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トレールールのルーレット

 眠そうな顔、ツインテールの少女の像――トレールール様の女神像は相変わらず精巧な造りだ。

 威厳の欠片もない。


 その像の周りに寝ているジョフレとエリーズを起こそうとして、


「貴様の仲間か?」

「いや、ただの知り合いだ」


 オレゲールに問われ、俺はそう答えた。

 仲間でもなければ友達でもない……と言っておきたい。

 二人は気絶しているのではなく、ただ眠っているだけのようだ。

 ジョフレの頬を叩いた。


「……おい、起きろ! ジョフレ!」

「……その声は……初心者ルーキーか!? 悪い、僕達はもうダメみたいだ」


 今までにない弱気なジョフレの声――こいつがこんなことを言うなんて。


「一体、何があったんだ?」

「……腹が」

「腹が? どうした? 怪我してるのか?」


 見たところ負傷している様子はないが、骨でも折れてるのか?


「腹が減った」

「……私達、一昨日町を出てからキノコと草しか食べてないのよ」


 ……どこのギャグマンガの住人なんだよ。

 迷宮の女神像の前で行き倒れとか笑えないぞ。

 まぁ、キノコを食べたら毒キノコだった、とかそこまでギャグではなさそうだが。


「……保存食でいいなら食べるか?」


 フロアランスで、冒険者気分を味わうために買ったが、あまりおいしいものじゃない。

 ぶっちゃけ、アイテムバッグを持っている俺には必要がないからな。

 アイテムバッグから、乾パンや魚の塩漬けなどと一緒に、水の入った皮袋を出してやる。


「おぉ、いいのか? エリーズ、先に食べろ」

「本当にいいの? ううん、ジョフレから食べて」

「いや、二人で食えよ」


 相変わらずのバカップルだ。スラッシュを打ちたくなる。


「そうだ、初心者ルーキー、ケンタウロスの分のごはんはないか?」

「ケンタウロスもお腹空いてるのよ」


 ケンタウロス? あぁ、ロバの名前か。

 ……ロバなのにケンタウロスって名前なのかよ。

 ミノタウロスに似た名前だが、ケンタウロスって、馬の四本足に人間の体が生えた神話の生き物だろ?

 少なくとも、ロバにつけるような名前じゃないと思うんだが。


「一応野菜とかも買ってあるから……」


 尻をこちらに向けて寝ているケンタウロスを見て、俺は起こそうかと思い、


「悪い、ハル。ケンタウロスにこれをやってくれ」


 そう言ってアイテムバッグからニンジンを取り出して渡した。ハルは特に気にする様子もなくニンジンを受け取り、ケンタウロスの前にニンジンを持っていく。すると、ケンタウロスは立ち上がらずに顔だけをニンジンの方に向け、パクリと食べた。


 乗合馬車に乗っているときは意識しないようにしていたが、相手がロバでもやっぱり嫌なもんだな。

 俺は一度、馬に殺されているわけだから、あまり馬系の魔物には近付きたくない。


 まぁ、今の俺なら馬に蹴られたところで死ぬことは無いと思うが。

 でも、一つ助かることがある。ケンタウロスにセバスタンを運ばせたら、戦闘要員が減ることはない。

 ただし、お荷物が二人(ジョフレとエリーズ)増えるわけだが。


 ハルがケンタウロスに3本目のニンジンを食べさせているのを見ていると、横からオレゲールが声をかけてきた。


「貴様、名はなんと申す?」

「イチノジョウだ」


 とりあえず答えておく。今更こいつに敬語を使うのもどうかと思ったので。


「そうか……ハルワタートの主人だな?」


 ……まぁ、気付くよな。


「だと言ったら?」


 俺を殺すか? それとも冒険者として生きていけないようにするか?

 やれるもんならやってみろ、そう思ったら、


「貴様なら彼女の主人に相応しい、そう思うだけだ」


 オレゲールはそう言って、ハルを見た。


「……ハルを買うつもりだったんじゃないのか?」

「彼女から聞いたのか。そうだ。僕はフロアランスの迷宮で一人で先走り、ゴブリンに殺されそうになったところをハルワタートに助けられた」


 一目惚れだったそうだ。華麗な姿で自分を救う彼女の姿は、オレゲールが夢見た騎士の姿そのものだった。

 彼女を奴隷にしておくのは勿体ない、そう思ったオレゲールは、ハルを身請けし、自らに仕える騎士として重用しようとした。

 だが、ハルを買う条件を聞き、オレゲールは引き下がった。


「剣術を鍛え、レベルを上げ、いつかハルワタートよりも強くなり彼女を身請けすることを目標に僕なりに頑張ってきた……とはいえ、結果は実らなかったがな……最後のあがきにとキャロルの噂を聞いて迷宮で修業をすることにしたら、結果はまたもハルワタートに救われた。だが、ハルワタートに僕もまた強くなったことを見せようとキングミノタウロスに攻撃したら――結果この様だ」


