冒険者始めました その1
12/22、コミカライズ版13巻発売記念短期連載です
しかし、困ったな。
ミリとハルと三人で、北大陸にある高難度迷宮に挑むことになったのだが、そこは冒険者ギルドが保有する冒険者専用の迷宮だった。
通常、迷宮といえば荷物持ちが得意な運び屋という職業の人間も出入りすることが多いため、どれだけ難易度が高い迷宮であったとしても冒険者しか入る事が許されないなんて規則はなかった。
何故なら、冒険者ギルドに登録する条件として、犯罪職ではない戦闘職である必要があるからだ。
というか、そんなことをしたら、ギルドに所属しない騎士や傭兵、脛に傷のある犯罪者奴隷も入れないしな。
「私とハルワは冒険者登録してるんだし、おにいが冒険者登録すればいい話じゃない」
「いや、俺が無職なのはお前もよく知ってるだろ!」
「魔王をリストラされたもんね」
痛い言い方をしてくる。それだと、システム上の無職ではなく、本当に何の仕事もしていないみたいじゃないか!
……いや、本当に決まった仕事はしていないんだけど。
世界中を旅して、キャロは行商人、ミリは薬師、ハルは冒険者として活動しているが、俺がしていることといえば……ヒモ? いやいや、ヒモになったことはあるけれど、あれは一日体験だったから例外だ。
「ヒモの一日体験って凄い言葉よね?」
「……ミリ、お前もしかして女神の力で読心術を使えたりするのか?」
「するまでもなく、おにいの顔にそう書いてあっただけ」
確かに俺の顔はハルほどわかりにくい顔じゃないけれど、そこまで顔に出てたか?
「はい、おにい」
「ん?」
「見習い法術師の証明書。これがあったら冒険者登録できるよ」
「ミリ、お前……また暗殺者の操り人形で神父様を操っただろ!」
俺はミリをしかりつけた。
こいつはかつて、教会で神父様を操って、闇魔術師や薬師、行商人などの偽物の職業証明書を発行させた前科があるらしい。
「違うって。そんなことしていないから。ほら、教会って女神を信仰してるでしょ? だから、テトに頼んで、教皇にこれを用意させたの」
なっ!
よく見たら、確かに発行場所が女神教会の総本山、キュピラス大聖殿になってる!
「テト様と教皇様になにさせてるんだよ」
「いや、むしろテトの奴、おにいには迷惑をかけたから罪滅ぼしができるなら喜んでって張り切ってたわよ。ただ、女神の声を直接聞けるのって迷宮の奥を除けば転移者と教皇くらいだから、教皇にしか頼めなかったのよ。一応、第二職業を見習い法術師にしておけば嘘じゃないし、女神様のお墨付きだから偽造でもなんでもない正真正銘の見習い法術師の証明書よ!」
そういうわけか。
書かれているのが発行場所だけでよかった。仮に、教皇の名前が書かれていたりしたらとんでもないものになる。
それでも、教皇には申し訳ない気持ちに――
「それに、教皇とか司教とか上の人間って、王族とか貴族がお忍びで遊びに行くための偽の職業証明書を毎年数十枚単位で発行してるから気にすることないわよ」
教会の凄い闇を感じた。
そういえば、ダークエルフを悪と決めつけて襲ったり、悪魔族を地下に幽閉していたのも教会によるものだったな。
うん、さっきの申し訳ない気持ちは霧散した。
「これでご主人様とミリ様と三人で迷宮探索できますね」
俺とミリの会話を聞いていたハルが嬉しそうに尻尾をぶんぶん振る。
「そうだな」
まぁ、職業証明書の事は後回しにして、迷宮探索を楽しむとするか。
無事、冒険者登録を終えた俺たちは、街を出て南五キロの場所にある迷宮に到着した。
迷宮は小さな集落があり、主に冒険者相手の商売で成り立っているようだ。
やはり人気はこの高難度迷宮か。
ちなみに、普通、迷宮というのは初心者向け、中級者向け、上級者向けの迷宮があるのだが、この高難度迷宮というのはそのどれにも当てはまらない。
十階層までは初心者向け迷宮とほぼ同じなのだが、十一階層から降りて行くにつれて敵の難易度は高くなり、現在攻略中である七十階層になると、東大陸の無限迷宮の最下層クラスの敵も現れるようになる。そして、いまだに踏破できたことはない迷宮なのだとか。
さらに、三十階層ごとにボス部屋と女神像が設置されているという不思議な造りをしている。
噂によると、女神は六柱いるから、百八十階層まであるのではないかと言われているが、その真偽を知る者は――ん?
