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錬金術のはじめ

 食糧などを買い込み、最後にもう一度冒険者ギルドに行って、キャロをパーティー登録し、俺達は町を出た。


 町を出るとき門番の男がキャロを見て、にっと微笑み、キャロは笑顔で返した。

 そういえば、あの男もキャロのことを心配していたからな。


 ちなみに、馬を操るのはハルに任せている。

 俺が試しに御者席に座り馬を操ろうとしたんだが、全く言うことを聞かなかった。

 そこでハルが出て来て、俺の言うことを聞くように命令したら馬は不承不承と言った感じで俺の指示通りに従ってくれたんだが、本当にイヤイヤっぽい感じだったので、もう御者はハルに任せることにした。


 ハルのことを主人として認めて、俺の事を主人としては認めていないのがよくわかった。

 同じ白い髪にシンパシーを感じたのか、それともただスケベなだけかはわからないが。


 魔物使いになって無理矢理調教してやろうか。

 そう思ってしまう。


「そういえば、魔物使いってどうやったらなれるんだ?」

「魔物使いでしたら、農家レベル5から鞭使いになって、鞭使いレベル20で魔物使いになれます」


 キャロが教えてくれた。


「あぁ、そう言えば、エリーズが鞭使いなのに魔物使いと名乗っていたな」


 あれは将来の魔物使いって意味だったのかもしれない。


「農家って他にどんな職業になれるか知ってるか?」

「釣り師、採取人、料理人、鎌使いですね。あと、農家レベル20、土魔術師レベル20で草魔術師になれると言われています」

「土魔術師?」

「魔術師のレベルが50になると、火・風・水・土の四属性の魔術師になれるそうです」

「へぇ、そうなのか。魔術師のレベルは俺も低いからな……レベルを上げないといけないな」


 魔術師のレベルはまだ13だから、あと37レベルも上げないといけないのか。


「そういえば、イチノ様の職業は何なのでしょう? 魔法を使えたり、素手で戦ったり剣で戦ったり。でも冒険者ギルドではパーティー設定などはハルさんに任せていらっしゃったようですから、冒険者ではないのですよね?」

「あぁ……まぁいろいろとややこしいことになるんだが――そうだな、百聞は一見に如かず。といっても見ただけだと混乱するんだけど、俺のステータスを見ていいぞ?」


 キャロは俺が許可を出したことに礼を言い、「ステータスオープン・イチノジョウ」と言う。

 恐らく、彼女の眼には俺のステータスが見えていることだろう。


「な……なんなんですか、イチノ様、このステータスは。それに職業が見えません」

「見えないんじゃなくて、無いんだ。俺は職が無い、つまり無職だ。といっても、無職でありながら、今は剣士であって、拳闘士であって、見習い鍛冶師であって、同時に狩人でもある。幸運値が高いのもそのためだ」

「……え? ご主人様、その話は私も初耳ですよ」


 御者席に座っていたハルが耳をピクピクさせ、肩越しにこちらを見てきた。


「あれ? ハルには言ってなかったか?」

「はい、伺ってません」


 そうか、てっきり言ったつもりでいたんだが。

 無職でスキルを手に入れたというところしか話していなかったのか。


「悪い。なら、そういうことだ。これは女神様から信用できる人にしか話したらいけないって言われたから、誰にも言うなよ」

「め、女神様にですか? わかりました」

「かしこまりました」


 キャロとハルが頷く。


「でだ。ハル、キャロ、無職スキルの新たなスキルを覚えてな。二人にももう一つ職業を設定できることになったんだけど、何がいい?」

「「え!?」」


 馬車が急停止する。手綱を急に引かれたことでエロ馬が嘶いた。


「いや、そこまで驚くことか? 俺なんて5つも職業があるんだし、2つ目くらい別にいいじゃないか」

「あの、ご主人様、そう言う問題じゃないと思うんですが」

「じゃあ設定しないか? 二つ目の職業」

「えっと……私は木こりでお願いします。拳闘士になってステータスを上昇させたいので」

「わかった」


 ハルの第二職業を木こりにするように念じた。


「どうだ?」

「見て見ます。ステータスオープン……すごい……凄いです、ご主人様、本当に職業が二つになっています」

「どれどれ、ステータスオープン・ハルワタート」


……………………………………………………

名前:ハルワタート

種族:白狼族

職業:獣剣士Lv7


HP:131/149

MP:34/39

物攻:133

物防:128

魔攻:9

魔防:74

速度:300

幸運:30


装備:隷属の首輪 火竜の牙剣 ショートソード 絹のドレス 皮の靴 風のブローチ

スキル:【投石】【弓装備】【解体】【剣装備Ⅱ】【スラッシュⅡ】【回転斬りⅡ】【弓矢装備】【剣術強化(小)】【速度UP(微)】【二刀流】【経験値配分設定】【嗅覚強化】【贋作鑑定】


取得済み称号:迷宮踏破者Ⅱ パーティーリーダー

転職可能職業:平民Lv15 農家Lv1 狩人Lv5 木こりLv1 見習い剣士Lv25 剣士Lv23 獣剣士Lv7

……………………………………………………


 あれ?

