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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
マレイグルリ編

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幕間話 空の上と大地の下

 そこがどこの雲の上なのか、楠ミリにはわからない。

 せめて太陽が見えれば、星が見えれば方角がわかるのだが、唯一あった窓も現在は木の板で塞がれている。

 オシャレな部屋に合わないその木の板は、突貫工事によるものだと推測できた。

「どう? 食事、あんまり食べていないみたいだけど。シェフがあなたのために作った料理よ。しかも、今日はお母さん風お弁当なのに」

 ダイジロウが最近のミリの食欲不振について言及する。

 まったく食べていないというわけではないが、半分以上食事を残していた。

「この船にシェフは乗ってないでしょ。レストランで購入して、アイテムバッグに入れたものじゃない」

「便利だからそれでいいじゃない。せめて、ご飯だけは食べてね。ほら、のりたまふりかけもわざわざ用意したんだから」

 ダイジロウはそう言って、お弁当箱にあるミリが食べなかったから揚げを摘み、口に運ぶ。

 彼女がから揚げを飲み込んだのを確認し、ミリは徐に口を開いた。

「それ、さっき床に落としたから揚げよ」

「え? うそ」

「うそ」

 僅かな沈黙が流れ、

「……ファミリスは意地悪になったね」

「こんなところに閉じ込められたらいじわるにもなるわよ」

 ダイジロウはそう言ってため息をついた。

 そして、たこさんウィンナーを食べる。

「それで、ファミリス。あの手紙の意味はなんなの? ミルキーの本を買えって。あのラムネのビー玉のメッセージを見て、ミルキーの本を確認したけれど、特に変わった内容はなかった。ただのBL漫画だった。だから、私は即売会で売ることも許可した」

 指を嘗めながらダイジロウはウェットティッシュで指を洗い、ミルキーの本をアイテムバッグから取り出した。

 若い男同士のR―18展開はダイジロウは嫌いではないらしく、少し見入っていた。

「当然よ。あの本に意味はないわ。あれは、おにいを明日までマレイグルリに居させるための方便だもの」

「方便? なんのために?」

「明日、マレイグルリにツァオバール軍一万二千が侵攻を開始する」

「国王軍が自国の首都に攻撃するっていうのっ!? もしかして、あの子がその侵攻を止めるための鍵だっていうの?」

「まさか。おにいがどう動いても侵攻は止まらない。おにいの役目はもっと別にある」

 ミリはそう言ってお弁当箱に入っていたふりかけの封を切った。

「おにいには、世界の救済の役目がある。破滅を回避するための役目が。世界の終焉を回避するための役目が」

 砂時計の砂のように零れていくふりかけを見ながら、彼女は言った。

「待って、ファミリス。あなたの未来を見る能力は数秒先の未来だったはず。でも、今日のあなたの言葉はまるで……」

 ダイジロウはなにかに気付き、そして尋ねた。

「ファミリス、あなた、どこまで(・・・・)見えているの?」

 その問いに、ミリは答えない。

 ミリは窓の外に目を向けようとした。

 木の板しか見ることができなかった。


   ※※※


 ジョフレとエリーズは、現在、鈴木の家の倉庫の地下に入口があった謎の遺跡の調査を行っていた。調査といっているが、別に何を調べているわけだはなく、とにかく歩いている。

 かつてダンジョンであったらしいその遺跡は、魔物はいなくても明かりは残っており、松明がなくても奥に進むことができた。

「見て、ジョフレ! 食べられそうな茸があったよ!」

「こっちもだ!」

 ジョフレとエリーズは、赤い茸と青い茸を採取する。

 当然、どっちも毒キノコだ。

 ジョフレとエリーズは採取してきた茸を大きな扉の前で待っているケンタウロスの前に置いた。

 ケンタウロスがジョフレとエリーズを助けに来てくれたのは数日前のことだが、何故か扉の前に座ると座り込んで動かなくなった。

 そのため、ジョフレとエリーズが食べ物を運んでいる。

 ケンタウロスは運ばれてきた毒茸を食べたが、動く気配はない。

 最初はケンタウロスを引っ張ったり押したりして動かそうとしていたジョフレたちも、すでに諦めモードで食事をしていた。

 干し肉だ。

 肉以外の食事はすでにケンタウロスの腹の中に収まったので、干し肉しか残っていなかった。

「美味しいね、ジョフレ」

「そうだな、エリーズ。でもそろそろ水が無くなりそうだぞ」

「補給に戻らないといけないね。そうだ、戻ったらジョーにもこの場所を教えてあげようよ。ジョーもきっと喜ぶと思うよ」

「それは名案だな! みんな呼んでピクニックをしよう!」

「ピクニック!? 楽しみ! サンドイッチとおにぎりを作ろうね」

「知ってるか? エリーズ。この国では、おにぎりには黒い紙を巻くんだぞ」

「え? そうなの? なんで黒い紙じゃないとダメなの? 赤はダメなのかな?」

「赤い紙はダメなんだ。赤い紙っていうのは、この町の人にとってはこれから戦います! っていう意味の紙なんだそうだ」

「そうなのっ!? それはピクニックには向かないね」

「だろ? だから黒い紙がいいんだ」

「あ、ジョフレ! 赤より黒がいいのなら、干し肉を巻いたらいいんじゃない? お肉って、もともと赤いのに干し肉になったら黒くなるでしょ? それを巻いたら、戦いはやめてみんなで美味しくピクニックしましょうっていう意味にならないかな?」

「それはいいな! でも、干し肉は硬いからご飯に巻くには合わない……そうだ! 焼いた肉を巻けばいいんじゃないか?」

「うん、いいよ、ジョフレ! とっても美味しそう!」

 それは、この世界に肉巻きおにぎりの概念が生まれた瞬間だった。

 その時だ。

 興奮しているエリーズの手から干し肉が零れ落ちた。

「あ、私の干し肉が……あれ?」

「大丈夫か……ん?」

 エリーズが落とした干し肉――その近くに小さなボタンがあった。

 エリーズは警戒をまったくせずに、ボタンを押す。

 巨大な扉が音を立てて奥へと開いた。

「……凄い……もしかしてこの先には宝があるのか?」

「そうだよ、ジョフレ! それに、奥から水の音が聞こえるよ!」

「飲み水かっ! いそげ、エリーズ! 宝と水が俺を待っているぞ!」

「うん、ジョフレ!」

 ふたりは喜び、奥へと進む。

【ありがとうございます】

 女性の声が聞こえた気がした。

 エリーズは振り返ったが、そこには立ち上がり、ゆっくりとついてくるケンタウロスがいただけだった。

「エリーズ! 湧水を見つけたぞ!」

「本当!? すぐに行くよ」

 エリーズは気のせいだろうと思い、ジョフレの声がした方に向かって走っていった。

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