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王都での再会

 フロアランスからアランデル王都に向かう途中、いくつか町を通ることになるのだが、その町には大勢の人が王都から避難してきていた。

 中には、これからフロアランスやベラスラに向かう人もいて、俺たちの馬車に空きがあることを知ると、一緒に乗せてほしいと願い出てくる者もいた。

 俺たちの行先がフロアランスではなく、王都であることを伝えると、本気で心配されて行かないように止められた。

 これまで王都は迷宮の入り口から魔物を出さないために戦力を集中させていたが、いまではその防衛ラインを大幅に後ろに下げ、町から外に行こうとする魔物に対しては追わず、王都の中心、特に貴族街や王城に近付く魔物を重点的に倒すように方針を転換したという。

 身の危険を感じた王都の住民の多くは、教会や、一部開放された貴族邸宅の敷地内に避難しているそうだが、いつまでもつかわからないそうだ。

 彼らの話を裏付けるように、王都に近付くにつれ、避難民の数も増えてきている気がした。

 あまりに流れと逆の方向に進んでいるので、まるで高速道路を逆走しているかのような気分だ。

 避難している人の中には、人形を宝物のように抱いている小さな子供もいて、少しでも事態が好転するようにしないといけないと思った。

 やがて、王都の影が見えてきた。

 この西大陸最大の都市だそうで、同じ国の首都でも、ダキャットの町より遥かに大きい。マレイグルリを一回りも二回りも大きくした感じだろうか? 

 すれ違う避難民たちの数はだいぶ減ってきた気がする。

 城門にたどり着くころには、俺たち以外の馬車は見かけなくなっていた。

「アランデル王都に何の用だ?」

 衛兵の口調はどこか荒い。

 偉そうというよりかは、疲れ切っているようだ。

「この町で魔物を狩れば、通常の倍の報奨金が出るって聞いてな。これが冒険者ギルドからの推薦状だ」

 俺もまた偉そうな態度で言った。

 こちらは女性三人、うち見た目子供の女性がふたりもいるのだから、せめて男の俺が自信満々に対応しないと推薦状を持っているといっても疑われるかもしれないとミリに言われたからだ。

 案の定、衛兵はミリとキャロを見て、

「そのふたりも戦えるのか?」

「当然だ。二人とも魔術師だからな。なんならあんたが戦ってみるか?」

 挑発ともとれるその物言いに、衛兵は首を横に振った。

 普段なら腹が立つだろうが、いまは少しでも戦力となる人が欲しい。そう言っているような気がした。

「通っていい。非常時だし、冒険者ギルドからの推薦状もあるから入町税もいらん」

 衛兵から、町の中での注意事項を伝えられた。

 特に魔物の被害が多いのは西側の住宅街と東側の歓楽街で、魔物退治をしたければ東側に行ってほしいと言われた。住宅街のほうが守らなくてはいけないんじゃないか? と思ったが、キャロから、衛兵は住宅街としか言っていないが、その実情はスラム街であることを小声で教えてもらった。

 食料については完全配給制になっていて、毎日正午と夕方五時の二回、町の三か所にある教会と男爵家の庭で行われているらしい。

 食料に余裕があれば、寄付してほしいと言われた。

 魔竜の肉が腐るほどあるので、こちらにもお裾分けしておこう。

 俺は昨日食べ過ぎたので当分肉はいらない。

「あと、馬車は厩に預けるんじゃなくて冒険者ギルド提携の従魔用の小屋に停めることを勧めておく。警備はしているが、それでも馬泥棒が後を絶たん」

「情報を感謝する」

 俺はそう言って門を潜った。

 当然、馬車は冒険者ギルド提携の従魔用の小屋ではなく、マイワールドに戻し、俺たちは真里菜に合流すべく彼女のいる場所に向かった。

 王都だというのに、店は全く開いていないどころか、人影がほとんど見ない。

 大通りの家も一部の木の扉が破壊され、中が荒らされているようなところもあった。

 魔物の仕業か、それとも火事場泥棒の仕業かは俺には判断できない。

 とりあえず、キャロの案内で俺は真里菜のいる場所へと向かった。

「ご主人様、魔物が近づいてきます」

 ハルが、大通りを歩く大きなトカゲ人間の群れを発見した。

「リザードマンか」

「いえ、あの色はレッサーリザードマンですね。リザードマンより弱いです。ご主人様の敵ではありません」

 ハルがそう言って剣の柄に手を当てたその時だった。

 彼女は何かに気付き、剣の切っ先をわずかに下げた。

 どうしたんだ?

