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野宿の料理

 道中、何度か行商人とすれ違いながら、俺たちは南へと進んでいた。

 馬の扱いをハルに任せっぱなしなのはどうも心苦しい。


 キャロが、先ほど摘んできたマナグラスの手入れをしようと誘ってくれたが、試しに「浄化クリーン」を試したら、土がきれいに取れた状態になったため、またもや仕事がなくなってしまった。


 キャロが驚いていた。

 本来、浄化クリーンという魔法はそこまで万能ではなく、草に浄化クリーンを使っても土を落とせないそうなのだ。

 草にとって土は汚れではなく必要なものだから。


 そんなこと言われても出来てしまったものは仕方がない。

 あとは水に半日ほど浸し、夜の間、月の光を浴びさせて乾燥させれば上質のマナポーションの材料になるんだとか。

 水につけて乾燥させるって、二度手間な気がするが、そういう事らしいので、水魔法のプチウォーターで出した水を、アイテムバッグの中に入れておいた桶に入れ、その中にマナグラスを入れた。


 プチウォーターの水量調整もだいぶうまくなったな。

 こっそり練習した時は木を打ち砕くような水の玉が出てきて焦った。

 魔法は全力で使うのはとても簡単だが、手加減して使うのは神経を使う。


 やることがなくなったので、昨日の夜に食べ損ねて、ただでさえ硬いのにもっとカッチカチになったパンを用意して、ある作業を始めた。


 太陽も沈みかけてきたので、野宿に備えて薪を集める事にした。

 ダキャットまでは二日かかるそうだから、今日はこの辺りで野宿することにした。


 山頂から見た感じだとかなり近く感じたダキャットも、こうしてみると遠いな。

 特に下り道はかなり蛇行して下っていたから仕方がない。


 キャロを馬車に残し、俺とハルで薪になりそうな木の枝を集めることに。


 幸い、山を下りたらまた森があったため、薪には不自由しなかった。

 途中で食べられそうな木の実を見つけたので、朝にキャロと一緒に採って、朝食代わりにしてもいいかもしれない。

 彼女は採取人のレベルが上がったことで、植物鑑定のスキルを手に入れているから木の実が食べられるかどうかくらいならわかるだろう。


 ある程度木の枝を集め終えたら、そのうちの三割ほどを組み上げて、


「プチファイヤ」


 プチウォーターと同じく手加減して火の魔法を使った。

 木の枝が消し炭に代わることもなく、焚火が出来上がった。


 これで夜が来ても大丈夫だな。


 安心したらお腹が空いてきた。


「よし、じゃあ料理でも作るか」


 俺はそこで二人に提案した。


「「え?」」


 ハルとキャロが驚いた声を上げた。

 二人が驚くのも無理はない。野宿といっても俺にはアイテムバッグがあって、中には料理がいろいろ入っている。

 わざわざ焚火で料理などする必要はない。


「いや、アイテムバッグでいつでも出来たてのようなご飯を食べられるけど、焚火料理ってこういう機会がないと食べられないだろ? 大丈夫、材料は買ってあるし、調理器具も用意してあるから」


 俺はそう言って、アイテムバッグからフライパンや食材を、平らな石の上に並べていった。全部ベラスラの町で買っておいたものだ。

 ちなみにこの石も浄化クリーンで殺菌除菌――はできているかは知らないが、綺麗にはなっている。


「とりあえず、焼き魚と、簡単なバーベキューにするか。鉄串も買ってあるし。ハル、悪いが魚を三枚におろしてくれ。キャロはネギを一口サイズに切っておいてくれ。俺は肉を食べやすくするから」


 ハルに川魚を、キャロにネギを、俺は残っている狼の肉を調理することにした。

 解体知識のおかげか、肉を軟らかくする方法はある程度わかっている。

 スジの部分に細かく切れ目を入れて食べやすくしていった。


 この解体ってスキル、肉料理に関しては料理人のスキルとしても十分に使えそうな気がする。

 もちろん、ハルの分だけは切れ目をいれない。意地悪でやっているのではなく、彼女は歯ごたえのある肉のほうが好きだからだ。スジを切ったらその歯ごたえが失われてしまう。


「ハル、三枚におろせ…………てないな」


 魚が見事に三つにわかれていた。

 ただし、ぶつ切りだ。

 頭と胴体と尻尾の部分に分かれている。


 少なくとも三“枚”ではない。

 三枚おろしというより、残念おろしだ。


「まぁ、この程度ならなんとかなるか。キャロは……いや、俺の口はそんなに小さくないぞ」


 輪切りにしていた。ただし五ミリ幅で。しかも、まだ三個しかできていない。どれだけのんびり切っているんだ?

