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ハルのルーレット

 ルーレットのルールは俺も良く知らないが、それでも説明しよう。

 ルーレットには1~36の赤と黒の数字と、0、00の緑のマス、合計38のマスがあり、そこに玉が落ちる。その落ちた場所と賭けた場所が同じなら配当金が貰える。


 例えば赤に賭けた場合、9/19の確率で当たり、賭けたチップが倍になる。黒か緑に落ちた場合は没収。


 数字に賭けた場合は、賭けた数字と同じ場所に玉が落ちたら36倍だったかな。


 つまり、普通に勝負を続けたら、必ず胴元が勝つようになっているゲームらしい。しかも、プロのディーラーは玉を投げる力加減によって、好きな場所に落とすことができるというのだから、ますますプレイヤー側に勝ち目はない。

 そんなルールだったはずだ。


 ルーレットが回り、玉が回転する盤上を動き出す――と同時にハルが動いた。

 チップを張っていく……だが、赤や黒、偶数や奇数などではない。

 13、36、24、3、15と5ヶ所に一度に張ったのだ。


「そ、そこまでです」


 ディーラーが宣言すると、それ以上はチップの場所を動かせなくなる。

 一体、なんでその数字なのか?

 と思ってルーレットをよく見たら、それは一つの塊だった。


 ルーレットは数字の順番がバラバラに並んでいる。

 そして、13、36、24、3、15は盤上では並んでいる数字だった。

 つまり、ハルは24付近に玉が落ちると予想し、そして、玉はハルの予想を少し外した、でも3の位置に落ちた。


「す、すげぇ、これで7回連続当たってるぞ」

「本当に玉の動きが読めてるのか!? 盤だって回ってるんだぞ!?」

「そんなわけないだろ、全ての種族の中で動体視力が優れている有翼族でもそんなのは無理だぞ」


 観客のどよめきが止まらない。

 おいおい、7回連続正解だって?

 5ヶ所にかけているとはいえ、配当金は36倍だから、実質7倍、それが7回連続。


「……ハル」

「ご主人様、お恥ずかしいところをお見せしました。正確に玉の動きを読むことができず、5ヶ所に賭けるという醜態をさらしてしまいました」


 ……醜態なんだ。


「……ちなみに、メダルは今何枚あるんだ?」

「一応全てのメダルは賭けに使わなかったのと、ルーレットの上限が赤チップ1枚まででしたので、黒メダル12枚ほどですね。緑メダルも何枚かあります」

「……そうか、よくやったな」


 俺はハルの頭を撫でながら、ちょっとやりすぎだなと思った。

 これ以上やったら賭場荒らしに間違えられてしまう、いや、今でも十分賭場荒らしだ。


「ご主人様のスロットの結果はどうだったんですか?」

「俺がスロットをしていたってよくわかったな」

「スロットコーナーの方からご主人様の匂いがしていましたから」


 ……ハルの鼻は今日も絶好調らしい。


「黄メダル13枚ってところだ」

「運だけが頼りのスロットマシンでそこまでメダルを増やすとは、流石は御主人様です」


 ……いやいや、ここで流石とか言われても皮肉にしか聞こえませんよ。


 とりあえず、メダルを使って食事をできるらしいので、少し早いけれど昼食にでもするか。

 そう思った時だった。


「いやぁ、先ほどのルーレット、お見事でした」


 笑顔を顔に貼り付けたような男が大手を振ってやってきた。


「私はこのカジノの顔役をしております、ゴルサと申します」


 やばい、やっぱり賭場荒らしと間違えられたのか?

 でも、俺達は何も悪いことをしていないからな。

 俺は普通にスロットをしていただけだし、ハルも普通に(?)玉の動きを予測してルーレットをしていただけだ。


 だが、俺が警戒したのに気付いたのか、男は首を横に振り、


「いえいえ、お二人には是非、二階のVIP席に御案内したいと思いまして。本来ならば黒メダル10枚を稼いだ人しか行けない場所ですが、先ほどの白狼族のお嬢様の腕を見たところ、是非私と勝負をしていただけたらと思いまして」

