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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
マレイグルリ編

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タルウィとの戦い

 つい先日、一緒に魔王竜と戦ったタルウィが、何故ここにいるのか?

 そして、何故俺に斬りかかってくるのか。

「なんのつもりか……か。ここに戦いがあるからだ」

 タルウィが突きを放つ。以前、キャンシーと戦ったときよりも鋭い突きを俺は横に躱したが、突如剣の軌道が変わり、俺の横腹に当たる。

「ぐはっ……」

「……斬れない。変わった服を着ているようだな」

 ヤバかった。ララエルが作った服がなければ、完全に斬られていた。

 なんてパワーだ。

 いくらタルウィの獣戦士としてのレベルが高いからって、この速度は……まさか。

「獣の血を使っているのか」

 獣の血――十分間、力と速度を劇的に上昇させる獣戦士のスキルだ。

 外に放たれるスキルは、恐らく足下の光のせいで霧散するが、体内の血の循環に関しては無効化されないのか。

 こんなの不利でしかない。とっととここから出るとするか。

拠点帰還(ホームリターン)!……はやっぱり発動しないか」

 俺はアイテムバッグからラッキーハンマーを取り出し、扉に向かって振りぬいた。

 MPを一瞬込めることで通常プラス百キロの重みのハンマーだ。

 これで壊れない扉は――

 ぐわぁぁぁんという音が室内に響くが、扉は無傷だった。

「なんて頑丈な扉なんだ」

 俺はそう言ってハンマーをアイテムバッグにしまう。

 速度が勝るタルウィ相手にハンマーで戦うことはできない。

「これでわかっただろ。ここから出られない」

「あぁ、そうだな、出られそうにない」

 俺はそう言って汗をぬぐう。

「タルウィさん。いいのか? あんたも閉じ込められてるぞ。俺を倒したところで飢え死にだぜ?」

「心配する必要はない。すべてが終わればここから出られる。私はな」

 そうか――やっぱりタルウィは外に出られるのか。

 俺はアイテムバッグから二枚の札を取り出した。

 俺はそのうち、一枚の札を破った。

「(それは……消音札か……なんのつもりだ?)」

 十分の一の声量になっても、雑音のない部屋だ。タルウィの声は俺のところまで届く。

 札はスキルではない。問題なく使えるようだな。

「(なぁに、扉を開けて貰おうとおもってな)」

 俺はそう言うと、拡声札を取り出した。

 十分の一の音量の声しか出ない空間で十倍の音。

 これを使えば普通の声を出すことができる。

 そして、スキルを発動させる。

「タルウィだ! イチノジョウは倒した! 扉をいますぐ開けろ!」

 俺はタルウィの声で言った。

 コピーキャットスキル、声真似。

 自分の声を変えている。声は喉から発せられるため、獣の血と同じく使用可能なスキルだった。

 ……ってあれ?

 声を完全にコピーしたはずなのに、扉が開く気配がない。

「(ははは、面白いスキルだ。そうか、他人からは私の声はそのように聞こえているのか)」

「早く扉を開けろ! 聞こえてるのか!」

「(無駄だ、外にいる連中は私たちがここに入った時点ですでに引き上げている)」

 裏ワザは通用しないか。

 ならば――

「お前を倒せばここから出る方法を教えてくれるのか?」

「(あぁ、いいだろう。ついでに、私が何故このようなことをするのかも教える)」

「よし――じゃあ、早速邪道」

 俺はアイテムバッグの中から、ミリの大好物、くさやを作るためのくさや汁を取り出して、ぶちまけた。

 強烈な異臭が室内に充満する。

「(なんだ、この臭いはっ!)」

 タルウィの表情が苦痛に歪む。

「どうだ、鼻のいい白狼族にとってはさぞつらいだろう」

 俺も正直言って辛い。

「(卑怯な――だが、楽しいな)」

 タルウィはさらにもう一本、剣を抜いた。

 二刀流か。

「(戦いは生きるか死ぬか。卑怯や邪道こそが戦いの本質だ)」

 タルウィの二本の剣が双頭の蛇のように俺に襲い掛かる。

 タルウィの剣がぶれて見えた。顔を守っていたせいで、それ以外が無防備だ。服越しにダメージが伝わる。

 なんだこれは――。

 俺は距離を取る。

 スキルは使えないはずじゃないのか。

「スラッシュっ!」

 剣戟を放とうとするが……やっぱり発動しない。

 ならば――一度白狼牙を鞘に納め、居合抜き!

 と白狼牙を抜くも、普通に抜いただけでスキルは発動しない。

 俺が試行錯誤しているうち、タルウィが距離をつめてきて攻撃を仕掛けてきた。

 やはり剣がぶれて見える。

 防戦一方だ。

 攻撃に使えるスキルがあるのか?

「消音札の効果が切れたようだな。私も早く終わらせるとしよう。獣の血の効果も残り僅かだ」

「そうしてもらえると助かる。引き分けってことでここはひとつ――」

「そうはいかない」

 タルウィの剣が俺に襲い掛かり、生傷が増えていく。

 まずい、このままじゃ本当に負ける。

 魔法が使えないのが誤算だった。魔法が使えたら絶対に負けないのに。

 いままで魔法やスキルに頼りすぎていた。

 もっと、魔法やスキルに頼らない戦い方をするべきだった。

(ん? あぁ、そういうことか)

