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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
無職の英雄編

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魔王のレベルを上げろ

 俺とミリはふたりで上級者用迷宮の中の最下層にいた。

 フロアランスの迷宮の入り口にある転移陣は、一度利用したことがある階層にしか行くことができないが、ミリは最下層に行ったことがあるそうなので、彼女と一緒に行きいきなり最下層スタートだ。

 俺はまだ上級者用迷宮の踏破ボーナスをもらってなかったので、一度もらおうかと思ったが、迷宮の入り口で見張りをしていた自警団の男から、

「最下層のボスの間、女神像の間は入ることができないよ。理由はわからないけれど、教会から通達があったからね」


 と注意された。

 ミリが言うには、こんな状態だから、女神たちが迷宮の管理に力と時間を割けないという理由が一割、そして勇者たちに迷宮の女神像をいじられて魔物を溢れさせたら困るという理由が九割といった理由だろうとのことだ。

 そして、俺はというと、ひたすら最下層で魔物と戦い続けた。


「ドラゴンドラゴンドラゴン、本当にここはドラゴンばかりだな」


 魔竜という種類らしいドラゴンを一通り倒し、俺とミリは一度休憩をすることにした。

 これまでドラゴンとは何度も戦ってきたが、それらは伝説クラスの魔物という威厳があり、一匹見たら十匹はいるというGみたいに次から次に現れるものではなかったはずだ。

 もっとも、俺が知っているドラゴンより遥かに弱いので、魔法を使うまでもなく、剣一本で対処できる。


「気にしない気にしない。おにい、それでレベルは?」

「魔王のレベルが42といったところだ。あまり新しいスキルとか覚えないんだな」

「魔王のスキルは最初の方、闇魔法とかがほとんどだからね。それにしても本当に異常ね。私なんて魔竜を一匹倒してもレベル3にしかならなかったのに、魔竜を十匹倒しただけでもうレベル42とか」

「まぁ、こっちは経験値実質四百倍だからな」


 魔王だけでなく、すでに限界突破している火魔術師、水魔術師、風魔術師、土魔術師もまたレベルが上がって、スキルこそ覚えていないが、かなりレベルが上がっている。


「魔竜四千匹分の経験値と思えば42でも低い方だろ。そうか、闇魔法の成長がメインだから、あまり新しいスキルを覚えないのか」


 闇魔法は、見習い魔術師、魔術師、闇魔術師などでいろいろと覚えている。


「そうだ、悪魔召喚ってスキルを覚えたんだ。召喚魔法ってこの世界じゃ珍しいんだろ?」

「あぁ、そのスキルは死にスキルよ。悪魔族じゃなくて本物の悪魔で、契約するには魂の契約が必要だし、私たちより弱い悪魔がほとんどだから」


 そりゃ使えない。

 あれか? 願いをかなえてほしければ魂をよこせってやつか。


 俺のいまの願いは魔神関連だけど、悪魔が魔神をどうにかできるとは思えない。それどころか、魔神側に寝返ってしまいそうだ。

 ミリの言う通り、これは死にスキルだな。


「それより魔王の権威って覚えたでしょ?」

「ああ、魔王の権威は二回スキルアップして、いまは魔王の権威Ⅲになっている。これが例のスキルなんだよな?」

「うん、その魔王の権威は、屈服して忠誠を誓った相手に隷属の首輪のような制約を課すことができるんだけど、そうして眷属になった相手の経験値を自分の物にできるスキルなの。おにい、魔王の権威Ⅲなら、三十パーセントまで、十パーセント単位で経験値を徴収できるわ」

「ミリからも経験値を徴収できるのか」

「できるけど、私はおにいに負けを認めるつもりも忠誠を誓うつもりもないわよ。それより、いまは、おにい自身の他の職業から経験値を徴収できる。試してみて」

「わかった」


 俺はそう言って、魔王の権威を発動させる。

 果たして、本来は眷属相手に使うスキルを、自分自身に使うことなんてできるのだろうか?

