、5回迷宮攻略して5回ともタワシだったのか」
何回も迷宮をもぐる冒険者からしたら、もうタワシに恐れる心配がないというのは喜ばしいことなんだろう。本来は。
「タワシの入手確率は幸運値10の人で1/4程度だと言われていますから、5回連続タワシを引く確率は1000分の1以下ですね」
キャロがどれほどレアな称号なのかを説明してくれた。
うん、確かに俺には一生手に入らない称号だろう。
でも、こいつ迷宮を攻略しているのに、魔物と戦ったことはないんだよな。
ということは、カノン一人で戦ってたのか? それとも護衛を雇ったのか?
おそらく後者だと思うが、前者だとするのなら、かなり強いんだろうな。商人だと思って、職業を見なかったが、気になるなぁ。
「日本と連絡をとる方法って知らないか?」
「知らない。ここに来て一年、今では日本に帰りたいと思うことも少なくなった。向こうにともだ……強敵と呼べる存在がいない以上、我の魔術の出る幕もないからな」
こいつ、日本に友達がいないって言おうとしただろ。悲しいこと言うなよ。
「ご主人様、やはりニホンという国に戻りたいのですか?」
表情にそれほど変化はないが、結構長いこと一緒にいるせいか、ハルが寂しそうに訊ねた。
「いや、向こうに妹を残してきちまったからさ。せめて無事だと知らせたいと思っただけだ。今更日本には戻れないよ」
向こうでは俺は確実に死んでいることになっているだろうからな。
今戻ったら幽霊が出たと騒がれる。
それならば、ミリに手紙を送るのもダメか。死者からの手紙も不気味だろうし。
とりあえず、話し合いはその程度で終わり、自由時間にすることにした。
キャロは情報収集をするために町に出た。
町の中は橋の上とは違い、正式にダキャットの領地となっているから、治安も橋の上よりいいそうだ。
だから、一人で出ても安心だというので、一人で行ってもらうことにした。
俺も何か買い物をしようと思って町に出たのはいいんだが、さっき橋の上で必要なものを大体買ってしまったからなぁ。
「そういえば、ダキャットって鍛冶が結構盛んなんだよな。鍛冶道具一式でも買うか」
「……ご主人様、鍛冶道具って何ですか?」
「え? ほら、携帯用の炉とか、鋏とか、手袋とか、ハンマーとか」
「鍛冶のスキルを持っていたら、道具は必要ないですよ。錬金術と同じように材料が変化していき、剣になります。時間はかかりますが」
「マジでか!?」
凄いな、異世界。
まぁ、時間はかかるんだろうが。
「鍛冶師が作るアイテムの時間と性能は、物攻と器用さ依存ですから、ご主人様なら通常の鍛冶師の何倍もの速度で武器を作れると思いますよ」
「それは助かるな。まぁ物攻値は高いし、器用さUP(微)のスキルもあるからいけそうだな」
「ほう、主は力には自信があるのか。そういえば先ほどの不逞な輩を簡単に退けていたな。まぁ、仮とはいえ我の主を名乗るのだ、そのくらいの力がないと……はぅ……あの、仮面を……仮面を返してください」
少しイラっとしたので、仮面を取り上げて真上に持っていくと、涙目でマリナは両腕を伸ばしてきた。
俺の方が身長が高いので、いくら手を伸ばしても届かない。
んー、こっちのマリナを見ていると、少し嗜虐になってしまいそうになる。
「……羨ましいです」
俺達を見ていたハルが何か呟いたような気がしたが、気のせいだろうか?




