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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
マレイグルリ編

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クイーンスパイダー

 翌朝、俺とハル、鈴木の三人で中級者向けの迷宮に入っていった。

「そういえば、レアモンスターが発生して、犠牲者が出たって言っていたな」

 中級者向けの迷宮でレアモンスターが発生して犠牲者が出たといえば、フロアランスでのフィッシュリザード大量発生の事件を思い出す。

 あのとき、ひとりの冒険者が巨大トカゲに呑み込まれて命を失った。

「うん。まぁレアモンスター関係なく、中級者向けの迷宮では年間十人、初心者向けの迷宮でも年間三十人くらいの人が亡くなっているそうだけどね。そこはやっぱり迷宮だってことかな」

 鈴木が、まるで「戦争があったら人間が死ぬのは仕方のないことだ」みたいな感じで言った。

 初心者向けの迷宮のほうが死者が多いのは意外に思ったが、すぐに考えを改めた。

 初心者向け迷宮の恐ろしさは俺もわかる。

 山賊に殺されかけたのは例外としても、一階層でコボルトにも殺されかけたくらいだ。あの時は剣が抜けなくて本当に大変だった。むしろ、そういうドジをするような迂闊な人間は中級者向けの迷宮に行く前に命を失うのだろう。

 俺たちと鈴木はそこから別行動を取った。

 ハルが魔物の臭いを頼りに道案内してくれた。

 途端に、小さな蠍の群れが現れる。

 明らかに毒を持っていそうな紫色だ。

「毒のある魔物は少ないって話だろ」

「ご主人様、パープルスコーピオンは警戒色ですが毒はありません。ただ、臭い液体を出します」

 臭い液体って、ある意味毒より嫌だな。

 剣で斬って臭いが飛び散るのは嫌だ。

「これだけ小さいと剣で当てるのは面倒だな。魔法で一掃するぞ」

 俺はそう言うと、「ファイヤー、ストーン、ウォーター、ウィンド!」と、何が弱点かわからないので、とりあえず基本の四属性の魔法を放ってみた。

 結果からいえば、弱点なんて調べる必要はなかった。四種類、どの魔法でも直撃すれば一撃死だった。

 しいて言えば、一番範囲の広い水魔法が有効だった気がする。

「臭いものは洗い流せってことか――メガウォーター!」

 大量の水が物凄い勢いでパープルスコーピオンたちを洗い流していった。

 一気に司書のレベルが上がった。

 細かい内容は迷宮を出てから確認しよう。

「って、しまった。これじゃ臭いまで洗い流してないか?」

「確かに臭いがかなり薄くなってしまいましたね。魔物の臭いを嗅ぎ取るのは難しそうです」

 ハルが申し訳なさそうに言った。

「ですが、この先にいた魔物はどのみちご主人様の魔法で洗い流されているでしょうから、別の道を進みましょう」

「あぁ、そうだな――ちなみに、あの道の先に人はいなかったよな?」

 どうやら昨日今日の範囲ではいまの道は誰も通っていないらしい。

 一安心し、俺たちは別の道の探索を始めた。

「しかし、本当に魔物が多いな。お、宝箱だ」

 五十を超えたあたりから、魔物の数を数えていない。魔石も半分以上拾っていないが、それでもその数は四十を超えている。

