無い胸を揉んでいた
「ご主人様! お会いしたかったです」
マイワールドに入ると、俺の匂いを感じ取ってくれたのか、凄い勢いでハルが俺の前に現れた。
「俺も会いたかったよ。本当に久しぶりの気分だ。一カ月も離れていないのに、もう何年も会ってないみたいだよ」
俺はハルを抱きしめ、そして一度キスを交わそうとしたが、背後からはキャロの視線、そしてハルの向こうにはダークエルフたちの視線があるので、これ以上は慎むことにし、わざとらしい咳をする。
「ごほんっ、あぁ、悪かったな、ここはハルたちの家でもあるのに、ダークエルフたちを何の相談もできずに受け入れて」
「いえ、この場所はご主人様の世界です。それに、ララエルさんたちから事情は聞きました。ご主人様のなさったことはとても尊いことだと私は思います」
「甘えることになるけど、ハルたちなら絶対にそう言ってくれるって信じてたよ。ところで、どうやってマイワールドに? ハルも生活魔法をⅣまで鍛えて拠点帰還を覚えた――ってわけじゃないよな?」
「――? ご主人様がなさったのではないのですか? 私が眷属になったことで、ご主人様の持つスキルの一部が使えるようになっていました」
俺の持つスキルの一部?
どういうことか詳しく聞いてみると、ハルは「生活魔法」「引きこもり」「乾燥」の三つのスキルが使えるようになっているらしい。もっとも、生活魔法は浄化しか使えず、引きこもりスキルを使ったときに開く扉も制限時間が経過すれば自動的に消えてしまうらしい。乾燥スキルは、俺もハルも使ったことがないので違いはわからない。
同じように、キャロも眷属スキルとして、「生活魔法」「職業変更」「防腐」の三種類が使える。ハルと同じ生活魔法だが、彼女が使えるのは浄化ではなく、拠点帰還。職業変更は自分にしか効果がないそうだ。
「これはキャロの予想ですが、この眷属スキルというのは、キャロたちが無意識に望んでいるスキルが手に入っているのだと思います。ハルさんは浄化の魔法が使えたら便利だと仰っていましたし、ご主人様のいるマイワールドに行きたいとも思っていました。乾燥は……」
「干し肉を作るのにそういうスキルがあれば便利だと思っていました」
キャロが少し言いにくそうにしたので、ハルが言葉を繋ぐ。
食欲のためのスキルか。
そして、キャロは自分のスキルがいかに自分のためにあるか語った。
拠点帰還、防腐、どちらも行商人にとってはかなり役立つ職業だ。そして、職業変更――それは行商人に役立つスキルではなく、彼女にとって救いとなったスキルだった。
なるほど、そう言われたら、キャロの推測は的を射ているように思える。
その後、俺たちはログハウスへと移動し、三人で情報交換をした。
もっとも、俺の事情のほとんどは、既にダークエルフたち、そしてピオニアやニーテによって彼女たちに知らされていたので、一方的に情報をもらうだけになる。
「魔王軍がミリと三大魔王――悪魔族、夢魔族、黒狼族の末裔を狙っている。……それに封印された夢魔の女王か。俺は妹を連れ戻したいだけなのに、なんだかとんでもない話になってきたな。そういえば、夢魔ってサキュバスのことなんだよな?」
インセプがサキュバス好きなので、野営中にいろいろと話を聞かされた。
「男性の場合はインキュバスだそうですけれど、はい、そうです」
「なら、なんでキャロの職業が夢魔の女王なんだ?」
「それは……」
キャロは少し躊躇したが、徐に口を開いた。
「サキュバスの正体が、小人族だったから……だそうです」
「……は?」
思わず声が出た。
サキュバスの正体が小人族?
