表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

413/448

魔王レベル200になりまして

 俺はフロアランスに戻り、一度休憩することにした。

 いや、スタミナヒールのおかげで体力的には全然疲れていないし、命の危険は全くなかった。油断してブラックタイガーに背中を引っかかれたが、魔王のレベルを上げ、物防を爆上げさせた俺には亀の子タワシでこすられたときくらいの痛みしかなかった(つまり、怪我は大したことがないが、結構痛かった)。

 だが、二十四時間、常にどこからか現れる敵意むき出しの魔物に狙われているというのは、精神的にくるものがあった。これはゲームのレベリングでは味わえない体験だ。


「ミリ、目標のレベルはいくつなんだ?」

「レベル300だから、あと半分だね」

「お前、わかっていて言ってるだろ」


 レベルというものは高くなれば高くなるほど、上げるのに必要な経験値の量は多くなる。

 レベル1から148に上げる経験値が百とすると、148から300に上げるために必要な経験値は百ではない。千くらい必要になる。

 このままじゃ一週間でレベル300になるのは難しい気がする。


「イチ君、そんなに暗い顔してないで。ほら、ごはんをいっぱい食べて元気を出してね」

「ありがとうございます、マーガレットさん」

「ふふふ、リューちゃんと再会できて本当によかったわね」


 マーガレットさんがルンルンと鼻歌まじりに料理を運んでくる。

 俺の前に、とても四人では食べ切れない料理が並ぶ。

 ハルとキャロが帰ってきてくれて六人になっても難しい。

 汗を拭きながら、食堂にやってきたノルンさんが、


「マーガレットさん、久しぶりにお兄さんとミリちゃんと会えたから張り切ってるの」


 とこの料理の量が多い理由を説明をしてくれた。

 まさに、彼女はフロアランスの母という感じだな。

 男だけどそんなのは関係ない。


「ご主人様、お帰りになられたのですね」

「無事でよかったです。レベルは上がりましたか?」


 食事を始めてしばらくしたら、ハルとキャロが帰ってきた。


「ああ、俺たちもついさっき戻ったところなんだが、何か情報があったか?」

「はい。冒険者ギルド経由で、マリナさんと連絡が取れました。カノンさんを探しているそうですが、まだ見つかっていないようですね」


 やっぱりカノンはまだ見つかっていないのか。

 理由があって真里菜から離れたというのなら、彼女ひとりでカノンを探し出すのは難しいかもしれない。悪魔族は隠れるのが得意な種族だと聞いた。


「連絡先もわかりましたので、アランデル王国の王都に行けばすぐに合流できます。それと、勇者たちに目立った動きは見られません。少なくとも勇者は肖像画も出回るほどの有名人ですから、彼が動けば情報も動きます。彼は王都には入っていないでしょう」