 魔物の数に比例して、宝箱の数も多かった。

 上級者向けの迷宮と違い罠もなくミミックもない。中に入っているほとんどが少し大きな魔石だったり、回復薬だったりした。

 宝箱ごと回収して、アイテムバッグの中に入れている。

「――ご主人様。あちらからも人の気配が……どうやら、かなり危険なようです」

 危険な状態と言われて迷うことはなかった。

 ハルが前を走り、俺を誘導する。

 冒険者と思われる人間が虫の糸でぐるぐる巻きにされてるのが天井から吊るされていた。

 まるで枝から垂れ下がった蛾の繭みたいな状態だ。

 中からは人の気配があるし、こんな状態でも職業を鑑定することができるのでまだ生きているらしい。

 虫型の魔物はいない――どうやら置き去りにして去ったようだ。

 糸を少し触ってみたが、かなり粘着性があり、剣やナイフで直接斬るのは面倒そうだ。

 スラッシュで切るにも、中にいる人まで傷つけてしまう恐れがある。

 破壊を使った上で手加減すれば、服や鎧だけのダメージで済むが、あれはクールタイムの都合上、ひとりを助けるのが精いっぱいか。

 凍らせたうえで斬るのも、やはり中の人への影響が出そうだ。

「ご主人様、ここは私にお任せください」

 ハルはそう言って、守命剣と疾風の刃を構え、地を蹴った。

 そして、次の瞬間、彼女の二本の短剣は糸を切り裂いていた。短剣が糸にくっつく暇も与えない、糸だけを切り裂く剣技。

 速さと緻密さ、双方を必要とする剣技は俺には真似できないな。

「ってあれ? こいつ、チュートゥじゃないか」

 チュートゥがここにいるってことは、残りの糸に包まれているのはもしかして。

「ハル、頼む」

「はい――」

 俺の予想通り――三人の職業を見た時点で気付くべきだったのかもしれないが――残りの糸の中にはキッコリとインセプがいた。

 キッコリの奴、キャロと会えない用事って、この迷宮の魔物の間引き活動だったのか。

 とりあえず外傷は見当たらない。

 意識が戻らないのは毒の影響だろうか?

 麻痺ならアンチパラライの魔法もあるのだが。

「キュアサークル!」

 範囲系の状態異常回復魔法で治療して様子を見ることにした。

 これで体調が戻ればいいのだが。

「ん……ここは」

 魔法の効果があったのか、それとも単純に時間が経過したお陰か、最初にキッコリが目を覚ました。

「気付いたか?」

「…………あんたは……そうか、また助けられたのか。他の二人は無事か?」

「ああ、意識は戻ってないが、怪我もないしキッコリと同じ治療もしたし大丈夫だと思う」

「イチノジョウ、頼む! ふたりを連れて逃げてくれ!」

「どうしたんだ? 急に」

「蜘蛛の魔物が襲ってくる。あれはきっと、マザースパイダー……いや、クイーンスパイダーだ!」

「クイーンスパイダー?」

「蜘蛛の凶悪な魔物です。本来、中級者向けの迷宮、しかも上層に出るような魔物ではありません」

 俺が問うと、ハルが答えてくれた。

 要するに強い蜘蛛ってことか?

「そうだ! 野生のクイーンスパイダーは時には下級のドラゴンをも捕食するという凶暴な魔物だ。迷宮で生まれたばかりの奴はそこまでじゃないが、しかし普通の人間が勝てるわけがない。俺は体力が戻れば後から逃げる。ふたりはチュートゥとインセプを連れて先に逃げてくれ。奴は獲物を糸を使って動けなくした後、自分の子供を連れて戻ってくる性質が――」

