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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
傭兵王国編

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眷属の証

 ハルワタートとキャロルはベラスラのダンジョンに潜り続けていた。

 もう何日たっただろうか?

「俊足っ!」

 ハルワタートは獣剣士のスキルを使い一気にミノタウロスに詰め寄ると、炎の竜牙でミノタウロスの首の頸動脈を焼ききった。

 ミノタウロスの断末魔の雄叫びが響くも、その声が聞こえなくなる前に彼女は別のミノタウロスへと向かう。

 その間に、キャロルはミノタウロスが落としたドロップアイテムと魔石を集めていった。

 ほとんどは、牛肉と魔石、牛の角などで目的のアイテムは百匹にひとつ落ちていたらいい具合といったところだ。

 今回も落としたのは、ミノ肉(高級品)のみ。

「ハルさん、ドロップアイテムの回収を終えました。そろそろ最下層のキングミノタウロスが現れる時間のはずです」

「ありがとうございます、キャロ。では最下層に行きましょう」

 ハルワタートたちは階段を下りて最下層に行った。

 ボス部屋への扉は固く閉ざされていたが、キャロルの言った通りキングミノタウロスがリポップしたのだろう。

 厚い扉が音を立てて開き、その奥には荒い鼻息のキングミノタウロスがいた。

「キャロ、作戦は覚えていますね」

「はい、大丈夫です」

 確認を終え、ふたりはボス部屋へと入った。

 背後の扉が開くと同時に、キャロルが動く。

魅了(チャーム)

 彼女の唱えた魔法が、キングミノタウロスに魅了の効果を与える。

 ボスには精神魔法は効きづらいが、しかし攻撃に戸惑いができる。キングミノタウロスに、己が振り上げていた斧をどうしていいかと迷いが生じた。その一瞬の隙を見逃すハルではない。

「スラッシュっ!」

 かつてイチノジョウと一緒にここで戦ったときのように、彼女はキングミノタウロスの足にスラッシュを打ち込むと、バランスを崩して倒れそうになるキングミノタウロスに接近した。キングミノタウロスはハルワタートを近づけまいと、己の長い尻尾をまるで鞭のように振るが、ハルワタートはそれをいとも簡単に飛び越えて、剣の間合いにまで近づいた。

「ウルフファングっ!」

 二本の短剣を、まるで獣の牙のように左右から挟み込む。

 それは狼の牙のように、キングミノタウロスの首を抉った。

 血しぶきがハルワタートの純白の髪を赤く染め上げるも、その血もキングミノタウロスが絶命したことにより、消えていった。

「お見事です、ハルさん! 以前よりも強くなったのではありませんか?」

「ありがとう、キャロ。確かにレベルが上がったようです。不思議なのですが、ご主人様と一緒にここで戦った頃よりも経験値が多く入るようです」

「そんなことはないと思いますけど」

 キャロルは首を傾げた。

 以前、このダンジョンに来たとき、ハルワタートはイチノジョウとふたりでパーティを組んでいた。イチノジョウが敵を倒したとき、その経験値の四分の一はハルワタートのものになる。

 しかし、イチノジョウには取得経験値二十倍という天恵があるため、実質の経験値はソロで戦うときの五倍になる。

 現在はキャロとふたりでパーティを組んでいるため、経験値はソロで戦うときの七十五パーセントしか入手できない。

 そのため、いまのほうがレベルが上がりやすい――なんてことはあるはずがない。

「しかし、また獣剣士のレベルがあがりましたし、第二職業の剣士も、もうレベルが上限に達しましたし」

「でも、そう言われたら、キャロも行商人と採取人のレベルの上昇が早い気がします。行商人はレベル上限に達して、万商人の職業が解放されていますし、採取人のレベルが上がって、薬師の職業が解放されています」

