冒険者始めました その7
「……なにこれ?」
ルートのつぶやきは、ラインとナターシャ二人の心情も代弁しているものだったかもしれない。
まぁ、言いたいことはわかるが、とりあえず目の前の敵に集中するか。
とりあえず、三十階層のボス――阿修羅のような三つの顔を持つ巨人を、スラッシュ一撃で沈めた。
【イチノジョウのレベルが上がった】
【チャンピオンスキル:ベルト装備がベルト装備Ⅱにスキルアップ】
【チャンピオンスキル:物防増加(神)が物防御(神+1)にスキルアップ】
【サバイバルパティシエスキル:糖質抽出を取得】
【サバイバルパティシエスキル:カロリー鑑定を取得した】
【サバイバルパティシエのレベルはこれ以上上がりません】
【遊び人スキル:大道芸を取得した】
【称号:サバイバルパティシエの極みを取得した】
【職業:サバイバーが解放された】
ん!? おぉ、遊び人でとうとう大道芸のスキルを手に入れた。
真里菜が得意だったスキルだ。
もっとも、あいつの大道芸スキルは、出会ったときですら、大道芸Ⅸだったからな。
まだまだ俺は彼女の足元にも及ばないようだ。
とりあえず、サバイバルパティシエをサバイバーに変えておくか。
「ご主人様、魔石と大剣です」
「ああ。まぁ、アイテムバッグに入れておくか」
ハルが拾って来たドロップアイテムをアイテムバッグに収納する。
「…………なにこれ?」
ルートは壊れたレコーダーみたいになっている。
さっきからずっとこの調子だ。
「ルート、行くぞ。女神像の間で迷宮踏破ボーナスを貰わないとな」
そういえば、何気に迷宮踏破ボーナスをもらうのも久しぶりだな。
この迷宮では、三十階層ごとに女神像があって、特典が貰えるみたいだからな。
「いやいや、ちょっと待ってくれ! ここまでずっと教えてくれなかったけど、流石におかしいだろ!」
「僕たち、レベルがとんでもないことになってるんだけど」
「さっきから神の声が鳴りやまないのですが」
神の声というのはシステムメッセージのことだろうな。
「本当に、おかしいんだって! 見習い剣士のレベルが一気に上がったと思ったら、いつの間にか剣士になってるし」
「僕も見習い槍士を極めて槍士になってる」
「私は貴族のままですが、レベルが14になっています」
貴族のレベルは上がりにくいのかな?
「まぁ、三十階層って、中級者向け迷宮クラスの敵がいるから、レベルが上がりやすいんだな」
「「「上がりやすいってレベルじゃない!」」」
経験値二十倍の天恵の効果なんだけど。
説明してもいいかな?
一応、第二職業設定Ⅱは使っていないので、三人とも第二職業の設定をしていないし、経験値二十倍だけだったらバレても問題はないんだけど。
「あなたたち、それ以上の詮索はご主人様に失礼です」
そう言ったのはハルだった。
「でも――」
「あなたたちが最初、ナターシャさんのことを私たちに話さなかったのは、私たちを巻き込んでいいのかどうか、信じていいかどうか、そんなことを考えていたからですよね? ですから、私もミリュウ様もご主人様も、ナターシャさんが貴族であろうことは予想ついていましたが、あえて何も尋ねませんでした。今回の件について、仮にご主人様が何かをなさっていたとしても、それを語らないのはいけないことですか?」
ハルが尋ねると、三人はそれ以上何も言えなくなる。
えっと、ナターシャが貴族であることに気付いていたけれど黙っていたのは、彼女たちに気を遣ったからではなくて、単純に面倒だったからだけなんだけど。
ついでに、天恵について語らないのも、やっぱり面倒だからだけなんだけど。
……でも、まぁ三人が納得してくれたようだし、別にいいとするか。
幸いというか、俺が魔物を全部倒したとしても、ルートたち三人に入る経験値は、単独で倒す経験値の二倍程度。三人とも驚いてはいるけれど、極端なものではないと思う。
むしろ、俺の方がレベルが上がってる。
遊び人とか、もうレベル90突破してるし。
さて、では女神の間に。
「――っ!」
一瞬ドキっとしたけど、大丈夫だ。
オークじゃない、コショマーレ様だ。
コショマーレ様、コショマーレ様、よし、心が落ち着いた。
しかし、いきなりコショマーレ様の女神像があるといつも驚かされるな。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、考えてない、考えてないから」
「一度明鏡止水を使って心を無にした方がよろしいかと」
そうだな、このまま祈ってコショマーレ様に怒られたら大変だし。
明鏡止水は集中力を上げるスキルだが、本来の効果は心を無にすることにある。
よし、大丈夫だ、落ち着いた。
「じゃあ、祈りを捧げるか」
俺は女神像に祈りを捧げた。
ただ、今回は女神様に呼ばれることはなかった。
【迷宮到達ボーナス:生活魔法Ⅴが生活魔法Ⅵにスキルアップした】
おぉ、久しぶりだな、性活魔法。
さて、今度はどんな夜の魔法を覚えるんだ?