 ただ、効果が出ているとしたら、火魔術師、水魔術師、風魔術師、土魔術師が取得できる経験値はそれぞれ三割減となり、魔王が取得できる経験値はその分増える。

 ざっと十二割増し、二.二倍になる。

 もともと四百倍の経験値が、いまは八百八十倍になるという計算だ。

 本当に効果があるのか、試してみたい。

 そう思ったときだった。

 ちょうど一匹の魔竜が近づいてきた。

 腰に差している守命剣を抜く。


「スラッシュ!」


 俺の斬撃が魔竜を一刀両断にした。


【イチノジョウのレベルが上がった】

【魔王スキル:魔王結界を取得した】

【魔王スキル:眷属強化を取得した】


 さっき魔竜を倒したときはレベル3しか上がらなかったのに、今回は一気にレベルが7も上がった。

 これは魔王の権威の効果が出ていると思っていいだろう。

 しかも、スキルを二個も覚えた。

 気になったのは眷属強化。

 魔王にも眷属の概念があったんだな、と思いながら、とりあえず覚えたスキルを確認することにした。


―――――――――――――――――――――――――――――――

魔王結界:補助スキル【魔王レベル45】

結界内にいる敵を逃がさないためのスキル。

魔王からは逃げられない。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 あ、これはミリがハッグに対して使ったスキルか。

 魔王からは逃げられないっていうのも、地球では有名だったが、もともとはここから引用されたセリフだったのか。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

眷属強化:補助スキル【魔王レベル45】

眷属のステータスを上昇させる。

上昇するステータスは主の能力と、眷属と主の距離によって変わる。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 眷属強化は、眷属のステータスを増強させるスキルらしい。

 眷属のもともとのステータスと俺からの距離に応じて効果が異なるそうだが、マイナスになることはない。きっと、ハルとキャロのステータスにも影響を及ぼしていることだろう。

 まぁ、迷宮にいる魔竜が逃げ出すことはないのでここで使うことはないだろう。


「ミリ、魔王結界と眷属強化を覚えたぞ」

「え、おにい、もうレベル45超えたの⁉ いや、確かに計算上はもう46になるか。私が苦労したこれまでの時間が馬鹿らしくなる速度ね。本当にチートよね」

「自分で言う分にはいいが、妹からでも他人からチートって言われるのはいやだな」

「なら、升って言う?」


 升、分解したらチートなんて説明しないとわからないことを言うのは止めてほしい。


「日本にいたころにそんなに成長してくれたら、就職難民にならずに済んだのに」


 ミリが痛いところをついてくる。

 確かに、俺がここまで強くなれたのは、成長チートのおかげだ。

 そこは否定できない。


「別に成長チートっていうのは天恵だけのことを言ってるんじゃないよ。おにいは日本にいたころは、とりあえず就職できたらいいって感じで面接を受けていたでしょ? 今みたいに、就職を目的として頑張るんじゃなく、自分の目的のための通過点と思っていたら、きっとおにいは私の思惑なんて全部無視して、就職できていたよ」

「……本当にお前は俺にとって痛いところをついてくるな」


 俺も心のどこかで気付いていた。

 俺は面接を受けた会社でなにかをしたかったわけじゃない。ただ、就職をして、ミリを養えるようになりたかった――いや、あの時はすでにミリは株や投資で養われる必要のないくらい稼いでいた。

 俺はただ、誰かのせいにしたくなかっただけなんだ。

 高校を中退したのは両親が死んだせい。

 ずっとバイトをしていたのは養わないといけない妹のせい。

 人生に失敗したのは誰かのせい。

 そんな風に思いたくなかった。

 だが、俺は心のどこかでずっと誰かのせいにしていた。

 だからこそ、俺は就職して証明したかった。

 両親が死んだのも関係ない、妹が幼いのも関係ない、俺は一人前の大人になれるのだと。


「おにい、考えすぎ。どうせ、カッコつけて、就職ができたら自分は一人前の大人になれたと証明できるんだ、とか思ってるんでしょ?」

「お前、まさかテレパシーが使えるのか?」

「そんなの後付け。おにいが頑張っていたのは私のためだし、一度だって私のせいで高校を中退したなんて思ってないでしょ? だからこそ私はおにいのことが好きなんだし」

「考えてなかったか? いや、考えていたと思うぞ、心のどこかで誰かのせいにしていたと」

「してない。妹が言うんだから絶対(あと、私の一世一代の告白をサラッと流したでしょ)」


 ミリがぶつぶつと文句を言う。後半は何を言っているのかわからない。

 そうか? 俺って本当に誰かのせいにしていなかったのかな?


