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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
マレイグルリ編

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国王軍からの手紙

「嘘だろ、本当にっ!?」

「お前がバカなこと言うからだ!」

 ミノタウロスが出て来たらいいなんて言った衛兵が、他の衛兵から怒鳴られている。そんなこと言っている場合じゃないだろうに。

 ミノタウロス――中級者向けの迷宮の最下層付近にいるような魔物だ。

 こんなところに現れるような魔物じゃない。

 その時、一頭のミノタウロスが、手に持っていた大剣で衛兵に斬りかかろうとした。

魅了(チャーム)

 キャロが魔法を唱えると、突然ミノタウロスが動きを変え、仲間のミノタウロスに斬りかかった。

「キャロ、ナイス!」

 俺は白狼牙を抜き、一気にミノタウロスの群れの中心に入り込むと、

「回転切り!」

 と五体のミノタウロスの胴体を切断した。

 そして、最後に一度刀を鞘に収め、キャロが魔法で操っているミノタウロスを居合切りで切断した。

「す、すごい――ミノタウロス相手に、まるでミニスライムを踏みつぶすかのように」

 ミニスライムを踏みつぶすって、赤子の手を捻るみたいな慣用句なのだろうか?

 戦いはまだ終わらないらしい。

 高さ二メートルくらいしかない穴の中から、身の丈五メートルはある金毛のミノタウロスが現れた。

 まるで吃驚箱の蓋をあけたかのような状態だ。

 階段を上ってくる気配はまるで感じられなかった。

 気配を消して上がってきた? それとも、まさか階段で湧いたのか?