 キッコリがそう言ったときだった。

 ハルが何かに気付いたらしく、剣を構えて通路を見る。

 そこから現れたのは、無数の蜘蛛だ。

 あれが、蜘蛛の子供? 一匹一匹が体長五十センチくらいあるのに。

「くっ、もう来やがった」

 キッコリの表情が絶望に染まったが、こんなの絶望どころかいい経験値に過ぎない。

「竜巻切りっ!」

 斜めに、手前に引くように剣を振るうと剣先から現れた竜巻が子蜘蛛を切り裂いていく。

 本当に小さい蜘蛛は雑魚だな。

 これなら一匹くらい捕まえて、マイワールドで養蚕ならぬ養蜘蛛で、糸を紡げるようにしても……いや、この蜘蛛の糸って毒とかありそうだしダメだな。

 全部殺しておこう。

 次々に子蜘蛛たちがドロップアイテムの魔石へと姿が変わっていく。

 そして、最後の一匹を倒したそのとき、俺目掛けて太い糸が飛んできた。

「プチファイヤ」

 飛んできた糸は俺に届く前に炎で消し炭になった。

 そのまま糸を飛ばしてきた張本人に当たればラッキー程度に思っていたが、やはり避けられた。

 巨大な紫色の蜘蛛はプチファイヤを飛び越え、俺の前方約十メートルのところに着地する。いま、ざっと五十メートルは飛んできたな。

 巨大な体の割に、身のこなしは軽いようだ。

 なるほど、下級の竜程度の強さがあるというのはあながち嘘ではなさそうだ。

 俺は自分の刀――白狼牙の柄を握り、前に飛んだ。

 クイーンスパイダーもそれに合わせて糸を吐こうとする。

「エンチャントファイヤっ! 一閃っ!」

 魔法剣士スキル、付与魔法により炎を纏った俺の刀が俺に向かって飛んでくる糸を上下に分断する。

 そして、俺の体はまるで砲弾にでもなったかのように、クイーンスパイダーに飛んで行った。

 近くまで迫ってきた俺に、蜘蛛は四本の前脚で攻撃をしかけてくる。

「剣の舞っ!」

 ダンサースキル剣の舞により、俺は四本の脚による攻撃を踊るように躱していき、そのまま四本の脚を切り落とした。

 そして、トドメの一撃。

「兜割り」

 頭部への強力な一撃は、クイーンスパイダーを巨大な魔石と糸束、ふたつのドロップアイテムに変えるには十分だった。

【イチノジョウのレベルが上がった】

 終わったな。

 スキルに関しては今回も迷宮から出てから確認しよう。

 それにしても、辻斬り犯のスキルである瞬殺を使うまでもなかったな。

 まぁ、下級のドラゴンとタメを張るようなやつが、魔王竜やレヴィアタンを倒した俺に勝てるわけがないってことだ。

「す……すげぇ。強いのはわかっていたが、ここまでとは」

 キッコリは腰が抜けたのか、その場に倒れこんだ。

「ご主人様にとって、この程度は準備運動にもなりません」

 いやいや、ハルさん、それはさすがに言い過ぎでは?

 さすがに準備運動の域は超えてますからね。

 正直、蜘蛛の糸が飛んできたときは焦った。

 魔法剣士の付与魔法なんてほとんど使わないから忘れかけてたよ。

 まぁ、忘れてたら忘れてたで、ファイヤを使って糸を燃やしてたと思う。でもそうなったら、そのファイヤが蜘蛛に直撃して、今度こそ魔法で殺してしまっていたかもしれない。

 それって、カッコつけて刀を抜いた手前恥ずかしいからな。

「ん……ここは……はっ!? 蜘蛛が、蜘蛛がやってくるぞ! チュートゥ、起きろっ!」

「蜘蛛に食われて死ぬなら、剣士の本望……」

「寝ぼけるなっ!」

「はっ、蜘蛛に襲われて死ぬ夢を見た……」

「夢じゃねぇっ! まだ死んでないけどっ!」

 インセプとチュートゥが目を覚まして騒ぎ始めた。

「おい、安心しろ。あのバカでかい蜘蛛ならイチノジョウの兄ちゃんが倒してくれたよ。ほら、あれが魔石だ」

 キッコリがふたりに、落ちている魔石を見せた。かなりデカイ。カネーシャの魔石と同じくらいの大きさだ。

「え? イチノジョウさんっ! 助けてくれたのか――ってあの蜘蛛を倒したのかっ!? すげぇっ! 半端ねぇっ!」

「救援、心から感謝する」

 チュートゥのほうが冷静な気がするが、目を見ると、まだ寝起きで意識がはっきりしていないだけに見える。

「気にするな。体は動くか?」

「大丈夫っす」

 インセプがそう言って立ち上がろうとするが、そのまま尻餅をついた。

 まだ体力が回復していないのだろうか?

 チュートゥの方が寝ぼけてはいるが体力の回復が早かったらしく、インセプに肩を貸して立ち上がる。

 キッコリも回復したようで、一緒にインセプを支えた。

「悪いな、イチノジョウ。俺たちは一度地上に戻るよ」

「道順はわかるか? なんなら地上まで護衛するぞ」

「大丈夫だ。あの化け物蜘蛛みたいな例外が出てこない限り低階層の魔物は倒せるさ。俺たち傭兵が守られてばかりはカッコ悪いだろ」

「そうです、安心してください。俺ももう少ししたら歩けるようになりますから」

「然り。我が剣技、蜘蛛には通じなかったが錆びついてはおらぬ」

 チュートゥは相変わらずカッコいいようなことを言う。

 まぁ、ここに来るまでの敵は大体倒してきたから、暫くは大丈夫だろう。

「そうだ、イチノジョウ。キャロルの嬢ちゃんにあまり変なことを調べさせるなよ。俺も知り合いに聞いているが、場所がわかっても絶対に行かすなよ」

「あぁ、あの件か。そういえばキッコリが調べてくれているんだったな。大丈夫、場所さえわかったら俺がひとりで行くつもりだ」

「ならいいんだ」

 キッコリは少し安心したようで、インセプとチュートゥとともに地上に戻っていった。

 俺とハルはダンジョンの魔物狩りを再開する。

「しかし、中級者向け迷宮にこのレベルの魔物が出てくるのか。上級者向け迷宮のカネーシャほどじゃなかったけれど、そこそこ強かったぞ?」

「迷宮でもなんらかの異変が起こっているのかもしれませんね」

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