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ミネルヴァ様のダンジョン攻略

 そして、ここからはハルの出番だ。

「ハル、頼むぞ」

「はい」

 このダンジョンは出入りの制限があるにはあるが、それでも兵士や冒険者、傭兵が訪れては攻略する中級ダンジョンだ。

 そのため、人間の臭いは残っている。

 無数にある臭いの中から、ハルは一番多くの人の匂いが残っている場所を進んだ。

 何度もこのダンジョンを訪れるリピーターなら、きっと最短の道を選んでいると思ったからだ。

 そして、それは間違っていなかった。

 何度も戦い、わずか三十分で七階層にまでたどり着いた。

「ご主人様――微かですが匂いがあの壁に続いています」

「幻影の壁か」

 以前、ノルンさんを助けたときにも見つけた幻の壁だ。

 すり抜けられる。

「一応、見てみるか」

 気配探知を使っても中から反応はない。

 俺は鞄の中になぜか入れていた小石を投げた。

 石は壁をすり抜けた。

 そして、床に落ちた音がする。

 大丈夫そうだな――と思いながらも、一応罠を警戒する。

「ご主人様、ここは私が」

「いや、俺が行く。ここで待ってろ」

 俺はそう言って慎重に中に入った。

 部屋の中に、危険なものはない。部屋の中には。

「……大丈夫だ、ハル、キャロ、来てくれ」

 俺はハルとキャロを呼び寄せた。

 そして、目の前にあるそれを見た。

 真下に続く穴を。

 この穴を使えたら近道になる。

 しかし、穴の底まで見えない。

「ちょっと調べてみるか――アイスっ!」

 俺は穴を塞ぐように氷の床を作った。その穴の上に乗り、鷹の目を発動させ、穴の真下の様子を見る。

 穴はずーっと下まで続いているが、一番下を見て俺は絶句した。

 あったのは鉄の(スパイク)に突き刺さった(むくろ)だった。

 あぁ、この穴はハズレ……いや、横に通じている道がある。

「よし、通じてるっ!」

 俺はそう言うと、ハルとキャロに尋ねた。

「穴を一直線に降りたら近道になるけど、どうする? 俺を信じてついてきてくれるか?」

 俺の問いに、彼女たちはなにも言わない。

 だが、その表情を見ればわかる。

「聞くまでもなかったな。ハル、俺に続けっ!」

「はいっ!」

 俺はキャロを負ぶると、足下の氷を白狼牙で叩き割った。

 重力に身を任せて落ちていく。

 このまま落ちたら俺やハルは無事でも、キャロは無事では済まないだろう。

大洪水(ダイダルウェイブ)

 真下に向かって大量の水を放つ。

 俺が放った水は、一瞬にして真下に到達――すると同時に俺たちをも飲み込んだ。

 俺たちはそのまま水の流れに逆らわず、横穴に流された。

 横穴に入った頃には、魔法で生み出された水は時間とともにダンジョンに吸収されて消えてしまう。

 キャロを下ろし、俺は尋ねた。

「ハル、キャロ、無事か?」

 振り返ると、そこにいたのは濡れて服が若干透けているふたりの姿が。

「わ、悪いっ! 乾燥――って、乾燥肌になったら困るっていうか、これは人間に使ったら危ないかもしれない。タオルを使え」

 アイテムバッグから取り出したタオルをハルとキャロに渡した。

「ありがとうございます。乾燥は服に使いますね」

 ハルはそう言うと、徐に自分が着ていた服を脱いだ。

「ハル、なにを――」

「脱いでから服にだけ乾燥を使おうと。幸い、このあたりにいた魔物はご主人様の魔法で押し流されたようですし」

 う、うん。そうみたいだ。

 泳いでいる間にレベルが上がったメッセージが聞こえていた。

「あ、ハルさん。次はキャロもお願いします」

 キャロも服を脱ぎだした。

 ……いや、なに緊張してるんだ。

 そうだ、考えてみれば俺はハルともキャロとも関係を持ったんだし、もう何度もその裸を見てきたんだ。恥ずかしがることなんてなにもない。

 俺はそう思ってハルとキャロの裸を少し見ようとしたのだが、そこでふたりと目が合った。

「私たちの服を乾かす前にご主人様の服を乾かさないといけませんね」

「風邪を引いたら困りますからね」

 裸で詰め寄るふたりを見て、ヤバイと思った。

「ま、待ってくれ。さっき冷たい水に入ったから縮こまって――ね、ハルさん――キャロさん――」


 と、小さなアクシデントがあったが――本当に小さなアクシデントだ。冷たい水に入ったあとで男を脱がせるのは勘弁してほしい――俺たちはどうやらダンジョンの最下層に辿り着いていたらしい。

 ボスの間に辿り着く。ボスの間の扉は開いており、中の様子が見える。

 魔物の気配はするが、しかし細い樹があるだけで敵の姿は見えない。

「覚悟はいいな」

「「はい」」

 ハルとキャロの息の揃った声に、俺たちは一歩前に出た。

 ボスの間の扉が閉まる。

 もう逃げることはできない。逃げるつもりもないけれど。

「――樹の魔物かと思ったが違うようだな」

 植物鑑定によると、この樹は瓢箪木(ヒョウタンボク)と呼ばれる木らしい。

 地球にもある植物で、瓢箪の実をつける。

 しかし、いまは瓢箪の実はないようだ。

 と思ったその時だった。

 瓢箪木から大きな瓢箪の実が一気に膨らんだ。

 この膨らみ方、異常だ。

「敵の気配、あれかっ!」

 どうやら、この魔物は木に寄生しているらしい。

「――っ!」

 そう思った直後だった。

 瓢箪の実もどきが爆発した。と同時に、中の種が四散する。

「アイスっ!」

 目の前に氷壁を作り、種から身を守った。

 いきなり自爆するって、どんなボスだよ。

 とはいえ、これは危なかった。俺の氷の壁にヒビが入るほどの威力だ。まともにくらっていたら痛かっただろう。

「って――えっ!?」

 どういうことだ、敵の気配が一気に増えたっ!?