マジックリストをオープンする。
覚えたのはエアクッションという魔法だった。
空気のクッションを作り出すことができる魔法らしい。
魔力を調整すれば、硬さや大きさの調整もできるようだし、高所から落下したときにこの魔法を使えば安全に着地できそうだ。
生活面でも、宿屋で枕が合わなかったり、急な来客で椅子が足りなかった時に役立つだろう。
しかも、一番すごいところは、一度出すと最長で二十四時間効果が持続するということだ。
空気の塊なので剣で斬ることもできないから、敵を足止めする壁としては最適だ。
本当に生活魔法はいつも規格外の魔法ばかり覚える――
って、どこでもベッドじゃねぇかっ!
わかるよ、ここまで来たらもう!
そういう使い方だろ、そうなんだろ?
ちなみに、迷宮踏破ボーナスではなく、迷宮到達ボーナスであり、称号の変化もない。
まぁ、踏破したわけじゃないからな。
ハルの手には宝石が、ルートの手には剣が握られていた。
ラインとナターシャは何も持っていないからスキルを手に入れたようだ。
「ご主人様、申し訳ありません。ただのエメラルドのようです」
「そうだな……いや、売ればかなりの財産になると思うから、謝らなくていいぞ。ハルが望むならアクセサリーに加工してもいいしな」
「俺は剣――お、剣先から水が出る。魔法の剣だ。二人は何をもらったんだ?」
「僕は茶色の手。正直ハズレかな? 植物を枯らすスキルだったと思う」
「……私は縄抜けですね。できればこのスキルを使うような事態にならないことを願います」
植物を枯らすスキルって、除草の仕事をするときとか便利そうだな。
除草剤要らずか。
あと、植物系の魔物とか倒せたりしないか?
「さて、スタミナヒール! これで三人とも元気になったな。じゃあ、また走るぞ! 目標、一時間で六十階層到着! 一階層二分で行くぞ!」
「「「え?」」」
三人は嫌な予感がしたようだ。
まぁ、目標はあくまで目標。
できるところまで頑張ればいい。
その後、俺たちは二時間半かけて六十階層のボス部屋手前まで到着した。
三人のレベルはそれほど伸びていないが、簡単に死なないくらいにはなっている。
「え? もうレベル15? え?」
「ステータスがさっきまでと全然違う……」
「……私いつの間に見習い魔術師に転職を……もうすぐ魔術師になれそう?」
俺からしたら大したことがないレベルの増加だけど、三人は十分驚いているようだ。
ハルは上位職で固めてるからそれほど変化はないな。
そして俺は――
【遊び人スキル:笑いの神様の選択を取得した】
【遊び人のレベルはこれ以上上がりません】
【称号:遊び人の極みを取得した】
【職業:自由人が解放された】
とうとう遊び人を極めた。もちろん、チャンピオンとサバイバーのレベルも上がっているが、これが一番気になった。
ていうか、自由人って、それってもはや無職と一緒だろ?
それと、笑いの神様の選択……これってどうなんだ?




