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山の中の迷宮探索(後編)

「イチノ様が迷い人で、天恵が取得経験値20倍ですか……」


 俺がキャロに説明を終えると、彼女は俺の説明を反芻するようにそう言った。

 迷い人――つまりは異世界人。

 そのことに関しては、キャロは特に忌避感を持たなかったようだ。


「ミノタウロスを倒しまくって、平民レベルを一気に10まで上げたときに気付かなかったか?」

「あの時は職業が変わったことに興奮していて、キャロはあまり深く考えられませんでした」

「あぁ、俺もあの時はテンション上がりまくってたからなぁ」


 僅か一昨日のことを反省しながら、俺は落ちていた粘液を見た。

 紫色でゼリー状になっているが、触りたいと絶対に思わない。


「これは素手で触れるのが嫌だなぁ」

「毒粘液ですね。採取人のレベルが上がれば素手で拾えるスキルが手に入りますが、今はまだ無理ですね」


 ハルが説明した。毒粘液。名前だけでやばそうだ。

 なんでも、採取人のスキルの中に、“危険物取扱採取”というものがあるらしい。

 ドロップアイテムや採取の時に危険なものを安全に採取することができるスキルなのだとか。


「ちなみに、スキルがない状態で直接触れたらどうなるんだ?」

「直接触れると、皮膚に毒液がしみこみ、毒状態になります。毒状態になったら、毒を治療する薬を使うか、見習い法術師が使えるキュアで治療するしかありませんね。ここで毒に侵されたら急いで村に帰らないといけなくなりますね」

「あぁ、キュアって毒を治療できる魔法なのか」


 覚えたばかりの魔法だったが、これならいきなり役に立ちそうだ。


 俺は床に座ると、アイテムバッグを開け、前にポーションを飲んだ時に残った空き瓶を取り出して床に置いた。

 そして、両手を広げた。


「ご主人様、何を!?」


 ハルが叫ぶが、俺は両腕で毒粘液を掬い、空き瓶の中に流し込んだ。

 採取完了。


 そして、手が痺れてきた。


 よく見ると、手が紫色に変色してきている。これが毒の症状だとしたらかなりヤバイ。


「早く治療を! 村に戻りましょう!」

「慌てるなって、キュア!」


 俺の手を淡い黄色の光が包み込んだ。


【イチノジョウのレベルが上がった】


 回復魔法を使ったことで見習い法術師のレベルが上がり、レベル11になった。

 治療も成功。


 すぐに治療できたので、HPは減っていない。

 瓶にきっちり蓋をして、アイテムバッグの中に入れた。


「ご主人様、無茶をしないでください」

「無茶じゃないさ。むしろ、ここで試しておかないと、もっと迷宮の奥で毒になったときに治療できない! とかになったら困るからな」

「それでしたら、せめて、私に命じてください」

「ははは」


 俺は笑ってごまかした。

 ハルにそんなことさせるくらいなら、最初から毒粘液を拾おうとなんてしないさ。


「まぁ、今回はただの実験だから、次からはこんな無茶はしないって約束するよ」

「絶対ですよ」


 うん、それは約束できないけどね。


 キャロの職業――農家を採取人に変えた、

 迷宮の奥を目指して歩き始めた。


 途中で、足がとても長い蜘蛛の魔物、ツチノコのような蛇の魔物、そしてサソリの魔物等を倒していく。


「毒を持った魔物が多いんだな」


 蜘蛛の糸、蛇の牙、サソリの針等も素手で触れても問題のないアイテムらしく、キュアの出番はなかった。

 もちろん、毒を持っていない魔物も多くて経験値はそこそこ溜まっていく。


 ちなみに、アイテムはほとんど俺が拾っている。アイテムバッグの中にアイテムを入れる作業は俺にしかできないから、ハルやキャロが拾っても二度手間にしかならないからな。

 二人もそれをわかっているんだろうが、俺にアイテムを拾う作業をさせるのをかなり心苦しく思っているようだ。


 ちなみに、レベルアップはかなり順調だ。

 まず、見習い魔術師がレベル35になり「光魔法」のスキルを、レベル40になり「闇魔法」のスキルを覚え、見習い魔術師はカンストした。見習い魔術師の極みの称号もGET。この称号の意味が本当によくわからない。


