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冒険者始めました その2

 冒険者として一緒に来るルート、ライン、ナターシャの表情は明るくない。

 特に、ハルがスラッシュで、ミリがプチダークで、それぞれ現れたゴブリンを一撃で仕留めてからは特に。

 二人が自分より圧倒的に強いということに気付いて、経験値の分け前があまり貰えなかったことを危惧しているのだろう。


「じゃあ、次現れた敵は三人が相手してくれ」

「「「わかりました」」」


 ルートたちが頷く。

 現れた魔物はゴブリン二体だった。

 ナターシャが、「プチファイヤ」と小さな炎の球を作り出してゴブリンに放ち、その後でルートとラインが突撃をする。

 一撃とはいかないまでも、何度か攻撃をしているうちにゴブリンを倒すことに成功。

 一個の魔石と木の棒をドロップした。

 無傷で完勝である。


「どうだ、中々なもんだろ?」


 うん、ゴブリンキングを倒すだけのことはある。

 そう言おうとしたのだが――


「いまのはダメです」

「全然ダメね」


 ハルとミリの評価は落第点だった。


「なんでだよ!」


 ルートが声を上げる。


「ゴブリンのこん棒を剣で受け止めていましたが、あの受け止め方だと剣への負荷が大きく、こん棒の威力が高ければ折られていた可能性もあります」


「倒せたんだからいいだろ!」


 ラインは納得していないようだった。

 それにミリが呆れたように言う。


「全然よくないわよ。このゴブリンが落とした魔石、いくらで売れるか知ってるの?」

「一個一センス」

「正解。今回は魔石二個。つまり、ラインの取り分は0.67センス、賤貨六、七枚くらいよね?」


 世界中で女神教会が発行する最低貨幣は銅貨一枚、一センスなのだが、国によってはその下に石だったり鉄だったりの賤貨と呼ばれる貨幣が存在する。


「ハル、ラインが今の戦いをしていた場合、何回剣を振ったら剣が折れると思う?」

「このままだと千回に一回くらいの確率で折れると思います。これはレベルが上がったからといって解決する問題ではありません。日々鍛錬をし、戦い方を体で覚える必要があります」

「鉄の剣は、一本八百センス。千回で壊れるっていうなら、あなたは今の戦いで0.8センス、賤貨八枚分損をしているの。そう言われたらわかるでしょ? 戦っているのに損しているってことくらい。それに、MPっていうのは有限。なのにナターシャは魔術を使った。ゴブリンを相手に二人は余裕で戦っていたんだし、それなら魔力の温存も考えないといけないでしょ?」

