ナナわっと
とりあえず、ハルの第二職業は剣聖に変えておいた。
そして、移動であるが、街道をそのまま進めばかなり遠回りになるということで、キャロが道案内し、街道を外れることにした。
ただ、整備されていない道で馬車に乗って移動するのも困難。
ということで俺たちは馬車ではなく騎乗して移動することにした。フユンの上にはハルが乗り、デザートランナーの上には俺とキャロが乗って移動することで、遥かに速度が上昇した。
鍛冶師と薬師の内職はできないけれど、移動速度はさらに上昇した。
「ハル、鞍がついてないけど大丈夫か?」
「はい、問題ありません。フユンはとても優秀な馬ですから」
そうか。心なしかフユンも嬉しそうにしている。あの女好きの馬は本当にどうしようもない。
「イチノ様、もう少し左へ――はい、そちらでお願いします」
「道案内助かる――でもよくわかるな。目印らしきものはなにもないのに」
「海の上よりは目印も多いです」
「確かにそりゃそうだ」
「それに、イチノ様がいい地図を用意してくださいましたから」
キャロが地図を見て笑顔で言う。
彼女が言うには、この地図は軍の戦略で使われるようなものということで、それを持っていることにも驚かれた。
ただ、俺はこの地図をどこで手に入れたのか思い出せない。
「ところで、イチノ様。このデザートランナーの名前、考えられたのですか?」
「あぁ、一応候補は考えてるんだけど」
なににしようか迷っている。
デザートランナーだから、略して『デラン』。
大食いだから、暴食という意味を込めて『グラトニー』。
これまで名前がなかったから『ナナシー』。
一番の候補はやっぱり『ナナシー』だな。
よし、
「こいつの名前はナナわっと」
デザートランナーが岩を飛び越えたせいで、思わず声を上げてしまった。
「ナナワットですか。いい名前ですね」
……え?
キャロが俺の命名をすんなり受け入れた。
いやいや、最近のLED電球の消費電力じゃあるまいし、ナナワットって。
「私もいい名前だと思います。ナナワット」
ハルも賛同した。マジか? ナナワットで最終決定なのか?
いまさら間違いでしたと言いにくい雰囲気なんだが。
まぁいいか。呼びやすそうだし
「お前はこれからナナワットだ。いいか?」
デザートランナー、もといナナワットは俺の質問には答えず、ただ真っすぐ走った。こいつは美味い物を食べられたらそれでいいらしい。
「キャロ。このままいけばランドウ山にはいつくらいに着くんだ?」
「そうですね。夕刻には着くと思いますが、今日は手前にある小さい村で一泊――あ、マイワールドで休んだほうがいいですね」
「そうだな。小さい村ならベッドの質も期待できないだろうし。ちなみに、その村の名物ってなにがあるんだ?」
小さな村にご当地グルメがあるのなら、是非買って行きたい。それもまた旅の楽しみだと俺は思う。
「次の村での名物は生姜ですね」
「生姜か。香辛料の類はできれば買っておきたいな」
「隣の村ではネギも名物だそうですよ?」
「ネギか――生姜にネギ。鍋との相性が――いや、この時期なら素麺もいいな」
ミリが持ち込んできた日本食の中になかっただろうか?
風邪を引いたときもよさそうだ。
風邪のような病気は、解毒魔法でも治せないからな。
「……あれ?」
「どうなさいました?」
「生姜とネギ……どこかで聞いたような」
思い出そうとするけれど、思い出せない――というか思い出したくない。
なんなんだ?
「そういえば、お肉を生姜の汁で漬け込むと柔らかくなるという話を聞いたことがあります」
キャロがおばあちゃんの知恵袋みたいなことを言ってくれた――が、それはあんまり参考にならないな。ハルが少し残念そうにしている。
彼女の好みは硬い肉だから。
「柔らかくしなくても、さっきの猪肉の臭みを消すのに生姜とネギはいい組み合わせかもしれない」
ナナワットは肉という単語を聞いて嬉しそうに一鳴きした。さっきあれだけ食べたというのに、まだ食べたいのか。
本当に食いしん坊な奴だ。
まるで――
「あっ! 思い出した」
まるでケンタウロスみたいだと言おうとして思い出した。
そうか、どこかで聞いたと思ったらあの時聞いたんだった。
その後、あのふたりと関わったことは忘れようと決意したので、本当にさっきまで忘れていた。
「その村に、バカがいる」