 職業が一つしか見えない。けど、0だったはずの魔攻の値が9に増え、幸運の値が30になっている。

 ということは、例えパーティーでも他の人からは第二職業は見えないのか。


 隠蔽には役立つな。


「キャロはどうする?」

「あの……イチノ様?」

「どうした?」

「イチノ様が好きに職業を設定できるのですか?」

「うん、そうだけど?」

「なら……もしかしてキャロの職業を誘惑士から平民にしてくださったのも、本当はトレールール様ではなくイチノ様なのでは?」


 ギクっ!?

 あ、そうだった。

 キャロにはそのこともまだ言っていなかった。


「えっと、まぁ、そういうことだ。これも無職のスキルでな、コショマーレ様に黙っておくように言われてるんだよ」

「……キャ……キャロはもしかしたらそうじゃないかと思っていたんです。あの時、イチノ様がキャロに嵌めてくださったのって仲良しリングですよね。あれを嵌めた後にキャロの職業が変わったこともそうですし、イチノ様の職業の垣根を超えた戦い方を見て――それで……それで……」

「あ、あの、キャロ?」

「キャロはイチノ様についてきてとても幸せです!」

「私も御主人様と一緒でとても幸せですよ」


 あぁ、まぁ、うん。

 俺も超幸せだけど、こんな風に面と向かって言われると恥ずかしいものがあるな。


 結局、キャロの第二職業は見習い魔術師になった。

 見習い錬金術師となって、鉱石鑑定を覚えたいんだそうだ。


「そういえば、俺も錬金術が使えるんだった……鉄鉱石を鉄のインゴットにしたほうが儲かるのか?」

「はい、MPを多く消費するので大変ですね。鉄鉱石から鉄を作ることができるレベル5の見習い錬金術師なら、1日3個の鉄鉱石を製鉄にするのがやっとですが……ご主人様ならもっと多くの量を鉄に変えれそうですね」

「だな。やってみるか……」


 アイテムバッグから鉄の箱を取り出して置く。

 一瞬馬車の速度が遅くなった気がしたが、すぐに元の速度に戻った。


 蓋を開け、中の鉄鉱石を見た。

 赤色をしている石だ。地面に落ちていても拾おうとはしないだろうな。


「製鉄作業って、錬金術師ギルドに入っていない人間がやったら罰せられるとかはないのか?」

「ございません。錬金術ギルドが行うのは鉱石や触媒などの安定供給と、製錬された金属の買い取りをしていて、その恩恵を受けるには錬金術ギルドに入らないといけません。ですが、純鉄は錬金術を使わなくても作ることができますから」


