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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
傭兵王国編

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傭兵ギルドマスターからの依頼

 翌日、俺は朝一番に傭兵ギルドへと赴いた。

 昨日の受付嬢さんに挨拶をする。

「イチノジョウさん、まだダンジョンに出発してなかったのですか?」

「いえ、ダンジョンに行って、ボスを倒して、昨日の夜には戻ってましたよ。これ、依頼されていたボスのドロップアイテムです」

「え? うそ、ダンジョンまで早馬でどんなに急いでも丸一日はかかるのに。それに、この瓢箪は?」

「あのダンジョン、ボス部屋が二種類あって、もうひとつのボス部屋で見つけたんです。中身は酒です」

 受付嬢さんはそれを聞くと、まずは蛇が落とした酒壺を開けて、中身を掬って飲んだ。

 仕事中なのにいいのかよ。

「……蛇の味がまだ酒に混ざり切っていない、若い酒。確かにドロップして日が浅い証拠ですね。それとこの瓢箪」

 今度は瓢箪を開けて中身を一口飲んだ。

「なんてまろやかな味。米の酒? 果物なんて一切使っていないのに甘味が口の中に広がる。こんなお酒飲んだことない」

 あなたはどこの評論家ですか?

 なんでそんなことがわかるんだ。

「イチノジョウさん、追加報酬を支払いますので、この黄金瓢箪を手に入れた経緯を詳しく話してください」

「わかりました」

 俺は幻の壁、落とし穴、横穴について細かく説明した。

 そして、ボスの間についても。

「それは危険ですね。その猿については記録があります。トーチキローという魔物ですね。気配を消すのが得意な魔物ですが、寒さに弱く、温度の低い場所では得意の隠形もうまく発揮できないという話でしたが、生息場所が不明のままでした。まさかそのような場所にいるとは」

 なるほど、だから最初は猿に気付かなかったのか。

 トーチキローという名前についてはノーコメントだ。

「あの、これでギルドマスターに会うことができるんでしょうか?」

 ダメなら別にいいです。ネクタルは手に入りましたから。

 そう言いたいけれど、でもこちらから会いたいと言った手前、このまま帰ることは憚られた。

「はい、問題ありません。むしろ、ここまでの評価を見て、そのまま帰すことなんてできませんよ。どうぞ、こちらへ」

 問題なかった。

 ということで、俺は奥の部屋へと通された。

 傭兵ギルドのギルドマスターの部屋か。どんな人だろう。

 緊張するな。

 受付嬢さんはノックもせずに扉を開け、中に入った。

 俺もあとに続く。

 棚は酒瓶だらけだ。ドワーフの村も酒だらけだったが、あっちは飲めればそれでいいという感じ。こっちは逆に、多くの種類があるが、しかし一本一本は小さい。

 それより気になるのは。

 その部屋には誰もいなかったのだ。

 留守だろうか?

 そう思ったら、受付嬢さんが革張りの椅子に座った。

「テスト合格おめでとう、イチノジョウさん。私が傭兵ギルド、ギルドマスターのシュテファーニアよ」

「……俺は最初から騙されていたんですか」

「言ったでしょ? 先に謝っておくって。それに、私が傭兵ギルマスではないなんて一言も言ってないから、騙していたは言い過ぎね。まぁ、その表情が見たくて、受付嬢の仕事をしているわけなんだけど。あ、そうそう。私が傭兵ギルドのギルマスだって話は口外禁止よ」

 受付嬢から傭兵ギルドのギルドマスターの口調に代わったということだろうか?

 フランクな口調で、俺としてはこちらのほうが話しやすい。

 そうか。あれは手紙を破ることに対して言ったわけではなく、身分を偽ったことに対しての謝罪だったのか。

「でも、聡い人は直ぐに気付くのよ? ほら、私はイチノジョウさんが持ってきた手紙の内容を知っていたでしょ?」

「それは、破られる前に手紙を見たって言ってましたよね?」

「いくら、破られた書類でも、ギルドマスターに宛てられた手紙を一受付嬢が読んでいいわけないでしょ?」

 あっ、それもそうだ。

 そういうところも試されていたのか。

 キャロが一緒にいたら気付いていただろう。

 思考トレースは嘘を見破ることはできるが、常に発動しているわけではないので、完全に信じてしまっている状態だと看破できないんだよな。

「まずはこれは今回の依頼、特別報酬を加え、三百万ゴーツ。いまから用意するわね」

「三百万っ!? 七万ゴーツだって話でしたが」

「それほど、イチノジョウさんが持ってきた情報に価値があるということよ。私個人ではこれでも安いと思うけど、これ以上払ったら部下がうるさいの。面倒よね」

 大雑把という言葉の意味が少しわかってきたような気がした。

 こっちが彼女の素の姿なのだろう。

「はぁ……」

 貴重な酒が手に入って喜んでいる――ということでいいのかな?

 と俺は棚に並んでいる酒瓶を見た。

 ってあれ?

 酒瓶の間に絵が置かれている。

 棚にあるのは似顔絵?

