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上級者向けダンジョンへ

「まず、最初に言うが、醤油作りの基礎――麹造りは料理よりむしろ農作業に近い。なぜなら、麹黴は生きているからだ」


 鈴木の部屋の一室を借りて、長年再現できずにいた醤油作りのレクチャーをしているのは、ホムンクルスのニーテだ。

 醤油の作り方について、俺から説明してもよかったのだけれども、一通りの作り方は知っていても質問に答えられる自信がない。

 そこで、マイワールドからニーテを呼び出した。本当はピオニアのほうが詳しいそうなのだけれども、あいつは引きこもりだからな。マイワールドから出てくることはない。

 シーナ三号も知識はあるのだが、あいつは鈴木と面識があって死んだことになっているから、消去法でニーテとなった。


「キャロちゃんは凄いね。まさか町の中にたまたまいたもやし屋のお弟子さんを見つけてくるなんて」


 鈴木はキャロを褒めた。ちなみに、もやし屋というのは、種麹屋のことらしい。

 ニーテの存在は、名前はそのままに、かつて日本で種麹屋をしていた転移者から知識を教わった、もやし屋の弟子という設定らしい。


「俺が驚いたのは集まった人数だな。てっきり三、四人集まる程度かと思ったんだが、まさかこんなに集まるなんて」


 五十人も集まっていた。それだけの人数が集まったことと同じくらい、鈴木の家に五十人も入る部屋があったことに驚いたけれど。

 ニーテの説明を聞き、全員熱心にメモを取っている。

 中には日本人っぽい人もいたけれど、ほとんどはこっちの世界の住民だった。


「この世界に転移してきた日本人にとって、醤油作り、米作りは二大テーマって言われていたんだよ。そのうち、米造りはどういうわけか三百年前に魔王軍が実現させて、いまでも少量だけど出回っているよ。味は日本の米に劣るけどね」


 その話は聞いていた。

 まぁ、いずれ偶然を装って、コシヒカリの苗を送ることにしよう。


「ところで、鈴木。ジョフレとエリーズはどうしたんだ?」


 昨日の夕食も、今日の朝食も姿を現さなかった。

 家の中を探索しているだけだろ? 一時間もあれば終わると思うんだけど。


「え? 楠君がなにも言わないから、てっきり楠君が知っているんだと思ってたよ」

「……ちなみに、ケンタウロスは?」

「夕食、朝食で備蓄の食料を半分くらい食べていたかな」


 鈴木の家の備蓄食料への損害が凄かったらしい。


「となると、町の外に出たわけじゃないよな。いったいどこに?」

「んー、もしかして、本当にこの家の秘密の抜け穴を見つけて、探索しているのかも。僕の家の地下は、この家ができる前からあってかなり複雑な構造になっているらしいんだ。記録によると、数百年前にはあったらしいんだよ」

「なんでそんな場所に家を作ってるんだよ」


 仕方ない、また例の方法でジョフレたちを救出するとするか。

 俺はキャロを見て、言った。


「キャロ、頼みがあるんだが――」


 彼女は俺がどんな無理難題を頼んでも、いつも笑顔で引き受けてくれる。今回も笑顔で引き受けてくれた。

 しかし、その笑顔が引きつっていたのは、見間違いではないだろう。



「……トマト五百個で引き受けてくれることになりました。前払い三百個、成功報酬二百個……」


 ジョフレとエリーズ捜しをケンタウロスに一任しようと思い、キャロに交渉してもらった。

 しかし、以前より高額になっていた。

 実は、こんなこともあろうかとアイテムバッグにトマトを大量に入れてあるのだが、その数がちょうど五百個だった。

 ケンタウロスの奴、俺のアイテムバッグの中身を正確に把握していたのではないだろうか?

 トマトを三百個渡すと、ケンタウロスは一瞬のうちに食べた。まるで魔法みたいだ。

 そして、歩いていく。

 向かった先は、庭にある倉庫。鍵は開いており、地下に続く階段があった。

 鈴木の予想通り、本当に奴らは地下に行ったようだ。


「これで安心だな」


 俺はそう言って、後払い用のトマトを鈴木に預ける。


「イチノジョウくんはこれからどうするの?」


 鈴木が尋ねる。即売会まで日数はまだある。

 町の観光や即売会会場の下見もいいんだけど、やはり狂乱化の呪いが気になる。

 呪いを解くには、解呪ポーションという薬を飲ませるか、ディスペルという魔法を掛ける必要がある。世界で数人しか使えない魔法であり、修得するためには法術師のレベルを八十まで上げなければいけないそうだ。


「えっと、マレイルグルリには迷宮があるんだっけ?」

「うん、三つあるよ。初級者向け、中級者向け、上級者向けの迷宮が」


 へぇ、三つもあるのか。

 フロアランスみたいだな。


「じゃあ、ニーテさんの種麹の講座が終わったら、彼女を宿まで送り届けて、上級者向けの迷宮に行ってみるよ。ハルとキャロも一緒に来るだろ?」

「はい! とても楽しみです」

「キャロも頑張ります」


 二人は二つ返事でついてくる意志を示した。

 特にハルはとても嬉しそうだ。迷宮探索が好きなんだろうな。ゴーツロッキーの迷宮探索はかなり時短攻略だったし、魔物も歯ごたえがなかったので物足りなかっただろうし


「迷宮の場所は魔法街の魔道具通りの奥だからね。案内板は町のあちこちにあるから、迷うことはないと思うけど、地図を用意しようか?」

「ご安心ください。町の迷宮、および観光名所、冒険者ギルドや傭兵ギルド等の公共施設、評価の高いレストラン、災害時の避難場所、夜景の綺麗なホテルの場所はキャロがすべて把握しております」


 さすがキャロだな。でも、なんで夜景が綺麗なホテルの場所を最後に持ってきたんだ? 夜は鈴木の家に泊まるからな。


「私も、上級者向け迷宮の魔物の情報は昨夜ゆうべのうちに集めておきました。上級者向け迷宮は魔法生物系の魔物が多いんです」


 ハルも調べていたのか。俺が提案することを見越していたのか、それとも俺が提案しなかったらハルから提案するつもりだったのか。


「魔法生物?」

「スライム、ガーゴイル、ゴーレム。あとリビングメイルやミミックA型などですね。生物の中でも、魔法の力で動いていると言われる魔物です」

「ミミックA型?」

「ミミックには、A型とB型があります。A型は宝箱そのものに化けているタイプの魔物で、B型は迷宮の中に設置された宝箱の中に隠れているタイプの魔物です。ちなみに、宝箱の形が基本ですが、壺の形のミミックもいますね」


 ハルがスラスラと説明をする。

 ミミックにもいろいろいるんだな。


「ミミックって、小さなメダルを落としたりするのか?」

「いえ、ミミックはレアモンスターではありませんから、レアメダルは落としませんね」

「だよな」


 俺はそう言って苦笑した。

 ちなみに、ニーテの醤油作り講座は終了予定時間を大幅に超過し、結局昼過ぎまで終わることはなかった。

 そのせいで、俺たちの出発も昼食後に先延ばしになった。

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