 そうなのか? って思って、そりゃそうかと思い直した。

 鉄鉱石の製鉄作業なんて、地球の時代を紐解けば5000年前から存在する。

 スキルに頼らなくても製鉄は可能だろう。


 なら、試してみるか。

 職業を、見習い魔術師、魔術師、見習い錬金術師といった魔法特化に変える。


……………………………………………………

錬金術:生産系スキル【見習い錬金術師Lv2】


魔力を使い、鉱石から金属を、金属を合わせて合金を作る。

作成可能な金属を見るには、「レシピオープン」と唱える。

……………………………………………………


 ちなみに、レシピオープンを呟いてレシピを確認したことがあるが、作れる金属は20種類。

 その中には鉄鉱石から鉄を作る方法もあった。

 鋼鉄の作り方はわからなかった。確か、炭素と鉄の合金だったよな、鋼鉄って。

 炭なら簡単に用意できそうだから、錬金術のレベルを上げたら鋼鉄を作りたいな。


 説明だけだと使い方はわからないスキルだが、取得したときになんとなく使い方は理解していた。


 箱の中から鉄鉱石を取り出し、左手で握り、魔力を込める。

 すると……鉄鉱石の表面に何かが集まり始めたと思うと、砂のように零れ落ちていった。

 これが、不純物だ。


 だが、不純物が取り除かれても、まだ赤い。

 赤鉄鉱と呼ばれる、酸素原子を含んでいる状態だからだ。

 だが、さらに魔力を込めることで、酸素が取り除かれていき、徐々に色が鈍い金属の色へと変わっていく。


 ここまでMPを20使用し、時間にして3分経過した。

 そして――


【イチノジョウのレベルが上がった】


 見習い錬金術師は錬金術を使うことで経験値が溜まる。

 俺は400倍の速度で成長するからな、400個鉄鉱石から鉄を作ったのと同じだしそりゃレベルも上がる。

 レベルが2も上がった。


 鉄鉱石からできあがった鉄は、延べ棒でもなければ板でもない、鉄の玉だった。

 鉄鉱石の時より幾分か軽くなっている。


「どうだ、こんなもんか?」

「凄いです、普通、錬金術師ならこのサイズの鉄鉱石から完全な鉄を作ろうとしたら10分はかかるものなんですが」


 俺は錬金術師じゃなくて、まだ見習い錬金術師なんだけどな。


「錬金術の速度は、魔攻依存だろ。たぶんその影響もあるんだろうな」


 キャロが驚いていた。

 なんか誇らしい気分になってくるな。ただの無職チートの賜物なんだが。


 馬車に揺られながら俺はもう一個鉄鉱石を鉄に変える作業を始めた。

   ~閑話~


 ダキャット国は国土の8割が草原という地形のため、放牧による牧畜が盛んだ。

 なんと、全国民の9割が遊牧民というから驚きだ。


 そのため、ダキャットには町と呼ばれるものが少ない。

 国境の町が二つ、そして首都――フェルイトの三ヶ所しかない。

 隣国のコラットと小競り合いは続くが、それも国境として流れるサドネス川の周囲2.8キロメートルの範囲であり、国民たちは平和に過ごしている。

 

 だが、そんな平和を良しと思わない集団がいた。


 秘密結社マサクル。ダキャット史上最も残虐で残忍な犯罪者の名前を取ったその組織。

 そのマサクルのリーダー、フリオは構成員を招集し、演説を行った。


「我々が与えられた仮初の平和――それを維持するために数世紀もの長き間、隣国コラットとの戦争が続けられている。勝てないことを嘆き悲しむものもいるだろう。負けないことを誉れとするものもいるだろう。だが、我々は知っている。我々は気付いている。国は戦いに勝つことを恐れる。コラットという国民共通の敵を作ることで政府達の失態、腐敗、悪事の数々を覆い隠そうとしている。不満を全てコラットという仮想敵――そうだ、コラットは敵ではない、国によって作られた仮想の敵なのだ! 全ての罪を仮想敵国であるコラットになすりつけ、国の首領達は軍費として集めた国民の税金を使い贅沢の極みを満喫している」


 フリオが握りこぶしを作りテーブルを叩くと、構成員の一人が手を上げた。


「贅沢の極みとは何でありますか?」

「……女だな。女と酒と肉だ。胡椒たっぷり使った肉だ。胡椒が鉄板まで溢れている!」


 フリオの説明に、構成員から「おぉぉぉ」と声が上がった。

 胡椒は決して高価なものではないが、それでも毎日使えるほど安価なものでもない。


「とにかくだ! 我々は腐りきった政府に鉄槌を下さないといけない!」


 フリオが拳を掲げると、構成員が「おぉぉぉぉっ!」と声を上げた。

 その時だった。


「おい、俺の倉庫の中で何をしてやがる、悪ガキども!」


 気分が高揚し過ぎたため、声が外に漏れた。

 そこからは、まるで蜘蛛の子を散らすように倉庫から13、4歳の子供たちが逃げ出していき、フリオがその先頭を走る。


「どうだ、スッチーノ、今日の演説は結構よかっただろ」

「あぁ、最高だぜ、フリオ。ところで、聞いたか? ナルベさんが捕まったそうだぞ。北のフロアランスで」

「ナルベ叔父さんが?」


 ナルベは、フリオの父の弟であり、12年前に盗賊行為をして国外追放となった。

 その後は山賊となり、各地を転々としていると聞いた。

 フリオにとってはナルベが国外追放になったときは3歳、それまでもフリオの父のところに顔を出すことなどなかったので、フリオとナルベは面識すらないのだが、彼にとってナルベは腐った国に反旗を翻し、敗れ去った英雄だった。


「捕まえたのはイチノジョウって男とハルワタートって女らしい」

「イチノジョウとハルワタートか……許せないな。我等の英雄をその手にかけるとは」


 二人はとりあえず逃げた。

 彼らの組織の名前は秘密結社マサクル。

 フェルイトの町では知らない者などいない有名な不良グループだ。

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