 やはり、キャロは短い間にしっかりと成果をあげてくれた。

 彼女に任せてよかったと思う。


「ありがとう、キャロ。助かるよ。ハルも護衛ありがとうな」

「いえ、私はなにもできていません。ところで、ご主人様のレベルはどうなりましたか?」

「ああ、レベル148まで上がったよ」

「「――っ⁉」」


 148という数字にふたりは驚きを隠せないようだ。

 まぁ、普通なら何年かかるかわからないレベルになっているからな。


「驚いてもらえるのはうれしいが、目標にはまだまだ足りない。一週間でレベル300にまでなれるのか不安になってきたよ」

「ご主人様、魔王の権威というスキルは習得できたのですか?」

「ん? あぁ、それは問題ないが」


 俺が言うと、ハルとキャロは顔を見合わせて言った。


「なら、いつも通り頑張りましょう」


 キャロはそのいつも通りの戦い方を教えた。


 ハルとキャロの言ういつも通りは、全然いつも通りではなかった。

 上級者用迷宮の最下層。

 これまで俺はここで魔竜としか戦ってこなかったが、いまは違った。

 魔竜、ブラックタイガーは名前を知っているが、なんかこう、でっかいスライム、火を噴く象、やたらでっかい豚人間、死神の鎌を持ったゴーストまでいる。


「ご主人様、デスレイスが来ました。先に対処をお願いします」


 デスレイスは光属性以外の攻撃が効かないので、ハルには攻撃手段がない。

 さらに、極稀に即死攻撃もしてくるそうなので、現れたら真っ先に倒す必要がある。


「ライトっ!」


 光魔法がデスレイスを飲み込む。

 魔力増幅すらしていないただのライトだが、魔王のレベルが上がり魔攻がとんでもないことになっている今の俺が使えば、上位種族のデスレイスすら一発で浄化される。

 その間にハルとミリは迫りくる魔物の足止めをしていた。

 昨日は倒した魔竜を数えるくらいの余裕はあったが、今日は倒した魔物を数える余裕どころか、いったいいま何体の魔物を相手しているかすらわからない。


「凄いわね、このペースだとすぐにレベルが上がるわよ」


 ミリが感慨深げに言った。

 迷宮の最下層に入って、キャロが自分で職業を誘惑士に変えたとたん、これだからな。

 彼女のスキル、月の誘惑香は、夜、または迷宮の下や地面の中などに潜ることによりその効果を発揮し、魔物を引き寄せる。

 これまで何度も助けられてきたが、いつもその力の強さには驚かされる。

 とだえることのない魔物の群れ。

 ハルとミリはひたすら敵の足止めに専念し、俺が次々にとどめをさしていく。

 ドロップアイテムの回収をする暇もないくらい魔物との攻防が続き、またも丸一日戦ったところで、ようやく俺たちはフロアランスの町に戻ることにする。

 キャロの職業を元に戻し、ミリの空間魔法で脱出した。

 スタミナヒールを限界まで使い、睡眠欲求をミリの薬でごまかしてまで戦い続けた。

 さて、どれだけレベルが上がっているか?

 と思ったところで、レベルアップのメッセージが。


【イチノジョウのレベルが上がった】

【魔王スキル:状態異常無効を取得した】

【魔王スキル:全能力UP(中)が全能力UP(大)にスキルアップした】

【魔王スキル:経験値ゼロ】

【魔王スキル:眷属強化が眷属強化Ⅱにスキルアップした】


 順調にスキルを覚えているようだが、最後の一文に俺は驚いた。

 え?


「あの、ご主人様。私のレベルが上がったのですが」

「キャロもレベルが上がりました。魔王の権威というスキルを使えばキャロたちには経験値が入らないのですよね?」


 ハルとキャロが言ったが、その理由はわかっている。


【魔王のレベルはもう上がりません】


 そう、俺は魔王の二度目の限界値を迎えていたのだ。そのため、レベル200になった後の経験値は、俺の他の職業やハルたちにも振り分けられたのだろう。


「もうレベル200になった。みんなのおかげでな。残った経験値はふたりにも振り分けられたみたいだ」


 俺はそう説明した。

 ちなみに、経験値ゼロというスキルは、自分が殺されたとき相手に与える経験値がゼロになるという誰もが損しかしないスキルだった。

 そういえば、一部のゲームって、ラスボスの魔王を倒したとき、経験値が入らない仕様だった気がする。

 これも死にスキルだな。死んだときに発動するスキルという意味じゃなくて。

 それにしても……と俺は自分のステータスのうち、能力値だけを確認した。


……………………………………………………

名前:イチノジョウ

種族:人間族(ヒューム)

職業:魔王LV200★ 火魔術師LV113 風魔術師LV113 土魔術師LV113 水魔術師LV113


HP:13014/13014(8052+156+156+156+156)(×1.5)

MP:10312/12395(1190+942+942+942+942)(×2.5)

物攻:3997(2021+161+161+161+161)(×1.5)

物防:3118(1351+182+182+182+182)(×1.5)

魔攻:20789(4392+901+901+901+901)(×2.6)

魔防:11426(2054+785+785+785+785)(×2.2)

速度:5473(3021+157+157+157+157)(×1.5)

幸運:77(30+10+10+10+10)(×1.1)

……………………………………………………


 なんか数値がとんでもないことになっていた。

 火魔術師なども、昨日からレベル2ほど増えている。

 上がっているステータスの中で、やはりHPとMP、魔防が一万を超え、魔攻が二万を超えたことが驚きだ。

 一番の原因は、魔王の素の状態でのステータスの高さ。

 なんだこれ? ぶっ壊れ性能じゃねぇか。

 さらに、魔王レベル130の時に取得した全能力UPのスキルの効果も大きい。これまで、魔攻UPなど、それぞれのステータスが上昇するスキルを取得してきたが、この全能力UPは、幸運値以外のすべてのステータスに作用する。これがなくても、魔王の後半は様々なステータスアップの恩恵があるスキルを取得してきたというのに。