 俺はタルウィの剣の動きをよく見る。

 蛇のような剣の動きに惑わされそうになったが、全部錯覚だ。

「鉛筆を揺らせば曲がって見えるってか」

 スキルが使えない空間でスキルが使えると思って焦ったが、違った。

「簡単な理屈だった。タルウィ、お前の攻撃はスキルじゃない。技術のみで成しえた剣技ってわけか」

 俺がそう言っても、タルウィは答えない。

「沈黙は肯定とみなすぞ」

「答えがわかったところで魔術師のお前に負けるわけにはいかない」

「じゃあ、俺も奥の手を使わせてもらうとするよ」

 俺はそう言って、ニヤっと笑った。

「いや、奥の手じゃない。手前の扉かな?」

 俺はそう言うと再度アイテムバッグからラッキーハンマーを取り出し、力付くで扉を殴りつけた。

 凄い音がするが、やはり扉が変形することはない。

 まったく、どんな材質でできているのやら。

 しかし――

「なっ!?」

 タルウィが扉を――いや、扉の向こうにある気配を見る。

 どうやら気付いたようだ。

 扉が音を立ててゆっくりと開いた。

 俺は振り返る必要はない。

 振り返らなくても、誰が来たのかわかる。

「お待たせしましたご主人様」

「いや、ちょうどいい時間だよ、ハル」

 最初から、これが罠の可能性は気付いていた。

 あんな査察官のことを信用できるわけがない。

 伝令を送り、ハルに伝えてあった。

 万が一のときのために、俺を離れた場所から尾行するように。

 獣人の存在もあるから、距離を取って来るように。

 そして、祠の前では、俺が閉じ込められた時、二度目のハンマーの音がしたら外から扉を開けてくれって伝令を送っていた。

「本当は自力で脱出したかったんだけどな」

 俺がそう言ったとき、タルウィがいままでよりも遥かに速い速度で動いた。

 獣の血に似たスキルを使ったのか、それともいままで手加減していたのか、それとも両方かわからない。

 だが――

「遅いよ」

 俺はタルウィの攻撃を剣で受け止める。

「なっ……」

「悪い、本気を出していなかったのはこっちも本当だ。ハルが来るまで、あんたを逃がさないために時間稼ぎとして、接戦を演じさせてもらった」

 油断して一撃喰らってしまったのは俺にとって大きなミスだったが、それでも顔さえ守ることができたら大したダメージはないことがわかった。

「接戦を演じただと、そのような素振りは一度も――」

 彼女が言ったそのとき、俺は本気の速度で動き、彼女の腹を斬る。峰打ちだ。

 しかし、そのダメージはかなり大きいはず。

「かはっ」

 あぁ、接戦を演じる素振りは必要ない。

 ただ、魔法特化の職業から変更しなかっただけだから。

「獣の血の効果はもう切れてるだろ。観念して、捕まれ。お前とは一緒に魔王竜と戦った仲だ。事情があるのなら聞くし、場合によっては助けもするぞ」

「……ふっ、甘いな。その甘さ、私は嫌いだが、その強さは好きだ。まったく、恐れ入った。なにが後衛職だ」

 タルウィは立っているのがやっとという状況でにも拘わらず、笑みを浮かべて口元を擦る。

 唇の端を切ったらしいく、血が彼女の頬に、一本の線として広がった。

「この臭い液体も、外にハルワタートがやってきたことを気付かせないためだったか。鼻が暫く使い物にならないからな」

「いや、そのくさや汁はただの嫌がらせだ」

 そもそも、外にいるハルの匂いを感じ取られるとは思っていなかった。

「ご主人様、とても臭いです」

 ガーン。

 ハル、その言い方やめてくれ、俺が臭いみたいだ。

「ごめん、ハル。中に入らず外で待っていてくれていいから。外に出たら浄化(クリーン)で匂いを落とすからな」

「まったく、いくら戦いが終わったとはいえ、緊張感がないのではないか」

 彼女はそう言って落ちていた剣を拾った。

 俺とハルは警戒するも、彼女はそのまま剣を鞘に収める。

「約束だ。私の目的を話せばいいんだったな」

 そうだ。

 そのために随分と回り道をしたものだ。

「私の目的は、世界の破滅と、そして世界の救済だ」

「世界の破滅と救済だって?」

 世界の終焉と関係があるのか?

 それとも、まったく別のことなのか?

 情報が少ない。

「間もなくマレイグルリは破滅に導かれる」

「意味が分からない。もっと詳しく教えろ」

 俺がそう言ったとき、彼女は懐から一枚の札を取り出した。

 その札の正体を察した俺は剣を抜くも、スキルが封じられたこの場所では間に合うはずもなく、

「待てっ!」

 俺の声もむなしく、彼女は札を破った。

 突如、彼女の姿は消え失せる。

「ご主人様、いまのは」

「転移札……だと思う」

 でも、転移札はダンジョンの中で作る必要があり、そして作ったダンジョンの中でしか使えないはずだ。

「ここはダンジョンの一部なのか?」

 他に入口らしい入口はなかったはずなのに、タルウィはどこにも現れなかった。

「ハル、急いでマレイグルリに戻るぞ。嫌な予感がする」

 俺が言った――その時だった。

『ハルさん、ハルさん、聞こえますか?』

 キャロの声がハルの胸元から聞こえてきた。

 ハルが自分の胸に挟んでいた通話札を取る。

 なんでそんなところに挟んでるの? あぁ、はい、邪魔にならなくて声が聞こえる場所だからですね、うん。

「どうしたんだ、キャロ!」

『イチノ様、ご無事でしたか。それより、大変なのです! ツァオバール軍一万二千の兵が、マレイグルリに侵攻を開始したという連絡がありました』

 なんだって!?

 キャロが嘘を言うとは思えない。

 マレイグルリに導かれる破滅って、もしかしてこのことなのか?

 いったい、何が目的なんだ、タルウィ。

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