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二度あることは三度目の正直

 ダキャットに入り真っ先に目についたのは、ワルキューレのような姿の像だった。

 一度、ベラスラの教会で見たことがある。

 確か、セトランス様だったかな。

 石像なので色は全くわからないが、マントに鎧、長い剣を持つ彼女の姿はまさに女戦士だ。

 戦いと勝利を司る女神様だってハルが言っていたな。


(前も思ったが、セト()()()様なら槍のほうがいいのになぁ)


 とバカなことを考えていた。

 ちなみに、女神像の前にはご丁寧に賽銭箱が置かれている。


「アランデル王国は六柱の女神様を全員信仰している女神信仰を国教としていますが、ダキャットはセトランス教を国教としています。戦いと勝利の神です。大半が遊牧民であるこの国の人にとって、魔物と出くわす機会は他の国の人よりも昔から多く、戦いが生活の一部となっているためだと言われていますね」


 キャロは相変わらず博識だった。

 ちなみに、コラットは農業大国のため、コショマーレ様の女神像がいろいろな町に建てられているらしい。


 コショマーレ様には感謝しているが、それでもこの国を選んでよかったと思う。流石にあの姿の像があちこちに置かれていると苦笑いしか出てこないだろうからな。


 それにしても、無事に越境、入町できたわけだが、平民のレベルが上がらなかった。本当にレベルが上がりにくくなっている。


 確か、ハルがセトランス様を敬愛している信者だったから、キャロを含めて三人でお賽銭を入れ、お祈りを捧げた。

 ちなみに、マリナはわけあって一人で馬車の中に引きこもっている。


「でも、国境を越えただけでこんなに変わるものなんだな。一気に大草原になっちまった」


 今はまだ町の中にいるのだが、それでも町を囲う柵が低いため、町の外の様子が良く見える。


「ももももももも、申し訳ありません、そろそろ仮面を返していただけないでしょうか?」


 涙目になって訴えてきたのはマリナ。俺と同じ日本人らしいが、まだまともに話せていない。

 今は仮面を取り上げている。

 だって、こいつ、入国審査の時にかなり危なかったからな。


『我が名は大魔術師マリーナ! この世界に舞い降りし勇者とともに大魔王を打ち倒すために立ち上がりし聖戦士よ、覚えておくがよい。入国目的だと? そうだな、我が大魔法によってこの馬車を護衛しながら、首都の拠点となりし地に凶器となり得る重要な――』


 そこまで言わせてしまってから、俺はマリーナから仮面を取り上げて、行商人目的と、フェルイトの宿屋に頼まれている包丁を届けるだけですと言って、通してもらった。


「これを渡したら、お前、絶対冒険者ギルドでもバカなことを言うだろ。そのまま大人しくしてろ。あと、大魔王を打ち倒すってあんまり言うな」


 第一に、この世界の魔王はすでに勇者によって倒されている。既に倒している相手をさらに倒すなど不可能だ。

 第二に、ハルは魔王に恩義を感じている。そんな彼女の前で魔王の悪口を言うのは俺もいい気はしない。

 第三に、横にいる俺達までバカと思われる。


 ということで、マリナはこのままでいさせることにした。


 こっちもこっちで大概あれなんだけど。

 ずっと涙目だし。


 厩に馬車を預け、俺達は冒険者ギルドに向かった。

 冒険者ギルドは厩に来るまでに一度通り過ぎていたので場所はわかっていた。


 冒険者ギルドに来るのも三度目だ。

 扉を潜ると、そこはテーブルと椅子が並べられた、やはり酒場のような場所だった。


「冒険者ギルドに御用ですか? それとも食事のみですか?」


 尖った耳の緑色の髪のお姉さんが声をかけてきた。

 たぶんエルフなんだろうな。

 どうやら、ここは食堂兼冒険者ギルドらしい。


「パーティーの申請に来ました。あと……飲み物も頂きたいと思っています」


 昼食は露店で済ませたから腹も減っていないしな。


「では、こちらにどうぞ」


 俺達三人が席に座ったが、なぜかマリナは座ろうとしなかった。


「マリナ、座らないのか?」

「え……その……いいんですか」

「当たり前じゃないか……って、あぁ、普通は奴隷は椅子に座らないんだっけか」


 そういえばハルも最初は椅子に座ることに戸惑っていたな。


「奴隷は普通は立つか床に座るかするのが普通ですね。あちらの方々みたいに」


 キャロが奥のテーブルに目配せを送った。一人は魔術師風の男で、その後ろに剣士風の奴隷が立っていた。


「同じ高さの椅子に座るということは、対等な立場で食事をするという意味を持ちます。ハルさんから、イチノ様が同じ椅子に座っての食事を好まれると聞いていましたので私達は座らせていただいています」