 似顔絵スキルで描かれているのだろう、写真のように精巧に描かれている。

 ゴツイ男と引き締まった男、小さな女の子が描かれている。

「あれ? この人、どこかで見たような」

「よくわかったわね、この女の子は子供の頃の私なのよ」

 シュテファーニアさんがお金を金庫から取り出して言った。

 だが、俺が言ったのはそうではない。

 俺が見たことあると言ったのは、ゴツイ拳闘士の男の方だ。

「こっちの剣士が私のお父さん。で、こっちの拳闘士さんはお父さんの相棒のマーグさん。ふたりはスチールブラザーズっていう伝説の傭兵コンビなの」

「へぇ……ん?」

 待て、この引き締まった体の剣士が持っている鋼鉄の剣もどこかで見たことがある。

 どこで見たんだ? この世界なのは間違いないが。

 マーグ……マーグ。

「――っ!? あぁ、そういうことか」

 この拳闘士、どこかで見たと思ったらマーガレットさんじゃないかっ!?

 そうか、本当はマーグって言う名前だったのか。マーガレットが本名ではないことはわかっていたけど。

 そして、この剣士さんが持っている鋼鉄の剣は、俺が借りて、山賊と戦ったときに折ってしまった鋼鉄の剣だ。

「え? どういうこと?」

 俺が急に声を上げたので、シュテファーニアさんが訝し気に尋ねた。

「あ、すみません。この拳闘士が俺の恩人でして」

「本当に!? マーグさんに会ったのっ!? いつっ!?」

 シュテファーニアさんが身を乗り出して俺に尋ねる。

「西大陸で、二カ月ほど前。たぶん、間違いないと思います」

 そうか、マーガレットさんは相棒さんが好きだったって言っていたけど、相棒さんは子供がいたのか。

「そっか、マーグさん、まだ生きていたんだ。マーグさん、私が子供の頃にとっても優しくしてくれていてね。マーグさんったら私に『本当に娘にならない?』って聞いてくるの。マーグさんみたいな人がお父さんになってくれるのはちょっと憧れたな。勿論断ったけどね」

 ……それ、違います。

 マーガレットさんはあなたのお母さんになりたかったんだと思います。

「お父さんが死んで、マーグさんは本当に私を引き取ろうとしてくれたんだけど、私はお母さんに引き取られて、お母さん、マーグさんのこと嫌ってたから。お父さん、いつもマーグさんと一緒に世界中回って戦っていたから妬いてたのかな。アハハ」

 シュテファーニアは笑った。

 本当に妬いていたんだと思いますよ。

 女の本能でわかっていたんでしょうね。

 シュテファーニアさん、マーグさんに強い憧れを持っているようだ。

 これ、マーグさんの現在の姿――マーガレットさんのことは言わないほうがいいんだろうな。夢は夢のままが一番だ。

「それで、マーグさんはいまどこにいるの?」

「えっと、すみません。旅の途中に出会ったので、西大陸にいることはわかりますが、どこにいるかは」

「そう……それは残念」

 シュテファーニアさんには申し訳ないと思いながらも、でも彼女のためだと思って俺は話を変えることにした。

「それで、傭兵ギルドのギルドマスターにお願いしたいことがあるのですが」

「ええ、わかってるわ。ネクタルのことよね。その情報について知りたければ――」

「あ、すみません。ネクタルはもういいんです」

「え? もういいの?」

「はい」

 必要がなくなったので。

「弱ったわ――あなたに受けてほしい依頼があったんだけど……他に知りたい情報はないの?」

「いえ、特に。竜核が手に入る場所があったら教えてほしいくらいですけどね」

「竜核っ!?」

「流石に無理ですよね」

 俺がそう言ったのだが、何故かシュテファーニアさんに手を握られた。

「ちょうど竜核が手に入る依頼があるのっ! お願い、引き受けてっ!」

「え?」

 竜核が手に入る依頼?

 そんなピンポイントな依頼が本当にあるのか?

 ご都合主義過ぎる展開に、俺は驚きを禁じ得ない。

 適当なこと言っているのではないかと、今回は思考トレースを使った。

 シュテファーニアの頭によぎっていたのは期待と歓喜。

 騙しているという感情はまったくない。

「詳しく聞かせてもらっていいですか?」

「西のランドウ湖に、ドラゴンが現れたっていう話が出たの」

「ランドウ湖? もしかして――」

「老竜のことじゃないわ。あなたが老竜を倒したあとに現れたの。そいつが。老竜の素材を引き取りに来たユーティングス侯爵の兵が目撃しているから見間違いということはないわ」

「そいつってまさか――」

「ええ、野生の魔王竜よ。特徴からして、まず間違いないわ」

 あのランドウ湖に魔王竜。

 何故このタイミングで?

 俺が老竜を倒した事が原因だろうか?

 これは、さすがに竜核のことがなかったとしても依頼を受けないわけにはいかない。

「わかりました、引き受けます」

「そう、よかった。既にこの依頼は一組の冒険者パーティ、あと凄腕の傭兵がひとり引き受けてくれてるわ。明日、ここで合流して現地に向かって欲しいの」

「俺のパーティだけで行きたいんですけど」

「成功率を高めるためよ。大丈夫、魔王竜の素材の中で竜核はあなたに優先的に渡すようにする。他のメンバーにもそう言っておくわ」

 そういう意味じゃなくて、俺の実力をあまり知られたくないんだけど。

 いっそのこと、抜け駆けしてひとりランドウ湖に行こうかと思ったが、どうやらそれが表情に出たらしい。

「ひとりで行こうとしないでね。依頼を受けた時点で、独断専行は規則違反で罰則対象よ」

 釘を刺されてしまった。

 仕方がないか。


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