「そもそも、おにいが高校を辞めたのも、いろいろと苦労したのも、勝手に自分で決めたおにい自身のせいなんだし、誰かのせいにできるわけがないでしょ」

「ぐっ、それを言われたらぐうの音も出ないな」


 ぐっと先に言っているから、ぐうの音は出ているのか。


「お前、何が言いたいんだよ。俺をただ傷つけたいだけか?」

「そうじゃなくて、本当に大切な目的が見つかったおにいは最強で最高だってこと」


 ミリはそう言って笑った。

 これまで散々俺を落としておいて、ここで一気に上げてくるとか、俺の妹はいつの間にこんな悪女になったんだ?

 うれしすぎて涙が出てきそうだ。


「ちょっと、おにい、休憩は?」

「休憩なんて必要ない。スタミナヒールを使えば体力はいつでも全快だ。いまは一匹でも多く魔竜を倒したい気分なんだ」

「もう、無理して倒れないでよ!」



 張り切って戦い、すぐに疲れ、スタミナヒールを使い、ミリに発破をかけられ、魔竜が再出現するまでの間に休憩を取ったりしながら、俺たちは魔竜と戦い続けた。

 ドロップアイテムとして、魔竜の鱗、肉、魔石が大量に集まった。肉はドロップ率七割を超えるうえに、一度に五十キロくらいの肉の塊を落とすせいで、アイテムバッグの中は肉庫になりそうだ。

さらにレアアイテムらしい魔竜の骨や角や心臓もいくつか集まり、丸一日が経った頃だった。

 俺の最初の目標が達成された。


【イチノジョウのレベルが上がった】

【魔王スキル:即死攻撃無効を取得した】

【魔王スキル:魔王の権威Ⅸが魔王の権威Ⅹにスキルアップした】

【魔王のレベルはこれ以上あがりません】

【称号:魔王の極みを取得した】


 魔王のレベルが100になった。

 ひとつの達成感があるな。

 魔竜の経験値が高いのもそうだが、魔王の権威のランクが上がるごとに成長チートの効率がよくなっていったのも大きい。

 レベル90になったときに魔王の権威Ⅸになったが、それにより、経験値の効率は千八百四十倍に膨れ上がった。

 そして、レベルが100になり、魔王の権威Ⅸが魔王の権威Ⅹになった今、その経験値効率は二千倍となる。


「おにい、お疲れ様。はい、これ」

「あぁ、ありがとう」


 ミリから飲み物を受け取って、ごくごくと一気に飲もうとした。

 しかし、思わず吹き出しそうになる。


「なんだこれ……ってあぁ、限界突破薬か」


 レベルが上限に達したとき、この薬を飲むことでレベルをさらに上げることができるようになる。

 おそらく、魔王のレベルの上限はいま、レベル200になったはずだ。


「もう、吹き出さないでよ。限界突破薬は貴重なんだから」

「いや、水だと思って……え? 休憩は? 仮眠は?」

「もちろん、ありません」


 ミリがにっこりと笑った。

 彼女はそう言って俺の首をつかむと、転移魔法を使って一つ上の階層に転移した。

 最下層の魔竜はだいぶ出現しなくなったが、上の階層には黒い虎の魔物が大量にいた。


「ミリ、この魔物は?」

「ブラックタイガーって名前の魔物ね。エビじゃないよ?」

「見たらわかる。なぁ、ミリ、これ何頭いるんだ?」

「さっき、おにいが頑張っている間に、この場所にブラックタイガーを集める香水を振りまいておいたから。大丈夫、五十頭はいないから」


 くそっ、と俺は腹をくくり、魔法を唱えたのだった。

 丸一日が経過したときには、魔王のレベルは148まで成長していた。

 とんでもないレベルアップだ。

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