 キャロルの行商人と採取人は職業のなかでも下のランクのため、レベルは上がりやすい。

 しかし、魔物との戦闘でとどめをさしているのはほとんどハルワタートである。その時の経験値は通常時の二十五パーセント。

 いくらパワーレベリングが行われているとはいえ、この上昇は異常だといまさらながら気付いた。

 なぜ、いままで気付かなかったのかというと、ハルワタートの魔物を倒す速度が異常だったからだ。

 彼女の嗅覚は、魔物が湧けばどこにいるかすぐにわかる。

 そのため、誘惑士のスキルがなくても効率よく魔物と戦えていた。

 その効率のよさが、レベルアップ速度の異常性を感じさせなかった。

 というより、これまでずっとイチノジョウと一緒にいたせいで、レベルアップの速度に慣れ過ぎてしまっていたのかもしれないが。

「でも、こうなると第二職業を変えられないのが困りものですね」

 第二職業を変えるには、イチノジョウの職業変更スキルが必要になる。

 教会では第二職業の変更はできない。

 第二職業という概念自体、イチノジョウとその仲間の間にしか存在しないからだ。

「でも、イチノ様と離れ離れになっていても第二職業が継続して使えるのには驚きました」

「私はそれほど驚きません。一度、ご主人様と離れ離れになったときにも確認していましたから」

「そういえば、マリナさんに聞いたんですけど。ハルさん、イチノ様がいなくなって、かなり取り乱していたそうですね」

「……それは内緒です」

 ハルワタートは尻尾を真っ赤にさせて言った。

「内緒ですか、それは残念です。キャロも見たかったんですけど……あっ! ハルさん! 見てください、目的のものが落ちていますよ」

 キャロはそう言って、巨大な玉を拾い上げて素早くアイテムバッグに入れた。

 決して汚い物ではないのだけれども、長いこと触れていたいものではない。

 それは、キングミノタウロスの睾丸だから。

 クインスに頼まれている素材は、ミノタウロスの睾丸百個。ちなみに、キングミノタウロスの睾丸はミノタウロス十個分の価値があるそうなので、率先して狩りにいっている。

 なんでも、この睾丸を集めれば、サキュバスによる魅了の力を緩和することができる薬を作ることができるのだとか。

「では、ハルさん。一度クインスさんのところに戻りましょう。ちょっと汗をかきましたし」

「そうですね」

 ハルワタートとキャロルはふたりで地上へと戻っていく。

 イチノジョウがいたら、浄化(クリーン)の魔法で簡単に綺麗になるし、マイワールドにいけばいつでも好きなときに温泉に入ることができるのだけれども、普通はそうはいかない。

 そもそも、お風呂すらベラスラでは一泊ふたりで一万センス以上する高級宿でしか入ることができない。高級宿で支払うチップの額だけでもふたりで一週間は寝泊まりできる額になる。

 汗を拭くにしても、魔物がいるダンジョンのなかでは難しい。

 ハルワタートもキャロルも、もともとは別に綺麗好きというわけではなかった。

 というより、ふたりとも奴隷として教育を受ける過程で不衛生な環境でも過ごせるように訓練を受けてきた。

 しかし、イチノジョウと一緒に旅をしていたことと、なによりイチノジョウがふたりに対して清潔であることを望むため、どうしても清潔に保つことが当然の義務のようになってしまっていた。

 途中、稼ぎの大きな魔物を何匹か討伐し、ふたりは地上へと戻った。

「お疲れ様です」

「やぁ、お疲れ様」

 毎日のようにダンジョンに潜っているので、見張りの兵とももう顔馴染みになった。

 以前、キャロルがダンジョンに入ったとき、町の外にいるウールワームという魔物を大量に呼び寄せてしまったことがあった。そのせいでキャロルがダンジョンに潜ろうとしたときは慌てて止めに入ったが、きっちり説明したのでトラブルになることはもうない。

「クインス様、ただいま戻りました。今日はミノタウロスの睾丸七個とキングミノタウロスの睾丸一個が手に入りました」

 客がいないのを確認し、キャロが今日の成果を報告する。

「お疲れ様。魔石の稼ぎもだいぶ多くなっただろ? どうだい? 奴隷でも買っていかないか? 安くしておくよ」

「申し訳ありません――そういうことはイチノ様にお伺いを立てないと」

「いいだろ、もうあんたたちは奴隷じゃないんだから」

 クインスはそう言ってキャロとハルワタートの首を見る。

 クインスがフロアランスの奴隷商、マティアスに連絡を取って手続きをしたため、ハルワタートもまた奴隷から解放されたのだ。

 キャロは自分の首についているそれを指でなぞった。

 彼女の首は現在、黒いチョーカーがつけられているが、隷属の首輪ではない。外れた隷属の首輪をアクセサリーとして改造してもらったものだ。

 キャロにとって、この黒い首輪は束縛の証であると同時に、イチノジョウとのつながりでもあったから。

「クインス様、体を拭いてきますので、中庭をお借りしてよろしいですか?」

「ああ、構わないよ。ついでに水を汲んでおいてくれると助かるね」

「はい、そのくらいお手伝いさせていただきます」

 宿代を考えたら安いくらいだと、ハルワタートははりきって協力を申し出た。

「あ、ハルさん。キャロも手伝います」

「キャロ、ちょっと待ちな。あんたにはちょっと用がある」

 クインスがキャロルを呼び止めた。

 なんのことか気にはなったけれど、親娘のような間柄のふたりの会話に入るのは野暮だとハルワタートは思い、ひとりで体を拭きに中庭にいった。


   ※※※


 外からは見えない場所なので、一度水を汲み、ハルワタートは上半身を脱いで体を拭く。

〈……また大きくなっている〉

 胸の下にたまった汗を拭きながら、彼女は内心ため息をつく。

 速度による手数の多さを最大の武器とするハルワタートにとって、大きな胸というのは邪魔でしかない。アマゾネスのように胸を抉ってでもイチノジョウのために戦いたい――というのが彼女の本音だった。

