敵陣からの脱出
すみません、昨日の更新分、同じ内容の投降になっていました。
ミリ?
なんでここに、東大陸にいるはずじゃないのか。
まさか、変化の腕輪で誰かが化けて――いや、それはない。
俺は十二年間、ミリの兄だった。そんな俺が妹を見間違えるわけがないと思うが、一応確かめてみた。
「……ミリ、フランス語で中世ヨーロッパの城塞都市の在り方の問題点について教えてくれないか?」
「こんな時に何言ってるの? そもそも、おにいはフランス語がわからないから意味ないでしょ?」
ミリが冷ややかな目で俺を見てきた。
その反応と返し、よし、間違いない、ミリだ。
「おにい、ハルワ、乗って! ここから脱出するよ」
「わかった!」
「かしこまりました」
俺とハルはフェンリルの背に飛び乗ると同時にフェンリルが飛び出し、南へと向かって進み始めた。
「ミリ、方向が逆だっ! 町に戻るんだ!」
舌を噛まないように注意しながら、揺れるフェンリルの背の上で俺は叫んだ。
町の方向は天幕から北にある。
このままでは町から遠ざかってしまう。
「このまま戻ったら町の兵にも襲われるよ。それに、そっちのほうが王国軍の警備も厳重だし」
うっ、たしかにフェンリルが町を襲ってくると勘違いされかねない。
「一度魔法封じの結界の範囲から脱出して、おにいの拠点帰還でマイワールドに戻るよ」
「――わかった」
反論できない。
飛んでくる矢を、俺とハルはスラッシュで射落とす。
「ミリ、なんでここにいるんだ。ダイジロウさんは飛空艇に乗って東大陸に行ったんじゃ」
「あれは陽動。私は途中下車をして、この子に乗って移動していたのよ」
途中下車って、電車じゃないんだから。
飛空艇を飛行船とするなら、途中下船じゃないだろうか?
「陽動ってなんのために」
「いろいろとね。私ってどうもこの世界への影響が大きすぎるから、私が関わるとどうにもノイズが大きくなるのよ」
ノイズ?
「おにい、ミルキーから本を買っておいてくれた?」
「――ここにあるぞ
これ、なんなんだ?」
「なにって、普通にBL本でしょ?」
「だから、なんでこれを買わせたんだよ」
「おにい、QRコードって知ってる?」
「二次元バーコードみたいなものだよな? 黒い点の」
当然知っている。
「そう。でも、特別なアプリを使えば、黒い点々じゃなくても、たとえば普通の絵を文字に置き換えることもできるの」
「ARコードって奴か?」
「ARコードじゃないんだけど、まぁそれでいいわ」
なんか説明を放棄された気分だ。
「静かな美術館で中学生の主人公(♂)が同級生(♂)の服の中に手をいれて背中を弄って、同級生(♂)は声を上げられずに悶えるシーンがあったの覚えてる?」
俺は頷いた。
これのどこが全年齢対応の漫画なんだって思わず叫びそうになった。
「この美術館の前衛芸術の絵画、この一枚を私のスマホのアプリで変換すると、とある数式になるの」
「数式?」
「そう。私が地球からアザワルドに行くためにした計算の逆。アザワルドから地球に行くための数式よ」
――っ!?
