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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
マレイグルリ編

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混乱する町

 正門の前は大変な騒ぎだった。

 門が今にも破られようとしていたのだ――しかも内側から。

 怒号が飛び交っている。衛兵の声はほとんど聞こえない。聞こえてくるのはこの町の市民たちの声だ。

「ここから出せっ!」

「こんな町にいられるかっ!」

「衛兵共を縛り上げろ!」

 内乱――いや、騒乱だ。

 町の中で狂乱化の呪が発動し、さらに市の職員までもが狂乱化の呪いにかかったことが判明。いつ、自分の隣人、家族が狂戦士になるかわからない。そんな恐怖が人々を暴徒にした。

 これはキャロの予想通りの光景だった。そして、これは俺一人で止められるものではない。

 俺は人がいない城壁沿いに走り、そこから木の枝の上に飛び乗り、さらに城壁の上に飛びあがった。

「なにものだっ!」

「俺はイチノジョウ。准男爵だ」

 准男爵のブローチを見せると、衛兵たちが敬礼をした。

 兵といっても大半は平民。爵位を持つ騎士はこんなところにいない。

「しかし、准男爵様がいったいなぜこのようなところに?」

「この騒乱の顛末を見せてくれ――なにも起こらなければ――最悪の事態が起こらなければ、それでいいんだ」

「最悪の事態が起こらなければですか――しかし、門は今にも破られ、既に最悪の事態ですが」

 衛兵が言う。こいつは本気で言ってるのか?

 騒乱。混乱。町からの脱出。

 こんなのは全然最悪じゃない。キャロが杞憂で済めばいいと言い、俺が恐れた最悪の事態ではない。

 俺は城壁から、遥か遠くを見る。そこでは国王軍がいまだに列を成し、町を取り囲んでいる。なにも動かない。

 それが酷く不気味だった。

「准男爵様、狭間から外を覗くのは危険です」

 見張りの衛兵がそう言った。

「……城壁には見張りの兵しかいないのか? 町を囲まれているのに?」

「囲まれていますが、彼らは敵ではありません。同じ国のために戦う兵――同胞ですから」

「刃を向けられても、まだ同胞か……」

 それは信頼していると呼べるのだろうか?

 俺には、ただ考えることを放棄しているようにしか思えない。

 最悪の事態について想定するのはひどく疲れるから。

 俺はそう思い、汗を拭った。

 ただでさえ南大陸は熱帯の気候なのに、それに加え市民の熱狂による熱波がここまで伝わってくる。

「なにか冷たい飲み物を用意させましょう」

「いや、必要ない」

 その時、市民たちから歓声が起こった。

 どうやら門が破られたようだ。

 市民が我先にと門から外に出ていった――その時だった。

「――っ!」

 外に出た市民たちにむかって、国王軍たちが一斉に矢を放ったのだ。

 最悪の事態が起こった――国王軍は町から誰も出さないと決めた。

 それが武力という形になったのだ。

 まさか自分たちを守ってくれるはずの兵から矢を射かけられるとは思っていなかった。門から出た市民たちから悲鳴がとどろいた。

 俺は城壁から飛び降り、市民の前に出る。

「ブーストメガアイスっ!」

 前方に、巨大な氷の塊を作り出し、矢の攻撃を一時的に防いだ。

 ついでに、さっきまでの暑さが嘘のように涼しく――いや、寒くなる。

「みんな、いまのうちに門の中に戻るんだっ! 国王軍は俺たちが外に出たら本気で殺すつもりだ!」

 俺の叫びは、ある種失敗だった。

 矢の攻撃を目の当たりにした人間は慌てて門の中に戻ろうとするが、なにも知らない門の内側の人間は外に出ようとする。

 狭くはないが、しかし門の中心はパニックだ。そのうち、何人か圧死しかねない。

 そのときだった。

 どこからともなく歌が聞こえてきた。

 その優しい歌声に俺は思わず聞き入ってしまった。

 気付けば、門の外にいた人も門から外に出ようとしていた人も、歌声が聞こえる門の中へと入っていった。

 途端に歌声はぴたりと止み、正気を取り戻した衛兵は急いで門を閉じ閂を掛けた。


 いったいなにがあったんだ?

 それと、あの歌――昔、聞いたような気がする。

 と俺は周囲を見て、歌声が聞こえてきた方向を見た。

 遠くの屋根の上でふたつの影が動くのが見えた。

 俺は急いでその影が動いた方へと向かう。

「やっぱり――」

 そこにいたのはハルとキャロだった。キャロは大人の姿で立っている。

 さっき聞こえてきた歌――俺がキャロと初めて会ったときに俺を呼び寄せた歌と同じものだった。

「すみません、イチノ様。差し出がましいことをしました」

 キャロはそう言って、いつもの姿に戻った。

「助かったよ。でも、あの歌は?」

「夢魔の女王のスキル――セイレーンの歌声です。歌を聞いた人間を催眠状態にし、誘導するスキルです」

「セイレーンか」

 セイレーンはギリシャ神話に登場する、綺麗な歌声で船を呼び寄せ、沈めてしまうという海の魔物だ。

 こっちの世界だったら魔物ではなく亜人かもしれないが。

 イメージだと、翼の生えた人魚みたいな感じだからな。

 なるほど、確かにさっきの歌声はセイレーンの歌と呼んでも過言じゃない力を感じた。

「でも、よく、あそこから門の外まで声が届いたな。それもセイレーンの歌の効果か?」

「イチノ様が下さった拡声札のお陰です」

 キャロはそう言って、効果を失いただの紙切れとなった札を俺に見せた。

「ご主人様はこうなることを予想してキャロに拡声札を渡したのですね。感服いたしました」

 ハルが感心するが、普通に通信札と間違えて渡しただけだ。

 セイレーンの歌声なんてスキル、覚えたことも知らなかった。

「セイレーンってこの世界にもいるのか?」

「ケンタウロスと同じく、かつてはいたとされる種族ですね。各地で伝承は残っていますのでいたことは確かでしょうが証拠はありません。もしかしたら、キャロと同じような力を持った海の種族が、自分の姿を悟られまいと作り出した幻影だったのかもしれません」

「そうかもしれないな」

 俺は頷いて言った。

 そして、俺は市民たちを見る。

 国王軍から矢を射かけられたことが、市民たちの間に広まった。もう町から出ようとするものはいないだろう。いや、俺の知らないところで、正門以外の場所から出ようとして、死んでいる人間がいるかもしれない。

「これで暴動は治まると思うか?」

「町の外に出ようとする人は少なくなるでしょう。しかし、町の中の治安は悪化するでしょうね」

「キャロもそう思います。それに、多くの人は誰も信用できずに家の中に引きこもることになるでしょう。食料不足の懸念もあります。初心者向けの迷宮に生息する魔物が例年以上に活性化しているのは唯一の救いかもしれませんね」

 初心者向けの迷宮も魔物が大量発生しているのか。

 初心者向けの迷宮の魔物は食材をドロップする植物系の魔物が多いって言っていたよな。

 幸い、中級者向けの迷宮のようにランクに合わない魔物が現れることはいまのところないらしい。せいぜいレアモンスターが現れる程度なのだとか。

 しかし、この魔物の大量発生と狂乱化の呪い、そして国王軍の容赦ない攻撃。

 本当にこの町はどうなっているんだ?

なんか、殺伐とした世界になってきて、もっとヒロインとイチャイチャラブラブだけする作品を書きたいなと思い、短期集中連載ですが、成長チートと同じ世界感の別作品を書いています。


同じ世界感といっても、共通の登場人物はトレールール様くらいで、全然違う話ですが

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