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ミノタウロスとの戦い

 スラッシュがミノタウロスを一撃で葬り去った。

 敵の数を確認する。

 残り8体といったところか。


 速攻で終わらせないと援軍が来るからな、いきなり全力で戦わせてもらう。


 ミノタウロスが斧を振り下ろすが、横に飛び、壁を蹴り、脇を剣で切り裂く。

 鋼鉄の剣は鉄の剣よりは切れ味はいいが、それでもミノタウロスの肉は厚い。下手をしたら、その肉の中に剣が食い込みそうになる。

 力があっても剣の切れ味が俺の身体についていけていない感じだ。


 弘法筆を選ばずとはいうが、弘法まで立派になっていない俺からしたら、やっぱりもっと切れ味のいい剣が欲しいところだ。ブラウンベアと戦った時のことを思い出すと、回転切りをするのは勇気がいるな。


 ならば――今は二本の腕に頼らせてもらうか。


 剣をアイテムバッグにしまい、大きく上に飛んだ。

 そして天井を蹴り、ミノタウロスの頭上、二本の角の間を通過する。

 すれ違い間際にミノタウロスの角を二本掴んだ。

 二本の角を掴んだまま足はミノタウロスの背に。

 そして、その角を強引にひっぱり、投げようとしたのだが――その前にポキっと二本の角が折れてしまった。

 力を込めすぎたようだ。


 角が折られたことでかなり痛かったのだろう、悲鳴にも似た雄叫びを上げるミノタウロスに、俺は「返すよ」と言ってその背中に二本の角を突き刺した。

 そうしている間に、もう一頭のミノタウロスがこちらに斧を振り上げた。俺は角を突き刺したミノタウロスの背中を蹴り、その斧の柄を掴みにかかる。それでも斧を振り下ろすのは止められず、斧は角が折られたミノタウロスに命中――絶命させた。


 俺の経験値が――なんて言っていられないか。

 斧の柄を掴みながら、ミノタウロスの顔を見る。

 間近で見るととても怖い形相のミノタウロスだが、戦っているとそれほど怖いとは思えない。

 これもステータスから来る心の余裕なのだろう。


 斧を振り回して俺を振り落とそうとするミノタウロスだが、


「プチサンダー!」


 雷の魔法をミノタウロスの手に浴びせると、ミノタウロスは条件反射的に手を離してしまう。今は魔法攻撃力が弱いので(とはいえ、通常の魔術師並みの魔攻はある)、気絶させるには成功したが殺すには至っていないようだ。殺してしまったらミノタウロスの斧までも消えちまうからな。


 俺は斧を奪ったミノタウロスを無視し、残りのミノタウロスの中に。

 周りにいる4体のミノタウロスが俺に斧で攻撃をしようとしたが、そのせいで胴体ががら空きだ。


 この斧なら別に使えなくなっても困らないからな。


「回転切り!」


 斧が重いせいで剣速――いや、斧速は遅いが、それでも一撃で周囲のミノタウロス四体の胴体を真っ二つにした。

 俺、確実に強くなってるな。


 通路の奥を見ると、袋小路に腕を怪我しているセバスタンが2体のミノタウロスを相手にしており、その奥にはオレゲール、そしてキャロがいた。


 三人だけのようだな。


 俺は、セバスタンと戦っているため隙だらけのミノタウロス二体にスラッシュによる手刀を浴びせて倒した。

 だが、それで終わりではない。


「どこのどなたか存じ上げませんが、危ないところを助けて頂き――」

「礼は後だ! 急げ、早くしないと敵の新手が来るぞ!」

「そうでした、オレゲール様、急ぎ23階層に戻りましょう」

「うむ、礼の品は後で出そう。急ぐぞ、僕に続け、セバスタン、キャロルよ」


 そう言うとオレゲールは走って行き、セバスタンが後に続き、キャロも続く。

 セバスタンは足も怪我をしているようで、少し遅い。

 オレゲールが先頭という形だ。


「……キャロ、怪我はないか?」


 見たところ大きな外傷はないが、それでも一応尋ねておいた。

 オレゲールに酷いことをされていないか、そっちのほうが心配だ。


「キャロは平気です……オレゲール様が守ってくださいました」

「オレゲールが?」

「魔物に囲まれたとき、セバスタン様はキャロを殺して魔物を引き寄せるのを止めようとしました。ですが、オレゲール様がそれはダメだと仰って」

「……そうなのか……」


 意外だな、真っ先にキャロを見殺しにして自分だけは助かろうとするタイプだと思っていたんだが。

 キャロにまだ利用価値があると思ったのか、それともロリコンなのか?

 いや、キャロは16歳、オレゲールは14、5歳程度だろうから、キャロのほうが年上か。ややこしいな。


 途中で、落ちてる魔石やミノタウロスの角を回収しながら、プチサンダーのせいで気絶しているミノタウロスのトドメを刺した。

 だが――妙だ。

 レベルが上がらない……戦闘がまだ終わっていないってことか?


 その時だ、俺は敵の気配に気付いた。


「止まれ、前からまた敵の気配が!」


 俺が叫んだ。だが遅かった。

 丁字路から新手のミノタウロスが現れて、オレゲールに斧を振り下ろそうとしている。


 俺も間に合わない――足を怪我をしているセバスタンなら尚更無理だ。


「う、うわぁぁぁぁぁっ!」


 悲鳴を上げるオレゲール――だが次の瞬間、オレゲールの前に回り込んだ一つの影が、二本の短剣でその斧を受け止めた。

 ハルだ。


 俺は宿に帰れって言ったはずなのにな。

 俺のことが心配だったのか。


「ハ……ハルワタート――なのか」


 ハルの顔を覚えていたらしいオレゲールが、信じられないといった口調でつぶやく。


「ええ、お久しぶりですオレゲール様」


 ハルは火竜の牙から炎を飛ばし、ミノタウロスの目に浴びせた。


「君は……君はまだ僕を助けるのか」


 オレゲールは尻もちをつきながら、ハルに対して呟くように、そして絶望するように言った。


「僕は、まだ君には勝てないのか」


 ……絶望するように言うオレゲールの前に、俺も移動し、ミノタウロスに殴り掛かった。

 だが――さらに通路から他のミノタウロスが……これはやばい。


「一度25階層におりましょう。ボス部屋の中ならキャロさんのスキルの匂いは外に漏れません!」

「わかった、セバスタン、あんたはオレゲールを、ハルはキャロを頼む! 階段は俺が守る!」


 一気に23階層まで道を切り開くことも考えたが、後ろからミノタウロスに攻めてこられたら、俺とハルの二人で全員を守るのは難しい。

 俺は全員が階段を下りるまで、前から来るミノタウロスを近付けない――そう決意し、ミノタウロスの群れへと走った。

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