偽善者の俺が嫌いだ
仕方がないので、俺は迷宮踏破ボーナスをもらうべく、三人分のルーレットをまわした。
三人ともスキルのマスに玉が落ちた。
職業を遊び人と博徒と狩人、エルフ弓士にしたお陰だろう。
博徒は運が四十、遊び人は運が三十、狩人とエルフ弓士はそれぞれ運が二十ある。
無職の十と合わせ、運の合計値は百二十。常人の十二倍だ。
本当は、これで賢者の石のレシピ書が手に入ればと期待したが、十二倍でもそれは叶わなかったようだ。
【称号:迷宮踏破者Ⅵが迷宮踏破者Ⅶにランクアップした】
【クリア報酬スキル:生活魔法Ⅳが生活魔法Ⅴにスキルアップした】
俺は生活魔法に祝福されているのか呪われているのか。
今回は俺の責任だし、生活魔法は本当に助かってるから別にいいんだけどな。
ちなみに、覚えた魔法はスタミナヒールというらしい。
傷を回復するヒールと違い、この魔法は傷を治すことはできないが、体力の低下を治療することができる魔法だという。
なるほど、これは生活するうえでは便利な魔法だろう。
しかし……もうそういう意味の魔法にしか思えない。
と気付けば、俺は女神像の間に戻っていた。
「私は魚の目というスキルを入手しました」
「魚の目……? なんか嫌な名前のスキルだな」
「ですが便利なスキルです。視界が大きく広がり、本来ならば死角となるような場所まで見えるようになります。慣れるまでは大変そうですが」
魚眼レンズみたいに見えるということだろうか?
そうだとしたら、確かに慣れるまでは大変そうだ。
「イチノ様、キャロは魔道具鑑定というスキルを入手しました」
それは普通に便利そうなスキルだ。
特に、今回のダンジョン攻略で魔工鍛冶師のレベルも順調に上がっているので、キャロに見てもらえる。
「俺はまた生活魔法だったよ。スタミナヒールって魔法でな。使ってみたらいいか」
俺はハルとキャロにスタミナヒールをかけた。
「これは……体力回復魔法ですか」
ハルが自分の変化に気付いて言った。
「ああ、便利だろ?」
「これがあれば永遠に戦えますね」
ハルがとんでもない提案をしてきた。
ハルはバトルジャンキーだから嬉しい提案かもしれないが、俺は嫌だ。そんなに戦いたくない。
と思ったら、奥の扉が開いた。
一匹の大蛇が待ち受けていた。
なるほど、帰りは正規の道を通らないといけないらしい。
ただ、こちらの大蛇は毒液を飛ばしてくる以外特別な力はなにもなく、何事もなく一刀両断できた。
落としたアイテムは……酒壺? どうやら、マムシ酒のようなものが入っているらしい。
なんかボスが落とすのは酒のアイテムばっかりだな。
ミネルヴァ様は薬の神様で、酒は百薬の長と呼ばれているからだろうか?
「よし、じゃあ帰るかっ! 拠点帰還っ!」
俺はそう言って、ハルとキャロを伴いマイワールドに転移した。
ゴーツロッキーを出発してから、俺は引きこもりスキルを一度も使っていない。
つまり、マイワールドからの出口を開けば、その扉はゴーツロッキーに現れるというわけだ。
帰りの時間が百パーセント節約できる。
どうだ、これで一気に依頼達成だ。
こんなに早くクリアしたと聞いたら、傭兵ギルドのギルドマスターも驚くだろうな。
「あっ!」
「どうした、キャロ」
「すみません、失念していました。もう外は夜――この時間では傭兵ギルドは閉館しています」
……あ。
しまった、そこまで考えていなかった。
仕方ないので、俺たちは今日はマイワールドで休むことになった。
ダークエルフたちのところに行き、全員で食事をする。
メニューはドラゴンステーキ改だ。
先日倒したドラゴンの肉を生姜の汁に漬け込み柔らかくして焼いている。
豚の生姜焼きみたいな味だと思ったが、ランドウ山近くの村で食べたときよりも美味しかった。ハルは少し残念そうにしていたが。
「この世界に来てから美味しい物ばかり食べています。このままでは太ってしまうかもしれませんね」
ララエルがそう言うと、彼女の揺れるくらいに大きな胸をリリアナとキャロが凝視して言った。
「……太りたい」
「太りたいです」
……うん、まぁ、気持ちはわからないでもないけれど、貧乳は貧乳でステータスだよ。それにリリアナは言うほど小さくないし、キャロは魔法で大きくできるだろ? 幻影だけど。
「そういえば、リリアナ。インクはできたのか?」
彼女には没食子と硫化鉄を渡して魔記者が使うインクを作るように頼んであった。
「は、はい、できています!」
リリアナはインクが入った四角い瓶を四つ、俺に渡した。
「硝子の瓶はピオニアさんに作ってもらいました」
「そうか。ありがとうな、リリアナ。あとでピオニアにもお礼を言っておくよ」
「そんな――恐れ多いです」
照れながらリリアナが言った。
これで、あとは魔記者の札を作ってルリーナに頼めば自由にパーティを変更できるようになるのか。
まぁ、いまは必要ないけれどな。
デザートとして、今回はアイスクリームを作ることにした。
魔法で作った氷に塩をかけるというおなじみの方法だ。
牛乳と卵と麦芽糖で作る。
「できることなら生クリームを作りたいが……」
「シーナ三号が作るデスよ」
「作れるのか?」
「シーナ三号に不可能はないデス」
シーナはそう言うと、スーギューから絞り取った牛乳を口の中に入れた。そして、高速で顔を回転させる。
「ってなんでお前がいるんだよっ!」
「うぇぇぇぇっ!」
シーナが口の中から生クリームを出す。
なんて料理工程だ。
……しかし、ちゃんと生クリームになってるな。
「残った牛乳はおっぱいから出せるデスよ」
「出さんでいい。口から出せ」
「わかったデス」
シーナ三号は生クリームとは別の容器に無脂肪牛乳(?)を出した。
「なんでお前がここにいるんだよっ!」
「スリープモードが終わったデス! 元気百パーセントデス!」
「嘘つけっ! 首が七度くらいズレてるじゃないか」
俺はシーナ三号の頭を掴み、軽く回す。
カチッと音がなって、彼女の首が固定された。
「スリープモードになってろ。賢者の石ができたら起こしてやるから」
「……シーナもマスターと遊びたいデス。一緒にクッキングしたいデス。ひとりじゃ寝れないデス」
寂しそうに言うシーナ三号の声に、俺は頭を抱えた。
「終わったら休むんだぞ」
「はいデス」
シーナ三号のためには彼女を休ませたほうがいいに決まっているのに、でも我儘を許容してしまう。
偽善者の俺が嫌いだ。