地球からアザワルドに行く――そんなことができるのか。
あながち嘘とは言えない。
その証拠がミリ自身だ。
彼女は独自の計算により、どこでいつ死ねばアザワルドにやって来られるかを計算し、その通りに実践した。
「ダイジロウにとっては喉から手が出るほど欲しいもの。これがマレイグルリにある限り、彼女にはこの町を見捨てる選択肢がなかったの。だから、私の途中下船が許可されたってわけ」
ミリから事情を聞いた。
「ご主人様っ! 前から攻撃が来ます」
今度は前からの攻撃――しかも魔法の攻撃だった。
火の玉が複数こちらに向かって飛んでくる。
「大した威力じゃないわ! フェンリル、突っ込んで!」
ミリの命令で、フェンリルは真っ直ぐ魔法へと突っ込む。火の玉はフェンリルに命中し、小さな爆発を起こしたが走る速度が緩むことはなかった。
「あの丘の上は魔法が使えるのか」
急勾配の丘――というよりかは切り立った崖があった。
「そのようね、おにい、ハルワ! しっかり掴まって! 舌を噛まないでねっ!」
ミリがそう言うと、崖の下に突撃させ、そのままフェンリルは崖を上った。
真上から火の玉だけでなく、岩や矢も飛んでくるが、フェンリルはお構いなしに崖を上り続ける。
そして、フェンリルがいよいよ崖の上に到達し、勢い余って飛び上がり、魔法兵を踏みつぶしそうになった。
「いまよっ!」
「拠点帰還っ!」
ミリの掛け声とともに、俺は魔法を放った。
途端、俺たちは三人と一匹揃ってマイワールドに降り立っていた。
「ご主人様、ミリ様、お疲れ様でした」
ハルはそう言って、ミリが降りる補助をした。
「ありがと、ハルワ。ふぅ、助かったね」
ミリはあっけらかんとした口調で、笑って言った。
いつもの明るいミリだな。
「ていうか、お前、素顔バレバレだったけど大丈夫なのか? 指名手配とかされるんじゃ」
「大丈夫大丈夫、今頃、本物の国王の死体がツァオバールの城内で発見されて、それどころじゃなくなるから」
やっぱりあの魔王は国王に化けていたのか。
国王の正体が明らかになったら、町の包囲網は解除されるだろう。
あと、残った問題は迷宮の拡大と魔物の大量発生か。
ダークエルフたちを派遣しているが、心配だ。
「町にすぐに戻ろう」
そう言ったとき、
「マスター大変デス! げっ、傍若無人魔王デスっ!?」
シーナ三号がやってきて、ミリの顔を見てうめき声を上げた。
「久しぶりね、シーナ三号。誰が傍若無人魔王かしら?」
「それより、何が大変なんだ?」
ミリに頭をぐりぐりされているシーナ三号に尋ねた。
シーナ三号は悲鳴を上げながら答える。
「ピオニアとニーテが倒れたデス!」
「なんだってっ!?」
俺はシーナ三号に案内され、ログハウスに向かった。
すると、シーナ三号の言う通り、ふたりがメイド服を着たままベッドに横になっている。
「いったいなにがあったんだ」
「ふたりは今朝から調子が悪そうにしていましたが、さっき急に倒れたのデス。恐らく、女神テト様になにかあったのデス――シーナ三号は魂はオリジナルで半分は機械の体の機械人間デスけど、やはり少しだけ倦怠感があるデスから」
テト様に異変?
ミリはふたりの頭に手を当てて何か考えている。
触診だろうか?
「ダメね。ふたりの魂は、女神テトによって作られた仮初の魂だから。コンピューターに例えるなら、メインサーバーが落ちたようなものよ。こっちからはどうしようもないよ」
「……だな。ミリは疲れてるだろ? ここでちょっと休んでいてくれ」
俺はそう言うと、マイワールドの出口を作った。
「あはは、さすがおにい……気付いた?」
「気付かないわけないだろ。お前、ずっと寝てないだろ」
航路計画では一週間も前に南大陸の最東端の村を飛空艇は通過している。
そこから地上を移動するとなると、いくらフェンリルの脚が速くても休む暇なんてないはずだ。
「おにいが思っているほどひどくないよ。転移を使って距離も稼げたし――昨日も一時間は眠ったから……」
と言ったところで、ミリがバランスを失い倒れかけた。
やはり無理をしているようだ。睡眠不足だけは回復魔法でもスタミナヒールでも治せない。
「ごめん、やっぱり休ませてもらうよ。薬で誤魔化すのも限界みたい。ここで出て行けばおにいに迷惑をかけちゃいそうだし――正直、魔力もほとんど残ってないの」
「ああ、休んでろ」
俺はミリを自分のベッドに運んだ。