「そういうものなのか。マリナはわかっていると思うが、日本人だからな、そういうのよくわからないんだ。座っていいぞ」

「……ありが……とう」


 マリナは俯いたまま椅子に座った。


 さてさて。


 フロアランスの町ではハルがらみで冒険者に絡まれた。

 ベラスラの町ではブラウンベアを奪おうとする冒険者に絡まれた。


 流石に三度目の正直。

 ここでは誰にも絡まれないだろうな。

 そう思っていたら、


「おうおう、兄ちゃん。女の子三人の奴隷を侍らせて何してるんだよ」

「俺達にも一人分けてくれよ」

獣人セリスロに痛い格好の女にロリっ子か。安心しろ、俺は差別は嫌いだからかな。例え誰相手でも俺様のマグナムは絶好調だからよ」


 下品な笑いを浮かべるバカな男三人が絡んできた。

 二度あることは三度ある、という諺を思い出した。

 どうも、異世界人にとって冒険者ギルドというのはある種の鬼門らしい。

 ~閑話 不良たちへの依頼~


 赤く短い髪、そばかすの少年フリオ。

 黒髪の背の低い眼鏡の少年スッチーノ。


 二人の前に、秘密結社マサクル始まって以来の大事件が起きていた。


 秘密結社マサクルに依頼が舞い込んだのは、昨日のことだった。

 副総統であるスッチーノが依頼を勝手に受けた。

 普段のフリオなら、リーダーである自分を差し置いて話を進めることに対し激昂し、最終的に怒りの矛先であるスッチーノ相手に宥められて事態が収拾する。そういう手筈のはずだった。

 だが、今日は違った。

 なぜなら、目の前にあったのは金貨2枚だ。

 金貨……質素な暮らしであれば1年間は暮らしていけるほどの大金だ。


 金貨2枚が置かれたのを見て、根は小心者のフリオは慌てて金貨を隠し、周囲を見回す。

 ここは酒場の隅。スッチーノの親父さんが経営する店で、普段、彼はここで働いている。

 今は休憩中らしく、フリオの前に座っていた。


「……偽物じゃないのか?」

「いや、本物だ。しかもこれが前金で成功報酬は金貨18枚だ! どこかの伯爵だって名乗ってたが、凄いぞ。秘密結社マサクル始まって以来の大仕事だ」

「凄いな! 全部で金貨20枚かよ。よし、早速全員集めて――」

「待てフリオ。皆を集めて見ろ。そんなことしたらこの金貨は山分けにしなければいけなくなるぞ。10人で仕事をすれば一人金貨2枚だ。だが、俺達二人でしてみろ? なんと一人金貨10枚だ!」


 金貨2枚と金貨10枚、そんなもの天秤にかけるまでもない。

 数が数えられる人間ならどちらがお得かはわかる。

 それでも、フリオは少し渋った。

 リーダーとしての責務、仲間への裏切りという罪悪感……などは全くない。


「二人でって、二人でできる仕事なのか?」


 問題は仕事の内容だ。

 数を頼りにしないといけない仕事となると、やはりメンバーを全員招集して仕事にかからないといけない。

 その時は報酬は金貨2枚のみだとウソをつき、一人頭銀貨20枚に割り振って、俺の分の銀貨20枚で大宴会をした後、スッチーノと二人で金貨9枚ずつ分けようとか悪い頭で計算していた。


「依頼の内容はとっても簡単だ。この黒い球を西のダンジョンの女神像の前に捧げてくるだけだ」

「初心者向けダンジョンか。俺達が良く行く場所だな。確かにあそこなら俺達に依頼が来たのも頷ける」


 フリオ達秘密結社マサクルのメンバーは週に一度、メンバーを強化するため、5人と5人二つのグループで西のダンジョンを散策して魔物狩りをしては小銭稼ぎをしていた。

 国が管理するダンジョンであり、月に三度、訓練として兵が入る他は開かれていない。

 だが、洗濯屋の息子のグルッチが兵舎に洗濯ものを預かりに行く日にその予定を確認し、鍵屋の息子のフリオが開けて忍び込んでいた。


 スッチーノがこの仕事を独り占めせずにフリオに話したのは、決してフリオへの忠誠ではなく、フリオの鍵開け技術が必要だったからだ。


「それにしても、本当にいい人だよな」

「そういえば依頼人の名前はなんて言うんだ?」

「確か、ヴァンフ? いや、ヴァルフだったかな」

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