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大魔術師による召喚魔法

 エクスカイサー?

 伝説の剣の名前にしてはなんかパチもんくさい名前だな、と俺は思った。


「いらっしゃい、お客さん。挑戦するかい? 挑戦料はたったの1センスだよ?」


 そう言ったのは、店主らしい20歳を少し過ぎたくらいと思われる褐色肌の美人な女性だった。さっき、橋の下の家から縄梯子を登って上がってきた女性だが、あの時はTシャツと半ズボンだったのに、今は綺麗な服を上から着ていて、貧乏臭さは全く感じない。


「挑戦って……?」

「知らないのかい? この剣は勇者にしか抜けない伝説の剣。この剣を抜いたら勇者としての力が覚醒して、その身の大いなる力が溢れるのよ。剣を抜けなかったどこかのバカが周りの岩を砕いて持ってきてしまったのさ。当然こんな形の剣、誰も使えないから流れに流れてこの場所にたどり着いたのよ。挑戦するなら、前の看板をきっちり見てから抜いてね」


 なるほど。そういうイベントなのか。

 俺達三人はこの剣と立札を見て、それぞれ意見を告げた。


「この剣、金属鑑定によると素材は鉄なんだが、銀色に輝いてるのは何か塗っているのか?」

「ご主人様、看板の一番下に小さく、【剣が抜けたら必ず買い取りください。値段は1000センスです】と書いてありますよ」

「鉄の剣ですか。だとすれば通常の価格は500センス程度でしょうね。500センスの儲けですか」


 それらの意見に、お姉さんは引きつった笑みを浮かべ、


「あぁ、ごめんごめん、エクスカイサーは練習用の剣だったんだ。本物はこっち!」


 今度は岩に突き刺さった木の杖を持ってきた。

 杖の先端には赤く輝く宝石のようなものがつけられていて、とても高そうだ。


「これは、アクラピオスの杖。持つ者の魔力を高めるという杖よ」


 ……魔力を高める杖ねぇ。

 金属製ではないので、俺の出番はないが、まぁ、パチもんだろうな。

 前に置かれた看板にも、さっきと同じく抜けたら1000センスでの強制買い取りの文字が。


「これは! アクラピオスの杖ではないか!」


 突如、後ろから第三者の声が聞こえてきた。

 黒の三角帽子にマント、黒いシャツに黒いスカーフ、と黒ずくめの女性だ。さらに黒いマスクで目元を覆っている。

 見たところ店主さんとそれほど年齢も変わらないお姉さん。

 お姉さんは大きな声を上げると、


「我が名は世界一の大魔術師マリーナ! 店主、是非この杖を譲ってほしい! 金なら出す!」

「悪いねぇ、お客さん。この杖は抜いた人にしか渡せない決まりになっているのさ」

「なら、挑戦させてもらおう」


 マリーナと名乗ったお姉さんは銅貨1枚を女店主に渡し、力を入れた。

 だが、杖は抜けない。

 マリーナの腕がプルプル震えていて、力をかなり込めているようにも思える。


 3分ほど挑戦して、マリーナは諦めたように項垂れた。


「あぁ……我には無理のようだ。この杖なら50000センスを払ってもいいと思えるほどの物なのに。誰か我の代わりに杖を抜いてもらえないだろうか」

「生憎、この杖を抜けた人は今のところ一人もいないよ。どうだい、お兄さんたち? さっき間違えて練習用の剣を用意してしまったからね、サービスに1回目は無料にしてあげるよ」

