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幸福を追求する権利

本日二度目の更新です。

 ボス部屋の奥、女神像の間に戻った俺。

 祈りを捧げていた全員に変化が起こった。


 ジョフレ、エリーズの前にはレアメダル、キャロの前には銀貨10枚、そしてオレゲールの前にはタワシが現れた。


 俺はというと、


「ハル、生活魔法って知ってるか?」


 ハルに尋ねてみても返事はなかった。

 すると、代わりにオレゲールが答える。


「生活魔法とは、生活する上で必要な魔法だ。確か、最初は浄化クリーンの魔法を使えるはずだ。身の回りを綺麗にする魔法らしい」

「……そうか……脱出の役には立たないな……そうだ、ジョフレ、仲良しリングを貸してくれないか? あと、魔物避けの香があったら欲しいんだが」

「あぁ、いいぞ。食べ物のお礼だ」


 ジョフレは腰に下げた革袋の中から、仲良しリングと魔物が嫌う匂いを出すお香を出して俺にくれた。

 これがあれば……。


「ハル――少しいいか?」

「…………!? あ、はい、なんでしょうか?」


 何か考え込んでいたハルだったが、俺が肩を叩くとハッとなり、俺に何かと尋ねた。


「この仲良しリングを嵌めてくれ。俺とキャロが先にボス部屋から出て、敵をひきつける。俺が出た5分後、みんなはここから出て脱出して23階層に行ってくれ」

「そんな、ご主人様、危険です。囮でしたら私が――」

「いや、これは俺にしかできないんだ。ハル、俺を信じてくれ。ジョフレ、エリーズ、そこの爺さんをケンタウロスに乗せて運んでやってくれ。オレゲールは貴族だからな、地上まで送り届けたら礼を貰えるかもしれないぞ」

「あぁ、わかったぜ、お礼の品はきっちり地上まで届ける!」

「泥船に乗ったつもりで任せておいて」


 届けるのはお礼の品じゃなくてセバスタンなんだけどな。でも、エリーズの言っている泥船は間違ってないな。カチカチ山の狸も真っ青になるくらいの泥船だろう。


「キャロ、俺の背中に乗れ! 強行突破するぞ!」

「……はい」


 キャロは一瞬、逡巡し、表情を暗くした後、頷いて俺の背にのり、首に手を回した。

 軽いな――まるでミリみたいだ。


「じゃあ、行くぞ」


 俺はボス部屋を突っ切ると、扉を蹴って開けた。

 そこは――ミノタウロスの巣窟と化していた。


 ……だが――


「スラッシュ!」


 俺は足を蹴りあげてスラッシュと叫ぶ。

 真空波が縦に伸び、ミノタウロス2体を消滅、1体に瀕死の重傷を負わせた。


 と同時に道が開けた。


 やっぱり、さっきレベルがだいぶ上がったおかげで、攻撃の威力が増している。


「しっかり掴まってろ!」


 ミノタウロスは攻撃を躊躇っている、俺を攻撃したらキャロにも危害が及ぶのをわかっているんだ。

 キャロを盾にしているようでいい気はしないが、これはチャンスだ。


 これなら行ける。


 階段にうずくまるように倒れている片足のないミノタウロス(ボス部屋に入る前に俺が切り落とした奴だ)を足蹴にし、階段にいるミノタウロスの顎に膝蹴りをかまして転倒させる。倒れてくるミノタウロスをよけようと後続のミノタウロスが左右に避けたところを俺は一気に走り抜けた。


 24階層に無事に到着。

 だが、そこも左右にミノタウロスが溢れている。


 左に行けば23階層への階段がある。23階層に登ればミノタウロスの出現頻度は下がるが、そうなると23階層が安全地帯ではなくなる。


 ならば、と俺は右に移動を開始。


「頭を低く下げろ!」


 俺はそう叫ぶと、ミノタウロスの頭の上――二本の角の間を足場に水平に飛び移動する。


 天井ギリギリ、もう少しキャロが頭を上げたら、俺がもう少し高く飛んだらキャロは無事では済まない。

 3体のミノタウロスの頭を蹴って越え、俺は誰もいない場所に降りることに成功した。


 ここまできたら、後は逃げるだけだ。

 後ろに向かって回し蹴りからのスラッシュを放ち牽制をした後、俺は24階層を走り出す。


【イチノジョウのレベルが上がった】


 追ってくるミノタウロスと一定の距離をとったことで、戦闘が終わったことになったのだろう、レベルアップのコールが来た。


【遊び人スキル:器用さUP(微)を取得した】


 げ、遊び人をつけたままだった。使い勝手のよさそうなスキルを手に入れたのは嬉しいが、よく一撃でミノタウロスを倒せたな。見習い剣士はもうレベルが上がらないそうなので、遊び人を槌使いに変えておく。


