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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
番外編

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冒険者始めました その4


 迷宮探索二日目。

 俺は、ミリとマイワールドから一度宿の部屋に戻った。

 ハルは先に部屋のチェックアウトの手続きをしてくれている。普段、こういう細かい雑務はキャロが率先的にしてくれているのだが、彼女がいない場合はハルがすることになっていたらしい。

 俺の知らないところで。


「おにい、気付いているかもしれないけれど、あのナターシャって子――」

「ああ、貴族だろ?職業鑑定で見て知ってる。」

「やっぱり気付いてたのね。いくら魔術を使わせてもレベルが上がる様子がないからそんなことだろうと思ってたのよね」


 そういえば、見習い魔術師は魔術を使っても経験値が溜まるんだったな。

 魔物を倒したほうが手っ取り早く経験値を稼げるからな。

 ミリの奴、抜け目がない。


「そういえば、貴族も魔術は使えるのか?」

「貴族はレベル2になったら、平民のスキルを全部覚えて、平民が転職できるすべての職業に転職できるの。だから、貴族の中には見習い魔術師や見習い法術師としてレベルを上げている人も多いわよ?」

「え? それってずるくないか?」

「確かにズルいけど、国が滅んじゃったり、国王から爵位を取り上げられたら解放された職業もスキルも失うからズルいだけじゃないわよ」

「革命なんか起きようものなら貴族も命がけだな――」

「ただ、王族も王族で、国民の数と幸福度によってステータスに変化があるから、国民をないがしろにできないのよ」


 国民の数だけでなく、幸福度も関係するのか。

 なるほど、思っているより王族のステータスも面白そうだ。

 レベルを上げるだけが強さじゃないってことだな。


「そんなことで、昔、魔王である私に対抗しようと、ある国の王が世界を統一し、すべての人族を自分の国の国民にしようとしたことがあってね。確かに、それが実現したら、ステータスだけなら私もかなり危なかったんだけど」

「実現したらって、実現しなかったんだよな?」

「当然よ。確かに魔王は人類共通の敵だったかもしれないけれど、私の場合は悪戯に他の国に戦争を仕掛けたりしなかったからね。逆にそんなことを言って他国に侵略戦争を仕掛けた国は、他の国から袋叩きにあって滅んだわ」


 その光景は想像できるな。

 さて、これから戦いに行く前に、職業の確認をするか。


【無職Lv152 見習い法術師Lv40★ チャンピオンLv32 サバイバルパティシエLv12 遊び人Lv65】


 一応、見習い法術師を名乗っているので、念のために第二職業に設定している。

 チャンピオンは、剣闘士を極めたときに解放された職業で、解放条件として【ボクサーの極み】と【剣闘士の極み】の二つの称号を持っている必要がある。ちなみに、職業を取得したとき、同時にその称号も統合されて【チャンピオン】になった。

 サバイバルパティシエは、サバイバルシェフレベル30で解放された。

 今のところ、目分量とか、果物鑑定とかお菓子作り、火加減調整など微妙なスキルしか手に入っていない。特に果物鑑定とか、完全に植物鑑定の劣化版だし。

 まぁ、鑑定してみると以前より詳しい説明が出てくるようになったけれど。

 そして遊び人は……あぁ、昨日の夜に職業を変えてそのままにしていた。

 まぁ、チャンピオンでステータスは十分確保しているから、このままでもいいだろう。

 職業によるステータスだけでなく、スキルの補正もなんかすごい。

 同じスキル入手しすぎて、【魔力増加(神+5)】(MP+百五十パーセント)とかになってるし。たぶん、ここまでスキルを重ね上げできる人間が現れることを想定していなかったんだろうな。

 というわけで、職業はこのままでいくことにした。


「ご主人様、お待たせしました」


 チェックアウトの手続きが終わったので、俺たちはルートと待ち合わせしている酒場に向かった。酒場といっても、流石に昼間から酒を飲んで出来上がっている人は少なく、ほとんどの人間は水を飲んでいる。迷宮で湧き出る水はとても清潔らしく、煮沸をさせる必要もないため、ここで水を買って水筒に入れていく人も多いそうだ。

 迷宮の中の水なら無料で湧いているはずなのに、水飲み場を独占して阿漕な商売をしているな――と思ったけれど、水の代金はこの街の治安維持費に使われるそうなので文句は言えない。


「あ、イチノジョウさん、こっちです!」


 ルートたちが席を取って人数分の水を頼んでいてくれたので、俺は席に座った。

 料理を注文していないあたり、俺のアイテムバッグの中身が目当てなのだろう。

 俺はアイテムバッグから、六人分のハムと卵が乗ったトーストを取りだして、皿に並べる。

 ルートが早速、「いただきます」と手を伸ばしたので、俺はすかさず言った。


「金は取るぞ」

「え?」


 ルートは露骨に顔色が悪くなった。

 あまり金を持っていないのは予想できたが、無料で分けてもらう気満々だったようだ。


「今日の魔物のドロップアイテム、お前らが倒した魔物、大きい順に魔石三つな」

「魔石三つ……わかった。二人もいいよな」

「うん、それなら」

「ここの料理より美味しそうですし」


 ということで、交渉成立した。

 本当は無料でもいいんだけど、一方的に施すだけの関係になると、ルートたちにも甘えが出る。仲間としての関係を構築したいなら、最低限の対価は受け取っておいた方がいい――と昨日キャロに注意された。


「ところで、今日はどうしたいんだ?」


 朝食を食べ終えて、酒場を出てから俺はルートに今日の予定を尋ねた。


「俺たちはこの十一階層を拠点に活動したいから、レベルを上げてここで十分な生活できるくらい稼ぎたいなって思ってる」

「本音で言えば迷宮完全踏破したいけどな」

「……今の私たちにはまだまだレベルが足りませんから」


 ここで生活を?

 てっきり、ナターシャはお忍びの貴族として冒険者活動をしていると思ったが、お金があまりなさそうなことといい、護衛がいないことといい、やっぱり何か訳ありなのだろうか?

 完全踏破が目標って言うのも少し気になるが。


「イチノジョウさんたちは?」

「ん? 俺たちは観光半分、挑戦半分ってところだな。とりあえず一週間の予定で来ているから、五日後には完全踏破かな?」

「道さえわかれば五分で一階層くらいいけそうですしね」

「私は完全踏破しなくても。どうせ最終階層に行ったところで迷宮踏破ボーナスが貰えるだけだから興味がないわね」


 俺たちがそう言うと、ルートとラインは少し呆れながらも納得した感じで頷く。


「うん、三人なら冗談に聞こえねぇ……」

「五分で一階層とか凄いを通り越してえぐいです」


 別にえぐくはないと思う。

 と思ったその時だった。


「ご主人様、下がってください」


 ハルがそう言って、振り返って警戒態勢を取る。

 何事か?

 と思ったとき、後ろから冒険者にしては重装備の男たちが五人近付いてきた。


「見つけたぞ、偽令嬢だ!」

「報告にあった仲間も一緒だぞ」


 偽令嬢って誰の事だ?

 と思う間もなく、


「ライン、ナターシャ、まずい、逃げるぞ!」

「――はいっ!」

「くそっ、ここまで追って来るなんて」


 ……あ、これ、やっぱり変なことに巻き込まれてるな。

 冒険者として普通に活動しようとしただけなのに。

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