シーナ三号の笑顔
絶望だ。もう魔力なんてほとんど残っていない。正直、意識を保っているのがやっとの状態だ。
もう一度魔王竜を倒すことなんてできるのか?
しかし、ここで立ち止まってはいられない。
「ポチっ! 鈴木を助けに行く! 俺たちを乗せてくれ」
「ご主人様、その体では――」
「大丈夫だ、魔法は使えないが、まだ俺には剣がある」
本当は立っているのがやっとの状態だ。
しかし、この中で一番物攻値が高いのは俺だ。
一撃必殺のチャンスがあるのも俺しかいない。
こちらに飛んできたポチの背に乗り、
「私も手を貸そう」
タルウィもポチに乗り。
「……私もお供します。私はご主人様を守る剣ですから」
ハルも乗った。
頼もしい奴らだ。
これなら、魔王竜のもう五匹や十匹、倒してみせる……ってのは言い過ぎか。
せめてあと一頭倒すまで、もってくれ、俺の体。
※※※
鈴木、ジョフレ、エリーズ、シーナ、ケンタウロスの四人と一頭は新たに湖から現れた魔王竜に追われていた。
彼らがいまだに魔王竜に殺されていないのは、鈴木の頑張りがあった。
「グランドクロスっ!」
鈴木が放った聖戦士の必殺技グランドクロス――光属性の十字の剣戟が魔王竜に傷を負わせる。致命傷には至っていないが牽制には役立った。
そして、鈴木よりも頑張っているもの――それは――
「頑張れっ! ケンタウロス!」
「頑張ってっ! ケンタウロス」
四人を乗せて走るケンタウロスだった。
シーナ三号の体を結んでいた荒縄、ジョフレの剣、そして鈴木がイチノジョウから貰ったトマト。この三つを使って、「馬の鼻先に人参をぶら下げる」ならぬ「ケンタウロスの鼻先にトマトをぶら下げる」状態にして走らせていたのだ。
その速度は、ポチを上回り、全力で飛ぶ魔王竜をも僅かに上回る。
徐々に距離を空けていた。
このまま逃げ切れる、そう思ったときだった。
ケンタウロスが大きく跳び――そのせいでエリーズが落ちてしまった。
「エリーズっ!」
ジョフレがエリーズの名を呼ぶ。
「私は大丈夫だからジョフレは逃げてっ!」
エリーズが叫ぶが、ジョフレは逃げない。
彼はケンタウロスの前にぶら下げていたトマトを回転させ、ケンタウロスを引き返させたのだ。
鈴木も文句を言わない。
ここで女性を見捨てて逃げる選択肢は鈴木にもなかったからだ。
「流星剣」
鈴木がスキルを使う。
光属性の剣戟が魔王竜に降り注ぎ、細かい傷を作っていく。
逆に言えば、その程度しかダメージを与えられない。
しかし、こちらが逃げないと気付いたのか、着地するためか、速度が下がる。
「一か八か……」
鈴木はそう言うと、ケンタウロスから飛び降りて、剣を構えて、力を溜める。
鈴木の剣に光が集まっていく。
その間に、ジョフレはエリーズの手を強引に引き上げ、ケンタウロスに乗せた。
「なんか凄いスキルだな……エリーズ」
「なんか凄いスキルだね……ジョフレ」
鈴木のスキルを見て、ジョフレとエリーズが言った。
このスキルは聖戦士の奥義。
己の魔力を剣に集めて放つグランドクロスの上級技。
使用後、魔力をほとんど失ってしまうため、鈴木も数えるほどしか使ったことがない技だ。
もうすぐ力を溜め終わる。
そう思ったとき、魔王竜は直ぐそこにまで迫っていた。
このままでは間に合わない。
その時だった
ケンタウロスに乗ったジョフレとエリーズが前に出た。
「いっけぇぇっ! ケンタウロス」
ジョフレがケンタウロスの鼻先にトマトをぶら下げ、魔王竜へと向かっていく。
体当たりをするようだ。
「ダメだ、魔王竜には一定物攻値以下のダメージは通らない! そんなことしても――」
そう叫んだとき、ケンタウロスの体当たりが決まった。
衝撃でトマトがケンタウロスの口の中に入り、そして魔王竜は――数メートル跳ね飛ばされる。
「……ははは、なんてロバだ。でも、時間が稼げた。感謝するよ!」
鈴木はそう言うとスキルを放つ。
「グランドクロス・ネオ!」
彼が放った攻撃は、ケンタウロスの僅か頭上を通り過ぎ、魔王竜に命中した。
鈴木は強かった。
まさに勇者と呼ばれる力、主人公補正という天恵を持ち、事件に巻き込まれては強敵と戦うことになる。しかし、ピンチになると、先ほどのジョフレのような者が助けてくれ、チャンスを得て必殺技を叩きこむことができる。
まさに物語の主人公のようだ。
だが、これは物語ではない。
現実は、物語よりも遥かに過酷だった。
グランドクロス・ネオの衝撃で大きく吹き飛んだ魔王竜――その翼はボロボロになり空を飛ぶこともできなくなっている。
それでも、魔王竜は生きていた。
一歩、また一歩と近付いてき、その足音はまるで死神の足音のようだ。
山頂を見ると、ポチがこちらに向かってくるのが見えた。
だが、それでもポチが到着するより、魔王竜の爪が鈴木に届くほうが早いだろう。
(せめて、ジョフレさんとエリーズさんが助かるくらいには時間を稼がないとな)
そう思い、鈴木は最後の力を振り絞る。
だが、その肩をひとりの女性が叩いた。
「スズキさん、これをマスターに渡してほしいデス」
シーナ三号は鈴木に金属の板を渡すと、魔王竜に向かって歩いて行った。
途中、一枚のディスクを落としても、それに気付かずに真っ直ぐに。
※※※
ヤバイ、このままでは鈴木たちが死ぬ。
スラッシュの射程には届かない。
魔法を使う力も残っていない。
「ポチ、もっと急げ」
俺は叫ぶが、ポチの速度が全力であることくらいわかる。
このままでは――
そう思ったとき、シーナが鈴木の前に出たのだ。
「あいつ、なにをするつもりだ!?」
シーナには攻撃方法などない。
武器も持っていなければ、魔法も使えない。
機械人形のくせにビームも撃てなければ変形合体もできない。
なのに、何故、あいつは前に出るんだ?
時間を稼ぐつもりか?
無駄だ、魔王竜には一定以上のダメージでないと通らない。アイツの攻撃では時間稼ぎにもならない。
そのはずだった。
だが、俺は思い出してしまった。
『シーナ三号の頭の中には賢者の石が使われているので、自爆の破壊力はマスターの魔法にも勝るデス』
……まさかっ!?
シーナ三号がこっちを見た。
ニッコリと笑った。
そして――
彼女は――
光が消え、耳鳴りが止んだとき、残っていたのは――いや、なにも残っていなかった。
計算されたように、鈴木がいた場所まで爆発の影響は届いていなかった。
火属性に耐性があると言っていたにもかかわらず、その爆発で魔王竜は粉々になっていた。
俺のブースト太古の浄化炎よりも遥かに勝る威力だ。
シーナ三号の言葉に嘘も誇張もなかった。
でも、嘘であってほしかった。
「……シーナ……バカ野郎が……」
俺はポチの上で頽れ、魔力枯渇のため、その場で意識を失ってしまった。
……次回、エピローグ