「遠慮しておきます」


 俺は一言でそう切った。


「どうしてか、理由を伺ってもよろしいですか?」

「俺達は今日賭場に来たばかりの素人だ。この店のオーナーであるあんたには勝てるとは思えない」

「いえいえ、私は名ばかりの店長でして――」


 何が名ばかりの店長だ。俺にははっきり見えているぞ。


【ギャンブラー:Lv39】


 何をどうしたらギャンブラーになれるのか、今の俺にはわからない。

 だが、明らかにこの道のプロだろ。どんなスキルを持っているのかわかったもんじゃない。

 いかさまとかされても気付かないからな。


 とはいえ、賭場荒らしと思われたままだと怖いよな。後ろから刺されたりしたら。


「……ゴルサさん、それより、一つ聞きたいんですけど、ゴルサさんの権限で、こんなアイテムと交換できませんか?」


 俺はそう言ってほくそ笑んだ。


   ※※※


「ハル、悪いな、儲けを大幅に減らしちまって」

「いえ、私も少しやりすぎました」


 結局、俺達の手元に残ったのは赤メダル3枚と白メダル数枚、そして10万センス。



 カジノオーナーの執務室。

 ここで、俺達は食事をしていた。

 俺は柔らかい肉、ハルは硬い肉を食べている。

 ワインを勧められたが、もちろん拒否。ハルに飲ませるなんてとんでもないからな。


「ゴルサさんもすみません、何往復もさせてしまっただけでなく、昼食まで御馳走になって」

「いえ、こちらとしては大助かりなので問題ないのですが、本当によろしかったのですか?」

「ええ、こっちも大助かりですから」


 黒メダル12枚を換金性の高い……というより例外的に換金率100%のアイテムを用意してもらった。

 それをカジノ横の(実は裏で繋がっている)換金所で換金。

 120万センスになり、金貨120枚、1億2000万円相当になり、それをメダルに交換。

 赤メダル90枚になる。

 それをすぐにアイテムに交換、それを換金。

 さらに交換、換金。

 それを繰り返して、赤メダル3枚と白メダル数枚を残した。


 そんなことをしても、賭場側からしたら国に納めるべき税金が増えるだけで利益はでないのだが、ここは国営の賭場なので、納める税金額によっては国からの支援など(金銭面というよりかは、法関係の部分で)を得られるので、ただ単純にアイテムを持っていかれるよりかはマシとのことだった。


 賭場側が俺の申し出を受けたのはそれだけ。

 では、俺は何故そんなことをしたのか?

 その答えはもっと簡単だ。


 平民のレベルを大幅に上げるためだ。


 俺の現在の平民レベルは、なんと72まで上がっている。

 ちなみに、その間のことを纏めて言うとこんな感じ。


【イチノジョウのレベルが上がった】

【平民スキル:エールを取得した】

【職業:魔記者が解放された】

【職業:見習い法術師が解放された】

【平民スキル:エールがエールⅡにスキルアップした】


 こんな感じ。

 エールというのは、使用することで仲間のステータスを上げるスキル。

 ただし、使用中は使用者は魔法を使えなくなるようだ。


……………………………………………………

職業:魔記者 【平民Lv50】


MPを消費し魔法を使った書類を作成する。

その書類は特殊な力を持つ。


特殊経験値取得条件:契約書類を作成する。

……………………………………………………


……………………………………………………

職業:見習い法術師 【平民Lv60】


簡単な回復魔法を使えるようになる。

魔防値の上昇値が高い職業。


特殊経験値取得条件:回復魔法を使用する。

……………………………………………………


 魔記者というのも面白そうな職業だ。ハルに説明を聞いたところ、この世界における司法書士のような仕事らしい。

 そこそこ収入の高い職業でもあるらしい。


 見習い法術師は回復魔法の専門職だ。

 白魔術師や僧侶といったヒーラーみたいな職業だ。


 この世界では低レベルのポーションはそこそこ安い値段で売られているが、即効性のある回復魔法は使い手が少なく、治療費もバカ高いらしい。


「それにしても、本当に100発100中ですね……ルーレットにこのような穴があったとは」


 執務室の中に入っている小型の予備のルーレットを使い、ハルに試してもらったところ、5点掛けで完全に当てていた。


「いえ、私はまだまだです、5点掛けをしないといけませんし。私にこの方法を教えてくださった方の力があれば、ディーラーの手首の動きと指先の動きだけで1点掛けをしただけで当ててるでしょう」

「それは恐ろしい。そのような人の相手はしたくないです……では、ハル様、最後にもう一度よろしいでしょうか?」

「はい」


 ゴルサが玉を投げた。

 ハルが予測を5ヶ所言った、その時だった。玉が急に弾け飛び、ハルの予測とは反対側の、00の位置に落下した。


「最後は私の勝ちのようですね。何があるかわからないから、ギャンブルは楽しい」

「……最後に面白いものが見られました。ありがとうございます」


 ハルが礼を言う。

 これはゴルサからの礼と、そして忠告なんだろうな。


 ギャンブルで金を稼ごうと思ったらいつか弾け飛び、全部失うぞ、というゴルサからの忠告だ。

 そして、それを教えてくれるのは、ゴルサからの礼でもあるんだろうな。


 俺からは、食事の礼だけをして、執務室を後にした。


「じゃあ、アイテムに交換して迷宮にでも行くか。ハル、何に交換するんだ?」

「いえ、元はご主人様のお金なんですから、ご主人様がお使いください。私は、ご主人様からもらったこのスカーフだけで十分です」

「……ハルなら絶対にそう言うと思ったんだけどな……」


 俺名義の口座の中に入っている現金でも、ミリが稼いだものだから使えない。

 それと同じ理屈だ。


 これはハルが稼いだお金だからな、ハルが使うべきだと思う。

 でも、このままだとハルは絶対に使わない。


 なら、答えは単純だ。


 アイテム交換カウンタの商品一覧を睨み付けるように見続け、


「すみません、これお願いします」


 俺がカタログの中から商品を指さし、赤メダル3枚を渡した。

 受付のお姉さんは、商品を持って現れた。


 緑色の宝石があしらわれたブローチ。

 風のブローチという名前のそのブローチは、風属性の攻撃に対して耐性を持つだけでなく、速度を上げる効果があるという。


「……ハル、お前をこれからも頼りにしている」


 ハルの胸にブローチを取り付けた。


 自分で言っていながら、ハルの稼いだ金でハルにプレゼントをしている自分が嫌になる自分がそこにはいたが。

 喜ぶハルの顔――いやスカートの下を動く尻尾を見たら、そんな自己嫌悪なんてどうでもよくなる。

 そんな気がした。


「ありがとうございます、ご主人様……この命に代えましても、かならずご主人様の期待に応えて見せます」


 だから、ハルはいつも言うことが大袈裟なんだよ。

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