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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
マレイグルリ編

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日雇い労働者の誇り

 代わりに、箱の中から一冊の本を取り出した。

 その本には、ふたりの男(かなり美形)の絵が描かれていた。

「やれやれ、おかしいと思ったんですよ。最近、なにかと私の邪魔ばかりするあなたが、こんなくだらない本を探しに来たと聞いて――最初から私が犯人だとわかっていたのですね」

「もちろんさ。もっとも、確信できたのは、あの札――魔記者が使う札を見たときだったがな」

 ハルが、流石ご主人様です、という目で俺を見てきた。

 違うぞ、ハル。お前ならわかっているはずだろ?

 俺がこの店に入ったのはミルキーの本があるからだけだ。

 魔記者の札を見たとき、俺は単純にこの洗濯屋、職業は魔記者なのかな? って思ったくらいだ。

 確信を持ったのは魔記者か確認しようとして、

【鬼術師:LV52】

 だったとき、え? もしかしてこいつが犯人なのか? こいつが犯人なら、術にかかった人間の私物を盗まなくても洗濯物として預かれば問題ないよな――って思ったんだ。

 今更、実はなにもわかっていませんでした――なんてカッコ悪すぎて言えないが。

「しかし、あなたは大きなミスを犯した。私が犯人だと気付いていたのなら、何故これを渡したのですか?」

 洗濯屋が右手に握っていたのは、俺のハンカチとハルのスカーフ。

 そして、左手はアイテムバッグの中に入っている。

 彼は左手から、三つの宝石を取り出した。

 そのうちのひとつが淡い光を放った。

 すかさず宝石鑑定をする。

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 職奪の宝石

 相手の名前を告げることで、相手の職業を奪い、己のものとする。

 奪った職業のスキルは、己のものとして使える。

 奪われた人間が死ぬと宝石は砕ける

 使用済み:マ物使い

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 職奪の宝石っ!?

 しかも、マ物使いって、俺たちを襲ってきた新進気鋭の冒険者と同じ職業じゃないか。

 そんなものを取り出して、どうするんだ?

「本の間に魔物を封印し、召喚して使役することができるマ物使いという職業があってね」

 本の中に魔物を封印?

 マ物使いの懐の中から蛇が飛び出してきたことがあったけれど、あれは服の中に手帳サイズの本を忍ばせていたのか。

「それがあればこんなこともできる――」

 その瞬間、本の中から四体の金属人形――ゴーレムが現れた。

「こんなゴーレム、足止めにしかならないぞ」

 俺はそう言って、金属人形を蹴飛ばした。

「足止めできれば十分さ!」

 男はそう言って、俺のハンカチとハルのスカーフを掲げた。

「呪術発動! 狂乱化の呪い」

 ふたつの職奪の宝石が砕け、黒い光が浮かび上がり、まるで俺とハルの影のような形を作って消えた。

 ふたり同時に呪いをかけるって、呪術にクールタイムはないのか。

 俺とハル、ふたりが持っていた身代わり人形が音を立ててはじけ飛んだ。

 呪いをかけようとしたのか。

「身代わり人形かっ」

 鬼術師の表情に焦りが浮かぶ。

「残念だったな。呪術師の家に潜り込むのに身代わり人形くらい用意しているさ」

 男は奥の部屋へと向かった。

 逃がしてたまるか。

 俺はそう言って、最後のゴーレムの右肩部分を切り落とした。

 もう少しで道が開ける。

 マネキンだらけの部屋に逃げ込んだ男だったが、裏口はないようだ。

 袋の鼠だ。

 ここでもゴーレムが二体、俺を待ち構えていた。

「くっ、最後のひとつだが仕方がない。呪術発動、狂乱化の呪い」

 さらに影が現れ、ハルの形を作って消えた。

「ディスペル」

 ゴーレムの攻撃を素手で受け止めながら、即座にハルを治療、解呪する。

「それで最後のひとつだったよな? バカな奴だ、俺が治療できることくらいわかってるだろ」

 俺はそう言って、最後のゴーレムを切り倒す。

「わかっていないのはお前のほうだ。呪術と違い魔術にはクールタイムがある。そして、職奪の宝石がなくとも呪術は発動できるのさ!」

 男が不敵な笑みを浮かべた。

「狂乱化の呪い――ごぼっ」

 鬼術師の吐血とともに発動した黒い光が俺の形を作った。

 しまった――

 男の職業が【鬼術師:Lv1】になっている。

 自分のレベルを犠牲にして呪いを発動させ、それでもなお呪術の効果で苦しんでいるのか。ハルが剣を構えて男に飛び掛かる――が、マネキンが突如として襲い掛かってきた。

 しまった、このマネキンもゴーレムだったのか。

「世界に救済を――」

 男がそう言った。

 呪術が発動する――俺が狂戦士になってしまう。

 もう終わりだ。


「……で?」

 俺はそうほくそ笑んだ。

 終わったのは俺じゃない、男の方だった。

「なんだと? 何故だ……」

 顔を歪ませる男に、俺は苦笑して言った。

「日雇い労働者のプライドって奴かな?」

 焦った、マジで焦った。

 狂乱化の呪い、発動したと思ったよ。

 でも、

【求職スキル使用中につき、第一職業は変更できません】

 ってメッセージが表示されたんだ。

 本当に危なかったよ。

「日雇い労働者……意味がわから……」

 そう言って鬼術師は倒れた。

【イチノジョウのレベルが上がった】

【司書スキル:自伝作成を取得した】

 ゴーレムの分の経験値が入ったようだ。

 男を職業鑑定で調べても職業とレベルがわからなくなった。

 死んだのだろう。

「ご主人様、男の様子がっ!?」

 ハルはなにかに気付いて叫んだ。

 鬼術師の姿が変わっていく。

 頭に角が生え、肌の色も褐色になっていく。

 まさか、第二ラウンドか? と身構えたが。変身したのではなく、死んだことで変身が解けただけらしい。

 鬼術師の腕を調べたら、特徴的な腕輪があった。

 装飾品鑑定で調べる。

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 変化の腕輪

 己が望む姿に変わることができる腕輪。

 体積は変えることができない。

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 なんか凄いアイテムだな。とりあえず、これは回収しておくか。

 その後、俺はディスペルで自分にかかった呪いを解呪して、店の中を見て回った。店の奥で、さっきまでの鬼術師と同じ顔の人間の死体を見つけた。

 どうやら、本物の洗濯屋は既に殺され、化けていたのだろう。

 他にめぼしい手がかりはなかったので、俺は衛兵を呼んだ。

「これで全部解決したのだろうか?」

 俺はそう呟いた。


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