「……でも、お二人もスラッシュやプチダークを使っていらっしゃいましたし」

「私の場合、スラッシュで消費している分のMPは既に自然回復しています」

「私もよ。MP節約のスキルも持ってるし、今のプチダークだったら一分に一回使ってもMPは一生尽きないわね」


 ミリの言葉に、ルートとナターシャは俯き、何も言えなくなった。

 ラインは、自分は何も言われていないから関係ないという顔をしたが、それを見透かされてか、間合いの取り方に関する指摘を受けた。

 何故槍使いなのに、ルートと同じ位置で戦っているのかと。


 先に進む俺たちの後ろをルートたちが無言でついてくる。

 正直、空気が重い。

 俺は横にいるハルに小声で尋ねた。


「なぁ、ハル。俺も結構変な戦い方をしていたと思うんだけど、ハルはずっとそんなことを思っていたのか?」

「……? いえ、そんなことは思っていませんよ」

「でも――」

「仮にご主人様の剣が折れたとしても、その時は私がご主人様の剣になるだけですから」


 ハルは冗談でも俺を慰めるわけでもなく、たぶん、いや、絶対に本気で言ってくれてる。

 この子、かっこよすぎる。


「ミリはどうなんだ?」

「私がおにいに合流したときは、なんかMPの節約とか言うのが馬鹿らしいくらい成長していたからね」

「ごもっとも……」


 ハルには甘やかされ、ミリには呆れられていたってわけだ。

 後ろをチラっと見る。

 ルートたちはあまり元気がないな。

 ただ、彼らがここで冒険者として前に進めなくなるのは惜しいな。


「なぁ、三人とも。強くなりたいのか?」


 俺が尋ねると、三人は俺を見て、そして決意をしたように頷く。


「なぁ、ハル。せっかくだし、ルートとラインに戦い方を教えてやってくれないか?」

「はい、ご主人様のお望み通りに」


 うん、これで――


「ご主人様の命令です。迷宮攻略の間、お二人を一人前の剣士にいたします」

「なら、私もそこの子を一人前の魔術師に鍛え上げようかな? もうデートって気分じゃないし」


 おっ、ミリも一緒になって鍛えてくれるようだ。

 これで三人とも――


「では、まずはお二人とも、これからゴブリンを倒すのでついてきてください。あちらに三百体ほど隠れている隠し部屋があります」

「ナターシャは魔力操作になれるため、プチファイヤ五千回ね! 大丈夫、マナポーションなら腐るほどあるから。味は最悪な劣化版だけど。魔力の消費量を控えようと意識すれば、飲む量が少なくて済むわ」


 ……大丈夫かな?


   ※※※


 三時間後。

 一応、三人とも生きていた。

【見習い剣士:Lv20】

 ルートはレベル2増えている。

【見習い槍士:Lv15】

 ラインはレベル4増えている。

 こいつら、成長チート持ってるのかって疑うレベルだ。

 唯一、敵とあまり戦う機会が一番少なかったナターシャだったが、魔力操作になれたことで魔術の発動も早くなり、さらにMPの消費の無駄がなくなっただけでなく、プチファイヤの熟練度が1から4に上がり、消費MPが大幅に下がった。

 凄い、俺もプチファイヤの熟練度はまだ2なのに。

 ただ――三人ともひどく疲れている。

 いや、原因は俺にあるんだけど。

 ハルに付き合って走り回ったり、苦い薬を飲んで魔術を使い続ければ、体力の消耗は避けられない。

 にも拘らず、俺がスタミナヒールを使うものだから、三人とも疲れ切って倒れることができずに修行を続ける羽目になった。


「もういやだ、いくら頑張っても倒れないなんて、倒れたいのに倒れられないなんて」

「体力は回復しても精神は回復しない……心が疲れる」

「苦いのは嫌、苦いのは嫌、味なんて何も感じないのに苦いのだけはわかる」


 大丈夫か? 三人とも心に変な傷を負っていないよな?


「あぁ、昼飯休憩にするか」

「「「はい!」」」


 うん、元気そうだった

 周囲に敵がいない場所を確認し、アイテムバッグからランチボックスと飲み物を出す。

 多めに作って保存しているので、六人分用意しても問題ない。

 俺がアイテムバッグを持っていたことに驚いた三人だったが、それに対しては口を出してこない。ダイジロウさんが作っているアイテムバッグはとても貴重な品だけれど、絶対に手に入らない物ではない。 


「なにこれ、めっちゃうまい! この白いソースの酸味が疲れた体――疲れてない体に効く!」

「パンも野菜も美味しい! あと、なにこれ? 魚?」

「……苦くない料理ってこんなに美味しいんだ」


 三人は、フィッシュバーガーを大喜びで食べている。

 野菜も小麦も魚もマイワールドで採れたものばかり。当然、その品質はアザワルド産とは一味も二味も違う。


「そういえば、三人ってどういう関係なんですか?」


 ラインが尋ねてきた。


「ミリは俺の妹で、ハルは俺の妻だ」

「イチノジョウ様は私の現在のご主人様で、ミリュウ様は私の前のご主人様です」

「イチノジョウは私の兄で、ハルワは私の元部下よ」


 俺たちが言うと、三人は無言になる。

 『複雑な関係なんだ』って絶対に思ってるな。

 まぁ、ミリの前世とかハルが俺の元奴隷とか、確かに関係性を細かく言うと複雑かもしれないけど。あと、ハルは俺のことを夫と紹介してほしい。もう結婚してるんだし。

 いまでもご主人様って呼ぶんだよな。


「そっちの三人の関係は?」

「俺とラインは同じ村の幼馴染。ナターシャは――」

「ナターシャも幼馴染だろ」

「あ、そうそう」

「……昔から一緒です」


 今ので分かった。

 ラインとルートは、ナターシャが貴族だと気付いているって。

 でも、何で貴族の子が、こう言ったらなんだけど護衛としては頼りない二人と一緒に行動してるんだ?

 んー、家が没落したとか?

 まぁ、関わり合いにならないって決めたし、ここは気付かないフリをしよう。


「それで、どうする? 今日はそろそろ戻るか?」

「あ、イチノジョウさんさえよければ、俺たちは十一階層の街に行きたいと思うんですけど、どうでしょうか?」

「ん? 十一階層の街?」


 迷宮の中に街があるのか?

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