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山下りだけのハイキング

 気が付けば、迷宮の最奥、女神像の間に戻っていた。

 まぁ、ミリが元気だと聞いて安心できたし、目的のスキルやアイテムは手に入らなかったが、たわしじゃないだけマシか。


「イチノ様、解読のスキルを入手しました。用途は限られますが、珍しいスキルです」

「私は魔弓のようですね。とてもいい弓です。弓を使うのは子供の頃に使って以来で、腕が鈍ってないか心配です」


 キャロが笑顔で、ハルが尻尾を振って、それぞれ成果を報告してくれた。

 そういえば、ハルも弓装備のスキルを持っていたな。

 どうやら、結果は悪くはないようだ。


「俺は生活魔法だな。生活魔法のレベルがⅡに上がった」

「生活魔法のレベルが上がったんですか。運がいいですね」

「運がいいのか?」


「生活魔法は初回は100分の1くらいの確率で入手できます。便利な魔法が多いので重宝がられています」


 キャロが説明してくれた。

 確かに、掃除機や洗濯機のないこの世界なら、浄化は最高にいい魔法だ。


「マジックリストオープン」


 どんな魔法を覚えたのか見てみる。

 プチアイス、プチダークやプチライトは氷魔法、闇魔法、光魔法で覚えた魔法だろう。

 そして、もう一つ。追加されている魔法。


沈黙の(サイレント)……部屋ルーム?」


 サイレントムーブならわかる。忍び足――足音を消す魔法だろう。

 だが。ムーブではなく、ルームだ。サイレントルーム?


沈黙の部屋(サイレントルーム)は――そうですね。使ってみたほうが早いと思います。危険な魔法ではありませんし、MPの消費も少ないですから」

「うん、わかった」


 キャロの説明を聞いて、俺は実際に使ってみることにした。


沈黙の部屋(サイレントルーム)


 そう唱えたら、直方体の薄い光の膜が広がる。さながら、光の部屋だ。

 光の膜は俺の思っているように広がっているらしく、広がれと念じたら広がり、狭くなれと思ったら狭くなる。

 ただ、広さには限界があるようで一定以上広がらないし、部屋は俺を中心にして広がるように設定されているようだ。


「これって、どういう効果があるんだ?」


 キャロに訊ねた。

 だが、答えは返ってこない。それに、なんか声が響く気がするな。

 キャロの方を見ると、キャロは口をパクパク開いていて、何かを言っているように見える。


 そして、ハルが光の膜を抜けて入ってきた。

 簡単にすり抜けることができるのか。


「ご主人様、キャロの言っている言葉が聞こえましたか?」

「え? キャロって口を開いているだけで――あぁ、そういう効果なのか」


 つまり、この部屋の中にいたら、外の声は聞こえないというわけか。


「キャロ、聞こえたら右手を上げてくれ」


 俺が叫んでみる。

 だが、キャロは何か言っているだけで右手は上げてくれない。


 どうやら、中の声も外には漏れないようだ。

 いうなれば、この光の膜は最強の防音壁というわけか。


 光の膜を消そうと念じたら、光の膜は空気に溶けるように消えた。


沈黙の部屋(サイレントルーム)の効果はわかりましたか?」


 キャロの声が聞こえてきた。

 よくわかった。

 隣の部屋がうるさくて眠れないときとかに使える魔法だな。


「あぁ。でも、浄化クリーンと比べると地味だなぁって思って」

「そうですね。ただ、熟練度を上げれば範囲は広がりますから。レベル5まで上げれば、大きな劇場を包み込む空間を作ることもできますから、劇場関係者の方が仕事をくれます。ある町では、沈黙の部屋(サイレントルーム)一つで成り上がった方もおられるそうです」


 それは凄いな。

 確かに、音も程よく響き、音楽家やオペラ歌手などは歌いやすくなるだろう。


 他にも密談するときとかは便利だな。

 職業柄――というといろいろ語弊があるが――他に人に知られたら困ることが多い俺にとっては重宝しそうな魔法だ。

 

「じゃ、そろそろ脱出を目指すか――」 


 空間魔法は取得できなかったから、歩いて下りないとな。

 でもまぁ、前の時のように階段を登らなくていいだけマシか。下りの方がまだマシだ。


 そう思ったら、


「イチノ様、この迷宮は他の迷宮にはないちょっとした秘密があるそうなんです。こちらにお越しください」


 キャロがそう言って、俺達を女神像の裏側に案内する。

 コショマーレ様の像が大きすぎたので、女神像の裏側が見えなかったが、そこには開きっぱなしの扉と、その奥に小部屋があり、さらにその奥にさらに扉があった。


 俺達三人が小部屋に入ると、俺達が入ってきた扉がしまった。


「ここは脱出口が用意されているんです」

「脱出口?」

「はい、この先はもう外です。昨日、隊商キャラバンの方から話を聞いたんですが、本当だったみたいですね」


 そして、奥の扉が開いた。

 光が洩れてきた。


 そこは、もう外だった。

 そして、そこは――


「こんなところまで登ってきてたのか」


 そこは、山頂だった。

 下のほうに、ゴマキ村が見える。


「いい景色だな」


 空気が澄んでいるからか、遠くまで良く見渡せた。


「ご主人様、サドネス川が見えますよ」


 ハルが涼やかな顔で言う。

 彼女の言った場所を見ると、かなり向こうに川が見えた。

 かなり川幅が広く、ここからでもしっかり見ることができる。


「ダキャットとコラット、アランデルの三つの国の国境となっている川です。あの川の向こうがダキャットになります」


 西の山、東の森、二ヵ所が水源となっていて、三つの国境の交わる場所で合流して、一本の川になっているそうだ。

 このまま景色を見ていたいと思い、ここで昼食を取ることにした。


 そして、少し休憩してから山を下った。


 まるでハイキングだな。

 迷宮の中を進んだだけなんで、登山をしたという感覚はないから、下山のみのハイキングみたいだ。ちゃんと自分の足で登ったんだけど。


 ハルは馬の手入れをしたいからと言って厩に向かい、キャロは情報を集めるために村唯一の商店に向かった。

 その間、俺は暇なので、宿の一人部屋で鉄鉱石を鉄球に変える作業をすることにした。


 錬金術のスキルが錬金術Ⅱにスキルアップしたことにより、作業効率が大きく変わった。

 なんと、1分で鉄球に変わった。

 しかも、心なしか前よりも鉄の純度が高いように思える。


【イチノジョウのレベルが上がった】


 錬金術師と見習い錬金術師のレベルアップも順調だ。

 ただ、効率は上がっても1個あたりの消費するMP量は変わらないので、MPの消費が激しいな。

 まぁ、あとは寝るだけだし、限界まで使ってしまおう。


 そう思ったら――脱力感が。

 頭がぼーっとしてきた。


 ステータスを見ると、MPは残り12まで減っていた。

 うん、もう少し作れそうだな。


 碌に働いていない俺の脳から、次の鉄球を作れと命令が下る。

 そして――俺は意識を失っていた。


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