戦いの果てに
すみません、以前話を間違えて重複させてしまったあと、調整するときに間違って一つ抜かしてました
今日は2話連続更新です
戦いが終わった。俺はキャロに伝令を送り、マイワールドにいることを告げた。暫くして、ララエルから魔物の数が激減したので、一時間以内にはマイワールドに戻ってこれると連絡があった。
ハルとシーナ三号も戻ってきた。ピオニアとニーテ、ふたりはテト様がいなくなった直後に、前のように動かなくなってしまったらしい。
ライブラ様も意識を取り戻し、現在、女神四柱による会議がログハウスの中で行われている。
俺の麻痺も完全に治ったが、いまは動く気にはなれなかった。
芝の上でひとり、胡坐をかいて座っている。
「おにい、座ってもいい?」
「ああ、いいぞ」
俺が許可を出すと、ミリは俺の足の上に座った。
驚いたが、そういえばミリが小学生の頃、こうやって俺の膝の上に座ってきたのを思い出した。そのときは、いつもミリが大切な話をするときだった。
俺は黙ってミリが話してくれるのを待った。
暫くして、ミリが口を開いた。
「魔神っていうのは、女神と逆の存在なの」
女神とは逆の存在?
「つまり、世界を破壊しようとする存在ってことか?」
「そうじゃないよ。そもそも、女神の役割っておにいは知ってるの?」
「そりゃ、別の世界から人間を呼び寄せて世界の破滅を防ぐのが目的だろ? なら、世界の破壊を防ぐんじゃなくて、世界を破滅に導くのが魔神なんじゃないか?」
「ううん、世界を救うという目的は同じ。手段が逆っていうだけ」
手段が逆?
「呼び寄せるのが女神なら、送り出すのが魔神なの。そうね、世界が車だと仮定するでしょ?」
「独楽の次は車か。それで?」
「女神の力は燃料の追加投入だとするのなら、魔神の力は車の軽量化。稼働距離が伸びるという点では同じでしょ? でも、車を軽量化しすぎたらどうなると思う?」
「車が壊れる……いや、最悪車そのものがなくなってしまう」
俺の結論に、ミリは頷いた。
「この世界から全ての生命が地球に送られたら、世界は滅ばない――まぁ、そんなの世界が破滅しているのと変わらないんだけどね」
ミリはそう言った。
こちらの生命が地球に――そんなことになったら世界は大混乱になるだろうな。
ドラゴンが地球で暴れるなんて、それこそ怪獣映画だ。
「そうはいっても、いまの魔神の力って女神ほど強力じゃなくて、せいぜい死者の魂を地球に送る程度よ。私のようにね」
ミリは少し申し訳なさそうに言った。
「私の魂はメティアスの実験で地球に送られたようなものなのよ」
そうか――俺はどうやってミリが日本人として転生したか聞いてこなかったが、魔神の力を使っていたのか。
「ごめん、詳しくは今度話すね。とにかく、おにいが気にすることじゃないわ。魂の数が増えたり減ったりするといっても、いま生きている人間にはなんの関係もないことだし。そりゃ、何万年もしたら世界に影響が出るだろうし――世界が滅ぶとしても何億年も先の未来のことだよ」
何億年――スケールの大きな話だ。
人類が誕生して、まだ一億年も経っていないはずだから、もしかしたら、それまでにこの世界の人間の科学技術が発展し、別の方法で解決策を生み出しているかもしれないな。
ミリが言ってくれたことで俺は少し安心した。
「そう単純な話じゃないよ」
会議が終わったらしく、ログハウスからコショマーレ様が出てきて俺に言った。
話を聞いていたのか。
「さっき、魔神の力は女神の逆だっていったよね? その通りさ。だから、もうひとつ別のことができる」
「別のこと? ……まさか」
「私たち女神の仕事はもうひとつ。ヒトから溢れる瘴気を魔物という姿に変えたあと人間に討伐させ、霧散させ、女神像から吸収。地脈に還すのさ」
地脈――そういえば、テト様を殺そうとしたとき、セトランス様は言っていた。
彼女が消失すればその魂は地脈に還るって。
地脈について俺はよくわからないけれど、恐らく、世界そのもののことなのだろう。
「じゃあ、逆に魔神となった彼女たちは――地脈から瘴気を生み出し、魔物を作り出すことが可能ってこと?」
ミリが尋ねた。
それって、まるで今回の事件と同じじゃないか。
「その通りさ。そうして魔物に世界を滅ぼさせたら、魂は転生する先の肉体を失う。そうなったら、もう私たちにもどうしようもできない。すべての魂を地球に送る以外にはね」
それって、まさに世界の破滅じゃないのか。
いや、きっとメティアス様にとっては違うのだろう。
メティアス様が視た破滅を防ぐために、魔神となり世界を破滅から守るために世界を滅ぼす。
人間の俺には到底理解できそうにない。
「まぁ、後は私たちがなんとかするから、あんたには関係のないことだよ。それに、そうなるには、魔神側も六柱を揃える必要があるから、何万年とまではいわなくても何百年も先の話さ。魔神になるにも女神になるにも適合者っていうのは限られているから、簡単に見つかるものじゃないんだよ」
そう聞いて、少しだけ安心した
「ちなみに、女神の適合者の筆頭がミリさんです。無理強いはしませんが、世界の救済のためにも、どうか考慮ください」
ライブラ様が現れて言った。
「わかったわ。でも、考える時間はちょうだい」
ミリは消え入りそうな声で、そう言うと、女神様たちは自分たちの世界へと帰っていった。




