あれをして欲しい
マイワールドに戻ると、ララエルが迎えてくれた。
彼女の手には、特別な製法で作られた服がある。
俺たちは一度全員自分の部屋に戻り、着替えることにした。
伸縮性があって動きやすい。
これで防御力が高いのか。
ダークエルフの技術の高さに驚かされる。
部屋を出ると、既にハルとキャロも着替え終わって待っていた。
ふたりの衣装もまた、いままで彼女たちが着ていた服と変わらない。
浴衣のふたりも可愛かったけれど、やっぱりこの姿が一番似合ってるよね。
「ご主人様、この服は素晴らしいです。以前の服に比べてはるかに動きやすいです」
「肌触りは絹を上回ります。この品質でララエルさんのおっしゃる性能があるのでしたら、この服一着で五万センス……いえ、十万センスで取引されてもおかしくありませんね」
十万センスっ!? じゃあ、三着で三十万センスってことか?
「とても貴重な物じゃ――」
「素材は高いものではありませんよ。全てマイワールドで採れるものですから。少し布を作るのは手間ですが、ピオニア様も手伝ってくださいましたし」
ララエルがそう言って微笑んだ。
「マスター、マスター! 見てほしいデス!」
着替え終わったところで入ってきたのは、シーナ三号だった。
髪はすっかり伸びている。
そして、その服は――
「着物?」
そう、シーナ三号の服は着物だった。
いったい、どうして?
コスプレ用に作るようなものではなく、かなり本格的な着物だ。
いったいどうしたんだ?
「あたしが鈴木にもらったんだ」
「私が着付けを行いました」
ニーテとピオニアもまた着物姿だった。
なぜか、腰の部分がかなり分厚い。帯長すぎだろ。
「マスター、あたし醤油作り教えたんだし、ご褒美が欲しいんだ」
「スイートルームに泊まってルームサービスをいっぱい注文したんだろ?」
「あれを払ったのは鈴木だし、その代金はあたしが育成した麹黴の代金だ。でも、あたしに醤油作りを依頼したのはマスターだろ? あたしたちホムンクルスはマイワールドの管理のために生まれたけれど、さすがに醤油作りを教えるのは管轄外だと思わないか? 時間外労働だと思わないか?」
そう言われたら辛い。
ピオニアたちホムンクルスはマイワールドを管理するためにトレールール様から賜った。
マイワールドの外での活動は、ニーテの言う通り管轄外だ。
「でも、ご褒美ってなにが欲しいんだ? 金や宝石ってわけでもないし、MPはいつもやってるだろ?」
「ニーテ、ほどほどにするのですよ。私は着替えてきます。この服では仕事がし辛いので」
ニーテが答える前に、ピオニアはそう言って部屋を出ようとした。
俺はピオニアを呼び止める。
「ピオニア――着物、とっても似合ってるぞ。今日一日くらい、その姿でいたらどうだ?」
「……ありがとうございます。でも、着物が汚れるのは勿体ないので」
ピオニアは表情を変えずに軽く頭を下げ、ログハウスを出ていった。
「で、ニーテ。あとシーナ三号も期待の眼差しで見ているってことは、俺に何かしてほしいんだろ?」
「当然デス! マスターのせいでシーナ三号の髪がズタボロになったのデスからね」
「お前の髪が食べられた原因は、お前がケンタウロスを挑発したことが原因だって聞いているが?」
「き、気のせいデス」
「俺の目を見て言えよ」
はぁ……まぁ、俺がケンタウロスを不用意に預かったせいで問題が起きたのは事実か。
褒美や詫びをまったく与えないというのも不義理だが、しかし、ここでふたりの望みのままというのもな。
よし、美味しい菓子でも作ってやるか。
それで済ませよう――そう思ったのに。
「いつも私とキャロばかり褒美をいただいているのに、ご主人様の忠臣であるふたりに褒美がないのは確かに平等ではありませんね。ふたりの望みを聞いてみてはいかがでしょう?」
「ニーテさんとシーナ三号さんなら、間違っても子供ができることはないでしょうから、問題はないでしょう」
え? なんでふたりとも乗り気なの?
特に、キャロはなにを想像しているんだ?
「で、お前ら、なにをしてほしいんだ?」
「「あーれーをして欲しい(デス)!」」
「あん?」
うん、聞き間違いだよな。
あれをして欲しいって言ったんだよな。
俺は勘が悪い。
「あれってなんだ?」
「あーれーだぜ。お許しくださいお代官様だぜ」
「あーれーデス。お許しくださいお殿様デス」
聞き間違いじゃなかったらしい。
帯回ししてほしいってことか?
どうりで帯が長いと思った。
「なんで帯回しをしてほしいんだ?」
「着物があるんだ、お約束だろ?」
「面白そうだからデス」
「……はぁ、まぁそれだけでいいのならいいか」
俺はふたりが差し出してきた帯の端を掴む。
ニーテとシーナ三号が期待の眼差しで俺を見ている。
ハルとキャロが興味津々に俺を見ている。
なんだ、この状況。
男がこれほど萎える帯回しがあっていいのだろうか?
「マスター、例の台詞も頼むぜ」
「ワクワクデス!」
あぁ、わかった。
これはニーテとシーナ三号へのご褒美ではない。
ましてや、俺へのご褒美でもない。
無計画に傍にいる女性を増やしてきた俺への罰なのだ。
「わかった。やってやるよ」
俺は帯を思いっきり引っ張り、
「よいではないか、よいではないか」
「あーれーだぜ」
「あーれーデス」
まるで独楽のように回るふたりを見て思った。
この世界は独楽のようにまわり続けることで、終焉の予言から逃れ続けている。
独楽が倒れたとき、世界は終焉を迎える。
俺という存在は、いわば世界という独楽をまわすための紐なのだ。
嬉しそうに目をまわして倒れるふたりを見て、俺は思った。
本当に俺の存在が世界を守っているのだろうか?
メティアス様、絶対間違えただろ。
世界が独楽のような状態だという話があったから書いてみた。
後悔はしていないが反省はしている。