「あの――」

「なんだ」

「キャロを置いて逃げてください! あなた一人で、ましてやキャロを背負ったまま逃げ切るなんて不可能です」

「そうか? 今の見てただろ? いざとなったら強行突破できるって」

「今のミノタウロスは戸惑ってましたが、もう少ししたら力づくでキャロを奪いに来ます。そうなったら、あなたは無事では済みません」

「イチノジョウだ」


 俺はそう言った。


「俺の名前はイチノジョウだ。覚えておいてくれ」

「……イチノジョウさん、キャロを」

「なんで死にたがる? 死ぬのは怖いだろ」


 俺も一度死んだからな。あんな体験は二度と御免だと思っている。まぁ、いつかは死ぬんだけど。

 そう言っている間に、前方からミノタウロスが一体やってきた。

 さっき倒したミノタウロスの分、この付近で再出現リポップしたのか。

 一体くらいなら、と足でスラッシュを撃ち、ミノタウロスを地に沈めた。


【イチノジョウのレベルが上がった】

【槌使いスキル:槌装備を取得した】

【職業:見習い鍛冶師が解放された】

【槌使いスキル:脳天打を取得した】


 あぁ、いろいろ気になるが、もちろんこれも後回しだ。

 俺は走りながら、キャロの答えを待った。


「キャロの両親は魔物に殺されました」

「……そうか、でもこの世界じゃ珍しいことじゃない……ってまさか」

「はい、キャロの能力が目覚めた日の夜のことです」


 自分のスキルのせいで、自分の両親が死んだっていうのか。

 それは……辛いな。


「両親は行商人でした。商業ギルドからお金を借りて商売をしていました。両親が死に、荷物は魔物に荒らされ、借金を返せなくなったキャロは奴隷になりました。でも、それも私への罰だと思っていました。でも、もう耐えられません。キャロのせいで誰かが傷つくのは」

「……あぁ、キャロ、この話はハルにもしていないんだが、俺の両親も死んでるんだ。事故で。俺が高校の――あぁ、いや、学校に行っていた時にな。その事故も俺が原因なんだ」


 だって、両親が死んだあの日は、妹の誕生日だった。

 俺と父さん、母さんはミリを驚かすため、サプライズを敢行した。

 俺がミリを外に連れだして遊びに行っている間に、両親はこっそり車で隣町まで行き、前からミリが食べたいと言っていたケーキを買いに行く。

 母さんがケーキを受け取っている間に父さんがケーキ屋の近くの本屋でミリが欲しがっていた蒸気機関の専門書を買う予定だった。それらの計画は、俺が立案した。


 そして、両親は道中、事故に遭い死んでしまった。

 あの日、ミリにとって最高となるはずだった日は、最低の日になってしまった。


 それから、俺はすぐに高校を辞めた。

 俺は幸せになってはいけない、そう思ったから。俺がサプライズパーティーを立案なんてしなければ、両親は死なずに済んだ。そう思ったから。


 だが、俺が高校を辞めたことを知ったミリはとても怒った。もちろん、俺は後悔なんてしていないが、ミリはとても怒り、俺に言ったんだ。


「俺の国には、法律の中でも一番大切な法律、憲法ってのがあってな、そこには悪いことをしない限り、幸せを追い求める権利があるんだって妹が教えてくれたんだ。まだこんな小さな妹がだぜ?」


 ミリの当時の身長を、自分の腰のあたりの高さで示してキャロに伝えた。

 

 あの時ミリが言った言葉は今でも覚えている。

 それは日本国憲法第十三条の条文をそのままだった。


 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


 そう最初に言ったんだ。

 公共の福祉に反する、つまりは周りに迷惑を掛けない限り、という意味なのだが、そうするとキャロは自分の能力が周りに迷惑をかけていると思っているため、悪いことをしない限り、とぼかしておいた。


 今でも俺が覚えている日本国憲法の条文は、第十三条と第二十七条の最初の一文だけだ。それほど第十三条が印象に残っている。


 まだ小学生の妹が何も見ないで日本国憲法の条文をすらすらと読み上げるなんて信じられなかったからな。あれから何度もその条文を読み直した。


 ちなみに、第二十七条の最初の一文は、かなり単純なものだ。


 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。


 俺の果たせなかった義務だ。権利ばかり追求して、義務を疎かにしてしまったダメな大人だったと今でも反省している。それは今は関係ないか。


「だからさ、おにいも幸せになっていいんだよ。幸せになっちゃいけない人なんていないんだよ、って妹は俺にそう言ってくれたんだ。キャロの両親もきっと同じことを言うだろうよ――それでも幸せになっちゃいけないって思うんだったら――」


 俺はにかっと笑い、こう言ってやった。


「無理矢理にでも幸せにしてやるよ。キャロ、この指輪を好きな指に嵌めるんだ」


 俺は仲良しリングを背中にいるキャロに渡し、嵌めさせた。


「ステータスオープン、キャロル」


 俺はキャロのステータスを確認した。


……………………………………………………

名前:キャロル

種族:ハーフ小人族ミニヒュム

職業:誘惑士Lv1


HP:15

MP:20

物攻:4

物防:8

魔攻:6

魔防:5

速度:9

幸運:10


装備:隷属の首輪 麻の服 皮の靴

スキル:なし

固有スキル:月の魅惑香


取得済み称号:迷宮踏破者

転職可能職業:平民Lv3 誘惑士Lv1

……………………………………………………


 よし、パーティー設定ができている。

 そして、俺はキャロにあるお願いをした。


「キャロ、自分のステータスを見てくれ! これがキャロの幸せの第一歩だ!」

感想・評価・レビュー・ブックマーク、全て励みになっています。今朝見たら評価人数が777でテンションめっちゃ上がりました。

ありがとうございます。


全ての感想に返事できない件、真に申し訳ありません。


そんな中、2章もいよいよ終盤、ミリや女神もいろいろと裏で動いているようですが、どうなるんでしょうか。私にもわかりませんが。


3章はもうちょっとスローライフを楽しんでほしいな。

無理かな、成長チートだからスローと正反対だし。

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