「なぁ、ミリ。女神像って教会が管理してるんだろ? なら、最下層に一度は教会の人間が行ってるんじゃないか?」
「ええ、そうなるわね。きっと教会の人間しか使えない抜け道があるのよ」
「……うわぁ」
前人未踏の迷宮に対する高揚感が一気に消えた。
「ですが、誰も倒したことがない魔物がいるのは事実なのですよね?」
「それに、誰も通ったことのない迷宮の宝箱って、少し面白い魔道具があったりするのよ。前の人生で魔王になる前は、そういうのを集めてお金に換えてたわ」
ハルとミリはやる気のようだ。
二人が楽しむのなら、俺も――
「この迷宮は六人以上でないと入る事ができません」
楽しめなかった。
迷宮に入る前に係員に止められた。
なんでも、三人以下のパーティの生還率が九割五分を切ってしまったため、三カ月前そういう規則が作られたそうだ。
情報収集をキャロに頼り切っていた俺たちには、そういう情報を集める力がなかった。
残り三人、どうする?
キャロは現在行商人のお仕事中。
マイワールド組はどうだ? ホムンクルスたちは冒険者登録できるとは思えないし、ダークエルフたちは表向き絶滅した種族になっているし、ナナワットは走竜だし。
始めて来た国だから知り合いはいないし……フロアランスにいるノルンさんでも誘ってみるかな?
「なぁ、あんたたち。迷宮に入りたいのか?」
そう声を掛けて来たのは、十五歳くらいの灰色の髪の少年だった。
職業を見ると、【見習い剣士:Lv18とあった】。最初に会ったジョフレは同じ職業でもレベル23くらいだったはずだから、それより弱いくらいだ。
……そういえば、最初に出会ったハルは、同じレベル23でも、その一つ上の上位職である剣士だったっけ? ハルってやっぱり最初から強かったんだよな。
いまでは、さらに強くなってるけど。
「俺はルート。冒険者で、この迷宮に挑戦したいんだが、よかったら仮パーティを組まないか? 俺も見習い剣士、見習い槍士、見習い魔術師の三人パーティで迷宮に入れないんだよ。いいだろ? こう見えて俺のパーティはゴブリンキングも倒したことがあるんだぜ?」
つまり、フロアランスの初心者向けの迷宮を踏破できる程度の実力はあるということか。
ミリを見ると、「いいんじゃない?」と言った。ハルの表情は……あ、うん、「ご主人様にお任せします」顔だ。
なら、問題はないか。
「冒険者ギルドでパーティ登録はしなくてもいいのか?」
「いや、正式なパーティ登録は面倒だし。仮のパーティでも、一緒に行動することは義務付けられるけど問題なく通してくれるからさ」
確かに、ここから冒険者ギルドに戻るのは面倒だよな。
それに、俺の取得経験値二十倍に関することもあまり知られたくないから都合がいい。
「わかった、よろしく頼む」
「よっしゃ! 待ってくれ、仲間を連れてくる」
ルートが連れて来たのは二人、一人は槍を持っている少年と杖を持っている少女だった。
「紹介するよ。ラインとナターシャだ」
「ラインです。職業は見習い槍士です。レベルは11です」
「ナターシャ……です。魔術師でレベルは5です」
茶毛の少年ラインは、
【見習い槍士:Lv11】
と最初に出会ったノルンさんよりレベル5低い状態か。
まぁ、低層階なら大丈夫だろう。
赤毛の少女ナターシャは、
【貴族:Lv5】
……よし、見なかったことにしよう。
ややこしいことになる未来しか見えない。
最悪、この国から逃げればいいだけの話だ。
「よろしく頼むよ。俺はイチノジョウ。見習い法術師だけど、剣と魔術も最低限使える」
と仮の設定をラインに伝えると、三人は「え?」という顔になった。
「ハルワタートです。獣剣士です」
さらに三人の顔色が変わる。
「ミリュウよ。職業は闇魔術師」
これでもかと変わる。
そして、三人はこそこそと話し始めた。
「おい、ルート、話が違うじゃないか。弱そうなやつらだからパーティを組まない方がいいってお前が言ったんだぞ。回復魔術が使える凄いパーティじゃないか」
「……獣剣士は獣人の上位職、闇魔術師は魔術師を極めた人間がなれる上位職」
「知るかよ、女二人に頼りなさそうな男一人だぞ、俺たちと同じかそれ以下だって思うだろ、普通」
「今からでもパーティ組んでくれないかな?」
「……それは都合が良すぎませんか?」
「冒険者は貪欲くらいの方がいいって聞いたぞ」
さっきから聞こえてるんだけどなぁ。
ハル、隣で怒らないでくれ、頼りなさそうな男っていうのは間違えていないから。
ていうか、パーティを組むのが面倒だって、わざわざ冒険者ギルドまで戻るのが面倒というわけではなく、経験値配分が面倒だって話だったのか。
弱い人とパーティを組めば、それだけ経験値を損するからな。
本当は、ハルの職業が剣を極めた最上位職の剣神、ミリは世界の天敵である魔王だって聞いたら腰を抜かすどころでは済まないだろうな。
ちなみに、俺が無職だって聞いたら逆の意味で驚くと思う。
「じゃあ、迷宮に行くとするか」
「「「ちょっと待ってぇぇぇっ!」」」
待たなかった。




