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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
マレイグルリ編

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まさかのお迎え

 罠だと知りつつイチノジョウとハルワタートのふたりが火中の栗を拾うために国王が待つ天幕に向かった――その頃。

 キャロルは洗濯屋に潜んでいた。

 事件の調査は既に行われ、いまは完全に無人の状態であった。

(イチノ様が頑張っているんです。キャロも頑張らないといけません)

 キャロはそう言って気合を入れる。

「キャロルちゃん、来たけどここにいるのかい?」

 買い物を終えたラナさんに、キャロルは鈴木を見つけてこの洗濯屋に来るように言伝を頼んだ。緊急の用事があると伝えて。

「待っていました、コータさん。お願いがあります」

「……僕は町に現れた魔物を退治しないといけないんだけど、それより重要なことなのかい?」

「勿論です。コータさんがひとりで魔物を退治しても限度がありますが、キャロの言う通りにしてくだされば、何十倍も効率よく敵を倒すことができます」

「……そうか。うん、信じるよ。それで、僕はなにをすればいいんだい?」

「はい――この着ぐるみをアイテムバッグに入れて運んでください」

「え? これを?」

 キャロルが言った着ぐるみ――本来は即売会で使われる予定だったものだ。

 無断で持ち出すことは本来許されないが、昨日になってようやくキッコリが即売会の主催者の場所を見つけ出すことに成功した。本来ならもう必要のない情報だったのだが、それが功を奏した。

 キャロルはここに来る途中、主催者にお金を渡し、着ぐるみを全て借りる許可をもらった。

 町の危機を救うためだと説明したら快く貸してくれた。

「でも、これをどこに持っていくんだい?」

「コータさんの家です。ラナさんに頼んで、イチノ様の仲間を一時的に二十人程匿ってもらっています」

 本来、家主の許可もなく二十人もの人数を家に呼ぶことはありえないが、しかし、ラナが持っているマニュアルには、『主人の不在時に食客が友人を連れてきた場合、主人が帰宅するまで最大限のもてなしをする』というものがあったので、たとえ二十人の人数を連れてきても彼女はマニュアル通りに応対をしてくれた。

「仲間? 匿う? ……もしかして、悪魔族の子もいるの?」

 鈴木はフルートのことを思い出してそう尋ねた。

 彼女のことは鈴木の心にも小さなしこりを残しており、無事だったなら一度会いたいと思っていた。

 キャロは首を横に振った。

「彼女は無事ですがそこにはいません。事情は後で話しますから。とにかく着ぐるみの回収と移動をお願いします」

「わかった」

 鈴木は頷くと、着ぐるみを全部アイテムバッグの中に入れた。

 そして、キャロルとともに、自分の家に戻った。

「おかえりなさいませ」

 ラナが頭を下げ、鈴木とキャロルを出迎えた。

 誰かを匿っているようには全然思えない、いつも通りの対応、マニュアル通りの対応だ。

「ラナさん、みんなはどこですか?」

 キャロが尋ねた。

「はい、広間にいらっしゃいます。こちらへどうぞ」

 広間に案内された鈴木は、そこで驚いた。

「ダークエルフっ!?」

 そこにいたのは、つい先日、教会の軍によって滅ぼされたと伝えられたダークエルフたちだったから。しかも全員女性であることにさらに驚いた。

 彼は、ダークエルフが女性しかいないことを知らなかった。

 イチノジョウは、国王の元に出向く前に、変化の腕輪でハルワタートをキャロルに化けさせる作戦を提案し、さらに町の治安にダークエルフたちの助力を得ることにした。

 マイワールドで彼はダークエルフたちに言った。

「みんなを守ると言っておきながら、こんなことを頼むのは間違っていることはわかっている。それでも、俺はマレイグルリの町を――そこに住む人を守りたいと思っている。頼む、協力してくれ」

 それに異を唱える者は誰もいなかった。


「イチノ様の仲間です。彼女たちなら、弓の腕は確かです。着ぐるみを着て、町の中の魔物を射てもらいます」

「矢は各々十分な数を用意しています。必ず役に立ちましょう」

 ダークエルフは、悪魔族と同じくいまや教会の敵だ。

 そんな彼女たちに協力を頼むことは、本来シララキ王国の貴族である鈴木にとって許されるはずはない。

 それでも、彼は頷いた。

「……わかった。あの悪魔族の子を助けたときから覚悟は決まってる。君たちのことはもちろん口外しない。ラナさんも誰にも言わないように」

「はい。お客様の秘密を口外してはいけないマニュアルに従います」

「でも、着ぐるみを着た状態で弓矢を扱えるのですか?」

 鈴木が出した着ぐるみのサイズを見ると、どうしても矢を射るときに弦が着ぐるみ部分に当たりそうに見える。

 そもそも、視界が悪い。弓を扱うにはこれ以上に不利な姿はない。

「日々訓練をしていますので平気です」

 ウサギの着ぐるみの頭を抱えてララエルが言った。

 ダークエルフの弓の訓練は多岐にわたる。暗中での訓練はもとより、視界の悪い場所での訓練や負傷した仲間を背負っての訓練も含まれる。

 着ぐるみを着ただけで精度を欠くようなことはない。

 結果、総勢二十名の着ぐるみ部隊がここに現れることになった。

「やれやれ、衛兵になんて言おうかな」

 しかし、これだけの弓術の精鋭――確かに心強いと鈴木は思ったのだった。


   ※※※


 タルウィと魔王――両方に逃げられたまま、俺たちは敵地のど真ん中に取り残された。

「ご主人様、少し休みましょう」

「あぁ、そうだな」

 幸い、国王の命令か、洗脳の効果か、誰ひとり天幕の中にはいってくることはない。

 せめて獣の血の後遺症が癒えるまではここで休んでおきたい。

 俺たちは一度、玉座の後ろに隠れて休み、獣の血の効果が切れるのを待った。

 天幕の外から騒がしい音が聞こえてきた。

 かなり騒々しい。

「陛下っ! 一大事ですっ!」

「陛下はどこに――」

 叫び声を上げようとした兵の鳩尾にハルは鞘に納めたままの剣を突いた。

 兵はうめき声を上げて倒れた。

「ご主人様――これ以上この場にいるのは危険です――」

「そうだな。少し体も動くようになってきた――ここから逃げるぞ」

 ハルにメガヒール、俺にもヒールをかけた。

 痛みが引いていく。

 でも、いまの一大事っていったいなんだ?

 そう思ったとき、俺は感じた。

 強大な気配がふたつ、こちらに向かって近付いてくることに。

 まさか、さっき勇者が言った『そっちの危険』って――

 そう思ったとき、巨大な爪が天幕を切り裂いた。

 まるでドラゴンのような巨大なその爪を見て、俺は思わず叫んだ。

「フェンリルっ!?」

 天幕を切り裂いて現れたのはフェンリルだった。

 そして、その背に乗っていたセーラー服姿の少女が現れる。

「やっほ、おにい! 久しぶり!」

 魔王が去ったと思ったら、旧魔王――ミリがフェンリルに乗って現れたのだった。

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