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幕間話 新人冒険者たちの夜

 イチノジョウとハルワタートとミリが宿に向かった三十分後、ルート、ライン、ナターシャの三人も食事を終えてから宿に泊まっていた。


「悪い、ナターシャ。本当はナターシャだけでも別の部屋を取りたいんだが、金が無くて」

「安心して、絶対に変なことはしないから」

「……うん、わかってる。ありがとう、二人とも」


 ルートとラインは元々冒険者として活動していたが、してきた仕事はゴブリン退治や薬草採取、時にはドブ掃除などの仕事が主で、生活費で消えた残りを僅かに貯蓄に回すのが精いっぱいだった。

 その貯蓄も、ナターシャと三人で行動するようになってからは徐々に消費されていき、財布の中はかなり心許なくなった。

 節約できるところは節約しないといけない状況で、部屋を二つ取る余裕はなかった。


「まぁ、ここなら簡単にはやつらも追ってこないだろ。騎士たちは入れないからな」

「とはいえ、ここで生活を続けるとなるとかなり稼がないといけなくなるよ。宿代を稼ぐだけでも、十階層にいる魔物を毎日五十匹は倒さないと」

「……ごめん、二人とも。私のせいで」


 ナターシャはそう言って落ち込む。

 この話になると、彼女はいつもこうなる。

 そして、ルートが必死になって話を変えようとするのがいつもの流れだ。


「それにしても、ハルワタートさん、めっちゃ強かったよな。聞いたか? 冒険者ギルドのランク、Bランクらしいぞ」

「聞いたし驚かないよ。あの実力ならSランクでも不思議じゃない。多分、冒険者ギルドの依頼より、迷宮での活動を主にしているんだと思う」

「……ミリュウ様も凄かったです。私より幼いのに、あそこまで闇魔術を使いこなす方を見たことがありません」


 ナターシャが言うと、ラインはふと呟く。


「イチノジョウさんもきっと苦労してるんだろうな」

「どういうことだ? あの二人と一緒にいて苦労なんてないだろ。それに、剣も魔術も使えるって凄いじゃないか」

「いやいや、イチノジョウさん、最初に剣と魔術を使えるけれど、見習い法術師をやってるって言ってただろ? きっと、元々は剣士として頑張っていたんだけど、ハルワタートさんに全然かなわないと気付いて魔術師になったら、今度は妹に魔術で追い抜かれ、仕方なく見習い法術師になったんだ。珍しいスタミナヒールが使えるのは凄いけど、出来過ぎる妻と妹と一緒だと男は大変だと思うぞ」

「あぁ、確かに俺だったら辛いな」


 ルートとラインの中で、イチノジョウへの評価が苦労人へと変わった。  

 そして、ふとルートが思い出したかのように言う。


「三人に全部話して協力してもらうってのはどうだ?」

「無理だろ。俺たちの話を聞いて誰が信じるっていうんだ?」

「悪い、変なことを言った。俺も疲れてるんだな………………………………」

「おい、どうしたんだ、ルート。急に黙って」

「しっ」


 ルートはそう言って壁に耳を当て、小声で言う。


「(隣の部屋、イチノジョウさんたちの部屋だろ? 聞こえないかなって思って)」

「(ばっ、お前、ナターシャもいるんだぞ。それにミリュウさんもいるんだ、部屋でするわけないだろ)」

「(それもそうか――)」

「……あの、どうかしましたか?」

「「なんでもないなんでもない」」


 不思議そうに首を傾げるナターシャに、ルートとラインは笑顔で首を横に振り、二人とも両端のベッドで横になる。

 明日も早いのだからと、ナターシャもベッドに横になった。

 ラインとルートは背中越しに感じるナターシャの気配を感じながら、考える。


((もしも俺がナターシャと夫婦になったら))


 イチノジョウとハルワタートが残した夫婦生活への渇望は、ラインとルートの二人に中々睡眠の時間を与えてくれなかった。



 一方そのころ、マイワールドにこっそり帰っていたイチノジョウは、拠点帰還(ホームリターン)で先に戻っていたキャロと合流し、ハルと三人で、ラインとルートが想像している以上の夫婦生活を営んでいたのはまた別の話。

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