魔王竜との戦い
シーナ三号の腕(の水草)に噛みつくケンタウロス、そしてそのケンタウロスに必死にしがみつくジョフレとエリーズがいた。
「「死ぬかと思ったぁぁぁっ!」」
ジョフレとエリーズが、恐怖体験をなぜか笑いながら言う。
「トカゲの骨の部屋にいたら、突然大きなトカゲが襲ってきたんだ」
「水の中にまで追いかけてきて、ケンタウロスに引っ張ってもらって助かったの」
俺が見た影は魔王竜ではなくてジョフレとエリーズを引っ張って泳ぐケンタウロスだったのか。
ん? 大きなトカゲ?
もしかして、それって――
そう思った直後だった――さらにもうひとつの気配が湖面に迫って近付いてきて、それが飛び出した。
老竜よりもさらにでかい紫色のドラゴン――魔王竜が。
魔王竜は明らかにジョフレとエリーズを狙っている。
魔法で攻撃するか?
高速で動いている魔王竜に当てることはできない。
それでも――
「アイスっ!」
氷魔法を放つ。
魔王竜はやはり攻撃を余裕で避けた。
しかし、俺を敵だとみなしたらしい。
ブースト魔法で迎え撃つか――と思ったときだ。
「ダブルスラッシュっ!」
タルウィの剣から二陣の剣戟が繰り出される。
さらに――
「スラッシュっ!」
ハルが守命剣、そして疾風の刃の二本による剣戟を魔王竜に放った。
火竜の牙剣を使わないのは、魔王竜が炎に耐性を持つからだろう。
合計四つの剣戟――これは避けられまい。
そう思ったが、魔王竜はその身をひるがえし、鮮やかに剣戟を避けた。
危なかった――俺が魔法を使っていても避けられるところだった。
と思っていたら、魔王竜が口を大きく開けた。
口の中に見えたのは――炎っ!?
「メガウォーターっ!」
俺は咄嗟に水の上級魔法を放ち、魔王竜が吐いた炎と相殺させる。
あたりを蒸気が包み込み、その蒸気の中を魔王竜が飛び、体当たりしてきた。
この距離ならばっ!
「細氷大嵐」
氷で動きを封じるべく、最大威力の氷魔法を放つ。
が、ドラゴンの片足を少し掠っただけで、避けられてしまった。
やはり速い。
「楠君、ポチに乗って逃げるんだ」
俺がタゲを取ったことに鈴木は気付いたのだろう。
たしかに、このまま戦えば、ジョフレたちを巻き込んでしまう。
「わかったっ! 悪いがポチを借りるっ! こいつらを頼むっ!」
俺はポチの尻尾に結び付けている荒縄を手刀のスラッシュで斬る。シーナたちは氷の上に落ちた。低く飛んでいたので怪我はないだろう。
そして、俺はポチに飛び乗る。
俺だけじゃない――
「ハル、タルウィもか」
三人でポチに乗る。
「ポチ、山頂に向かって飛べっ!」
俺がそう叫ぶと、ポチは一鳴きして、山の上へと向かった。
魔王竜のほうが少し速い。
このままでは追いつかれる。
しかし、嫌がらせなら、こっちは負けていない。
物攻が上がる職業に変更し、
「空破撃っ!」
空を飛ぶ魔物に効果の高い剣撃を放つ。
高速で飛ぶ魔王竜にはやはり当たらないが、しかし避けるために上昇したことで速度が落ちた。
少し距離が空いたためか、魔王竜が口を大きく開ける。また炎を吐くつもりか。
しかし、これを待っていた。
「オイルクリエイトっ!」
俺は魔法を使い、油を生み出す。俺が生み出した油はそのまま魔王竜の口の中へと入り――引火した。
魔王竜の顔が炎に包まれる。
「面白い戦い方をする」
タルウィが言った。
「どうも。多芸だけが取り柄なもんで」
「だが、魔王竜に炎の攻撃はあまり効かない。では、次は私たちの番だっ! 行くぞ、ハル」
「はいっ!」
直後、ハルとタルウィはポチの上から飛び降り、まだ燃えている魔王竜の上に飛び乗ると、
「そこだっ!」
「ここです」
それぞれが魔王竜の両翼に切り込みを入れた。
凄い――的確に翼の薄い部分を狙っている。
両翼を斬られた魔王竜はバランスを崩し大きく暴れ、ハルとタルウィを振り落として落ちていく。
ここまでお膳立てしてくれたら、あとは俺の出番だ。
俺はポチの上から飛び降り、魔王竜の前に立つ。
魔王竜は俺を睨みつけ、咆哮した。
職業を魔攻優先職業に変更。
「ブースト細氷大嵐&神々の光線」
氷魔法と光魔法の融合魔法。
魔王竜全体を凍り付かせ、その氷の中を光の光線が乱反射して凝縮される。
これで倒せなければ、俺たちに勝ち目はない。
そのくらいの気持ちで使った魔法だ。
【イチノジョウのレベルが上がった】
【火魔術師スキル:火耐性(微)が火耐性(小)にスキルアップした】
【水魔術師スキル:水耐性(微)が水耐性(小)にスキルアップした】
【風魔術師スキル:風耐性(微)が風耐性(小)にスキルアップした】
【土魔術師スキル:土耐性(微)が土耐性(小)にスキルアップした】
火魔術師、水魔術師、風魔術師、土魔術師、それぞれのレベルが60から73に上がった。
これらは、一度限界を迎えてレベルアップできなくなっていたが、ミリからもらった限界突破薬を服用し、レベル上限をさらに上げておいたのだ。
身体はほとんど傷ついていないが、魔王竜の息の根はしっかりと止めたらしい。
しかし、魔力ブーストと最上級魔法の融合――もうMPはほとんど残っていない。
キャロから貰ったマナポーションを飲むことで、なんとか立って歩く程度の力が戻った。
振り落とされたハルとタルウィも無事だったようで、俺のところにやってくる。
「これは凄いな。イチノジョウ、君は本当に優秀な魔術師だ」
「さすがはご主人様です。私はご主人様ならば必ず成し遂げてくれると信じていました」
「いや、ふたりが翼を斬ってくれたからだよ。飛ばれている状態なら危なかった」
でも、俺たちの勝利だ。
これは竜核を取るのが大変そうだな。
そう思ったときだった。
湖の方から閃光が輝いた。
俺は麓を見る。
すると――そこには――
「うそ……だろ……」
魔王竜がもう一頭いた。




