正体不明のスキルアップ
かつて、ダキャットの迷宮から魔物があふれ出たとき、そのガラス玉を迷宮の奥の裂け目に投げ入れると、魔物の大量発生が止まった。
そういえば、セトランス様は、あのガラス玉は魔王ファミリス・ラリテイの命令で動いた誰かが、スッチーノに渡したって言っていた。
ああ、終わったことだからミリに聞くのをすっかり忘れていた。
「うん、これをさっき、魔法捜査研究所から支給されてね。これを二カ所の迷宮に使えば、事件が解決すると思うんだ。迷宮の奥にまでたどり着けるのは、僕と楠君しかいないって思って待っていたんだ」
「魔法捜査研究所か……流石本物は違うな」
俺みたいなスキルだけの俄かとは違う。
ちゃんと魔物の発生原因を調べ、対処法を模索していたのか。
「僕は初心者向けの迷宮に突入するつもりだ。楠君には中級者向けの迷宮で調査を頼みたい。必要ないと思うけれど、これは中級者向け迷宮の地図だよ」
必要ないって、俺は中級者向けの迷宮の内部構造は浅い階層しか知らない……あ、いや、魔物の流れを遡ったら辿り着くから地図はいらないのか。
「でも、俺と鈴木が抜けたらハルひとりで守らないといけないのか……正直不安だな」
「僕ひとりには任せたのに?」
鈴木は少しおかしそうに笑った。
まぁ、一対一で戦ったら、鈴木とハルならいい勝負をすると思う。
「まぁ、大丈夫だよ――もうそろそろくるはずだから」
「来る? いったいなにが?」
俺がそう尋ねたとき、階段の上から騒ぎが起こった。
ハルが心配になり、俺は階段を駆け上がった。
そして、その騒ぎの元凶を理解した。
中庭に巨大なワイバーンが迫ってきたのだ。
「ギルドの通信が回復していたから連絡をしてもらったんだ。キャロルさんに言われて、ポチには鼻栓をしてもらってね」
ワイバーンのポチ、牧場で預かっていてもらったが、軍に接収されたり殺されたり囚われたりしていなかったらしい。
あとから食事代の請求書が凄いことになりそうだが。
「なんとか間に合ってよかったです。これも女神様のご加護ですね」
「本当や。こんな美味しいシチュを見逃すとこやったからな。強くなったうちの実力、魔物たちに見せたるわ」
「……コー兄ちゃんのため、修業して強くなった」
ワイバーンから飛び降りたマイル、キャンシー、シュレイルの三人娘が言う。
どうやら、この三人娘、ただの観光のために鈴木と別行動していたのではなかったようだ。
三人とも――特にキャンシーあたり、魔王竜との戦いでほとんど手助けできなかったことを悔いていたのだろう。
短い間にしてはそこそこレベルアップをしていた。
「彼女たちが協力してくれるから、ハルさんへの負担は極力減らすよ」
「……そうか。ハル、夜が来るまでには終わらせる。全部終わったら、キャロと着ぐるみ部隊と一緒に俺たちの家に帰ってこい」
「かしこまりました――ご主人様、こちらをお持ちください」
「これは……守命剣?」
「はい。ご主人様の白狼牙は折れてしまいましたから」
疾風の刃ではなく、守命剣を俺に渡す。
そのハルからのメッセージはこれ以上なにも言わなくてもわかる。
「わかった――でも、ハルも自分の命は守れよ」
「はい。ご主人様もどうかご武運を」
ハルがそう言って俺を見送った。
鈴木からガラス玉を受け取り、割らないようにアイテムバッグの中に入れた。
「油断するなよ、鈴木」
「楠君こそ、油断しないでね」
俺と鈴木は別れた。
職業を、無職、剣聖、侍大将、神聖術師、光魔術師とバランスよく組み立てる。
生産系は今回は無しだ。
中級者向け迷宮の広場前は、既に迷宮の拡大は止まっていたが魔物が次々に溢れ出ていた。ただ、現れた魔物のうち三割ほどは、出現して直ぐに矢によって致命傷をくらっていた。毒を持つ魔物を中心に、ダークエルフたちが倒してくれているからだ。
俺は援護してくれたダークエルフに手を振って礼を告げ、迷宮の中に入っていった。
ダキャットほどではないが、
俺は中級者向け迷宮に突入した。
魔物の数が多いが、すべての魔物が迷宮から出ようと一直線に外に向かっていく。俺など目に入っていないかのようだ。
「ブースト太古の浄化炎」
巨大な炎が魔物の群れを一瞬にして蒸発させた。
しかし、蒸発してすぐに魔物が通路を埋め尽くす。
こりゃ倒していたらきりがない。
俺はもう魔物を無視することに決めた。
隠形を使って気配を消しながら、魔物の頭を踏みつけ、飛び越え、ひたすら前に、前に進む。
俺が遅れたら遅れる分だけ、ハルとキャロが危なくなるから。
「おっと、スラッシュ」
守命剣を振るう。
さすがに危ない魔物――クイーンスパイダー級の魔物はここで潰しておかないといけないからな。
他にも、俺に襲い掛かってくる魔物は時折現れたが、すべて守命剣の錆となった……いや、定期的に浄化を掛けている。本当に錆びさせたらハルが悲しむから。
こうして、俺は迷宮のボス部屋に辿り着いた。
次々と魔物が現れる空間の裂け目のようなものと、ライブラ様の女神像が見える。
空間の裂け目が瘴気を吸収し、そこから魔物を生み出しているのだろう。
俺は呼吸を整え、自分の体にスタミナヒールをかけると、アイテムバッグからガラス玉を取り出した。
あとはこれをあの裂け目に投げ込めば終わりだ。
そう思ったときだった。
空間の裂け目から巨大な魔物が現れた。
体のほとんどが溶け、骨が見えているところがある。
腐臭も酷い……これは噂に聞く、ドラゴンゾンビって奴か。
そう思ったとき、ドラゴンゾンビが紫色の息を吐きだした。
くそっ、毒か。
俺は腕で口を押さえながら、自分の体にキュアの魔法をかけた。
しかし、魔法が発動しない。
『魔物の毒の中には魔法が使えなくなる毒っていうのもあるからね』
鈴木が言っていた毒ってのはこれか。
俺はアイテムバッグから解毒ポーションを取り出して飲む。
効果がでるまで三分、その間魔法は使えないか。
ドラゴンゾンビはさらに毒の息を吐き出したが、
「二度も同じ手を喰らうか――竜巻切り!」
ドラゴンゾンビの毒息をまとった風が渦を巻いてドラゴンゾンビ自身に降りかかった。そして、見えた――ゴールへの道しるべが。
「これで終わりだ!」
俺が投げたガラス玉が、空間の裂け目に吸い込まれていった。
途端に、空間の裂け目が消えた。
【イチノジョウのレベルが上がった】
待て!
剣聖スキルとか神聖術師とかいろんなスキルを覚えたが頭に入ってこない。なんか結界魔法みたいなものを覚えたそうだけど、確認する気にもならない。
なぜなら、最初のスキルが衝撃過ぎたから。
【無職スキル:××××が××××にスキルアップした】