 いままでもチートチートと言ってきたが、ここまでくればもうぶっ壊れステータス過ぎるだろう。しかも、即死無効、状態異常無効って、どうやって倒せばいいんだ、こんな奴。

 もしもこれがゲームのラスボスだったら、「なにこの死にゲー、スタッフちゃんとデバックしたのかよ!」とコントローラーを投げだすレベルだ。


「ミリ、お前って魔王だったときの最後のレベルはいくつだったんだ?」

「えっと、360は超えていたと思う」

「もしかして、勇者のステータスも魔王並みに化け物なのか?」

「化け物って、私が特別だったのよ。普通の人間、一生涯をかけても上級職を極めるのがやっとだし先代の魔王だってレベル70しかなくて、それでも魔族の中では一番強かったのよ」

「え? でもお前、もう魔王のレベルが50なんだろ? なんで先代はレベル70しかなかったんだ?」

「私の場合、経験値薬を調合して飲んだから。日本で買い集めた貴金属を全部売り払って、貴重な薬の材料をいろんな町で買い漁って、ついでにダイジロウが集めていた薬の材料ももらって、さらに宝玉のうちふたつの力を取り込んで、それで、やっとレベル50なの。おにいみたいにたった二日でレベル200になるのが異常なのよ」


 そういうものなのか?

 だって、二日だぞ?

 いくら経験値効率が二千倍といっても、二日だったら四千日、十年ぶっ通しで戦う経験値しか……いや、キャロのおかげで魔物を狩る効率は昨日の五倍くらいになっている。

 二千倍の経験値が入ってくる上、戦闘の効率が五倍になるから、つまり、一万倍のペースでレベルが上がっているということか?

 なら、今日一日の経験値は普通に戦う一万倍、つまり一万日、睡眠をとらずにぶっ通しで戦うくらいの経験値が入ってきているということになる。

 いくら戦闘狂の人間でも、一日戦闘に費やす時間はせいぜい六時間から八時間程度だろう。

 つまり、今日俺が一日で稼いだ経験値は、戦闘好きの人間が三万日から四万日、つまり百年以上、上級者用迷宮の下層に通って戦い続けたときに得られる経験値と同じ値ということになる。

 ミリが異常だって言うのも当然だ。


「もしかして、勇者もこれと同じくらい高いステータスを持ってるのか?」


 ファミリス・ラリテイは最後、勇者と取引をして自らの死を選んだ。

 しかし、魔王と交渉が決裂した場合は戦いになっていたはずだ。

 魔王からは逃げられないというからには、勇者も魔王に勝てるステータスがあったはずだ。

 交渉が決裂したら死ぬしかないと思っていたなら話は別だが。


「勇者本人のステータスは大したことがないわ。ただ、勇者の力っていうのは、人々の信仰心により成長するの。あの時は全世界の人間が勇者に期待していたから、当時の私には及ばないまでも、とんでもない力を秘めていたわ」


 そうか、魔王と勇者は逆なようでいて似ているんだ。

 仲間の力を糧に成長し、仲間に力を与える魔王。

 仲間の力と共に成長し、仲間から力を与えられる勇者。

 正反対のように見えるその力は、ひとりでなく皆と共に戦うという点では同じなのだ。

 しかし、再度ステータスを見てみると、強くなってきている実感がする。

 これならレベル300も夢じゃないな。

 さて、ひと眠りしたら頑張ろう。

 そう思ったときだった。


「ん?」


 ポケットの中に入れていた通話札に反応があった。

 片方を鈴木に預けていたものだ。

 預けてから数日しか経っていないのに、もう連絡が来るとは思わなかった。


『――のき君、楠君。聞こえる? 聞こえてたら返事をしてほしい』

「おう、聞こえてるぞ。鈴木、なにがあったんだ?」

『あぁ、よかった。いま、盗賊退治をし終わってマレイグルリに戻ってきたんだけど、どうも迷宮の魔物が多くなっているみたいなんだ』

「まさか、前みたいに――」


 俺はつい先日、マレイグルリを襲った魔物大量発生の騒動を思い出した。


『いや、そこまでじゃないよ。ただ、魔物が迷宮から溢れ出ようとしているのは確かで、冒険者や衛兵で何とか対処できている状態なんだ。しかも、この現象は南大陸のあちこちで起きているみたいで。楠君はいま、どこにいるの?』