 しかし、ハルワタートは知っている。

 イチノジョウが自分の胸のことを好きなことを。

 夜になると触っていいのか触ったらいけないのか迷いながら、最後には優しく揉んでくるイチノジョウのその仕草。お腹を撫でられるのが一番好きなハルワタートにとって、胸もお腹の延長であるためそれは喜びと言える。

 その喜びがなくなるのは耐えられない。

「できることなら、このサイズのまま維持できればいいのですが」

 これ以上胸を大きくしない方法はないものか?

 などと考えながら、冗談半分で彼女は呟いた。

浄化(クリーン)

 なにも起こるはずのない魔法の詠唱。

 だが、淡い光がハルワタートの髪を包み込んだではないか。

 そして、髪が一瞬にして綺麗にまとまりをみせた。

「……え? ハルさん、今の魔法はいったい」

 やってきたキャロルが、ハルワタートの唱えた魔法について尋ねた。

「キャロ、見ていたのですか。私もわからないのですが、何故か生活魔法が使えました」

「驚いていますか?」

「はい、凄く驚いています。キャロ、クインス様の用事は終わったのですか?」

「あ……はい、終わりました。クインス様から、仕事は今日で終わりと伺いました。それで、報告用の書類を預かりました。それより、ハルさん。ステータスは確認しないのですか?」

「確認……したほうがいいですね」

 ハルワタートは最近確認していなかった自分のステータスを確認した。

 …………………………………………………………

 名前:ハルワタート

 種族:白狼族

 職業:獣戦士Lv64 剣士Lv60★


 HP:1008/1010〈590+420〉

 MP:92/92(40+52)

 物攻:890(530+360)

 物防:675〈421+254〉

 魔攻:42(0+42)

 魔防:100(51+49)

 速度:2003(1501+320)×1.1

 幸運:30(20+10)


 装備:炎の竜牙 ショートソード 絹のドレス 皮の靴 スカーフ 風のブローチ

 スキル:【投石】【弓装備】【解体】【剣装備Ⅲ】【スラッシュⅡ】【回転切りⅡ】【弓矢装備】【剣術強化(中)】【速度上昇(小)】【二刀流】【経験値配分設定】【嗅覚強化】【贋作鑑定】【獣の血Ⅱ】【竜巻切り】【空破撃】【俊足】【セトランスの加護】【三本槍】【ウルフファング】

 取得済称号:迷宮踏破者Ⅲ パーティリーダー イチノジョウの眷属

 転職可能職業:平民Lv15 農家Lv1 狩人Lv5 木こりLv1 見習い剣士Lv25 剣士Lv60★ 獣剣士Lv64 拳闘士Lv1 剣聖Lv1 獣剣聖Lv1


 眷属スキル:【引きこもり(眷)】【生活魔法(眷)】【乾燥(眷)】

 眷属天恵:取得経験値4倍 必要経験値1/4

 …………………………………………………………

 眷属スキル、そして、眷属天恵。

 勘違いではなかった。

 ハルワタートは、イチノジョウの眷属となったことで取得経験値が上がり、レベルアップに必要な経験値が下がっていたのだ。

「……引きこもり……?」

 聞いたことのないスキルだと思った。

 しかし、ハルワタートは己の記憶から、その答えを導き出す。


『悪い、心配させてしまった。今入手したスキルでな、なんか自分の世界を作って入ることができるスキルらしい』

『自分の世界ですか!? そんなスキル聞いたこともありません……空間魔法の一種なのでしょうか? なんという名前のスキルなんですか?』

『引きこ――マイワールドだ』


 イチノジョウがマイワールドを覚えた時のキャロルとの会話。

 あの時、イチノジョウは「引きこもり」と言おうとしたのではないか?

「キャロ、ステータスを確認してみたのですが」

 とキャロルに事情を説明する。

 眷属天恵と眷属スキルについて。

 引きこもりというスキルについて。

 そして、ハルワタートは告げた。

「マジックリストを開いたところ、存在しました。マイワールド(眷)という魔法が」

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