 魔術師のレベルは25になり、雷魔法が雷魔法Ⅱになり、魔術師と剣士のレベルがどちらも25以上になったことにより、魔法剣士という中二病心をくすぐる職業を取得した。見習い錬金術師はレベル20になり、レシピを取得、さらに錬金術師が解放された。

 見習い法術師のレベルは16まで上がり、メイス装備を取得した。


 最後に――いや、本当は順番的に最初に言うべきなんだが――無職のレベルは75まで上がった。


 とりあえず、見習い魔術師を錬金術師にして、そして、俺はボス部屋にたどり着いた。


「ハルのおかげだな」


 俺は笑ってそう言った。

 最上階にたどり着くまでかなり時間が短縮された。


「この迷宮の魔物は毒を持っている魔物が多かったですから、臭いも独特でした」


 そう、ハルは嗅いだことのない魔物の臭いの場所を俺達に案内した。

 そして、その臭いの元の大半は別の階層にいる――つまりは上層階の魔物だったわけだ。


「ここのボスは、三つ首蛇だそうです」

「三つ首蛇か……」


 最後まで毒のありそうな魔物だな。


「口から毒の息を吐き出すそうなので、離れた場所から短時間で倒せば――いえ、ご主人様には関係ありませんね」

「はい、イチノ様には関係ありません」

「関係ないって、そんな言い方やめてほしいんだけどな」


 俺はげんなりした口調で、ボス部屋の扉を開けた。


 かなり広い部屋。その中央にそいつが一匹いた。

 巨大な蛇。

 胴体が途中から三つにわかれ、三つの顏口が開いた。

 凶暴そうな顔をしている。


 三つ首蛇――まるでヒュドラみたいだな。

 ヒュドラは九つの首を持っているんだが。

 ヒュドラじゃないとしたら、キングギ○ラか?

 翼はないし、こっちの色は金色でなくて紫色だけど。


 三つ首蛇は大きな口をあけた。

 口の中に紫色の気体がみえる。


 いきなり毒の息を吐くつもりのようだ。


「ファイヤー! ウィンド!」


 炎の魔法と風の魔法を同時に放つ。

 風は竜巻となり、炎を巻き込み、火の竜巻となり、毒の息を吹き飛ばしながら、三つ首蛇を飲み込んだ。


 そして――


【イチノジョウのレベルが上がった】

【見習い法術師スキル:魔防強化(微)を取得した】

【職業:法術師が解放された】

【錬金術師スキル:錬金術が錬金術Ⅱにスキルアップした】

【レシピを取得した】


 ……確かに、ハルとキャロの言ってた攻略法は関係ありませんでした。

 三つ首蛇は消えてなくなり、大きな魔石と、そして紫色の蛇だったのに、何故か金色の蛇皮が残った。

 実はやっぱりキング○ドラだったんじゃないか?


「本当に一瞬で終わりましたね……」

「……こんなのでキャロまで経験値を貰って本当にいいのでしょうか」


 二人は呆れていた。

 まぁ、俺もこんな簡単に成長していいのかって本当に思う。

 とりあえず、蛇皮と魔石はアイテムバッグに収納。


「それにしても、イチノ様は流石ですね。それも無職のスキルですか?」 

「あぁ、無職のおかげだな」


 無職のおかげで俺はここまで強くなれた。

 うん、無職万歳! 無職最高! 言っていて虚しくなる。


「やっぱりそうですか。普通、魔法って一度に一種類しか使えないはずですから」


――え?


 キャロ、今なんて言った?


 そう思った時、ボス部屋の奥――女神像の間に続く扉が開いた。

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