 その理由は直ぐにわかった。

 種が一瞬にして瓢箪の形になっていったからだ。

 爆発四散した種すべてが。

 おかしいだろっ! 瓢箪から生えるのは芽であって、種が直接実になることはないだろ。

 もしかして、この瓢箪がすべて爆発するのだとしたら。

「ご主人様っ!」

「くっ、こりゃいままでで一番厄介だぞ」

 数が延々に増え続けるって、どう対処したらいいんだ?

 最初の対処を誤ったのか?

 いったい、誰がこんなボスクリアできるんだよ。

「おかしいです、イチノ様っ!」

「なにがだっ!」

「キャロが聞いた話では、このダンジョンのボスは大きな蛇だったそうです。こんな魔物ではありませんっ!」

「はっ!? ……もしかして」

「はい、このダンジョンのボスは二種類いるのかもしれません」

 俺たちが変にショートカットしたせいで、別のボス部屋に辿り着いた。そういうわけか。

「よし、スラッシュっ!」

 爆発する前に攻撃だっ!

 俺はスラッシュを瓢箪に使った。

 命中すると――さっきほどではないが小さな爆発を起こし、種が飛び散った。

 叩き割ってもダメなのかっ!

 植物相手にキャロの魅了(チャーム)が効くとは思えないし。

 このままでは他の瓢箪も爆発してしまう。

 燃やせばいいのか? 燃やしたらよけいに爆発しそうな気がするけど、試してみるか。

「イチノ様っ! これを見てください」

 キャロが氷の壁を指さす。

 ヒビが入った氷壁だ。

 それがどうした?

「この氷壁の中にある種は実になっていません」

「そういえば――」

 俺は周囲を見る。

 氷に食い込んでいる種だけではない。氷壁の周囲に落ちた種も瓢箪になっていない。

 この種が実になるには一定の温度が必要なんだ。

 弱点は氷だ。

「なんか知らんけど、今回は氷魔法が大活躍だなっ! 氷の雨(アイスレイン)

 俺たちの周りを除き、全体に氷の雨が降り注ぐ――と同時に、周囲の温度が下がっていった。

 ――さ、寒い。

 だが、その効果は如実だった。

 膨らんで破裂寸前になっていた瓢箪の動きが止まったのだ。

 どうやら、爆発は収まったようだ。

 でも、女神の間への扉は開かない。

(どういうことだ? 凍り付いた瓢箪からは敵の気配はしなくなったのに――)

 気配探知を使う。

 他に敵は――ん?

 ひとつ、気配があった。

 なんだ? 瓢箪木から?

「そこですっ!」

 ハルがスラッシュを放った。

 すると、木の枝が一本落ち――瓢箪を背負った猿が一匹落ちてきた。

 猿も木から落ちる……か。

 その猿は、背中に黄金色の瓢箪を背負っている。

 いや、猿と黄金瓢箪、それがワンセットの魔物なのだ。

「どうやらお前がボスのようだな――散々苦労かけさせやがってっ! スラッシュっ!」

 俺が放ったスラッシュが猿と黄金瓢箪を一刀両断した。

 ボス部屋にあった大樹、瓢箪が消えうせ、黄金瓢箪を背負った猿もドロップアイテムとして黄金瓢箪、魔石を残して消えた。

 ついでにレベルも上がった。

 それにしても、猿と黄金瓢箪か。

 どこかで聞いた取り合わせだな。

 レベルについてはあとでログで確認するとして、今回の依頼の品を確認するか。

 黄金瓢箪は、別に金でできているというわけではない。

 金色に光っている植物のようだ。

「この黄金瓢箪、爆発したりしないよな?」

 その瓢箪は蓋がついており、『黄金酒』という文字が書かれている。

 蓋を開けてみると、酒の臭いがした。

「イチノ様。一応、このダンジョンのボスのドロップアイテムが依頼の品ですが、よろしいのでしょうか? 本来のボスとは異なりますが」

「実力を見せろっていう依頼だからな。大丈夫じゃないか? この魔石も他の雑魚モンスターの魔石よりも大きいから、ボスを倒したって証明になると思う。それより、奥に行こうか」

 俺はそう言い、女神像の間に行った。

 そこにはミネルヴァ様の女神像が安置されている。

 そして、俺たちが入ってきた扉とは別の扉があった。

(ミネルヴァ様は苦手なんだよな)

 前にミリと会ったときは、話すたびに自殺されそうになった。

 まぁ、ミリが言うには本当に自殺することはないそうなので問題ないだろう。というか、祈ったからといって、いつもみたいに女神様のいる空間に行くとも限らないしな。

「じゃあ、祈るぞ」

 そう言って三人で一緒に祈った。


 気付けば、俺はひとり、いつも通り真っ白な女神様の空間にいた。

 やっぱり呼ばれたか。

 ってあれ? ミネルヴァ様がいない。

 あるのはルーレット三台のみ。

「ミネルヴァ様、いらっしゃいますか?」

 返事がない。

 どういうことだ?

 それに……なんだ、この既視感は。

 俺は注意深く周囲を観察すると、ルーレット台の横に一枚の紙が落ちているのを見つけた。

 手紙にはこう書かれていた。


【死にます、探さないでください】


 ――はい、探そうと思っても探せません。

レベルアップで覚えたスキルに関しては、3話先「彼女の剣」にて

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