超絶ショートカット
「ということで、ミネルヴァ様のダンジョンに向かうことになった」
俺はハルたちに事情を説明した。
念のため、ネクタル、竜核の在処を知らないか聞いてみた。
しかし、ネクタルは迷宮のクリア報酬、そして竜核は爺さんから聞いた通り無限迷宮で魔王竜を倒すしかないとのこと。しかも、出現確率はかなり低いそうだ。
野生の魔王竜がいるとしたらその限りではないし、しかも野生の魔王竜なら解体すれば、確実に竜核が手に入る。
だが、その目撃例はまったくないらしい。
そりゃそうだ。
老竜よりも強いと言われるそんな化け物がそこらへんにいたら、騒ぎどころじゃ済まない。大災害級の問題になってしまう。
いるとすれば、人が近付かないような秘境の地くらいだろう。
「それで、シーナ三号はなにをしてるんだ?」
ピオニアに尋ねた。
シーナ三号がその場に倒れていたのだ。さすがに故障したわけではないだろう。
だとするのなら、みんながこんなに落ち着いているわけがない。
「ダークエルフに貸し出すためにニャーピースのDVDを違法コピーしているところを見つけたので、頭を叩いて眠らせました」
「なにをしてるんだっ!?」
「STOP違法コピーです。やはり、著作権は大事です。無断でコピーして配布するのは禁止されています。十年以下の懲役もしくは一千万円以下の罰金またはその両方の罰則が設定されています」
「それ、DVDの最初に紹介されてる奴じゃねぇかっ! この世界では日本の法律は適用されないよ。って、そうじゃなくて、頭を叩くなよ。もうすぐ壊れるっていうのに」
「叩いて眠らせました。強制省エネモードです」
あぁ、消費魔力を抑えることにしたわけか。
って乱暴すぎるだろ。
「……で、これでどのくらい稼働時間が伸びるんだ?」
「消費魔力が約三分の一になります」
……ということは三倍か。長くて三カ月。
「マスター、スリープ状態になっても部品の劣化が直るわけではありません。新しい部品を作っていますが、やはり新たなエネルギー源が必要なことは忘れないでください」
「わかってる」
ダイジロウさんのことはマレイグルリに行ってからだ。
とりあえず、いまは南のダンジョンに行く。
「キャロ! このまま真っすぐでいいか?」
俺はゴーツロッキーからシララキ王国に戻り、キャロを背負い、全力で南に向かって走っていた。後ろからはハルがついてきている。
今回の依頼。達成までの時間に応じた報酬の変化はないが、俺の目的は報酬ではなく、あくまでギルドマスターに会うこと。
そして、そのためには素早く達成する必要がある。
ダンジョンの詳しい位置も地図に記されていたが、街道を進めば遠回りになるため、俺がキャロを背負って道なき道を走っていた。
なんの目印もないので本当に自分が真っすぐ進んでいるかわからないが――
「はい、このままで大丈夫です。イチノ様、鷹の目で前方に川が見えますか?」
「調べる」
鷹の目を発動させる。
地上を走っていたらわからなかったが、上空からだと川が見えた。
「その川に向かって走ってください。川を越えると迷宮があります」
俺はさらに走った。
上空から見つけた川にすぐに辿り着く。
当然、街道を走ってきたのではないので橋なんてものはない。それどころか、川は谷になっており、歩いて渡ることもできない。走って飛び越えるにも距離がある。せめて真ん中に足場になる場所があればいいのだが、それもない。
「ご主人様っ!」
ハルが俺を呼ぶ。
「ああ、作戦通りに行くぞ!」
俺はそう言うと、魔法を唱える。
「大洪水&細氷大嵐」
水魔法と氷魔法の合わせ技。
俺の魔法で生み出された大津波ともいえる水が、氷の橋に変わった。いや、橋という表現は生ぬるい。これは巨大な氷山だ。
「ぐっ――」
さすがに上級魔法の合わせ技は魔力の消費が半端ない。
魔法の融合による魔力消費は、単純に魔法二発分というわけではないのだろうか? 初級魔法を使っていたときは気付かなかったが、ブースト魔法を使ったとき並みにMPが消費されている。
「イチノ様、マナポーションです」
「ありがとう」
俺は礼をいい、キャロお手製のマナポーションを飲む。
老竜を倒し、レベルが上がったキャロはマナポーションを生産できるようになった。そのマナポーションを飲み、MPを僅かに回復させる。
「ハル、気をつけろよっ!」
「はいっ!」
氷の山、普通に進めば滑ってまともに歩くことすらできない。
しかし――
俺はアイテムバッグから秘策のアイテム、滑り止め用の砂が大量に入った袋を取り出した。氷で滑るなら、表面をザラザラにしたらいい。
俺はそれを、氷山の真ん中にあるできるだけ平らな場所に投げ、さらに投げ銭を使った。フロックボアがバラバラになったように、砂袋が空中で破裂した。
砂があたりに四散する。
「キャロ、ハルと交代! キャロはしっかりハルにしがみつけっ!」
「「はい」」
俺がハルを背負い、そのハルにキャロがしがみつく。
大丈夫、キャロの物攻値もかなり高くなっており、ハルにしがみつく力が強くなっている。振り落とされたりはしない。
俺は助走をつけると、一気に砂を投げた場所までジャンプした。
失敗したら拠点帰還でマイワールドに逆戻りだ。
しかし、必ず成功する。俺はそう意気込んだ。
「砂固めっ!」
サンドアーティストスキル、砂固め。
氷の上にばらまかれた砂が固定され、確かな足場へと変化する。
そして、俺は再度大きく跳んだ。
「よっし、着地成功っ!」
この氷山は放っておけば数日で溶けるだろう。
ようやくたどり着いた。
ダンジョンの入り口には、シララキ王国の兵の詰め所がある。
この国では、ダンジョンはすべて国の管理下にあるらしく、このような人里離れた場所にあっても例外ではないようだ。
「止まれっ! このダンジョンに入るには許可がいるぞ」
そう言ったのは、見張りをしていたシララキ王国の兵だった。
「傭兵ギルドから預かってきたこれで入れますか?」
俺は傭兵ギルドからの依頼書を見せた。
「依頼書……おい、これは贋作じゃないのか? じゃなかったら記入間違いだろ。依頼日が今日になっている……ん? イチノジョウ……准男爵っ!?」
依頼書に書かれた俺の名前とその爵位を見て兵は目を丸くし、そして敬礼をした。
「申し訳ありません。准男爵殿とは知らず」
「別にいいですって」
「一応、これは規則なので大変申し上げにくいのですが、准男爵である証を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「これでいいですか?」
准男爵の証であるブローチを見せた。
「失礼しましたっ! どうぞ、お通り下さい」
兵の許可をもらい、俺たちはダンジョンの奥に進む。
背後から兵たちの声が聞こえた。
魔道具かなにかで傭兵ギルドと連絡を取るのだろう。贋作スキルがあれば、書類の偽造だけでなく、ブローチの偽物だって作ることができるからな。
正しい判断だと思った。