全然違うだろ。というより、正反対の存在だと思う。
「小人族はその名の通り小柄な種族でして、純血の小人族となると他の人間族が住む町の中での生活も難しく、また魔物に抗う力もないんです。そのため、小人族は時折、人間族の血を取り入れて小人族の血を薄くする必要があったのですが、人間族の多くは、小人族相手だと、その、夜の行為を受け入れられない方々が多くて」
あぁ、まぁ、そうだろうな。見た目が小学生低学年だというのなら、それはもう犯罪と言っていいだろう。合法ロリにも限度がある。
「そこで古の小人族の長は、当時の女神様に祈りを捧げ、サキュバスとしての力を手に入れたそうです。そのためには辛い修業が必要だそうですけれど」
「つまり、サキュバスというのは、種族ではなくスキルの幻影だったのか」
地球の物語に登場するサキュバスとは全然違うんだな。
となれば、サキュバスたちがいなくなっていった理由も大体想像がつく。
必要なくなったからだろう。
キャロの父親のように、小人族相手でも恋をする男性や女性が増えてきたのだ。
様々な恋が認められる風潮になってきたのだろう。
「あの、ご主人様。その夢魔の女王とか、サキュバスってなんのことでしょう」
……あれ?
もしかして、ハルは知らないの?
「ニーテさんと二人でスキルの検証をしているときに転移しましたから。私の変身を目の前で見ていたニーテさんしか見ていません」
なるほど、確かにキャロが眷属になってすぐに彼女は転移してきた。
夢魔の女王に転職して、スキルを検証するまで時間はあまりなかっただろう。
とするのなら、まずはここでスキルを使って見せたほうが早いと思うんだけど。
俺は横目でハルを見た。
あの妖艶な大人キャロを見たとき、果たしてハルはどういう反応を示すだろうか?
まぁ、やってみないとわからないか。
「キャロ、みんなに見せてやるか?」
「はい、かしこまりました」
そう言うと、キャロの姿が、大人バージョンに代わった。
「匂いは……キャロのままなんですね」
「驚きました。変身魔法をお使いになるとは、さすがはイチノジョウ様のお仲間です」
ハルとララエルが驚き目を開け、感想を述べる。
俺の仲間だから変身できるというわけではないぞ?
俺は、ハルたちに眷属、夢魔の女王、魅了変化について説明した。
「……キャロル様が夢魔の女王だというのなら、もしかしたら魔王軍の狙いがキャロかもしれない……ということでしょうか?」
ララエルが尋ねた。
魔王軍の狙いが三大魔王――夢魔の女王の末裔だという。それなら、夢魔の女王そのもののキャロが狙われる可能性がある、そう思ったのだろう。
「いや、キャロが夢魔の女王になったのはさっきのことだ。魔王軍がそのキャロのことを認知しているという可能性はないだろ――っ!」
と俺がキャロを見たとき、思わず声を失った。
ハルが真剣な表情で大人キャロの胸を揉んでいたのだ。
漫画描写だったら鼻血が出ている光景だ。
「これが幻覚ですか……まったくわかりません。服のデザインも変わっていますし」
「あ、あの、ハルさん……その、今の私は……あ……感じやすいのであまり触らないでくださ……すみません! 解除します」
キャロが叫ぶと同時に、その姿は子供バージョンに変化した。
そして、ハルは中腰でキャロの無い胸を揉んでいた。
おそらく、ハルは自分がいつ中腰になったのかわかっていないだろう。俺もわかっていない。
とまぁ、キャロの成長(?)はあったが、無事にハルとキャロと合流できたのは大きい。
「あとはノルンさん、真里菜、カノンだな」
「あ、イチノ様、ノルンさんは少しフロアランスで魔物が活性化しているとのことで、暫くの間自警団としての活動に専念するとのことです。あと、真里菜さんたちも同様にアランデル王国の王都で面白いことがあって予定通りに合流できないそうです。どちらも手紙が届きました」
面白いこと……ね。
用事が終われば、二組とも冒険者ギルド経由で連絡してくれるそうだ。
魔物が活性化しているのは心配だな。
ノルンさんのレベル上げ、もう少し手伝ってあげればよかった。
カノンたちは、まぁ大丈夫だろう。
全員予定通りに合流できないか。
まぁ、予定があるのは仕方がない――か。