「准男爵殿――危険ですそれはただのミノタウロスではありません。あれはキングミノタウロスです」

「ええ、知っています」

 ベラスラで戦ったことがあるからな。

 この程度なら敵のうちにはいらない。

 それにあの高さなら、誰かを巻き込む心配はないからな。

「ブーストファイヤ!」

 キングミノタウロスの頭が魔法で黒焦げになり、辺り一面焼き焦げた肉の匂いが立ち込めた。

「俺、もう焼き肉食えねぇ」

 衛兵のひとりがそううめき声を漏らした。

【イチノジョウのレベルが上がった】

【上級鍛冶師スキル:打ち改めを取得した】

【神聖術師スキル:回復魔法Ⅵが回復魔法Ⅶにスキルアップした】

【魔文官スキル:ログ記録を取得した】

【魔文官スキル:会話記録を取得した】

【魔文官スキル:ステータス記録を取得した】

【レシピを取得した】

 とりあえず戦闘はこれで終わりのようだな。

 打ち改めは使えるスキルだ。

 スキル、打ち直しを使ったとき、確率で現れる効果の中から良い効果が表れる確率が上昇するというものだった。

 新たに覚えた回復魔法は、リザレクションという魔法であり、HPと状態異常を同時に回復する魔法らしい。

 ログ記録、会話記録、ステータス記録は一カ月以内のログや会話、また確認したステータスを紙に書き写すことができるスキルらしい。 

「イチノ様っ! あれをっ!」

 キャロがなにかに気付き、迷宮の中を指さした。

 迷宮の壁は淡い光を放っている。そのおかげで、迷宮探索をするときに松明を持って入る必要がない。

 しかし、その光が段々とこちらに近付いてくるのは恐怖以上のなにものでもない。異常事態が発生していることが明らかだったから。

 そして、光はさらに広がりを見せ、ダンジョンの外の壁や地面にまで広がったのだ。

 と同時に、地面から湧きだすように歩くニンジンやキノコが姿を現したのだ。

「魔物がいきなりっ!?」

「市民の避難をっ!」

 どうやら弱い魔物だったらしく、衛兵たちが魔物を倒していくが、しかし次から次に魔物が現れる。

「ご主人様、いったいなにが起こっているのでしょうか」

「町の一部が迷宮化した……んだと思う」

 そんなことがあり得るのか……一体何が起こっているんだ。

「大変だ! 迷宮が溢れてきて魔物が湧き出た!」

 そう言って男が掛けてきて、初心者用の迷宮を見て、

「うわ、こっちもかっ!」

 と叫び声をあげた。

「おい、あんた! 迷宮が溢れたって、中級者向けの迷宮もこんな感じなのか」

「あ、あぁ、そうだ! いや、あっちの方が酷い。毒持ちの魔物もいるし、死人も出ている――いまは衛兵によって封鎖されているけど」

 こっちで現れる魔物は弱い魔物ばかりだからな。

 でも、もしもキングミノタウロスがあのまま野放しにされていたら、死人が出ていただろう。

「あんたも早く逃げろ! もう狂乱化の呪いの騒ぎは終わったんだろ? なら町の外に出ても平気なはずだ!」

「……もしかして、みんな町の外に向かってるのか?」

「ああ、そうだ」

 俺は下唇を噛んだ。

 ここで魔物討伐の手助けをするべきかとも思ったが、

「キャロ、俺に掴まれ! ハル、ついてこい!」

 俺はそう言うと、キャロを背負って正門に駆けだした。

 大通りに出ると市民が多く、まともに走ることができない。

「ご主人様、屋根の上を行きましょう」

「そうだな――キャロ、舌を噛むなよっ!」

「はいっ!」

 俺たちは屋根の上に飛び移り、道ならぬ道を駆けた。

 さながら忍者のようだ――見習い忍者になっていた時期があったけれど。

 そして、俺たちは城壁の上に辿り着いた。

 運よく、見張りをしていたのは俺のことを知っている男だったので、何か言われることはなかったが、しかし、現状は思っていたより最悪だった。

 正門の前に広がっていたのは、人の死体だった。

 あちこちに矢が散らばっており、何人かが矢に突き刺さって倒れている。

「嘘だろ? 軍って国民を守るためにあるんだろ。なんでまだ国民を攻撃してるんだよ」

 倒れている人の職業を調べた。

 死んでいる人の職業はわからない、彼らは全員死んでいるようだ。そう思ったとき、ひとりの女性から【平民:Lv1】の職業が見えた。

 俺は隠形スキルを使い、城壁から飛び降りた。

 スキルで気配を消しているにもかかわらず、何本かの矢が飛んでくるが、俺はそれらを無視した。肩に矢が突き刺さるが、痛みはほとんど感じない。

 それを抜き、倒れている女性に駆け寄った。

 彼女は背中に矢を受け、既に息絶えていた。俺は彼女の冥福を祈りながら、自分の身を犠牲にし、腕の中で守っていた者を抱え上げる。

「……悪い、遅くなった」

 そう言ったとき、その子は笑っていた。

 まだ一歳にも満たない赤ちゃんだ。この子は自分の母親が殺されたことに、まだ気づいてもいないのだろう。

「……すまん」

 俺はそう言うとさらに飛んでくる矢を避けるように駆け、城壁の上に戻った。

 突然走り出したことで、赤ちゃんが大きな声を上げて泣き出した。

「准男爵様――」

「この子を……頼みます」

 俺はそう言って、泣きじゃくる子供を衛兵に預け、自分の肩にプチヒールをかけた。

「なんなんだよ――みんなおかしいと思わないのかよ」

 俺は国王軍を見た。

 なんで、平然と自国の人間を殺すことができるんだよ。

 そう思っていたら、兵の一人が将校らしき男に抗議をしているのが見て取れた。

 中には良識のある人間もいるのか――と思ったその時、抗議をしていた兵が将校らしき男に胸を一突きにされた。

「なんだよ、それ」

 ここからじゃ、会話の詳細はわからない。

 けれど、刺されるようなことなのか?

「イチノ様、あの将校の動き、キャロが魅了の魔法を使ったときの魔物に少し似ています。一部の将校は何者かによって洗脳されている可能性があります」

 キャロが言った。

「洗脳? もしかして国王も洗脳されているのか?」

「わかりません」

 どうする。

 前みたいにピコピコハンマーと竜巻切りで軍隊を全員気絶させるか?

 いや、軍は広範囲に広がりすぎている。

 順番に気絶させていっても、最初に気絶させた人間が目を覚ます。

「国王が洗脳されているのなら、国王の洗脳を解けば解決できるんじゃないか?」

 洗脳ならディスペルを使えば回復できるはずだ。

「国王が洗脳されていなくても、そいつを人質に取れば――」

「ご主人様、一人で無茶をしないでください」

 ハルが言った。

「俺がやらないとダメだろ」

「ご主人様が行くのであれば、私もお供します」

 ハルが言った。

 彼女の参戦は正直、心強い。

 全方向から飛んでくる矢を俺一人で防ぐのは難しいが、ハルとふたりならば大半の矢を防ぐことができるからだ。

「イチノ様、ハルさん、落ち着いてください。無茶です! それより、イチノ様、門の前が混乱していて門を閉めることができないようです。一度離れた場所に移動させるため、セイレーンの歌を使って市民を誘導したいと思いますので協力してください」

 キャロに言われた通り、門の前は混乱している。

 俺は彼女に従い、広場近くの屋根の上に移動し、拡声札を渡した。

 キャロは大人の姿に変わり、セイレーンの歌を歌った。

 キャロの歌声に誘導されるように、市民たちが町の広場にやってくる。幸い、このあたりには迷宮から遠いので魔物はいないようだ。

 その時だった。

 誰かが屋根の上に現れた。

 いったい誰だ――と警戒し、その正体を知ってさらに警戒する。

 現れたのは副市長の秘書のフェリーチェさんだった。

「イチノジョウ殿、あなたが何故ここに――」

「知っていて来たわけじゃないんですね」

「ええ――私が用事があったのはそちらの女性です。正門で混乱があれば、必ず現れると思っていました」

 キャロに?

 いや、キャロが変身できることは俺以外知らないはずだ。

「国王軍から一通の手紙が届きました。先日、市民が町から出たとき、一人の女性が歌って市民を鎮めたという報告を受け、その人間が事件の黒幕である可能性が高いので国王の御前に出頭するように――とのことです。黒幕とあなた――双方が拡声札を使っていたという記録がありますから」

「――私は黒幕ではありません」

「この子に拡声札を用意したのは俺だ。本当に関係ない」

 俺がそう言ったが、フェリーチェは首を横に振った。

「もしもあなたが出頭しない場合、国家反覆罪の罪人捕縛のため、町に軍を出動させる――そう手紙に添えられていたのです」

 そうなったらどうなるか?

 市民を平気で射る国王軍だ。最悪、大虐殺が起きかねない。

「選択肢はない……というわけですか」

「ええ。幸い、ひとり、同行が認められています。私が共に行き、彼女の弁護をしましょう」

「いや、俺が一緒に行くよ」

 キャロが犯人でないことくらい国王軍もわかっているはずだ。

 狙いは俺か? それともキャロか?

 とにかく、無策で国王軍に行くわけにはいかない。

 俺は城壁の上に戻り、ハルに事情を説明。

 今後の作戦を立てることにした。

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