 ていうか、包丁の握り方がかなり危ない。


 俺の声も聞こえていないのか、手元を凝視し、大きく包丁を振り上げたところで、彼女の手首をつかんだ。


 こんな包丁の切り方をされたらいつか本当に指を切り落としてしまうかもしれない。


 こんなに可愛い女の子が二人いて、どちらも料理ができないなんて――と少し思ってしまったが、まぁ、誰にでも欠点はある。

 考えてみれば、ミリも料理の腕はからっきしだったし、この世界に来て一番料理が上手だったのはマーガレットさん(♂)だ。

 女性が料理をするという時代は、地球でもこの世界でも終わりを告げているのかもしれない。


 あとは俺がするからと言って、ハルには三枚におろすやり方を見せて、キャロには包丁の使い方を教えた。


「申し訳ありません、ご主人様……料理をしたことがないばかりに」

「キャロもです……申し訳ありません」

「いいよいいよ、気にしないで。俺、結構料理とか好きだからさ」


 両親が事故で死んでからミリの食事は俺が一人で作ってきたからな。

 そこそこ料理はできる。もちろんプロには遠く及ばないが。


 肉には、フロアランスで買っておいた塩と、ベラスラで商品として買った胡椒を少し使って味付けをし、ネギと一緒に串にさして焚火で焼く。

 その間にフライパンを温めてもらいながら、その上に狼肉から取り除いた脂身を乗せる。

 本当なら菜種油やオリーブオイルがあったほうがいいんだが、そこは我慢だ。


 三枚におろした魚に、小麦粉、とき卵、そしてかっちかちになったパンを砕いて作ったパン粉を使い、それを魚につける。

 フライパンで作る魚フライだ。


 ちょうどバーベキューもいい具合にできあがったので、鉄串が冷めるのを待ってから三人で食べることにした。


「バーベキュー……ネギはあまり食べてこなかったのですが、とても美味しいです。お肉も程よい硬さで」

「この魚料理、初めて食べました。サクサクしていて、その中に魚の味が濃縮するように閉じ込められていてとてもおいしいです」


 料理は二人には好評だった。

 確かに魚フライも美味しい。肉もうまい。

 だが、それもこの世界に来てから食べた料理の中では、マーガレットさんが作った料理の次くらいのおいしさだ。

 

 日本で食べていた料理のほうがおいしかった気がする。


 それになにより魚フライにはソースか醤油がほしい。

 バーベキューだって、塩胡椒だけだと物足りない。


 それが無理ならせめて米を――米を食わせてほしい。


 俺の食への探求はまだまだ続きそうだ。

~閑話 ジョフエリの旅立ち~


 ジョフレとエリーズがベラスラを出立したのは、一之丞がベラスラを立つ前の日の夜のことだ。

 二人がベラスラを出たのには大きな理由があった。


 久しぶりのまともな夕食を食べ終えた二人は、厩でケンタウロス用の餌を大量に購入し、アイテムバッグに詰め込むとケンタウロスに合う二人乗り用の鞍も購入した。

 あとは宿を探して寝る――それだけの予定だった。


 だが、ジョフレが東の空を見てこう叫んだ。


「見ろ、エリーズ! 一番星が輝いているぞ!」

「本当ね、ジョフレ。とても綺麗だわ」

「知ってるか? 一番星が東の空に出たら、それは旅立ちの日だって言われてるんだ。西でも北でも南でもなく東の空に一番星が輝いたってことは、これは俺たちに今日旅立てってことだ」

「わかった! すぐに行きましょ!」


 一番星が輝く日が旅立ちというのは、つまりは天気がいいから明日の朝に旅に出ようという単純な話なのだが、中途半端に話を聞いていたジョフレにかかればこのように夜に旅を出ることになる。


「それで、どこに行くの?」

「もちろん、旅のプロに聞くのが一番さ」

「じゃあ、ケンタウロスに任せるのね」


 二人はケンタウロスに任せた結果どうなったのかを忘れたわけではない。

 ケンタウロスに任せた結果、ベラスラの町にしっかりとたどり着けたという事実を強く覚えていただけだ。


 ちなみに、このケンタウロス――スロウドンキーという種族。その名の通り速度はあまりでないが、力は強い魔物だ。

 しかも、レアメダル2枚を食べてその力は大きく増し、速度も通常の馬並みに出るようになっている。


 ジョフレやエリーズよりも遥かに強い。

 二人がかりで戦ってもケンタウロスには敵わないくらいになっている。


 にもかかわらず、スロウドンキーはどうして二人に従っているのか?

 答えはかなり単純だ。


 最初から従っていないのだ。

 ただ、自分がやりたいように生きている。

 それがケンタウロスの生き方だった。


 だから、ケンタウロスは二人を背に乗せ、今日も適当に進む。

 その堂々たる姿勢は、まさに旅のベテランという感じなのだが、当然、誰も自分たちの行き先を把握していない。


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閑話は次回も続きます。

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