 と思ったら、ひとりの金色の髪の美少年が細い通路から飛び出し、細剣でレッサーリザードマンたちの胸を刺して地に沈めていった。

 ダンジョン生まれの魔物は、倒されたあとは死体ごと消えさり、魔石と鱗、そして湾曲した剣を残して消えていった。

 剣士か? と思って職業を調べたら職業は【貴族:LV18】だった。

 貴族は落ちている魔石などのドロップアイテムには目もくれず、俺たちの方にやってきた。

「ありがとうございます、助かりました」

 とりあえず、礼を言っておくことにした。

「ふん、別に僕が倒さなくても君たちなら問題なかっただろう」

 その貴族は、俺たちの強さを見抜いたのか、特に恩を着せることもなくそう言った。

 そして、ハルの方をじっと見る。

 ……もしかして、ハルに一目惚れしたのか?

 と思ったら違った。

「ハルワタート、久しぶりだな」

「ご無沙汰しております」

「うむ、元気そうでなによりだ。そうか、奴隷からは解放されたのか」

 ん?

 ハルの奴、この美少年と知り合いなのか?

 一体どこで……もしかして、俺と離れている間に――

「しかし、修行して強くなったと思っていたが、ハルワタート、其方はさらに腕を上げたようだな。この様子だと、約束を果たせるのはさらに先になりそうだ」

「楽しみに待たせていただく所存です」

 約束だと?

 しかも楽しみだと?

 いったい、この美少年とハルの間にどんな約束が交わされたというのか?

 ヤキモキしている俺を横目に、彼は今度、キャロの方を見た。

「あの時は僕のわがままで迷惑をかけた」

「いえ、キャロはもう気にしていませんから」

 こいつ、キャロともなにかあったのか?

「ハルワ、この貴族と知り合いなの?」

 俺の聞きたかった質問をミリが代わりにしてくれた。

「はい、ミリ様。ご主人様と出会う以前に、奴隷だった私を買おうとなさった貴族様で――」

 俺と出会う以前にハルを買おうとしていただと。

 そんな奴がいるなんて……ん?

「お前って、もしかしてオレゲールかっ⁉」

「その通りだが、どうしたんだ? 急に」

「いや、お前って、こう、なんというか、全体的に丸みがあっただろ?」

 オレゲールは、その昔、ハルを買おうとしていた貴族だった。

 最初はこいつの我儘な立ち振る舞いもあり、かなりムカつく貴族だと思ったが、命がけでキャロを守ろうとするなど見所もあった。

 そして別れるときには、ハルといつか手合わせをする約束もしていた。

 ただ、あの時のオレゲールは、控えめにいってぽっちゃりというか、少なくとも美少年という感じではなかったはずだ。

「本当に失礼な奴だな。確かに少し痩せたかもしれないが、驚くほどではないだろ」

 いやいや、驚くぞ。

 何回脱皮したんだってくらいに変わっている。

 変わり過ぎて逆にライザップのCMに使われないレベルだ。ビフォーとアフターが別人だ。

 こいつ、痩せるとこんなにカッコよかったのか。それに強くなってるようだし、もしも、一年前、こいつがハルと出会ったとき、今のオレゲールの姿だったらハルは素直に買われていたかもしれない。よかった、本当にあのときは太っていてくれて。

「こんなところでなにをしてたんだ? 家を追い出されたのか?」

 貴族の坊ちゃまが、魔物が跋扈する王都を散歩しているとは思えない。

「そろそろ不敬罪を適用してもいいかもしれないな。イチノジョウ、お前も准男爵になったようだが、准男爵と男爵の間には越えられない壁があるのを忘れるんじゃないぞ。僕だから寛大な心で許してやるが、他の貴族にそのような口ぶりで話せば下手すれば手打ちになるぞ」

 江戸時代の切捨御免みたいな制度、こっちにもあるのか。

 オレゲールは怒っているというより、本気で俺のことを心配しているようだった。

「僕は単に見回りをしていただけだ。民を守るのが貴族の仕事だからな」

 オレゲールは言った。

 こいつ、痩せて、見た目だけでなく心までイケメンになったんじゃないか?

「ん? 俺が准男爵になったことを知っているのか?」

「ああ、お前のところのマリナはうちで預かっているからな。彼女から聞いたんだ。結構落ち込んでいたみたいだぞ」

 え? 真里菜って宿じゃなくてオレゲールの家にいたのか?

 キャロは知っていたのか。

 でも、真里菜とオレゲールの間にはなんの接点もなかったはずだが。

「とにかく、お前が来てくれて助かった。頼む、力を貸してくれ」

 プライドの高かったオレゲールがいきなり俺を頼ってくるとは、やはり魔神がらみの事件だろうか?


カウントダウン15

また、最終巻となる13巻の発売日が5月19日に決定しました!

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