「そうか、君も挑戦するのか? もし君が杖を抜けたら50000センス、いや、10万センスで買い取らせてもらいたい! もちろん契約書も用意しよう」


 なるほど。

 普通に考えたら杖を抜くことができたとしたら、1000センス支払って50000でお姉さんに売ればいいと思うだろう。

 抜けなくてもダメで元々ということか。


「ご主人様、私が挑戦しましょうか?」

「いや、ハル、ちょっと待て」


 俺は一歩、マリーナに近付き、


「お姉さんって、本当に魔術師なんですか?」

「もちろんだ。よろしければ、我の超魔術――空間魔法と召喚魔法をお見せしようか?」

「「召喚魔法!?」」


 キャロとハルが声を上げた。

 どうも、この世界では召喚魔法はユニーク職業のスキルらしく、使える人はとても少ないそうだ。


 それに、空間魔法か。瞬間移動や空間収納は確かに俺も憧れる。


「本当は頼まれて見せるものではないのですが、お見せしましょう! 観客ギャラリーもいい具合に集まってきたようですし」


 お姉さんは手の平をくるっと回すと、何もないところからシルクハットのような帽子が現れた。


「「凄い! これが召喚魔法か!?」」

「い、いえ、今のは……ごほん、今のはほんの前座よ! これから皆にお目にかけるは世紀の超魔術! 見るがいい、この何も入っていないシルクハットの中を!」


 お姉さんはそう言うとシルクハットに布を被せた。

 そして、呪文のようなものを唱える。


【彼の地、彼の時、彼の契約により現れし空の王、今こそその姿を現せ! 召喚鳥サモンバーズ!】


 そう唱えるや否や、取り払われた布――何もなかったはずの帽子の中から三羽の白い鳩が現れて飛び立っていった。


「……嘘だろ!? 何もない場所から鳩が現れた! 召喚魔法だ!」

「信じられない、奇跡だ! 奇跡が起きた! 普通召喚魔法は一度に一匹だというのに、同時に何羽も鳥を呼び出すなんて」

「天才だ。天才魔術師だ!」


 拍手喝采が起き、お姉さんは帽子を振って、おひねりを集めていた。


「凄いですね、ご主人様。召喚魔法をこの目で見られるとは思ってもいませんでした」

「キャロも、てっきり店主ぐるみの詐欺かと思っていましたが、彼女は本物の大魔術師のようですね」


 ……え?

 ここにいる奴ら、本当にマジで言ってるの?


 今の……どう見てもただの“手品”だろ?


 だって、彼女の職業、魔術師じゃないし。


【大道芸人Lv29】だし。


 次に、なんちゃって空間魔法を見せられ、さらに歓声が沸いた。おひねりが飛んだ。

 うん、普通に腕は見事だけどさ、やっぱり手品だし。

 トランプの瞬間移動マジックだし。


 空を飛んでいった鳩達が大空を旋回していた。


 空は青いなぁ。


 暫くして、観客がいなくなるまで待った。

 残ったのは俺達三人と、おひねりを沢山貰ってほくほく顔のマリーナ、そして元々ここで商売をしていたお姉さんだった。


「どうかしら? 我の大魔術の感想は?」

「いや、ただの手品だろ?」


 自慢げに言うマリーナ相手に、俺は言った。

 固まるマリーナ。


「ご主人様、手品ってなんですか?」


 ハルが訊ねた。


「魔法じゃなくて、手先の器用さで超常現象が起こっているように見せるテクニックのことだよ。例えば、鳩とかは袖の下に隠しておいて、布を外すと同時にあたかも帽子の中から出したように見せるんだよ」

「でも、一度に三羽も出てきましたよ?」

「鳩ってさ、羽を畳んで押し込むと普段の見た目よりもとても小さくなるんだよ。体のほとんどが羽毛のような生き物だからさ。彼女の袖の中を見てみな、きっと抜けた羽毛がついてると思うよ」


 俺がそう言うと、マリーナは咄嗟に袖を隠す素振りを見せた。その時、彼女の黒のスカーフが取れて……隷属の首輪が見えた。


「……なるほど、主人を介さない奴隷との契約は全て無効になる。その制度を利用しての詐欺でしたか」

「へぇ、そういう制度があるのか」


 そこまで言うと、店主のお姉さんは、両手を上げ、


「降参、私達の負け。いやぁ、やるねぇ、お兄さん達。一度目の剣は結構誰でも見破られるんだけど、二度目を見破られるとは思わなかったよ。あはは、一昨日にここに来たバカそうなカップルはエクスカリパーの剣や鎧一式、ついでにモンスターマスターとしての力が覚醒するかもしれない金属製の鞭やら銀色に染めただけのローブとか全部買ってくれたのに、今日はついてないよ」

「……随分潔いですね」

「まぁね。私は何も嘘はついていないからね。この杖だって、魔力が上昇するのは本当よ。1%程度だけどね」


 お姉さんはそう言うと、岩から杖を引っこ抜き、自分の肩を叩きながら言った。


「杖を買いたいと言ったのはそこのマリーナだし、私は関係ないよ」

「酷い……友達だって言ったではないか」

「煩い、コミュ障」


 お姉さんはマリーナから仮面を引っぺがす。

 すると、彼女の日本人らしい瞳(モンゴロイド)が露わになり、慌てて目を隠すようにして蹲った。顔が真っ赤になっている。


「はうっ……お願い、返して、私の仮面返してよぉ、カノン」

「返してほしかったらおひねり半分よこしなさい、マリナ。迷い人だったあんたを誰が養ってあげてると思ってるのよ」


 仲良く仮面を取り合う二人。

 え?


「ちょっと待て、えっと、マリーナだかマリナだか知らないが、お前、もしかして……」


 俺は驚くように言った。


「日本人なのか?」

章題にもありますが、第三章のヒロインがようやく登場です。

マリーナ。詐欺師まがい商売の片棒を担いでいた大道芸人です。


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