突然の手配書
俺はミルキーを連れて鈴木の家に戻った。
「ラナさん、帰りました。すみません、部屋の用意をお願いします」
「はい。お客様が恋人以外の女性を連れ込んだときのマニュアルは――」
ラナさんがなにかよからぬことを言い出した。
そんなんじゃない。
「あ、あの、部屋を用意してくれるだけでいいです」
「かしこまりました。直ぐに部屋を用意します」
ピンク色の走馬燈のような照明、大きめの布団が敷かれて枕が二つ。
あのお手伝いさん、いったいどんなマニュアルを製作しているんだよ。
とりあえず、ミルキーを布団に寝かせた。
その時、ミルキーが目を覚まし、周囲の状況を確認すると、上半身を起こして後ずさった。
「……その……なにを……もうされたあと?」
ミルキーの顔に哀しみの表情が浮かぶ。
「違う違う、変なことするつもりはないしなにもしていない」
こういうときだけ普通の女の子の反応するなよ、調子が狂う。
「ああ、こうしてふたりで話すのは初めてだったよな」
俺がそう言うと、ミルキーは無言で二度頷いた。
まだ俺のことを信用していない。
くそっ、やりにくい。
とりあえず、ピンク色の照明は消して、障子を開け、外からの光を取り込む。
「お前が倒れたから、ここまで連れてきたんだよ」
「さっきの男の人は?」
「その場で別れてきた」
「……邪魔してすみません」
むしろ救われたんだけど。
「ミリって知ってるか? あぁ、ミリュウって名乗ってたかもしれないが」
「はい、知っています。飛空艇の中でお話をしました」
「ミリがな、お前の本を買うようにって俺にメッセージを残したんだ。どういうことかわかるか?」
「私の本を買う?」
ミルキーは首を傾げながらも、鞄から一冊の本を取り出した。
「ミリさんから頼まれていたのはこの本です」
彼女が俺に渡した本は一冊の本だった。
「それを売ってくれないか?」
「ミリさんから、銀貨十枚でと言われています。全年齢対応の本なので、キャロルさんに見せても大丈夫ですよ」
全年齢対応でもキャロに見せるつもりはない。
「わかった。これでいいな?」
俺は銀貨十枚を渡して本を受け取ったが、おかしなことに、それはフェリーチェが持っていた本と同じ本だった。
なんでミリはこんな本を俺に買わせようとしたんだ?
「そういえば、フリオとスッチーノもこの町にいるのか?」
「いえ、ふたりは飛空艇です。私は同人誌の即売会に参加したかったので……魔法通りに借りている倉庫で本と一緒に寝泊まりしています」
あぁ、魔法通りに本を保管していたのか。
あのまま洗濯屋で本の反応がなければミルキーを発見できたということか。
「で、ミルキーの他の本はどこにあるんだ?」
「興味あるのですかっ!?」
「ない、断じて」
俺は即答した。
「今回書き上げたのはその本だけなので、内容はほとんど同じです」
「ほとんど? 違うところがあるのか?」
「その本は見本刷りでして、その後いくつか修正を加えたものが商品なんです」
「そうなのか」
それでも、やはりミリがこれを買わせようとした意図がわからない。
「……じゃあ、飛空艇はミリとダイジロウさん、あとフリオとスッチーノが乗っているのか?」
「いえ、他にも職員が何人か乗り込んでいるようです。昔、高級レストランで修行していたというシェフとか、腕のいいマッサージ師、医者、音楽家、バーテンダーなど」
「どこの高級クルーズだよ」
ミリの奴、まさかお酒を飲んだりしていないよな?
前世が魔王だろうと、身体は中学生なんだぞ。
「で、飛空艇がどこに向かったかはわかるか?」
「詳しくは聞いていません。ただ、ミリさんが航路計画を見て東大陸のウィブル湖を指さしていたのは覚えています」
「東大陸のウィブル湖?」
「はい、水の大精霊がどうとか言っていました」
水の大精霊……日本のファンタジー知識なら、ウィンディーネかな?
火の大精霊、サラマンダーがいるくらいだし、ウィンディーネがどこかに封印されていてもおかしくはない。
とりあえず、これでこの町ですることは終わった。
発信札のことや魔物の異常発生の件も残っているが、国王軍の包囲網が解かれたら、まずは悪魔族についての情報収集をしないとな。
俺はそう思って廊下を歩いていると、
「楠君っ! 大変だっ!」
また大変な出来事を持って鈴木が現れた。
「なんだ、鈴木」
「冒険者ギルドの通信機能が回復して、外からの情報が入ってくるようになったんだけど、その情報の中には犯罪者の指名手配情報があって――ジョフレ君とエリーズさんが指名手配されたんだ」
「どうせなにかの勘違いだろ? むしろ指名手配が出るってことはあいつらが元気な証拠――」
「そんなのんきなこと言っている場合じゃないよ。ジョフレさんとエリーズさん、秘密の抜け道から大聖堂に忍び込んで、囚われている悪魔族を脱走させて姿を消したんだ」
「なんだってっ!?」
あまりの予想外の展開に俺は驚きを隠せない。
フルートが諦め、俺は絶対にできないと思っていたことをあのバカふたりがやってのけたのか?
「なにかの間違いだろ?」
「間違いで十万センスの賞金首になるとは思えないよ。僕もさっきまで取り調べを受けていたんだ。一緒に町に入った情報があったから。楠君の事情も話しておいたから、君が呼び出されることはないと思うけど」
鈴木から二枚の手配書が渡された。
しかも似顔絵付きだ。額が十万センスになっている。
「どうするんだよ、こんな大ごとにしてしまって」
相変わらず想像もつかない行動をしているあいつらに向かって、俺は届かぬ声でそう呟いたのだった。