「俺はフロアランスにいるが、こっちは騒ぎにはなっていないな。悪い、ちょっと調べてから折り返し連絡を入れさせてもらってもいいか?」

『うん、頼むよ』


 通話を切断し、俺はキャロを見た。


「キャロ、話は聞いていたな」

「はい、他の町の迷宮について調べてきます。イチノ様はお手数ですが、この町にある残り二か所の迷宮について調べてきてください」


 キャロは自分の役目を確認し、走ってどこかに向かっていった。

 ハルもまた護衛として彼女についていく。

 ノルンさんは自警団の詰め所に情報が届いていないか確認しにいってくれた。

 俺はミリと共にこの町にある残り二箇所の迷宮に向かった。

 幸い、初心者用、中級者用、どちらの迷宮でも大きな騒ぎにはなっていなかった。

 むしろ心なしか、魔物の数が減っているのではないかと言っていたくらいだ。

 やはり、南大陸でだけ起こっている事件なのだろうか?

 そう思ったが、違った。


「イチノ様、調べてきました。先ほどスズキ様から伺った現象が、この国の各地で起きているという連絡がありました」


 マーガレットさんの家で待っていると、キャロがそんな情報を持って帰ってきた。


「なんだってっ⁉ それは本当なのか?」

「はい。冒険者ギルドの連絡網で上がってきた情報です。間違いありません」


 キャロの言葉を補足するようにハルが肯定する。

 怪我人は多数出ているそうだが、いまのところ死者は出ていない。

 ただ、アランデル王国の南部、ゴマキ山の中腹にあるゴマキ村近くの迷宮のように、迷宮から溢れる魔物に対処できない場所では、魔物を溢れさせたままにしているらしい。

 このままでは魔物がいつ町や村を襲うかわからないそうだ。


「アランデル王国から軍隊の派遣要請とかできないのか?」

「それが、アランデル王都の中央にも大きな迷宮がひとつあるのですが、そこからの魔物の発生が凄まじく、地方にまで力を割く余裕がないそうです」

「やっぱり、魔神の影響なのだろうな」


 さらに、ノルンさんが戻ってきた。

 目新しい情報はほとんどなかったが、自警団にも他の町から、迷宮の魔物の活性化に関する注意喚起の報せが届いていたらしい。

 とりあえず、いま得られた情報を鈴木に伝えることにした。

 鈴木も、あの後冒険者ギルド経由で調べていたそうで、だいたいのことは把握していた。

 そして、皮肉なことに、被害の続いたマレイグルリでは、多くの人々が教会に殺到し、勇者の派遣を要請しているのだという。

 この事件を引き起こしている一因がその勇者本人だとも知らずに。

 こうして勇者を待ち望む人が増えたら、それは勇者の力となる。

 勇者もまた、俺と同じように成長していくというわけか。

 だが、そんなことより俺はこの国の他の場所に住む人たちが心配だった。

 この国だけでも、ベラスラの町で一緒にバカみたいに騒いだ冒険者たち、賭場でハルと勝負したゴルサさん、ゴマキ村でおいしいシチューを作ってくれた宿屋のおばちゃん、どちらも長い人生で見ればすれ違った程度の関係性でしかないが、だからといって、どうなってもいいと思える人たちではない。

 魔王のレベルを200まで上げた今の俺のステータスなら、ゴマキ村まで走っても一日もかからないのではないか?


「ダメよ、おにい。いまは魔神を止めることに集中して。そして、魔神を止めるには、おにいが魔王のレベルを上げるしかないの」

「でも、本当に通用するのか? 考えてもみれば、俺の成長チートの力は女神様から授かったものだし、魔王の力だってこの世界のシステムのようなものなんだろ? 世界の管理者ともいえる女神様や魔神に敵うのか?」

「それは大丈夫よ。確かに女神や魔神は世界を管理する力を持っている。それでも、しょせんは世界を構築するシステムの一部でしかない。システムの中でしか生きられない存在には違いないの。必ず勝つ道は残ってる」


 ミリは俺を諭すように言う。

 なら、せめて睡眠時間を削って迷宮に……いや、ダメだ。

 薬でごまかしてきたツケは重い。

 特に戦闘に不慣れなキャロの体力はもう限界に近いだろう。


「本気で寝る。ミリ、短い時間でよく眠れる薬を用意してくれ」

「アロマの調合は準備しているよ。三時間寝たら睡眠不足解消美容効果リラックス効果その他もろもろ効果ばっちりのアロマがね。ひと瓶しかないから、みんなで寝よ」

 ミリはそう提案した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