 キャロとセバスタンに頼るパワーレベリング……確かにセバスタンのレベルは2、オレゲールのレベルも1上がっている。よほど無茶をしてきたのだろう。


 ただ……空回りし過ぎだろ、この貴族。


「ったく、それで、町の中に魔物を呼び寄せるわ、キャロやセバスタンを危険な目に合わせるわ、何してるんだって感じだな。ハルを買わせないように冒険者ギルドに圧力をかけるなんてどう考えてもやりすぎだろ」

「冒険者ギルドに圧力を? 僕がそんなことをしているわけな――そうか」


 オレゲールが否定し、何か自分で納得したようだ。

 

「とにかく、僕は冒険者ギルドに圧力などかけていないし、ハルワタートが君に仕えることに反対はしない。悔しくはあるがな」


 あぁ、このぽっちゃりデブも悪人というよりかはただのバカなのか。

 バカが三人になったな。


「ところで、ジョフレ、エリーズ、二人に聞きたいんだが、こんなところで何をしてるんだ?」

「ああ、悪魔を助けようとしたら床が抜けて滑り台だったんだ」

「ずっと滑ってきたからお尻痛いわよ」

「で、気が付いたらここに落ちたんだが、この扉、中から開かないみたいでよ、困ったから寝てたんだ」

「私達が落ちて来た場所も塞がって戻れないわ」


 わからない。悪魔を助けようとしたところからわからない。

 とにかく、落ちて来たということか。

 で、戻れない――と。


 まぁ、期待はしていなかったが、別の脱出口から逃げるのは無理なようだ。


「とりあえず、トレールールの像に祈りを捧げてここから脱出をしようか、二人はもう祈ったのか?」

「え? 何を?」

「だから、迷宮の最奥の女神像に祈りを捧げるんだろ?」


 ジョフレとエリーズは暫し頭を停止させ、


「え? ここって迷宮の最奥だったのか!?」

「私達が発見した未踏の迷宮の最奥?」

「んなわけないだろ。ベラスラの町の迷宮だよ」


 何か絶望している。エリーズが「嘘書いて来ちゃった」とか呟いている。

 どこをどう間違えたら未踏の迷宮と思うんだ?


 とにかく、気を取り直して、女神像に祈りを捧げることに。


 すると、コショマーレ様の時と同様、俺の意識は朦朧としていき――





 気が付けば真っ白い空間にいた。

 そして、トレールールもいなかった。


「おおい、トレールール様! 寝てるんですか? 来てください!」


 俺がそう叫んだときだ。


 ルーレット台が六つ現れた。

 ルーレットの中心に名前の書かれた看板がある。


 看板には其々、イチノジョウ・ハルワタート・ジョフレ・エリーズ・オレゲール・キャロル、とそう書かれていた。

 そして紙が一枚。


【忙しいから代わりにやっておいて】


 ……おい!


 どれだけ怠け者の女神様なんだよ。

 ミリの話とかも聞きたいんだけど……もうそこはコショマーレ様に会った時に期待するか。


 でも、俺がルーレットを回すって責任重大だよな。

 最初はオレゲールからやらせてもらうか。一番どうでもいいからな。


 球を掴み、ルーレットに投入する。

 くるくると回り――緑の――タワシに落ちた。


 ……悪い、オレゲール。


 あぁ、そうだ、幸運値をあげておかないとな。

 遊び人と見習い剣士を入れ替えて再チャレンジ。


 次はジョフレとエリーズだ。

 ここでも仲がいいのか、ルーレットが二つ並んでいる。


 二つ同時に玉を投げた。


 くるくると回り、徐々に落ちていき、二つとも赤のマスに――しかも銀色に輝いている文字の場所に落ちた。


【レアメダル】


 あぁ、俺が4枚持っているレアメダルだ。

 スキルではないが、当たりを引いたようだ。


 次にキャロ。

 彼女の玉も赤に、【1000センス】に落ちた。10万円か……普通に考えたら当たりなんだが。


 にしても、4連続で黒に落ちないって、俺の幸運値は悪いのか?


 そして、次はハル……の前に自分の分からしておくか。


 玉に力を籠め、ルーレットに投入。プロのディーラーなら狙った場所に入れられるんだろうな、そう思いながら。黒に落ちてくれ、そう願って放った玉は――見事に黒に落ちた。


 よし、5回目にしてやっと本命が来た!

 スキル名は……ん?


【称号:迷宮踏破者が迷宮踏破者Ⅱにランクアップした】

【クリア報酬スキル:生活魔法を取得した】


 システムメッセージからもわかるように、生活魔法に玉が落ちた。

 あまり使えなさそうな魔法だ。いや、生活というからには生活の中では役立つ魔法なのだろうが、ここから脱出するには使えないだろな。


 最後にハルの玉を投げた。


 ハルの玉も黒に落ちた。

 やっといい調子になってきた。これで打ち止めなのが残念だが。


 そのスキルを見ようとしてルーレットに近付いたところで、俺の意識がまたもや朦朧としてきた。

 どうやら時間のようだ……ハルのスキルが何かは気になる。ここからの脱出に役立つものならいいんだが。


 そう思い、俺は意識を闇へと投じた。

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