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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
マレイグルリ編

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幕間話 ケンタウロスの飼い主

ちょっとこいつらの動きが必要なので

 マレイグルリに入っていながら、その町の現状について全く知らない男女がいた。

 ジョフレとエリーズである。

 もっとも、彼らが本当にマレイグルリの中にいるのかはふたり本人ですらわからない。鈴木の倉庫で偶然見つけた隠し階段を降りていき、秘密の地下道を探索という名を借りて、何日も彷徨い続けている。

 本来、彼らが持っていた食料だけではここまでの探索はできなかっただろう。

 しかし、彼らにはケンタウロスという名のロバがいた。この食い意地の張ったロバは、地下道の中に僅かにある食用のキノコの場所を目敏く、いや、鼻敏く見つけては食べており、ジョフレとエリーズもまたその恩恵にあずかっていた。

 勿論、なにもない探索というわけではない。


「出たぞ、フィッシュリザードだっ!」

「因縁の対決だねっ! ここで会ったが百年目だねっ!」

 現れたのは、尻尾に尾びれのついた巨大蜥蜴だった。

 地下道にある水飲み場が、どこかの池か湖と繫がっているらしく、卵が水で流されてきた結果、水生の魔物が現れることがある。

 フィッシュリザードもその類――地下道で生まれ育ち、繁殖してきた魔物である。

 それにとって、人間を見るのもまた初めてだっただろう。

 だが、魔物の本能か、フィッシュリザードはジョフレとエリーズを見つけると一直線に突撃してきた。

 フィッシュリザードの強さは中級レベルの冒険者が戦う魔物だった。

「痺れ鞭っ!」

 エリーズの鞭がフィッシュリザードの脚に絡みついた――と同時にフィッシュリザードの動きが止まる。麻痺の効果が発動したのだ。

「さすがエリーズっ! ええと、マレイグルリで聞いたんだが、こういうときは『そこに痺れる憧れる』って言うらしいぞ!」

「えっ!? ジョフレも痺れたの!? 解麻痺ポーション持ってないよっ!?」

「俺はいつも痺れてるぞ。エリーズに恋して心が痺れているんだ」

「ジョフレ……私もジョフレの言葉に痺れちゃうよ」

 バカップルはどんなときでもバカップル。

 むしろ、ふたりしかいないせいで歯止めが利かない。

 スラッシュを打ち込むイチノジョウもいなかった。

 だが、空気を読んだのか、麻痺の効果が切れたフィッシュリザードが動き出す。

「ジョフレっ!」

「回転切り!」

 ジョフレは回転しながら大きく飛んで、フィッシュリザードの頭に致命傷を与えた。

 ふたりはふたりなりに修羅場を潜り抜けてきたので、剣士としても魔物使いとしても成長していた――

「これって、トリプルアクセルって言うんだぞ……いや、トリプルスピンだったかな?」

「どう違うの?」

「加速してるのがアクセルで、回ってるのがスピンなんじゃないか?」

「加速もしていたし回ってもいたよ?」

「じゃあトリプルアクセルスピンだな!」

 ――頭以外は。

 ふたりは日本の言葉を適当に聞いているだけでその本質は全然理解していなかった。

 トリプルスピンもトリプルアクセルもフィギュアスケートの用語であり、この場合不適切であることもそうだったが、そもそもジョフレは一回転しかしていなかった。

 とまぁ、そんなこともあったが、ジョフレたちはこのようにしてキノコだけでなく、フィッシュリザードの肉という貴重なタンパク源も入手していた。

 その半分を切り分け、焚火で焼く。

「フィッシュリザードのお肉なら、ケンタウロスに食べられる心配もないね――あれ?」

「そうだな。なんてったって、ロバは草食だからな――あれ?」

「「あれ?」」

 ふたりは同時に首を傾げた。

 その時だった――ケンタウロスが焼けたばかりのフィッシュリザードを食べた。

「あ、思い出した。そういえば、俺たちが最初にケンタウロスに出会ったときも」

「ケンタウロスにフィッシュリザードのお肉を食べられたんだった」

 そしてジョフレとエリーズはあることに気付いた。

 それは、彼らにとって驚きの出来事だった。

「もしかして、ケンタウロスって普通のロバじゃないんじゃないかっ!?」

「もしかして、ケンタウロスって普通のロバじゃないんじゃないのっ!?」

 普通の人には今更の話だったが。

 そして、それがわかったところで――

「ケンタウロス、次に焼くのは俺たちの分だからな」

「ケンタウロスの分はその次に焼いてあげるからね」

 ふたりのケンタウロスに対する扱いが変わるわけでもなかった。


 そんなこともあり、食料の心配がなくなった二人はさらに地下道を進んでいった。

 そして、そろそろ探索も飽きたし家に帰ろうかなって思い始めた頃――二人は見つけた。

 明らかに他の通路とは違う扉のようなものを。

「もしかして、宝の部屋か? エリーズ、何が欲しい?」

「えっと、私はふかふかのパンが欲しい!」

「俺は新鮮な野菜だな。キノコと魚肉ばかりの生活は飽きてきた」

「ケンタウロスはきっとどっちでもいいよね」

 宝よりも食に飢えていたふたりが扉を押した。

 だが、扉は開く気配がまるでない。

 いったいどうやったらいいんだ?

 そう思ったとき、ジョフレとエリーズが見つけたのは見覚えのあるくぼみだった。

「ジョフレ!」

「ああ、例のくぼみだ」

 ジョフレはかつて見張りの塔で見つけた勾玉をくぼみに嵌めた。

 扉が重い音を立てて開いていく。

「お宝だ! 野菜だ!」

「お宝だ! パンね!」

 喜び扉の向こうに出たジョフレとエリーズだったが、そこで見たのは無機質な鉄格子とひとりの修道服を着た老婆の姿だった。

 彼女は椅子に座って、パンと野菜屑の食事を食べていたが、入ってきたジョフレたちを見て立ち上がると、

「あらあら、来てくれたのね、私の可愛いスロちゃん」

 そう言って、ケンタウロスを撫でた。

「あなたたちがこの子を連れて来てくれたのね」

「ああ。俺の名前はジョフレだ! そしてこいつはケンタウロスだぞ、婆ちゃん」

「私の名前はエリーズ。ケンタウロスのこと知ってるの?」

「あらあら、いまはケンタウロスって名前なのね。丁寧な自己紹介ありがとう」

 老婆は柔和な笑みを浮かべ、自身の名と役職を告げた。

「私の名前はミレミア。かつてはこの大聖堂で助祭をしていた、かつてのこの子の飼い主よ。教会では死んだことにされて、もうずっとこの場所で監禁されているけどね」

 老婆――ミレミアの思わぬ告白に、ジョフレとエリーズは顔を見合わせた。

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